Chiro's Memo

My Sweet RoseとRosariumの更新記録です。

アムステルダム国立美術館展

2006-01-13 21:23:04 | 美術
1月12日に神戸・大阪へ展覧会めぐりに行ってきました。

まず兵庫県立美術館のオランダ絵画の黄金時代 アムステルダム国立美術館展から見ました。

この展覧会はアムステルダム国立美術館の大規模な改装工事のため
世界を巡回する展覧会が企画されたもので、
日本では神戸のみの開催です。
10月25日からの開催で、1月15日で会期が終了するのですが、
なかなか行く機会ができず、終了間際になってようやく行くことができました。

美術館の入り口はほとんど人がおらず静かだったので
ゆっくりと見ることができるだろうと思ったのですが、
会場内に入ると会期終了が近いせいかすごい人で、あまりゆっくりはできませんでした。

1.画家とその世界
17世紀オランダの画家を取り巻く環境が、
画家の自画像や肖像画などとともに紹介されていました。
レンブラント「自画像」は彼の最初期の自画像のひとつで、
逆光の効果を巧みに用いた表現は、
光と闇のコントラストを描き出す画家の特性の片鱗を見せているように思います。
このほか当時活躍していた女性画家オーステルウェイクの肖像画や
画家のアトリエを描いた作品などが展示されていました。

2.画家とその世界:静物画と工芸
17世紀オランダでは特定のパトロンのために絵画を描くのではなく、
絵画市場で売ることを目的として制作が行われました。
そのため市場の需要に合わせてそれぞれの画家が描くジャンルが細分化していきました。
静物画はこの時代大きく発展したジャンルですが、
ただ花や果物、工芸品などを描いたものではありません。
美しいけれどもすぐに萎れてしまう花や、
甘いけれどもすぐに腐ってしまう果物などは
「ヴァニタス」すなわち生の儚さの象徴として描かれました。
ラヘル・ライス「大理石の卓上の花のある静物」も一見美しい花の絵画ですが
よく見ると花につく虫が描きこまれており、ただ美しいだけの作品ではないことがわかります。
しかし、この作品をはじめとして、当時の絵画に描かれたカップ咲きの薔薇はとても美しく、
そういった薔薇の絵は大好きです。
今回は絵画作品だけではなく工芸品も展示されており
静物画に描かれた背の高いビアグラスなども展示されていました。

3.都市
17世紀、オランダでは都市文明が発展しました。
都市住民の生活を描いた風俗画や都市の景観図などが展示されていました。
ライスダール「前景に亜麻布を漂白する畑の見える北西からのハールレムの眺望」
2000年に開催された展覧会でも展示されていた作品です。
あまり大きな作品ではありませんが、
画面の三分の二を占める空の存在感に圧倒される作品です。

4.風景画:旅する芸術家
田園風景や外国の風景を描いた作品が紹介されていました。
ライスダール「ベントハイム城」はドイツに実在する城を描いた作品です。
前景の渓流はオランダにはない情景であり、こういった作品は当時人気を集めました。
ベントハイム城は実際にはなだらかな丘の上に建つ城なのですが、
ライスダールは城の位置を高く描くことによって、
難攻不落の要害としての城を描き出しました。
ライスダールの描く雲と大気の質感には本当に魅せられます。

5.宗教と寛容:レンブラントとハルス
当時のオランダでは新教が国教とされていましたが、
実際には多くのカトリック教徒が存在し、
(フェルメールの妻の一家もカトリックで、彼もカトリックに改宗しています)
また多くのユダヤ人が暮らしていました。
レンブラントがユダヤ人医師の肖像画を描き、
ハルスがカトリックの聖職者の肖像画を描いているということは
当時のオランダ社会が宗教に寛容であったことを示しています。
このセクションで紹介されている作品には2000年の展覧会でも紹介されている作品があります。
ファブリティウス(帰属)「洗礼者ヨハネの斬首」は、
オランダの娘の姿で描かれた金髪のサロメが印象的な作品です。
レンブラント「オリエント風に装った男」は聖書に登場する王を髣髴とさせる
豪華な装いの男の肖像です。

6.共和国の門閥市民と貴族
この時代財産を蓄えた市民は自らの肖像画を描かせるようになりました。
ハルスをはじめとた当時の人気肖像画家による
裕福な市民の肖像画が紹介されています。

