Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

「しあわせの書」泡坂妻夫のミステリ

2015-02-21 13:00:17 | ミステリ小説
                                 

好きな作家です。惜しくも2009年2月3日に満75歳の生涯をとじられました。ミステリ作家としての他にプロ級のマジックの腕を持っていました。

有名な話ですが、本名の厚川昌男のアナグラムで泡坂妻夫のペンネームが作られています。こういった稚気にも等しいユーモア精神溢れる人物で、その読者へのサービス振りは

どの作品を読んでも実感出来ます。この本も奇術のネタ的なトリックが使われたミステリとなっています。メンタル・マジックで云う読唇術、その読唇術が物語の内容そのままに

この本自体にも仕掛けられています。本に書かれていますように読者の幸せのために未読の人に「しあわせの書」の秘密を明かさないようにしましょう。

この本の驚異的な苦労の末に作られた秘密を決して人に話してはいけません。それがこの本を読む上でのルールです。

この本はミステリとしてもそのテクニックの巧みさが読む者を楽しませてくれます。マジックと同様に物語上の人物がある重大な情報を手に入れようとしている時にさりげなく

トリックに繋がる伏線が張られています。つまり、マジシャンがネタを仕込む時右手に派手な動きをさせて観衆の視線を集め、左手でさりげなく用意するあの手順です。

そして、その伏線の回収の鮮やかさに目を見張ることでしょう。いろいろなミステリを残されましたが、その中では小品とも云えるこの作品です。しかし、ミステリの楽しさが凝縮された

この本は今読んでも決して色あせることなく至福の時間を過ごさせてくれます。

                    

『スーツケースの中の少年』レナ&アニタのミステリ

2015-02-16 10:11:55 | ミステリ小説
                                          

旧友に頼まれてコインロッカーからスーツケースを取り出したら、中には裸の少年が入っていた。
このようなショッキングな状況から物語りは始ります。主人公は看護師のニーナ・ボーウ。夫と娘がいる看護師だが旧友の「ニーナっていつも人助けに燃えていたじゃない」との言葉で頼みを
引き受けて駅のコインロッカーに行きスーツケースを取り出してきます。普通このような状況でしたら当然警察に通報です。しかし、島国の日本とは違うデンマークです。日本の観念では想像を超える
いろいろな事情があり、その他にニーナの行動原理がキチンと説明されていますので、少年の様子を看護師として観察し警察や病院に行かないニーナの動きが素直に理解出来ます。

一方病院で意識を取戻した女性がいます。シングルマザーの彼女の名はシギータ。ほとんど酒など飲まない彼女が意識不明になるほど酒を飲み階段から転落したと看護師が彼女に云います。
脳震盪と左前腕の骨折ですんだのは奇跡的で、一晩中階段の下に倒れていたと聞かされます。血中のアルコール濃度の高さがその話を裏付けていました。
やがてシギータは気付きます。息子のミカエルがいない。公園で二人で遊んでいた記憶のその後が思い出せません。

一度は駅の近くの派出所にニーナは行きます。そこで話し始めたところ電話が鳴り女性警官は待つように言い置いて外に出ます。しかし、ニーナも警官の後を追って駅に向かいます。
コインロッカーエリアに人だかりが出来一人の大男がスチール製のドアを蹴飛ばしていました。男は警官に気付くと謝り壊したドアは弁償すると云います。しかし、振り向いた男は何故かニーナに
視線を合わせ睨みつけます。
やがて旧友の死体が発見されます。言葉の違う少年の身元を探りながら大男の追跡を交わすためニーナは動き出します。
こうして子供を追うシギータと子供を連れて逃げるニーナの二人の動きを交互に描き軸として物語は進みます。「ミレニアム・ドラゴンタトゥーの女」が話題になった北欧発のミステリですが、
これもレナ・コバブールとアニタ・フリースの女性二人の合作によるミステリです。

それほど劇的な急展開を見せる書き方ではありません。むしろ女性らしい丹念な書き方で人物の動きを追っていく書き方をしています。
セレブといえる立場の男、底辺に生き這い上がろうとする男など登場人物がしっかり書かれているのでクライマックスまでへの各人の動きが自然でイメージしやすくなっています。

真相は飛びっきりの驚きといったものではありませんが、丹念に書き込まれたいろいろなエピソードがこの物語の世界をしっかり作り上げている印象です。

ラストもホッとさせてニヤリとさせるものです。それは次回作への序章とみることが出来ます。