入学シーズン真っただ中、ご多用の毎日をお過ごしのことと存じます。
皆様には日頃コンサートへのご来場、音楽活動へのご理解ご協力を賜り、心より御礼申し上げます。
今年も恒例のリサイタルを開催致します。
今回は、人気のドイツ音楽を取り上げますが、シリーズ第7回に取り上げたく思いながら、
時間の都合で見合わせた作品を、ピアノ独奏と三重奏でお送りします。
これまで共演を重ね、皆様にもお馴染みのチェリスト石橋隆弘さんと
ヴァイオリニストのマテイ・ソンライトネルさんをお迎えして、
名曲の数々をお楽しみ頂きます。
ご多用中恐れ入りますが、是非お聴き頂きたくご案内申し上げます。
また、以前からアンケートに「知っている曲、教科書に載っている曲を演奏してほしい」とのご意見を頂きました。
もちろんそれらの曲を毎回取り上げています。
しかしながら、バッハより盛んになるクラシック音楽は、歴史をたどれば400年前のこと。
日本にクラシック音楽が入って約100年。そこにはおよそ300年の差があるわけです。
その間には、ピアノ独奏曲だけでも数えきれない作品が生まれ、全ての曲を知ることは不可能に近いと思っています。
有名な作品、繰り返し演奏される作品にはそれだけの魅力があると思いますが、
それらの作品も、すぐに名曲として知られたわけではありません。
現在、日本では馴染みが薄い作品であっても、本場ヨーロッパ、アメリカでは名曲として知られ、愛される作品は少なくありません。
それらの作品を日本で紹介し、お聞き頂くのも私達音楽家の使命だと思っています。
しかし、お聴きくださる皆様の、「知らない曲を聴くのには乗れない」というご意見もまた事実と受け止め、
事前にお聞き頂いて、コンサートをよりお楽しみいただきたく、7月6日に取り上げる作品を御紹介させていただきます。
今回は、ユーチューブユーザ―さんが紹介している録音の中から、演奏している姿を映像として視聴できるものを選び、ご紹介いたします。
クラシック音楽は、”古典”という意味と”良いもの”と言う意味を持つのだそうです。
私達が弾く作品は、100年以上繰り返し弾き継がれてきたもので、
たとえれば日本で言う古典芸能にも値すると思っています。
同じ演目を違う演者が務めればまた面白さも違うように、
クラシックコンサートの面白さも同様に、1つの作品を色々な演奏者がどのように表現するのか、
それを、その違いを楽しみにされる聴衆も多くいらっしゃいます。
そのような楽しみ方もして頂けたら嬉しく思いますし、
これまで同様、会場でスピーカーを通さない生の音をお楽しみいただきたく思います。
是非、ご視聴いただき、私達が7月6日にどのように弾くか、お楽しみいただけたら嬉しく存じます。
皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。
7月6日(土)18:30開演
相良総合センターい~ら (静岡牧之原市)
コンサートの詳細はこちらをご覧ください。
7月6日演奏曲目
ホロヴィッツが1987年、コンサートから引退した年に、ウィーンでのリサイタルで演奏したものです。
メンデルスゾーン作曲:ピアノ三重奏曲第1番二短調Op49
収録年は明記されていませんが、プラハの春音楽祭での演奏会を公開したもので、2012年以前のもの。
プラハ芸術アカデミーで教鞭をとっておられるイヴァン・クランスキー先生の演奏をご覧いただけます。
スターン・トリオが1974年に収録した演奏で、チェロのローズは我が師岩崎洸先生の師匠、
ピアノのイストミンは敬愛するピアニストのルドルフ・ゼルキンとホルショフスキに師事しています。
7月3日(水)19:00開演
スタジオ・ヴィルトゥオージ(東京新大久保)
コンサートの詳細はこちらをご覧ください。
7月3日に東京新大久保のスタジオ・ヴィルトゥオージでも弾かせて頂きます。
7月6日のプログラムとほぼ同じですが、
東京ではメンデルスゾーンのトリオの代わりに
ブラームスのヴァイオリン・ソナタとシューベルトのロンドを演奏いたします。
ブラームス作曲:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第2番イ長調Op.100
近日公開予定
敬愛するピアニストのルドルフ・ゼルキンがホワイトハウスに招かれ、
アイダ・レヴィンと共演したものです。
それぞれの曲の解説は当日のプログラムにも印刷いたしますが、こちらでも後日追記アップロード致します。
本公演に関するお問い合わせ、チケットのご購入は、パンフレット掲載の電話・FAX.等へ お願い致します。
一般発売は4月11日よりK.O.リサイタル・シリーズ実行委員会及びパンフレット記載の各店舗でチケットを一斉発売致します。
本公演は指定席と自由席がございます。
指定席に関しては、発売日初日より多くのお客様にご注文頂き
残り僅かとなりました。有難うございました。
そのため、K.O.リサイタル・シリーズ実行委員会のみの取り扱いとさせていただきます。
また、座席位置を指定されたい場合は、お手数ですがK.O.リサイタル・シリーズ実行委員会までお電話でお申し込みください。
自由席は各店でお取り扱いいたしております。
また、以前からご来場くださっている皆様には、ご案内をお送りさせていただきました。
お読みいただき、ご視聴いただき、有難うございました。
大石啓
待ちに待ったリサイタルが今晩開催される。
巨匠ルース・スレンジンスカ(日本表記スレンチェンスカ)女史によるリサイタルだ!
