the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

【寅年アーカイヴ】 更新世トラ Panthera tigris soloensis / Panthera tigris acutidens

2012年02月24日 | アーカイヴ

更新世のメガファウナ・番外


デジタル式に着色予定

(獲物を守るガンドントラ。その後ろには、当時のジャワにおけるコンテンポラリーである、シミターネコのホモテリウム属種(Homotherium ultimum)の姿が見えている。
このトラは体格は別として、形態的には後のジャワトラに似ているところもあったとされる。比較的長めの毛皮は更新世時の適応でもあるが、長い頬毛、密度が濃い縞模様と併せて、スマトラトラをモデルにしたもの。)

Body size:
* Head-body length(尾を含まず): around 230 cm
* Weight: 290 – 478~ kg(雄)※1
* Femur / Humerus length: 480 mm / 381 mm

※1 Anyonge博士らの方式で試算した場合、大きく増加が見込まれる。ガンドントラでは直径480 mm(Von Koenigswald, G.H.R., 1933)という最大級の大腿骨が記録されているが、Hertler & Volmer(2007)は頭骨に基づいて推定体重値を出したとしている(Van Valkenburgh(1990)の方式に倣った回帰分析)。

 

ワンシェントラ※2 (Wanhsien(Wanxien) tiger / Panthera tigris acutidens)は、中国南部に起源をもち、現生のインドシナトラ(Panthera tigris corbetti)に似ていたであろう、大陸トラ群の祖先筋とも見られる古代虎である。

分布域は酷寒の内蒙古の辺りにまで拡がっていたようで、後のアムールトラ(Panthera tigris altaica)に姿形の良く似たグループも在ったであろうことが想われる。かの松花江マンモス(最後のステップマンモス)とコンテンポラリーであったとされるトラ(ウーリータイガー?)に、該当するのだろうか。
形態的に現生の「大陸亜種群」と目立った差異はないが、大型亜種と比べても骨格はより頑強で、一回り大柄であったと考えられる(C.Groves, 2002)。

海水面が下がり大陸と地繋がりとなった一時に、スンダ諸島へ移住してきたワンシェントラの末裔が、すなわちガンドントラだという説がある(アーティストらの間で二亜種を混同する例が見られるのは、そのためであろう)。


ワンシェントラの不完全頭骨
Photo credit goes to GrizzlyClaws

魁偉なアムールトラの剥製。上野科博で寅年特別展示されていたもの。


ガンドントラ
※3 
(Ngandong tiger / Panthera tigris soloensis, Von Koenigswald, G.H.R., 1933)は、およそ195000年前にスンダ諸島に分布していた、古代の大型トラ亜種。大陸からインドネシアへの一時的な移住者であったという見方がある一方で、形態的には後のジャワトラ(Panthera tigris sondaica)に類似している(鼻骨や後頭突起の幅が狭い点やM1インデックスの値が高い点、中足骨が比較的に小ぶりである点など)とも指摘されていて、仮にジャワトラの祖先であるとすれば、上記説とは矛盾する。他にも、100万年以上前に同じくジャワに分布していたらしい「古代虎」のトリニールトラ(Panthera tigris trinilensis)との関連性についてなど、不明瞭な点も多い。

Hertler & Volmer(2007)は論文中で、「特に大柄な個体は体重2000~5000kg クラスの動物を捕食対象とし得た “According to body mass estimates for tiger individuals in the Ngandong faunal level, one individual(F-15 in Table 3) could access prey 2.000-5.000 kg mass class(class 5b)"」とすら表現しているほど。


※2
,※3
いずれも、正式な和名ではない。


〈Groves博士のトラ進化系統樹〉※4

Posted Image
Colin Groves "How old are subspecies? A tiger's eye-view of human evolution" (2002)

※4 P.t. palaeosinensis と記されているが、 Panthera palaeosinensis は現在では真正のトラと認められていないばかりでなく、トラ系統の祖先とする考えにも疑問符が付いている(Mazak & Christiansen, 2010)。


★暫定♦Big Cats♦サイズランク★

①ウルグアイサーベルタイガー(Smilodon necator ?)
②ライガー(ハイブリッド)
③アルゼンチンサーベルタイガー(Smildon populator)
 Panthera atrox
 ガンドントラ(Panthera tigris soloensis)、
  モスバッハライオン(Panthera leo fossilis)
Machairodus kabir
⑧キタヨーロッパシミターネコ(Homotherium crenatidens)
Quercylurus major(ニムラヴス科)
⑩ワンシェントラ(Panthera tigris acutidens)、
  ユーラシアライオン(Panthera leo spelaea)
⑫アムール/カスピトラ (Panthera tigris altaica / virgata)、
  クッキーカッターネコ(Xenosmilus hodsonae)
⑭ベンガルトラ(Panthera tigris tigris)、
  バーバリーライオン(Panthera leo leo)




文責・絵: ⓒサーベル・パンサー(All rights reserved)


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6 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (虎王)
2012-03-30 22:45:07
シベリアトラとヒグマはどっちが強いんですかね?
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Unknown (ユキヒョウ)
2012-03-31 23:36:54
ずいぶんと立派なトラの絵ですが。
誰が書いたんですか?

まさか管理人さん?
したらどんだけ博識なんですか!凄すぎる。

俺が好きなシムシメールのネコ科の絵にも匹敵しますよ。
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Unknown (サーベルパンサー)
2012-04-03 23:10:55
>ユキヒョウさん

どうもありがとうございます。(感涙)
私の絵ですよ。ここではサーベルパンサー、イラスト
はJagroarのハンドルネームで描いています。

シム・シメール氏の名前は恥ずかしながら初耳でし
たけど、検索したら作品は見たことのあるものばかり
でした。ネコ科のラッセンという感じで、美麗ですね
。私など全く及びません。

近日中に新しい絵をここでアップすると思いますの
で、よろしくお願いします。
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Unknown (Unknown)
2012-04-08 14:46:46
熱帯のジャワでこれだけの巨体であるならば、北方の亜種はさらに大型だったんですかね?
また、ジャワのホモテリウムがどのくらいのサイズかは知りませんが、大型ネコ科2種が共存していたというのは、現代では見られない光景ですよね。
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Unknown (サーベルパンサー)
2012-04-10 19:23:31
ワンシェントラというのは、現代型のトラ亜種が放散
する以前に東、東南アジアの広範囲に分布していた古
代亜種を指すようで、私もそのうちの一部や一時期の
ものは、ガンドントラの体格に少なくとも匹敵してい
たろうと想像しています。ホモテリウムultimumのサ
イズは分かりません。

更新世のジャワには他にも、メガンテレオン属数種、
ヘミマカイロドゥス属種といった剣歯猫が分布してい
たことが、非常に断片的な骨格ながら確認できる
(Hertler and Volmer, 2008)そうです。ヒョウもい
ましたし、全てが同時代ではないとしても、大型のネ
コ科だけで賑やかな顔ぶれですね。
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Unknown (ロールちゃん)
2012-05-23 18:54:57
現存するシベリアトラでも飼育されたデブなのは400kgいったりしますが
ガンドントラは平常時で500kgぐらいあると考えると
そのでかさは驚愕ですね。

こんなのが闊歩していた時代なんて生きた心地がしませんね。
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