先週のこと。
ここ数週間、毎日終電帰りで働く日々。
その日も金曜だと言うのに
終電まで仕事をして疲れきっていた僕は
駅で鞄を失くした。
それが電車の中なのか、
駅でひったくられたのかも
覚えていないくらい
何が起きたのかわからない出来事だった。
鞄の中には財布も入っていた。
財布しか、入っていなかった。
疲れてうとうとした自分を悔やんだ。
酒を飲んでいたわけでもないというのに。
ただただ、疲弊していたことは間違いなかった。
幾日たっても見つからなかった。
これもまた運命と諦める他なかった。
昨日までは。。。
ちょうど一週間経った今日、
留守番電話にメッセージ。
鞄が見つかりましたよと警察からの連絡。
奇跡だと思った。
でも、本当の奇跡はここからだった。
改めて、同じく警察から発見の連絡。
電話の主は、鞄と財布の無事を伝えた。
受け取りに来てください、とは言われるも
今の仕事の状態では年が明ける頃まで難しそう
そう、伝えるほかなかった。
電話の主は、しばらく悩む様子を見せてこう言った。
多少の時間外なら待っててあげるから
早く受け取りにおいで。
そう言って電話の主は名前を名乗った。
何が何だかわからなかった。
名乗られたのは、とても懐かしい、
懐かしい友人の名前だった。
それは、奇跡だと思った。
ひとつの不幸が奇跡を運んで、
失くしたものをふたつ連れて帰ってきたのだ。
そして今しがた、
また今日も終電に揺られている。
誰も彼もが降りた電車の中にぽつんと小さな忘れ物。
きっと大事な大事な落し物。
今日こうして僕がこの忘れ物と出会ったのも
もしかしたら小さな運命なのかもしれない。
駅舎にその忘れ物を届ける。
乗るはずだった終電車がチャイムを鳴らす。
次の奇跡が誰かに届きますように。
さぁのんびり我が家に帰って、寝顔に報告かな。
朝の雨が嘘のように、まんまる満月だ。