ルース先生はアメリカデッカでゴールドディスクを12枚も出し、
名演の誉れ高い名盤を多数く世に送り出してきた。
その後、日本では岡山でコンサートとレコーディングを続けてこられたが、
東京でのオフィシャルコンサートは初。
岡山での忘れ難い感動的な演奏会を思い起こし、
また聞きたいと思う私(私だけではないはずだが)の期待にこたえてくださった先生、
待ち遠しかった日がついに!
年齢を重ねるごとに進化し続けるルース先生のピアノは
素晴らしいの一言などでは語りつくせないが
百聞は一見に如かず、
みなさんにもぜひ聞いていただきたい。
80歳までのコンサート活動は記録を塗り替え続けられた伝説となり、
その後取り組まれたブラームスの小品全集はまさに驚嘆の名盤となり、
93歳になられた明日、進化し続けてこられたルース先生のピアノが
東京で鳴り響く。
サントリーホールで18:30開演、
プログラムもルース先生らしいバラエティに富んだ
バッハからショスタコーヴィチまで
更なる進化が期待されるブラームス、
今最も興味のある作曲家と話されたベートーヴェン、
教えを受けたラフマニノフのエチュードや、
スパルタ教育のお父さんによって
2歳から朝ごはん前に弾かされ続けたショパンのエチュードから終曲をフィナーレに
組まれた。
93歳の更なる芸術の高みを目指されるルース先生の
ピアノが僕を、みなさんを幸せに包んでくださることだろう。
行かないの?
行きましょうよ、音楽史の生き証人として歴史を伝えてこられたルース先生が
今宵、レジェンドをルース先生の語りかけるピアノによって紡ぎだす瞬間を
お聴き逃しなく!!!!
日増しに秋が深まりましたね。
皆さまお元気でお過ごしのことと存じます。
先程、マテイさんから空港に着いたと連絡があり、
いよいよ今年のリサイタルシリーズが始まります。
今回は地元の名ソプラノ歌手 今村千波さんと、スイス在住のヴァイオリニスト マテイ・ソンライトネルさんをお迎えして、
日本で特に人気の高いドイツ音楽を集め、「ドイツロマンの夕べ」と題し名曲の数々をお楽しみ頂きます。
ご多用中恐れ入りますが、是非お聴き頂きたくご案内申し上げます。
今回は恒例の静岡公演に加え、東京公演も開催いたします。
皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。
Program
【ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第30番 ホ長調 作品109】
【ブラームス:インテルメッツォ 変ロ短調 作品117-2】
【メンデルスゾーン:言葉の無い歌から 作品62-6, 30-6, 38-3, 102-5, 67-4, 38-6】
【シューベルト=リスト:魔王 ト短調 (原調) 作品1(D.328)、S.558-4】
【ブラームス:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第2番 イ長調 作品100】
【シューベルト:野ばら 作品3-3,D.257】
【シューベルト:ます 作品32,D.550】
【シューベルト:夜のすみれ 遺作,D.752】
【シューベルト:岩の上の羊飼い 作品129,遺作,D.965】
東京公演
11月17日(金)19:00開演
スタジオ・ヴィルトゥオージ
全席自由3,000円(残席僅か)当日券500円増し
静岡公演
11月23日(祝)15:00開演
相良総合センターい~ら
指定席3,500円(発売日に完売)
自由席3,000円、当日500円増し
各公演共に添付チラシのリサイタルシリーズ事務局にお問い合わせお申込みください。
皆様にお目にかかれますのを楽しみに準備いたします。
過ごしやすい気候になりました。
春のコンサートは如何でしょうか?
