(有)妄想心霊屋敷

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新転地はお化け屋敷 第六章 月と太陽 十

2007-09-26 20:57:59 | 新転地はお化け屋敷
「へー、哀沢さんってそんな事もできるんですか。僕でも見えるなんて、驚きました」
「最初に会った時にこうしていればいらぬ気を揉ませる事もなかったのだろうが、あの時は精神的に参っていてな。そこまで気を配れなかったのだ。すまなかったな、月見」
「いえいえ、そんな謝ってくださらなくても。……ちょっとその、耳、触ってみてもいいですか?」
「ん? ああ、構わんぞ。耳と言ってもただ髪の毛がそういう形になっているだけだがな」
「……おお、これはふさふさしてて気持ちいい………ありがとうございました」
「だいごんもふさふさしてあげたら~? なるみん、きっと喜ぶよ~」
「え、いやあの、だから勘弁してくださいよ椛サン」
「お。なっちゃんがだいちゃんの事、ちらちら気にしてるよ?」
「なっ! ば、馬鹿を言うな! なぜわざわざ皆の前でそんな事!」
「あら成美さん、それはつまり二人きりなのならやって欲しいという事ですわね?」
「ワウ?」
「貴様等、二匹揃って馬鹿にしおって……!」
「いや、ジョンがなんて言ってるかは分かんねーだろ」
「ワンッ!」
「『濡れ衣だ』だそうですわよ成美さん」
「ぬぐ……! ええい! もういい! とにかくここではもう、死んでも誰にも触らせんからな! この耳は!」
「いや、もう死んでるだろ」
「やかましいわ馬鹿者! 頼むからこういう時はわたしの味方でいてくれ!」
「おやおや、お熱い事で。んっふっふっふ」


 部屋に戻ると、暫らくの間椛さんに「二人で何してたのかなぁ~?」としつこく迫られたりしました。が、僕と栞さんがやんわりふんわりぐんにゃりとかわし続けたので、そのうち攻撃対象を大吾と成美さんに移されました。ふぅ。
 意外だったのはその椛さんに攻められてる間、家守さんが椛さんの加勢に来なかった事でしょうか。こういうネタなら好んで飛び込んでくるんじゃないかと終始家守さんの動向を気にしていたんですが………やっぱり家守さん、直接見てなくても大体分かっちゃってるのかなぁ。僕と栞さんが外でどんな話をしたのか。栞さんの様子がおかしい理由も知ってるって言ってたし、その上であえて教えないとまで言ってたんだし……
 食事が終わって解散すれば、やっとその理由が教えてもらえる。やっとその理由を知る事ができる。心の隅っこでこのお食事会が早く終わって欲しいとすら思いながら、出前寿司の到着を今か今かと待つのだった。


『いただきまーす!』
「それにしても、凄い量ですね。食べ切れるんですかこれ?」
「あはは、頑張ってたくさん食べてねこーちゃん。余って腐らしたら料理人免許剥奪だよ?」
「できる限りは頑張りますけど……」
「心配すんな孝一。余った分は全部オレが食ってやるからよ」
「おお、だいちゃん張り切ってるねぇ」
「前の刺身の時はサタデーのせいで食いそびれたからな。今日は遠慮なく食わせてもらうぜ」
「大人気ないですわよ大吾さん。それこそサタデーの思う壷ですわよ?」
「知るかよ。どう言われようとも今日サタデーは手出しできねえからな。じゃ、まずは一つ目っと」
「ワウ……」
「あれ? ねえ大吾くん、ジョンが元気ないみたいだよ?」
「あん? どしたジョン、そんなに腹減って………あ」
「お昼のお食事抜きでしたもんねージョンさん。ここは大吾さんからお寿司のお刺身部分を頂くべきだと思いますわ」
「ワンッ!」
「な、何ぃ!? そんなんアリかよ! オレ、米部分だけか!?」
「ぬぐぁぉっ! ぐむおおおお!」
「今度はなんだーーー!」
「おお、カップルで騒がしいねぇ。どしたん? なるみん」
「わは、わはびふぁっ! 鼻ふぁ! 鼻ふぁあああああ!」
「だっひゃっひゃっひゃっひゃ! なっちゃん、ワサビ駄目ならちゃんと先に取っとかないと! あっひゃっひゃっひゃっひゃ!」
「ぷくっ、くっくっく……哀沢さ、くくっ、だ、大丈夫で……」
「こ、孝治、わらっちゃああぁは、駄目だって……ぷっ!」
「んっふふっふぶっ」
「せ、清さんの笑いが、不規則に……あは、は」
「んふぁあああ………ひ、ひはまや、わらふなは……」
「な、なな、成美ちゃんんふっ、お、お願いだから声出さないでぇ……」
「……鼻に水ぶちこんでやりゃあいいんじゃねーか?」
「あら大吾さん、笑わないんですのね」
「オレが笑う訳にぶふっ」
「あらあら」
「ワウ?」
「わたくしですか? 後で成美さんに怒られるのは嫌ですので、内心だけで笑わせていただきますわ。それよりジョンさんもワサビにはお気をつけくださいませね」
「ワンッ!」


