技術者の技術者による技術者のためのブログ

理系離れ著しい今日,技術者の地位を改善しなければ技術立国日本は滅びます。日本を「おしん」の時代に戻してはなりません。

東芝ワープロ特許訴訟事件 12: 技術者の名誉にかけて:1980年代前半のワープロ技術

2007年12月29日 | Weblog

 ブラザー工業から1984年に発売された「電子タイプライタ」の「ピコワード」です。一字づつ変換する単漢字変換方式なのですが,カタログには「かな漢字変換」と謳われています。
  --ピコワードのカタログより



 まだ私の発明した局所意味分析を用いた二層型かな漢字変換*に追いつくどころか,1960年代に試行されたが使い物にならず断念された方式が採用されていたのです。

  *: これは,ソフトの構成の観点からの命名で,機能的な観点からは
     「統合分析型かな漢字変換」と呼んでいます。

 http://homepage2.nifty.com/maeno-sc/page005.htmlに,1985年,つまり,JW-10が発表されてから7年たった時代が描写されています。当時の雰囲気を彷彿とさせます。


   ワープロ今昔物語

1985年-パーソナルワープロ元年 (2)

              中略

辞書を内蔵し、鉛筆と消しゴムとノート、それに定規と印刷機に魔法の記憶装置まで備えた、文房具の集大成、それがワープロなのであった。こいつはすごい!これは単なる日本語清書機械ではない。日本語の在り方を変えるほどの可能性を持った機械ではないか。興味はたちまち沸騰点に達した。

              中略

打ってびっくり。
「にほん」とキーを打っても「日本」にならない。「にっぽん」でもダメ。
(ええっ?何がいけないんだろう?)

信じられないことに、「ピコワード」のおつむには「熟語」が入っていなかったのだ。ではどうするかというと、「日本」を出すなら、まず「ひ」と打って変換キーを押し、出てくる「1日 2火 3秘 4費 5否」の候補から、数字を選んで決定する。「ほん」も同じように「1本 2翻 3奔」から選ぶのだ。これでようやく「日本」のできあがりである。
「だーっ!!やってらんねえっ!」

悲しいかな「ピコワード」は「単漢字変換」の機種だったのである。考えながら文章を書こうとする場合、これじゃ使い物にならない。原稿がすでにできあがっていて、それを清書する場合、それも時間がたっぷりかかってもかまわない場合にしか使えない。この煩わしさから解放されるためには、豊富な辞書が必要なのだった。しかしそれでも「じしょ」、「ほうふ」といった熟語は変換してくれるが「美しい」などの活用形はダメ。「び」で変換、「しい」で無変換。話すようには書けないのだ。

これを見事に解決してくれるのが、高度な文法解析による「文節変換」である。1985年当時は、この「単漢字変換」、「熟語変換」、「文節変換」がごちゃまぜなまま、同じ「ワープロ」という名前で、しかも同じような価格で売られていた、そんな時代だった。

 

 ところが,ここで述べられている「高度な文法解析による「文節変換」」でさえ,1970年代には変換率の低さから(それでも現在のMS-IMEよりは優秀でした)実用にならず,そのような方式では,英文タイプのようにキーボードを見ないで打つことができる日本語タイプなど「できる道理がない」と言われていたのです。

 私の研究と発明は,この技術の壁を破るものだったのです。1978年のJW-10には,文節解析を遥かにしのぐ「二層型=統合分析型」仮名漢字変換が実装されているのですが,世間の認識は,まだこの程度でしかなかった時代でした。それほどに私の技術は,京大,九大の数人を除いては想像さえできないものだったのです。

 とは言え,電気や機械の企業に言語学を習得し,コンピュータに「言葉を計算させる」ことのできる人工知能の技術者など居ない時代だったのですから,他に方法はなかったのです。
続く


このブログの第一回
東芝ワープロ特許訴訟プレスリリース
東芝ワープロ発明物語:車上のワープロ技術史
プロジェクトX物語
Googleブログ


最新の画像もっと見る