静岡での全曲ソロリサイタルは久々です。
日曜日に皆様とお会いできますのを楽しみに致しております。
今年も恒例夏のリサイタルのお知らせをいたします。
リサイタル・シリーズ第5回
ピアノとチェロの夕べ
「ショパンとベートヴェン」
2015年7月18日
18:30開演(17:45開場、18:15プレトーク)
静岡音楽館AOI (Concert Hall Shizuoka)
〒420-0851 静岡県 静岡市葵区黒金町1番地の9
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JR静岡駅前のホールです。
ショパンがモーツァルトの音楽を敬愛し、バッハを尊敬して影響を受け作品を書いたことは本にも語っている通り周知の事実です。
しかし密かにベートーヴェンを意識して、
彼の作風を踏襲していたことは意外にもあまり知られていません。
今回はこの点にスポットを当て、
ショパンとベートーヴェンの作品を交互に演奏いたします。
このシリーズでは、
これまでに様々なテーマを決めて皆様にお楽しみいただきました。
毎回頂いたアンケートのご意見では
ショパン作品のリクエストを沢山いただきました。
今回はその中から特に多くの方にリクエストいただいた
ショパンの名曲も演奏致します。
また昨今、フィギュアスケートは大変人気で
羽生さん浅田さんの演じられたバラード、
荒川さんの演じられた幻想即興曲、
高橋さんの演じられた月光など
より耳馴染みになった作品も演奏致します。
なお、幻想即興曲作品66は皆様ご存知の曲ですが
実は友人フォンタナによる編曲のものでショパンの完全なるオリジナルではありません。
今回は滅多に演奏されることのないショパンの自筆譜版で本物をお聞き頂きます!
ショパンは「ピアノの詩人」として知られ、
生涯の大半をピアノ独奏作品のみ作曲した
と言っていいほどにその他の楽器編成の作品をほとんど残しませんでした。
その彼がピアノの次に唯一興味を示したのがチェロで
4曲残された室内楽曲はそのすべてがチェロとピアノを含む編成の作品です。
その中から彼が祖国に寄せる思いで書かれたピアノとチェロのためのポロネーズも演奏致します。
共演してくださるチェリストは、小澤征爾さんとも共演され、世界で活躍される奥泉貴圭さんです。
先月東京で同じプログラムを演奏致しましたが、
彼の素晴らしいチェロの音色に、観客の皆様の拍手が鳴りやむことはありませんでした。
彼の素晴らしいチェロにも是非注目してください!
皆様のお来場を心からお待ち申しあげます。
プログラム
ショパン:バラード第1番ト短調作品23
ショパン:エチュード第14番ヘ短調作品25-2
ショパン:ポロネーズ第6番変イ長調作品53「英雄」
ショパン:ワルツ第7番嬰ハ短調作品64-2
ベートーヴェン:幻想風ソナタ嬰ハ短調作品27-2(ピアノ・ソナタ第14番「月光」)
ショパン:即興曲嬰ハ短調遺作(幻想即興曲の自筆譜版)
ベートーヴェン:チェロとピアノのためのソナタ第3番イ長調作品69
ショパン:チェロとピアノのための序奏と華麗なるポロネーズハ長調作品3
ゲスト:奥泉貴圭(チェロ)
ショパンのチェロとピアノのための序奏と華麗なるポロネーズハ長調作品3は大変美しい作品ですが、
ショパン作曲当時ピアノパートの創作に力が入りすぎてしまい、チェリストにとっては少々物足りない作品でもあるそうです。
多くのチェリストが編曲を試みて取り合えてこられましたが、ショウピースのように編曲がされ、
ショパン特有の素朴さ、愛国心、華麗さが失われてきました。
奥泉さんはそのあたりに配慮して原曲の魅力を損なわない編曲を行ったピエール・フルニエ氏の演奏(1965年パリでの演奏会)敬愛され、
この編曲を参考に演奏されることを熱望されました。
我々の編曲による同曲の演奏、
こちらにもご注目ください。
チェコフィルの友達が日本で客演して演奏しているコンサートに招かれた。
何とも頼もしい。そして感謝。
会場は文京シビックホール。
前回ここを訪ねたのは。。。。
12年前。。。干支が1周してるね。。
それは恩師深澤亮子先生のリサイタル。
あの日の感動は忘れない。
そしてそこで聞いたショパンの英雄ポロネーズ。
沢山の愛情と勇気をもらった先生のリサイタル、
その年から僕のコンサートのプログラムに英雄ポロネーズが並ぶことになり、
数年後に水谷豊さんと出会うきっかけとなった、本当に不思議な力を持った曲。
コンクールで大失敗して辛い思いをしたのも、
そのコンクール(別の日別開催)で賞をいただいた時のプログラムにもこの曲を弾いた。
プラハのコンサートで初めて弾いた曲も今思えば英雄だった。
今では僕にはなくてはならない大切な曲。
ところで、話を今日に戻そう。
友人の雄姿を嬉しく拝聴して、帰路に就こうと思ったその時、
ホールロビーに明らかにスタインウェイのフルコンと思われるピアノが展示されている。
なぜ?
