君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

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『君がいる幸せ』 一章「黄昏の海」七話(Jupiter)

2011-06-24 03:08:43 | 『君がいる幸せ』(本編)一章「黄昏の海」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説

 「君がいる幸せ」

  一章「黄昏の海」

  七話 現在(Jupiter)
 木星から見ると火星の先に地球が見える。
 自分の中にある青い星への望郷と、どうしようもない渇望は、マザーが植え付けた物だとしても、これは人間ならば皆が持っているものなのだろう。 

 地球での戦いから、もう三年、あの戦いの夢を見た。
 夢を見る事があまりないキースは、それを懐かしく思えばいいのかわからなかった。
 三年が長かったような、短かったような不思議な感覚がしていた。
「機械め!もう私の心に触れるな!」
 グランド・マザーに向かって言ったあの言葉は本当に心から叫んだものだ。
 地球で死ぬ事を望んで停戦し、対話を口実にマザーの許に降りた。
 ミュウの長であるジョミーに自分を殺させる事で、決着が着くだろうと、その先の事は考えていなかった。
 それは生き残った者が判断すればいい事だから…。と思っていた。
 だが、こうして生き延びて、先を考えないといけなくなった時、俺は人間として生きようと思った。
 あの日、あの時 私はもう一度産まれたのだろう。
 ミュウは自分たちの存在を認めさせ、人類との共存を願い戦いを挑んできた。
 今度は距離を置く為に異星に移ると言う。
 その決断は「人の未来のため」すべてをかけて望んで、そして手に入れたものを手放すのか…。それは、どれほどの苦痛を伴うのだろう。
 ただ前だけを見て進む方が苦痛は少ないように思えた。
 やはり優しすぎるな…彼等は。
 以前、セルジュが、なぜ大佐がここだと言ったのか?とジョミーに聞いたと言っていたが、あれの答えはどうだったのだろう?今なら、セルジュはジョミーに何故ここに残るのか?と、聞きたいと思っているだろうな。

 シャングリラが旅立つまで、後2週間
 キースとジョミーが暮らし、シャングリラが停泊しているのはジュピター軌道上衛星ステーション・メティス
 その中心部にあった古い建物を改築して住んでいた。
 名前は『ビルレスト』 地上5階、地下6階 建物よりも庭が多く占めていた。
 その庭からは有事の際、シャトルが飛べるようになっている。
 内部は二人の意見を聞いて改装されていた。
 共通の入り口が真ん中にあり、向かって右側にジョミーが住み、 左側にはキースが住んでいる。
 ジョミーは5階をキースは3階と2階を住居としていた。
 地下に各自のトレーニングルームがあり、部屋から地下6階まで個人のエレベーターが通っている。
 正面のエントランスを抜けると共通のエレベーターもあるが、ジョミーがキースの部屋に行く時は階段を使い廊下を歩いていく事が多かった。
 キースはビルレストの自室で(人工で作られた)夕陽を眺めていた。
 ステーション・メティスは戦時中、地球の最終防衛線が置かれた前線基地だった。
 自分の乗った戦艦ゼウスもここから出撃した。今は、軍事施設も多く残っているが人類とミュウの共生都市も出来ていた。
 先日、出産をしたミュウの女性が共生都市へと行くので、見送りに行くとジョミーのスケジュールにあった。
 メティスはステーションとして大きいが、わざわざ彼が送らねばならない程ではなかった。
 危険があるという事か?。
 それはミュウの反対派か、人類の好戦派か、あるいは未だ根強く残るマザー信奉者。
 一番やっかいなのはマザー信者SD体制が崩壊しても管理出産がなくならないのは彼らのせいだった。ミュウの行う「自然出産」は人の行為ではないとすら言うのだ。
 確かに、妊娠出産する機能が低下してしまっている人間では、リスクが高い。が、完全に無理という訳ではないと医師も言っている。
 だが、やはり安全ではない。だから、危険をおしてまで自ら子供を産む必要はなかった。
 実子が欲しいのならばバンクに精子・卵子を預けて、結婚したといえば受精させて人口子宮で育てた子を受け取ればいいのだ。
 この前の「人を好きになるとは?」とのジョミーの問いはこのあたりを指しているのだろうか。
 ジョミーは何を考えているのか?
 何に不安になっているのだろう?
「ジョミー、お前がジュピターでいるのもそろそろ終わりなのかもな…」
 夜が近づいていた。
「時が来たのかもしれない」
 キースは遠く小さな地球を見つめた。

 この日、シャングリラから戻ったジョミーは敷地に入った所でキースに呼ばれた。
 帰ったばかりなのでミュウの幹部の服を着ていたが、着替えずにキースの部屋へ向かう。
 中央階段を3階まで上がり、長い廊下を行くと、キースが待っていた。
 思いがけない出迎えにちょっと驚き、少し笑顔を作ると「ただいま」と声をかけた。キースからの返事は無かった。
「何か急用?」
「何事もなかったようだな」
 今日の事を心配していたような質問だが、微妙にニュアンスが違うのを感じてジョミーはあえて笑顔を作り答える。
「うん。母子ともに無事にね。彼女は普通の人と結ばれたんだ。だからここに、残るって。僕がメティスに居るからそうするって…」
 キースがこうして待ってでも話そうとしているのは何なのか。なんとなくソレを感じてしまったので、どうしてもしどろもどろになってしまう。
 まだ、駄目だ。諦めも決心もついていない。
 外は夜の時間になり変光ガラスは宇宙を映している。
 キースは外を見ながら「この前、3年前の夢を見た」と話出した。
「3年前の?もう三年か…。だけど人類はまだ受け入れてはくれない。キースは僕にここから出ていけと言いたいのだろうけど出ていかないよ」とジョミーはキースのの後ろ姿に向かって言った。
「非合理だな」とキースは振り返る。
「僕にはまだわかってないんだ。どうしたらいいのかが、答えが出せていないんだ」
 とジョミーは言えなかった。
 人を好きになる意味が三年前の夢を見たら答え出るのだろうか。
「キース、僕は…」
 言葉が途切れる。
 突然、ピリッ!と五感が脅威を伝えた。
 世界から音が消え、時間が止まる。
 この感覚は…キースが狙われている!
 どこから?サーチしながら叫んだ。
「キース 狙撃だ!」
 油断した!
 どうしてもう少し早く気が付かなかったのか?
 以前の自分なら何キロも先の艦隊まで見えていたのに…。


  続く




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