GALE【300】
自分たちがここに来てから人の気配に気づかなかったから―自分たちより先に雨宿りしていた。
そうでなかったとしても短時間の小雨だった。
何故こんなに濡れている?
しかも、こんな夜更けにひとりで庭の中?
何をしていたんだ?
数々疑問が沸いて―訊いてみた。
彼女は顔を膝に埋めたまま、ごめんなさい。誰にも言わないで!と言っただけで質問には答えてくれなかった。
しかし、顔を見せず動こうとしない彼女を放っておけない。
一緒に戻ろ?とアーサーが声を掛けたとき、横からマリがアーサーに、貸して?と言ってアーサーの上着を彼女に羽織らせて、あっち向いて!と顎で指図された。
それに気づかなかった俺は何て無骨な―。
ドレスがびしょ濡れということは...。と気づいてアーサーは赤くなって向うを向いた。
彼女の可愛らしい声が、ありがとうございます。と言っている。
「さあ、行きましょう?私の部屋なら誰にも知られないわ?
アーサー、一応皇子様呼んでよ?風邪引いたら大変だから」
「お、分った」
むう...状況に気を取られてどこまでも機転利かない自分に凹む。
「皇子?!」
「皇子は医者よ。私はマリ。名前は?今夜は
どのサロンに出てたの?ドレスが台無しね」
マリに笑い返して彼女は、オデット・ビルン。と応えた。
オデットを抱きかかえるマリの後ろを歩いていたアーサーにも聞こえ、ふたりで驚いて、ビルン?!と言った。
オデットも驚いて、え?とマリとアーサーを見た。
その顔が可愛らしくてドキリとして―アーサーは目を逸らした。
「つい今カレラ・ビルンと会って話をしていたの。彼女とは?」
「あ...大叔母です。私大叔母の家に引き取られて今夜は大叔母に
連れられて来ました。でも馴染めなくて叔母の目を盗んで庭に」
「なら今捜してるんじゃなくて?」
「いえ。今夜は戻らなくていいと言われて... 」
「え...ソレ」
アーサーは聞こえないフリをしてそっと距離を伸ばした。
「もしかして生まれ育ちはザーインのディノウヴォウ区?」
「はい。両親も大叔父と同じ大使館に勤めるサウ。大叔父が余生は
こちらで過ごすから、私も本国で暮らせと言われて大叔父夫婦と
一緒に来ました。こちらに来て1ヶ月も経っていません。着いて
直ぐからこちらの色々なことを教えて貰って初めて城に」
「ラッキィよ?その最初に皇子。彼は執政官見習で皇子と同居」
後ろを指したマリに釣られて自分に振り返ったオデットにアーサーは、にこっ。と笑い掛けた―精一杯の御近付だ。
純粋と無垢を絵に描いたような女性とはなかなか出会えない。
アーサーの出入する範囲のラキスの女性は皆、仲間 に思えても、女性 と観得ることなんてなかった。
頑張って優しくしなくては...。
オデットもやや恥ずかしそうにしてにこっと笑った。
城内には滞在するラキスの居住区(ノリス)とは別にアークに自宅あって城内勤務のための宿泊個室がある。
マリとオデットが浴室に入っているときに、ゲイルが尋ねてきて―アーサーが、やっと来た!と言って出迎えた。
「これでも飛んで来たんだ。どこよ?急患って?」
医者らしい白衣は着ていないが、本当に走ってきた様子で鞄を抱えて本日のスーツは乱れて部屋中見回して寝所に行こうとするゲイルをアーサーが引き止めて、今着替てる。と言った。
「着替て?何で?てか誰?」
「ザーインの大使館の仕事を終えたビルンが連れ帰ったザーイン
育ちのコ...兄弟息子の娘?よく判らんが、何故かずぶ濡れで、」
「ずぶ濡れ?さっきの雨で?どうして外に?」
「お前が訊いてくれ。訊いても応えてくれなかった。俺たちはマリ
の酔い冷ましに庭に出たら雨になった、俺たちより先に雨宿して
俺たちよりびっしょりって何だ?」
「何だ?...噴水の池に落ちたとか?」
「そんな御転婆には見えないけどな。何で夜中にひとりで庭?
恋人と逢ってたでもなさそうで...初めての宮廷だから散策?」
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