近寄ってみると
シビックホールができる前にこの地にあった文京公会堂に常設されていた伝説的なピアノであった。
ゼルキンが初来日で弾いたピアノ。
ケンプが3度目の来日でベートーヴェンのソナタを全32曲披露したピアノ!!!!
昔、まだ学生だった僕は、クラシックのCDが手に入りにくい田舎にいて、
毎週日曜に放送されるラジオ番組を楽しみに聞いていた。
その中でも黒田恭一さんが第4日曜にNHKに残されたライブ録音から組んだ「20世紀の名演奏」という番組が忘れられない。
ある年、そのケンプのベートーヴェン全曲演奏会のすべてを12回に分けて放送するという信じがたいプログラムが発表され、
毎月なけなしのお小遣いを使って、カセットテープに録音して大事に聞いたのを
鮮明に覚えている。
1961年10月文京公会堂で7回にわたるリサイタルで32曲のソナタと、10数曲のアンコールを弾いたウィルヘルム・ケンプ。信じがたい偉業だ。
しかもどれも抒情に富む、素晴らしいもの。
あの時のピアノに今日会った!
そのロビーに展示されて。
感動で手が震えて写真もピントぼけ・・・・
ピアニストたちのサインもたくさん書かれていたが、多分それをここでアップするのはNGだろうから、ピアノについての説明と、ピアノをアップする。
大ホールのコンサートを聴きに行って、そのロビーにはいらないとこのピアノには会えないけれど、
興味のある方は行ってみてはいかがだろうか。
戦後高度経済発展期あった日本の音楽文化の歩みを往年のピアニストともに伝えてきた
証人ともいえるピアノ(STEINWEY D360750)。
今は演奏禁止になっているそうだが、
いつかこのピアノの音に触れられる機会があったらどんなに素敵だろう。。。。
そんな日を夢見て。
なお、このケンプの全曲演奏会は昨年CD化され発売。
在りし日の感動を伝えている。
CD9枚にまとめられたが、コストダウンしたいのは解かるが、
あと1枚増やせば演奏された順に収録できるのに。。。。
演奏順不同に収録され、プログラムとして疑問。
ケンプが込めた愛情が立った1枚のためにかき乱されている気がするのが
残念でならない。
これもCDという媒体が売れなくなってきていることへの打開策か?
ファンなら、愛好者なら、その削られた1枚分のコストに惜しみなく
お金を払うと思うよ。。。。
悲しい話はこの辺にして、
音楽家である僕が、この国にクラシック音楽が今なお求められているのだろうか?
