時戻素

昔の跡,やがてなくなる予定のもの,変化していくもの,自身の旅の跡など・・・

(218) 敬語

2009年11月08日 06時56分08秒 | Weblog
 学校で教えてくれる敬語は,尊敬語・謙譲語・丁寧語の3つだ。テストなどでは暗記のようなところもあり,また尊敬語と謙譲語の区別がごちゃごちゃになるなど苦手とする人もいる。しかし,覚えるものではあっても,敬語が分からないまま大人になってしまうと大変なことになるだろう。学校の入学試験等で面接を課すところも多く,敬語に慣らすために家庭でも敬語を使うように努力しようという受験アドバイスも見たことがある。
 だが,実際の敬語は受験の世界の敬語よりもはるかに複雑だ。たとえば,年の近い先輩に使う敬語と会社の重役などに使っている敬語には差があるだろう。
 また,敬語は目上の人に対しては尊敬の意を伝えることになるだろうが,同輩以下の人に使うと変な距離を感じてしまうこともある。同輩以下に限らず,身近な間柄の先輩に対して,あまりに改まった感じの敬語を使う場合も同様のことがいえそうだ。敬語はお互いの距離感を広げてしまう存在でもあるのではないだろうか?
 以下,自分が敬語のややこしさを感じた場面をいくつか挙げたい。(それぞれの事例で書き方が異なるが,ご了承下さい。)



・ この方は同級生。だけど,人生の先輩。
 中学までの同級生はほぼ間違いなく同い年だ。しかし,高校以降になると必ずしもそういうことにはならない。実際の年は違うことは聞かなければ分からないし,同級生なのは事実なんだから敬語は使わないほうが自然だろう。しかし,そうもいかない場合もある。その人の年がかなり離れていたり,かつての組織での先輩だったりする場合もある。自分が敬語で話すことを相手が好んでいないと明言している場合であっても,タメ語で話すのには抵抗を感じてしまう。ある程度,期間が過ぎると抵抗は全くなくなるのだが,周りの同級生がその人に敬語を使っているのを見るとやっぱり見直すべきかと戸惑い,敬語とタメ語がほぼ交互にやってくるような話し方になっている。いくらタメ語で話せるようになったとしても,本当の同い年に言える冗談が言えなかったりということがある。

・ 年齢は同じだけど,ほぼ初対面の方々とグループワーク
 異年齢層の集団だったので,まずは丁寧に自己紹介。グループ全員が同じ学年であることが判明。敬語が話し合いの雰囲気を堅苦しくしてしまうこともあるので,その後はタメ語に切り替えた。しかし,他の班員は敬語が中心。班分けに用いられた名簿の順番の関係で班長になってしまっていて,最初に敬語で話さなくても大丈夫なことを確認していた。話し合いが敬語中心ではなくなるには,だいぶ時間がかかった。

・ 出会って数ヶ月以上経ったクラスメイトとのグループ内発表
 「グループ内で各自が考えたことを発表して下さい。」という指示の後,少人数のグループ内で各自が発表する場合,話す言葉は敬語かタメ語か?

・ 立場によって先輩,同輩,後輩。
 同じ大学のAさんと同じアルバイト先で働いていた。その人と学年は同じだった。ただ,浪人していたので年齢は年上。しかし,アルバイト先への入社は自分の方が先。自分はアルバイト先の人には雰囲気に合わせて,年齢に関係なく「です・ます調」で話していた。逆に自分に対しても,年の離れた社員以外は「です・ます調」だった。Aさんとも基本的にお互い敬語を使っていた。しかし,時と場合により,Aさんは「先輩の命令だぞ」とか「入社はそっちが早いから」(冗談交じりだったと思うが・・・)などと言うこともあった。関係は良かったが,結構複雑な立場。

・ 年上と恋人になった。
 自分自身の経験はないが,他人の場合を見ている限り,年下→年上の場合もタメ語使用の場合が多く感じる。

・ 親との会話
 タメ語が多く感じるが,家庭によっては敬語で話させるところもあるようだ。 

・ 先生より怖いセンパイ
 これは自分の体験というよりも他人(中学生)の行動を見ていて感じたこと。先生達(年齢はほぼ問わず)に対してはほぼタメ口で話していた。ところが,そこへ部活の先輩が現れると,敬語でペコペコとし始めた。先生よりも恐れてしまう先輩の存在。分かるような分からないような・・・

・ 同級生相手のメール。だけど,一斉送信(メーリングリスト)で内容も事務的。
 文章は,初めはタメ口に近かったものが,時間が経つにつれて「です・ます調」になっていった。返信は送信者との間の個人的なものだが,文体は敬語調が多かった。別の送信者の同様の内容のメールを見たが,文体は敬語調でも絵文字で柔らかさを出しているもの,逆に時候の挨拶から始まっているものがあった。

・ 授業中の先生の言葉
 敬語で話すのが基本だという考えの人もいる一方で,タメ口のほうが親近感があって聞きやすいという授業を受ける側の声を聞いた。

・ 一人称の使い分け
1 あまり個人的な関わりのない先生に指名された学生が,「俺ですか?」と聞き返す。(厳しい先生だったが,そのときは特に指摘無し。)
2 かなり身近な先生との笑いも出るようなくだけた感じの会話で学生が,「俺はそう思いますけど・・・」
3 大学生が授業中の発表で「僕は・・・について調べてきました。」
4 高校生を対象にした講演会に呼ばれた大学生の先輩が。「僕の学部では・・・」
5 だいぶ親しくなった上司との会話で「僕は・・・」
6 1学年上の先輩との会話で「俺は・・・」と言っていた後輩に対して先輩が「僕だろうが」と笑いながら一言
 いくつか例を書いたが,その良し悪しは正直分からない。辞書上は,「僕」はくだけた言い方,「俺」は同輩以下の者に対して使う一人称となっている。改まった場では「私」が基本だが,何をもって改まった場とするかも難しい。育った環境でさもあるだろうが,「俺」の低年齢化と中学生~大学生のほとんどが使っているなど一般化が進んでいる以上,「同輩以下に使う」と言う部分は変化しているのかもしれない。そのためか「僕」が結構改まった場でも使えると思っている人も出てきているように感じる。このようにしてジェネレーションギャップが生じるとトラブルになりかねない。言葉の変化はおそろしい。

・ 年下に対しても敬語
 ある程度の大人を相手にする場合,年下と分かっていても敬語で話す場合がある。時間が経って変える場合もあれば,そのまま敬語の場合も。自分が年上から敬語を使われた場合,不思議な感じはあったが,何か大人として尊重されているような印象も受けた。

・ 論文の謝辞の文体
 「・・・皆様に感謝を申し上げます」か?「・・・皆様に感謝を申し上げる」か?常態基本の文章の中に敬体には違和感がある。とはいっても年上の方に「申し上げる」はいくら論文の中とはいえ若造が偉そうだ。(実際の論文を見ると両方ある。)



 いくつかの敬語に関して感じた事例を挙げたが,ここに書いてあることが正しいのか正しくないのかも分からない。相手との距離やその会話の行われている場所によって変わってくるものだと思う。こんなことを考えていると,○×で判断できる尊敬語,謙譲語,丁寧語のペーパーテストの問題がよほど楽に思える。これからもたくさん悩まされそうな問題だ。  

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