【甘露雨響宴】 The idle ultimate weapon

かんろあめひびきわたるうたげ 長編涅槃活劇[100禁]

GALE【300】オデット・ビルン

2010-07-14 | 5-1 GALE




 GALE【300】 


自分たちがここに来てから人の気配に気づかなかったから―自分たちより先に雨宿りしていた。

そうでなかったとしても短時間の小雨だった。

何故こんなに濡れている?

しかも、こんな夜更けにひとりで庭の中?

何をしていたんだ?

数々疑問が沸いて―訊いてみた。

彼女は顔を膝に埋めたまま、ごめんなさい。誰にも言わないで!と言っただけで質問には答えてくれなかった。

しかし、顔を見せず動こうとしない彼女を放っておけない。

一緒に戻ろ?とアーサーが声を掛けたとき、横からマリがアーサーに、貸して?と言ってアーサーの上着を彼女に羽織らせて、あっち向いて!と顎で指図された。

それに気づかなかった俺は何て無骨な―。

ドレスがびしょ濡れということは...。と気づいてアーサーは赤くなって向うを向いた。

彼女の可愛らしい声が、ありがとうございます。と言っている。

「さあ、行きましょう?私の部屋なら誰にも知られないわ?
 アーサー、一応皇子様呼んでよ?風邪引いたら大変だから」

「お、分った」

むう...状況に気を取られてどこまでも機転利かない自分に凹む。

「皇子?!」

「皇子は医者よ。私はマリ。名前は?今夜は
 どのサロンに出てたの?ドレスが台無しね」

マリに笑い返して彼女は、オデット・ビルン。と応えた。

オデットを抱きかかえるマリの後ろを歩いていたアーサーにも聞こえ、ふたりで驚いて、ビルン?!と言った。

オデットも驚いて、え?とマリとアーサーを見た。

その顔が可愛らしくてドキリとして―アーサーは目を逸らした。

「つい今カレラ・ビルンと会って話をしていたの。彼女とは?」

「あ...大叔母です。私大叔母の家に引き取られて今夜は大叔母に
 連れられて来ました。でも馴染めなくて叔母の目を盗んで庭に」

「なら今捜してるんじゃなくて?」

「いえ。今夜は戻らなくていいと言われて... 」

「え...ソレ」

アーサーは聞こえないフリをしてそっと距離を伸ばした。

「もしかして生まれ育ちはザーインのディノウヴォウ区?」

「はい。両親も大叔父と同じ大使館に勤めるサウ。大叔父が余生は
 こちらで過ごすから、私も本国で暮らせと言われて大叔父夫婦と
 一緒に来ました。こちらに来て1ヶ月も経っていません。着いて
 直ぐからこちらの色々なことを教えて貰って初めて城に」

「ラッキィよ?その最初に皇子。彼は執政官見習で皇子と同居」

後ろを指したマリに釣られて自分に振り返ったオデットにアーサーは、にこっ。と笑い掛けた―精一杯の御近付だ。

純粋と無垢を絵に描いたような女性とはなかなか出会えない。

アーサーの出入する範囲のラキスの女性は皆、仲間 に思えても、女性 と観得ることなんてなかった。

頑張って優しくしなくては...。

オデットもやや恥ずかしそうにしてにこっと笑った。






城内には滞在するラキスの居住区(ノリス)とは別にアークに自宅あって城内勤務のための宿泊個室がある。

マリとオデットが浴室に入っているときに、ゲイルが尋ねてきて―アーサーが、やっと来た!と言って出迎えた。

「これでも飛んで来たんだ。どこよ?急患って?」

医者らしい白衣は着ていないが、本当に走ってきた様子で鞄を抱えて本日のスーツは乱れて部屋中見回して寝所に行こうとするゲイルをアーサーが引き止めて、今着替てる。と言った。

「着替て?何で?てか誰?」

「ザーインの大使館の仕事を終えたビルンが連れ帰ったザーイン
 育ちのコ...兄弟息子の娘?よく判らんが、何故かずぶ濡れで、」

「ずぶ濡れ?さっきの雨で?どうして外に?」

「お前が訊いてくれ。訊いても応えてくれなかった。俺たちはマリ
 の酔い冷ましに庭に出たら雨になった、俺たちより先に雨宿して
 俺たちよりびっしょりって何だ?」

「何だ?...噴水の池に落ちたとか?」

「そんな御転婆には見えないけどな。何で夜中にひとりで庭?
 恋人と逢ってたでもなさそうで...初めての宮廷だから散策?」






GALEもくじ GALE【301】につづく。





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