と悩むことが最近多いが、
今日みたいに、大事にされているピアノを見て、
ちょっと希望が持てた気がする。
巨匠の残像を見たような、また、興奮さめやらない文京公会堂を見たような、
そんな不思議な空気に包まれたひと時だった。
来る7月20日にリサイタルを開催いたします。
詳細は牧之原市イベントカレンダーをご覧ください。
また昨年のリサイタルの映像を一部アップしました。
ご覧ください。
このリサイタルのプログラム全曲はCD化し発売中です。
今年も相良総合センターい~らにて
皆様のご来場をお待ち申し上げます。
梅雨入りしたようです。
くれぐれもご自愛ください。
2013年が明けて早くも3ヶ月が過ぎようとしています。
この半年とにかく必死でした。その理由は後ほどにして、
昨年8月9月の貴重な経験を書いてみようと思います。
2011年に帰国して、日本で室内楽の演奏を再開したいと思っていたので、
その機会をどうにか得られないものかと、プラハでの友人に相談したところ。。。
彼女の友達のドイツ在住のヴァイオリニストが日本に帰国され、活動されると、
またその方がヴィオラも弾かれるそうで、更にご友人のチェリストが加わって、
ブラームスのピアノ四重奏曲を演奏するプランが練られました。
ところが。。。。。。。
プラハのヴァイオリンの友人は今でもヨーロッパ在住でコンサートの予定日に帰国が難しくなり
キャンセル。
チェリストも予定が合わずキャンセル。。。
今回のコンサートは延期または中止になるだろうと思っていた時のことでした。
チェリストのご友人(もちろんチェリスト)が加わり、ピアノ三重奏の演奏会が行われることになりました。
ベートーヴェンのニ長調作品70-1「幽霊」を中心として、
ヴァイオリンとピアノ、チェロとピアノ、ピアノのソロ、ピアノトリオの小品(名曲)を集めた
楽しいプログラムが組まれました。
曲目、出演者など、最終的な形が決まったのは、確か6月だったと思います。
コンサートは8月31日と9月1日の2公演。ヴァイオリニスト烏野慶太さんの地元函館で行われました。
8月29日に空港で「はじめましてww」
と
お会いするまで、連絡はメールでのやり取り、
お顔はパンフレットの写真でしか知りません。
演奏もお互いに聞いたことのない3人が集まりました。
そういう状況でコンサートをするのは初めてでした。
以前、音楽祭や、マスタークラスではこういうことはありましたが、
リサイタルクラスのコンサートでこういう状況は今までなかったと思います。
少なくとも僕には。
本番まで2日しかない状況で、幽霊トリオは僕のレパートリーであったけれど、
10年ぶりに弾くし、何しろ、仲良し3人組みが弾くわけでもなく、
とりあえず「仲良しになりましょう」なんて呑気なことを言っている暇はありません。
2日後にはコンサートが迫っているのですから、とにかく会場に移動して練習を始めました。
幽霊からスタートし、
とにかく弾いてみようとセーノではじめる。
どうでしょう!
え?何かいい感じじゃない?
そう思ったのは僕だけでしょうか?
何の打ち合わせもしないのに、面白いくらいの音楽が展開されました。
こんなことは滅多にありません。たとえお互いをよく知る演奏家どうしであったとしても。
細かいことを言えば初めてですから、うまくいかないこともありましたが、
一緒に弾いているのが本当に楽しくなりました。
こんな嘘みたいな話、本当にあるんだなあと。
練習はたった2日しかなくて、弾かなくてはいけない、怖いコンサートのはずが、
楽しみなコンサートに変わり、
この素晴らしい時間が過ぎ去っていくのが惜しくすら感じられるようになりました。
目一杯練習して迎えたコンサートは、充実した夢のような時間でした。
コンサートは瞬間芸術だから、あれがこれがと思うことはあったけれど、
その時できる精一杯をぶつけたつもりで、舞台にいた僕も仕事を忘れて楽しみました。
またいつかこの素晴らしい仲間との再演の日が来るといいなああ。。。例えば1年後とかに。。。。
と思って函館をあとにしました。
数日後、
3月に再演の連絡を頂きました。
なんと今度は大ホール!
曲も大曲難曲のアレンスキーのピアノトリオがメインプログラム!
