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「ライフサイクル イノベーション」を読了した。本書は、基本的なイノベーションの概念が従来の理論とも整合を図って体系的に整理されており、いろいろと示唆がある良書だと思う。14のイノベーションは概念的にわかりやすいものになっている。ただし後半のプロセス効率化の部分は、ITソリューションに縁がない人間には実感が湧きにくいと思う。

ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション

翔泳社

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本書の議論の中心はイノベーションと慣性力のバランス。イノベーションを継続していくには、慣性力を適正に管理することが必要。つまり、コアとコンテキストの資源リサイクル。



■イノベーションの基本的モデル

3つの基本的概念

①イノベーションの財務的効果(第1章)
イノベーションの3つの効果(差別化、中立化、生産性向上)の一つとして、中立化(競合キャッチアップ)を捉えているのは意外だった。イノベーションの最大の効果は差別化だが、目的はそれだけではない。目的に沿ったイノベーションへのアプローチが必要。


②市場カテゴリーの力学(第2章)
本書の副題にあるように「成熟市場+コモディティ化に効く14のイノベーション」とあるように、成熟化ライフサイクルの中で(B)成長市場、(C)成熟市場、(D)衰退市場に焦点が当ててある。最初の導入フェーズである(A)テクノロジー導入ライフサイクルに興味があるが、本書では(B)成長市場のサブモデルとして説明されている。


③ビジネス・アーキテクチャー(第3章)
言われてみれば当たり前だが、コンプレックス・システム型とボリューム・オペレーション型の2つのアーキテクチャーによって、好ましいイノベーションのタイプが異なる。また、両者は異なるエコシステムとしてバリューチェーンを提供しているので、お互いを組み合わせることは困難。市場カテゴリーの進化に応じて、有利なビジネス・アーキテクチャーが変わってくる。
そのため、選択すべきイノベーションのタイプも変わってくることが指摘されているが、明確な選択の指針は示されていない。


■イノベーション・ゾーン(第4章)
市場ライフサイクルに応じて、複数のイノベーション・モデルを含むゾーンが定義してある。成熟市場では、顧客インティマシー・ゾーンとオペレーショナル・エクセレンス・ゾーンの2つがある。前者が付加価値による差別化、後者が効率性による差別化に対応している。両者の関係は第6章において成熟市場におけるフラクタル化の概念でわかりやすく説明してある。


■成長市場のイノベーション(第5章)
(製品リーダーシップ・ゾーン)
4つのイノベーションをテクノロジー導入ライフサイクルと対応して説明されている。
・初期市場 破壊的イノベーション
・ボーリング・レーン アプリケーション・イノベーション
・トルネード 製品イノベーション
・トルネード後 プラットフォーム・イノベーション
4つのイノベーションは、アンゾフの成長ベクトル(製品―市場)のマトリックスと対応している。


■成熟市場のイノベーション(第6章)
(顧客インティマシー・ゾーンとオペレーショナル・エクセレンス・ゾーン)
市場のフラクタル化の考え方がわかりやすい。「表面部分で価値を付加し、基盤部分でコストを削減する」


■衰退市場のイノベーション(第7章)
(カテゴリー再生ゾーン)
衰退市場からの再生は成長市場に移ることが基本。リスク大、時間的制約大。


■イノベーション選択のプロセス(第8章)
プロセスの説明は抽象的でピンとこない。

■コンテキストから資源を抜き出す(第9章)
・コアは「競合他社に対する長期的な優位性を企業にもたらす要素」
・コンテキストは「コア以外の要素。慣性力を生み出す源泉」
・コアコンピタンスは「企業が極めてうまく行うことができる業務。本書のコアとは異なる概念」
・ミッション・クリティカル(重要任務)は「問題があると重大かつ即時のリスクがもたらされるプロセス」


コア・コンテキスト分析とミッション・クリティカルの視点は非常に重要だと思う。コアは差別化の源泉であるが、時間とともにコモディティ化してコンテキストになる。コンテキストは過去のコア。コンテキストに執着するのが問題。


コア・コンテキストとミッション・クリティカルのマトリックスでの資源リサイクルはPPMの考え方によく似ている。
コンテキスト&非ミッション・クリティカル(負け犬)からコア&非ミッション・クリティカル(問題児)に次のイノベーションのために資源を移す。コンテキスト&ミッション・クリティカル(金のなる木)に資源が停留しやすい。解決策はミッション・クリティカルの業務の生産性を飛躍的に向上させること。ここでシェアード・サービス・モデル、モジュール化、アウトソーシングなどでIT(ビジネス・プロセス)的な視点で5段階モデルが説明されている。
コアとは競合上の差別化の推進要素だ。それは、将来の財務目標を達成するためのものだ。現在の目標を達成するものではない。

■コアに向けた資源の再配分(第10章)
再配分が難しい資源は人材。実際には、コンテキスト&非ミッション・クリティカルからコア&非ミッション・クリティカルへの人材に移転はスキル的に難しい。
そのため、反時計回りに循環させる資源のリサイクルを行う。隣り合った象限で共通して必要な人材を考え、そのゾーンの中で人材をローテーションさせる。発明ゾーン(社内起業家)、展開ゾーン(プログラム・マネジャー)、最適化ゾーン(プロセス改善者)。


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コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
Unknown (今泉)
2006-08-02 18:35:35
こんにちは。TBありがとうございます。

>ただし後半のプロセス効率化の部分は、ITソリューションに縁がない人間には実感が湧きにくいと思う。



実際に個別企業でこの方法論を適用して、コンテキスト&非ミッションクリティカルやコンテキスト&ミッションクリティカルに分類された業務を外部化していく作業をしている人が近くにいますが、現実問題、ものすごく重い作業になるようです。相当年季の入った、修羅場をくぐれるコンサルタントがつかないと、首尾よく進めることはできない模様です。

ただし、得られるメリットが大きいので、万難を排してやる価値はあると思いますが。いずれにしても、経営トップの強いスポンサーシップが不可欠ですね。
 
 
 
スポンサーシップ (shiba_april)
2006-08-05 00:21:25
今泉さん、コメントありがとうございます。スポンサーシップのあるトップが不可欠ということはかなり大掛かりになるんですね。本を読んだだけでは、ハイレベルで考え方を適用すればいいという理解でした。
 
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