介護と福祉、医療を考える

前文京区議会議員の鹿倉泰祐です。
介護難民・医療難民が生まれるのは何故か。
介護と福祉、医療について考える。

寝たきり老人専用アパート

2009-11-05 11:23:24 | Weblog
 「寝たきり老人専用アパート」のシンポジウムが岐阜で行われた。
 「専用アパート」とは一体なんだろうか?

 シンポジウムを伝える東京新聞の記事では、病院や介護施設に入ることができず、在宅でのケアも難しいお年寄りなどの「介護難民」の受け皿だが、ここには「行政の目も行き届かない」という高齢者の人権についての問題が発生していることが分かる。

 報道されているような「寝たきり老人専用アパート」の実態は、社会保障と住宅との関連で整理する必要があるのではないだろうか。

 欧米では住宅も含め社会政策・福祉政策の対象領域とする考え方が一般的であり、社会保障制度審議会(第三次報告の予備報告)でもその関連が積極的に位置づけられてきたが、日本の政府と地方自治体は、社会保障と住宅政策に総合的に取り組む姿勢に欠けてきたのが現実だと思う。

 政府がこの間行ってきたのは、住生活基本法を制定(2006年)、同年9月の今後10年間における目標や基本的な施策を定めた住生活基本計画の閣議決定、高齢者の居住の安定確保に関する法律の一部改正(2009年5月)だ。

 しかし、本年3月の「静養ホームたまゆら」(群馬県渋川市)の火災や、この「寝たきり老人専用アパート」の実態は、国や地方自治体の住宅政策や高齢者介護の政策が、国民の生活や実態を直視することを避けてきた結果ではないだろうか。

 以下、2009年11月5日東京新聞から引用。

 寝たきり老人専用アパート 岐阜でシンポ

 病院や介護施設に入ることができず、在宅でのケアも難しいお年寄りなど「介護難民」の対応が急がれる。受け皿として「寝たきり老人専用アパート」が登場したが「行政の目も行き届かない」のが現状で、その実態は霧の中。先月、岐阜県土岐市で行われたシンポジウムで報告された女性の実例を基に、問題点を考えた。(佐橋大)

 シンポで報告された女性(72)は、くも膜下出血のため、病院に入院して手術を受けたが寝たきり状態となった。

 栄養は鼻からチューブで胃に流し込まれ(経管栄養)、二時間ごとにたんを吸引しなければならない。やがて、退院を迫られた。急性期の患者らに対応する一般病院では、入院が長期化すると入院報酬が下がるため、退院を求められる。

 夫は、たんの吸引対応など、自宅での老々介護は無理と考えた。近くの施設への入所を希望したが、軒並み断られた。

 「特別養護老人ホーム」は、たんの吸引など医療行為が障害になった。特養のスタッフは、法律上、医療行為ができない介護職員がほとんどだからだ。複数の「老人保健施設」にも、同じ理由で断られた。近くの「療養病床」四カ所はすべて満床。国の削減方針に伴い、病床数が減っているからだ。

 「有料老人ホーム」は、利用料の高さなどで、あきらめた。次女が引き取ろうとしたが、在宅介護を支えるサービスが不十分なことが分かり、断念した。

 「施設のあてがないのなら」と、病院のソーシャルワーカーから紹介を受けたのが「寝たきり老人専用賃貸アパート」だった。

 介護とは無関係な会社が、最重度の要介護者向けに新築した建物で、一見すると老人福祉施設のよう。玄関はオートロック式、トイレのない小さめの部屋が整然と並んでいる。寝たきりの人だけが入居でき、家族は同居できない。

 運営会社と賃貸契約を結び、指定する訪問看護などのサービスを終身で受ける。寝たきりの人用の共同の風呂も備え、定期的に入れてくれる。利用料は介護サービスを含め月十数万円と割安。栄養はひたすらチューブで流し込まれる。
 夫は、了解し、妻を“入居”させた。

◆回復へのケアなし

 女性の報告を受けて、ソーシャルワーカーや弁護士ら専門家が、意見交換した。

 最大の問題点として指摘されたのは「寝たきりと経管栄養」を入居の条件にしていること。

老人アパートに入居する女性を担当したことがあるNPO東濃成年後見センター(同県多治見市)事務局長の山田隆司さんは「口から食べるよう努力し、寝たきりの人は少しでも起こそうとするのが介護の基本。専用アパートには、その姿勢がまったくない」と力を込めた。
 
 山田さんは、かつて担当した別の女性の例を話した。口から食べることができそうなのに、アパートでは、その可能性を考えないケアが行われていた。そこで、女性を退去させ、病院で二カ月、リハビリを受けさせると、口から食べられるまでに回復。今は特養で暮らしている。
 
 「アパート入居中、女性に使われた公的なお金は月八十四万円。一方、入院中は七十八万円で、特養では三十三万円。そのまま入っていたら、元気にならない介護に多額の税金と保険料が使われ続けていただろう」と訴える。
 
 熊田均弁護士は、病院に入院したら家賃を払っていても即、退去を求められることや、おむつなどを自由に持ち込めないなどの契約内容を問題視。「アパートなら、周りに迷惑を掛けなければ、どう使おうが自由なはずだ」と強調した。
(引用終わり)

 ところで、都の少子高齢時代にふさわしい新たな「すまい」実現プロジェクトチーム(座長・猪瀬直樹副知事)が報告書をまとめたと報道されている(産経ニュース10月4日)。

 この報告については、この記事の最後に「選択肢が増えることは良いことだが、特養の整備も併行して行わなければ、単なるコスト削減のための施策にしか聞こえない」と結城康博・淑徳大准教授のコメントがある。的を得た指摘だと思う。

 以下、記事引用。

 東京都内の高齢者の住まいが不足し“貧困ビジネス”の横行など深刻な問題を引き起こしていることから、都の少子高齢時代にふさわしい新たな「すまい」実現プロジェクトチーム(座長・猪瀬直樹副知事)は4日、高齢者用の賃貸住宅を約9400人分整備するなどとした報告書をまとめた。6日に石原慎太郎知事に報告する。

 報告書では、今年3月に起きた群馬県渋川市の無届け老人ホーム「たまゆら」で都内の高齢者ら10人が死亡した火災について「東京の高齢者の住まい対策が遅れ、猛省している」としたうえで、生活保護受給者ら低所得高齢者のための賃貸住宅を2400人分(240カ所)整備するための予算を約33億円準備する必要があるとした。

 また低所得者でも支払える家賃にするよう、国が全国一律で課している高齢者専用賃貸住宅の面積基準の緩和などを国に要望。都が独自に認可できる「東京モデル」を推進していくとした。

 また、厚生年金受給者ら中間所得層についても、見守り機能のついた賃貸住宅を約7千人分整備(約6千戸)する予算約65億円が必要とした。

 一方で、これらの住まいは、介護状態が要介護3までの軽・中度の人を想定している。

 要介護度が重くなった場合の受け皿は特別養護老人ホームだが、都内の特養の待機者は3・8万人と全国トップクラスで、厚生労働省の平成19年の調べでは、特養などの介護保険3施設の整備率(65歳以上人口に占める特養のベッド数の割合)は、都が2・2床でワースト1だった。

 淑徳大学の結城康博・准教授は、「どんなに優れた高齢者用賃貸住宅でも、要介護度が重くなれば暮らせなくなる。東京都の施策で、選択肢が増えることは良いことだが、特養の整備も併行して行わなければ、単なるコスト削減のための施策にしか聞こえない」と指摘する。

コメントを投稿