魅力的な名曲、でもびっくりするくらいピアノパートが難しい。
多分ヴァイオリンもチェロも難しいだろうけど、
演奏云々より、まず、譜読みをして、一通り弾けるようにするまでが難事業。
とにかく1楽章が難しくてうなされた3ヶ月でした。
果たして、僕は3月にこの曲をもって舞台に立てるのだろうかと
不安に感じ、とにかくひたすら丁寧にさらった毎日でした。
あのお2人と共に過ごし演奏できる楽しみな時間よりも、
僕には恐怖の方が強くなった期間でした。
恩師岩崎淑先生が以前コンサートでこのアレンスキーのトリオを演奏された時に
僕は横で譜めくりをしていました。
こんなにも素敵な曲なのに、なんて難しいんだろう。。。。
淑先生は一体どのようにして練習を積まれてきたのだろう。と思いながら。
先生にもアレンスキーへの挑戦を話したところ、
「あれを弾くの!大変だわよ!でも、弾く価値のある魅力的な曲だわ」
とおっしゃいました。
先生でもそのように感じるくらい難しい曲なんだなあと
僕の恐怖はピークに達し、まるで音大入試の半年前に感じた恐怖感、
それは時間との戦い、果たして自分に成しえるんだろうか?という思い。
2月になって、精一杯練習して迎えた東京でのリハーサル。
楽しみのはずのトリオが恐怖に変わっていた、アレンスキーはそれほどに
偉大に立ちはだかっていたのです。
とにかく準備してきたはずのことを弾く。
全くうまくいかない。。。
楽しいはずの時間は僕にはただただ悲しさと悔しさでいっぱいになりました。
リハーサルをしていくうちに見つけた課題を持ち帰り、
各々が取り組んで函館で会おう、ということになったのだけれど、
それまでの2週間を、無駄なく過ごすために、楽譜をもう1度見直して、どのように曲と向き合って過ごすかプランを立てて厳密に過ごしました。
毎日メトロノームとお友達。壊れた針の飛ぶレコードのように同じ所ばかり繰り返し繰り返しの毎日。
ピアノは華やかに思う方も多いでしょうけど、意外と地道な作業の繰り返しが多いのです。
ご近所さん、きっとご迷惑だったでしょう。ごめんなさい。
あと3日あったら、もしもコンサートが1年後なら、
欲をかくと思いは尽きないけれど、
今はこれが精一杯、そんな思いで函館に向かいました。
初日のリハーサル、東京でのそれと違って、自分のやりたいことができてきた手応えを感じ、
本番に向けてのモチベーションが上がってきた。
細かいニュアンスが表現上で求められるこの曲に、
いつも以上にピアノの調整も気になって、長時間調律調整にあたっていただき、
また、自分自身もホールでのサウンドチェックのために閉館ギリギリまで練習した。
支えてくださった芸術ホールの皆さん、調律師さんありがとうございました。
いよいよ迎えた緊張感が走る本番、こちらの緊張を察してか、お客さんみなさんもこれから演奏される大曲を知ってか、凍りついたようないような空気感を僕は感じた。
多分チェロの奥泉貴圭さんも。
とにかく集中しようと努めた。
始まってしばらくすると、やっといつものように余裕が出てきた。
烏野さんと奥泉さんと目配せして、弾く。今まで当たり前のようにやってきたことが
開演直後は緊張のピークで出来ていなかった。
猛烈に反省。
僕たちが楽しめないようなコンサートはお客さんが楽しめるはずがない。
初心は肝心だ。
アレンスキーのピアノトリオが、威圧感に支配された状態から、
美しいものへと変わっていった。少なくとも僕にはそう感じた。
そう思ったら、散々リハーサルをしてきたはずなのに、アイディアが次から次へと
浮かんできたのだ。
別に悪戯をするつもりはなかったが、楽譜が僕に語りかけてくるメッセージを
いつもとは違う方法で音にしていく。
奥泉さんがリズムに乗ってきたww
烏野さんが笑ったww
よし、これできっといつもの調子になるはず。
嬉しくなってきた。
そうやって弾ききったトリオは、皆さんにどう響いたのだろう?
半年前とは違った充実感と達成感でコンサートは終演した。
もしかしたら僕自身が最も幸せな時間を過ごしていたのかもしれない。
後日、烏野さんから
「お客さんの何人かが、アレンスキーのトリオのCDを求めてレコード店に出向かれた」
とのお知らせをいただく。
僕たちの弾いてきたアレンスキーのトリオは、函館の皆さんにしっかり伝わっていたんだと、
思ったら嬉しくなった。
この半年は、きっと今後の人生の糧になるだけでなく、
挑戦し続ける芸術の世界の勇気の源になってくれるだろうと感じた。
そんな理由で、「この半年とにかく必死でした」
烏野さん、奥泉さん、コンサートにご来場くださった、また支えてくださったすべての皆さん、ありがとうございました。
僕はとっても幸せでした。