7.共和国とオランダ領東インド
17世紀オランダの富はオランダ東インド会社による
東アジアとの交易によってもたらされたものでした。
ことに東洋の陶磁器は貴族や裕福な市民があこがれたものであり、
デルフトでも染付を模した陶器が作られるようになりました。
ここではデルフト製の陶器と東インド会社関係の人物の肖像画が紹介されています。

8.風俗画
17世紀オランダで静物画と並び市民の人気を集めたのが風俗画です。
農民の生活や家庭内の様子などが好んで描かれました。
フェルメールが描いた大半の作品もこの風俗画に属します。

「恋文」についてはこちら(クリック時音量注意)で感想を述べています。
また当時の風俗画における手紙の意味するところについてはこちら(クリック時音量注意)にで記事をUPしています。
よろしければそちらもご覧ください。
何度見てもフェルメールの描く穏やかな光に包まれた室内画には魅了されます。
今回タイトル画像にした、レンブラント「修道士に扮した息子ティトゥス」は
私の好きなレンブラント作品のひとつです。
ほとんど茶色一色で描かれた作品なのですが、
ティトゥスの憂いを帯びた穏やかな表情や、静かな画面が印象に残ります。


最後に猫好きとしてチェックを入れた作品を何点か紹介します。
アブラハム・ミニョン「傾いた花束」
 花瓶の横に大きな目をしたトラ猫が描かれています。
ニコラース・マース「祈る老婦人(果てしなき祈り)」
 画面右下隅にご注目ください。

カスパル・ネッチェル「子供の髪を梳いている母のいる室内(通称《母親の世話》)」
 椅子に腰掛ける裕福な身なりの母親の後ろにかわいいトラ猫が描かれています。
 猫の手元にはボールがあり、この猫が愛玩用の猫であることがわかります。
ピーテル・デ・ホーホ「子供の髪から虱を取っている母親のいる室内(通称《母親の義務》)」
 当時の一般市民の家の中の様子を描いた作品です。
 画面左の後姿、私は猫だと思うのですが…。


展覧会に行ってもついつい猫の描かれた作品にチェックを入れてしまうのが
猫好き絵画ファンである私の習性です。

アムステルダム展覧会を見た後、神戸を後にし、大阪へ向かったのですが
ひとまずここで区切ります。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (桂田)
2006-01-15 21:37:40
こんばんは。

充実した展覧会巡りだったみたいですね! 私はこの展覧会、行ければいいなぁと思ってはいたのですが結局行けずじまいでした。17世紀オランダ絵画は描写技術としては最高レベルの時代ですよね。画題も描き手の視点が感じられてとても魅力的です。

画中の猫への千露さんの注目、思わずニヤリといたしました。今のペットとは扱いが違うかとは思いますが、ここにも描き手(または注文主?)の眼差しがあっていいですね。
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Unknown (千露)
2006-01-16 14:10:28
>桂田様

この通りとても充実した展覧会めぐりでした。



17世紀オランダ絵画は華やかさは余りありませんが画題はバラエティに富んでいて、技術的にもレベルが高い作品が多いので、それぞれの作品がとても興味深いです。



どうしても猫好きとしては猫の描かれた作品が気になってしまいます。

近代以降は猫がメインの作品が多くなりますが

古典絵画では画面の隅にさりげなく登場している猫が多いので

そういうのを発見するのも楽しいです。
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Unknown (Tak)
2006-01-16 21:38:23
こんばんは。千露さん。

TBありがとうございました。



詳しいですね~解説。

ティトスの画像がどーんとtopに来ていて

迫力あります。この絵何度見ても飽きません。



ファブリティウスの作品の解説が

ちょっと嫌味な感じうけました。

好きな画家さんなのに・・・



しかし、オランダ絵画をまとめて観る機会

中々日本ではないので、フェルメールも含めて

これは貴重な展覧会だったと思います。
返信する
Unknown (千露)
2006-01-17 20:02:23
>Tak様

私の記事で不快な思いをなさったのであれば、本当に申し訳なく思います。

言葉を選んで記事を作成しているつもりですが、

ところどころ言葉足らずになってしまうようです。



今回は17世紀オランダ絵画に焦点を絞った展覧会だったので

じっくりと鑑賞できたと思います。

ただ、閉幕間際だったので、絵を見る前に人の頭を見なくてはならなかったのは大変でした。
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