『ごちそーさまでしたー』
「いやー、なんだかんだで今回は腹いっぱい食えたな。良かった良かった」
「うーん、栞も大吾くんみたいにもっと食べたかったけど、お腹が限界だよ」
「ワサビなぞ、使いたい者だけが醤油に混ぜていればいいのだ………」
「まあまあ。なっちゃんだってたくさん食べたんだからさ。体格に似合わず」
「お昼にパンも食べてたから、今日はちょっと食べ過ぎたかなぁ。お腹が苦しい……」
「あはは。太らないように気をつけてね、椛さん」
「ジョンとマンデーもちゃんと食べられましたか?」
「ワンッ!」
「ええ、御心配なく。あと一日違っていればとチューズデーが悔しがってますがね」
「んっふっふっふ、そちらも御心配なく。私、自分が食べた分から何枚か刺身を取っておきましたから。お腹の足しにと言う程の量ではないですが、種類は分けてあるので味は楽しめると思いますよ」
「あら、ありがとうございますわ清一郎さん。自分の食べる分で精一杯のどこかの誰かさんとは大違いですわね」
「聞こえねえなあ」
「あっ! また忘れてた!」
「ど、どうしたの? 孝一くん」
「えっと、この中で持田寛って人を知ってる人っています? 花見の場所を教えてもらった友達から訊くように頼まれてたんですけど」
「花見? あたしら関係無いのかな、そんじゃあ」
「みたいだね」
「あ、はい。この間みんなで花見に行ったんですけど……」
「アタシは知らないなあ」
「オレもだな」
「わたしも知らん」
「栞も」
「私も存じませんが………日向君、名前以外で何かその人の特徴とかはないのですか?」
「あ、えっとですね、とんでもなく背が高いそうです。もう大吾以上だそうで」
「だいちゃん以上? うーん………そんだけじゃねえ」
「…………知ってるかもしれん」
「ん? そうなのか?」
「日向、その男はやたら無表情だったり喋り出すのが少し遅かったりしないか?」
「え、いえ、僕がその人と知り合いな訳ではなくて、友達のまた友達というか」
「じゃあその友達とやらに会わせてくれ! 大学の者か!?」
「え、ええ。あの、今日僕と一緒にいた人です」
「どうしたんだ成美?」
「成美ちゃん?」
「あの緑色の服の男か! トイレの前で会った奴だな!? ………頼む日向、明日大学にわたしを連れて行ってくれ。そいつに会わせてくれ」
「はい、大丈夫ですけど……ああいや、その持田って人とすぐ連絡がつくかどうか分からないですから、まずは僕が伝えてきます。それに明日からは講義もありますし」
「むぅ、そうか………ならばわたしはここで待っているよ」
「じゃあオレも」
「怒橋………」
「よく分かんねーけど深刻そうだからな。邪魔かもしんねーけど、立ち会うくらいはいいだろ?」
「ああ、是非そうしてくれ。お前がいてくれれば心強いよ」
「ま、それがなくても一日家にいるんだけどな。どーせ」
 告白が成功した途端に随分と仲が良さそうですが―――本当は前からずっとこういう感じでいたかったんでしょうね、二人とも。そして二人ともそうだったから、更には準備期間が長かったから、すんなりとその状態に移行できたと。
 そんな二人を微笑ましく、そして羨ましく思いながら、僕はまだ見ぬ明くんのお友達の事も気に掛かるのでした。もし持田って人と成美さんの言ってる人が同じ人物だったら―――背が高くて、無表情で、喋り出すのが少し遅い、という事に。……それらのキーワードから連想したのはゲームとかマンガとかでありがちな、所謂ゴーレムでした。むぁ~、とか唸ってそうな感じの。
 そんな人と成美さんに一体どんな関わりがあるのかも気になりつつ、一番気になるのはこの後の―――203号室、ですか。
 ああ、どんな展開が待ち受けていることやら。


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