(有)妄想心霊屋敷

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新転地はお化け屋敷 第三十五章 そういう生き物 六

2010-06-27 20:29:31 | 新転地はお化け屋敷
「感心するのは大いに結構、むしろ感心すべきなんだろうが、しかしそうしているばかりでいるなよ。それに見合うくらい自分も働いておかないと、後々うしろめたく感じることも出てくるからな」
「はい、気を付けます」
 それはいきなりなお話だったのですが、だというのに素直な対応ができてしまうのは何なんでしょうね? 猫さんだから、ということなんでしょうか。猫さんの何がそうさせているのかは分かりませんけど。
「なんだ? 自分がそうだったとでも言いたげだな」
 成美さんの立場からすれば、そういった感想を持たされる話ではあるのでしょう。しかしどうもその言葉通りの感想を持ったというわけでもないようで、何か思い当たる節でもあるのでしょうか、質問をした時点で既にむっとした口調なのでした。
「…………」
 猫さん、沈黙。無駄な話はしない、ということで時々こうして黙ってしまうことはありますが、しかし今回のそれはまた別の話なのでしょう。流れ的に。
「ふん。そうして気まずそうにするなら、初めから言わなければいいだろうに」
 猫さんは黙ってしまい、成美さんも詳細を語らないまま話題を終息させてしまって、ならば僕には当然、何の話だったかさっぱりです。僕だけの話でないというのも、また当然なんでしょうけど。
 しかしそこへ、大吾が一言。
「……子どもの話か?」
「そうなのだろうな。十中八九、そうなのだろうとも」
 どうやら正解だったようで、成美さんから捲し立てるような勢いで同意されるのでした。
「わたしが独りで子を育てた、などというふざけた話を、お前はあと何回するつもりなんだ? この馬鹿者が」
 怒りと呆れが半々くらいの声で、そしてそれと等しい表情をしながら、成美さんは猫さんの頭をぐりぐりと撫でつけます。それはお世辞にも気持ち良さそうには見えませんでした。まあそもそも、成美さんもそのつもりなんでしょうけど。
 ところで、その話をあと何回するつもりなのかと成美さんは言いましたが、確かに猫さん、以前にもそんな話をしていたような記憶があります。そしてその時も、成美さんから同じように怒られていました。
「こうやって、ずっと怒られ続けることになるのだ。嫌だろう? 孝一よ」
 猫さん、これまたいきなり僕に話を振ってきましたが、確かにそれは嫌です。口に出して嫌だとは言えませんでしたけど。
「お前が考えを改めればいいだけのことだろうが」
「そうしたくてもなかなかそうはいかんものだ。誰にだってあるだろう、どうにも変えられん自分の性質というものは」
「ふん、まったく」
 話に決着が付いたようには見えませんでしたが、成美さんが降りてしまい、そうしてこの話は終わってしまいました。とは言っても別に険悪な雰囲気になったというわけではなく、むしろ成美さん、猫さんをこれまで以上に抱き寄せているように見えないでもないんですけどね。
 まあそれはともかく話が終わり、では次にどうなったかと言うと、
「誰にだってあるってことは――HEY孝一、やっぱりお前にもあんのか? シッブい顔してたしよ」
 本格的に僕の話になってしまいました。なんでそれを僕に振るのよサタデー。いや、猫さんがそれを言った相手が僕なんだし、だったらそうなって当然ではあるんだろうけどさ。
「さあ、どうだろうねえ」
 話したくない事柄であるということで、そんなふうに分かり易く誤魔化してみようとしました。が、話したくないと思うからには、やっぱり僕にも「ある」のです。変えたほうがいいと分かっていてもなかなかそうはいかない、というものが。
「えー? じゃあ喜坂、お前から見てどうよ?」
「私から? うーん、そうだなあ」
 いやいや栞さん、なんで普通に考え始めてるんですか? 考え始めるってことは、思い付いたことがあったら言っちゃうつもりですか? 言っちゃうつもりなんですよね? やっぱり。
 ということで。
「良くないことがあった時、すぐに自分を悪者にしちゃう――とかかな」
 はい、見事に僕の考えとドンピシャでした。さすがは栞さん、よく分かってくれちゃってますね。嬉しいやら悲しいやら。
「まあ、最近はそういうこと、あんまりないんだけどね。そもそも良くないことが起こってないし」
 でも、もし起こったらその時はまた自分を悪者にするだろう、とそういう話なのでしょう。
 僕もそうなるだろうと思います。栞さんに注意される度、今度からはそうならないようにしますと言ってきたにも関わらず、です。……口先ではそういうことを言ってしまう辺り、猫さんのそれより性質が悪いような気がします。うう。
「むーん、それだけじゃあよく分かんねえゼ喜坂」
「あはは、ごめん。でも、これ以上を言うのはもっとごめん。こう、二人だけのって感じの話に繋がっちゃうからさ」
 説明の要求をやんわりと却下されたサタデー、「やれやれ」というふうに茨を二本だけ持ち上げ、口をへの字にしながら、しかしそこから先はもう食い下がったりしないのでした。話をしたのは栞さんでしたが、僕も心の中でだけ、分かってくれてありがとうと頭を下げておきました。
「誰にでもあるっていうのはそうなんだろうけど、みんなそれに自覚があるかどうかは分からないんじゃないかなあ」
 そんなふうに言い出したのは、高次さん。
「――っていうのは、俺自身がなかなか自分のそういうところを思い付けないってだけの話なんだけどね」
 変えたほうがいいと分かっていても、なかなか変えられない自分の性質。確かに、高次さんだとパッとは浮かんできませんでした。
「自分で思い付けないんだったら他の誰かに訊けばいいんじゃねえか?――ってわけでどうよ、姐さん」
 栞さんからの聞き出しは渋い結果に終わったサタデー、別の標的を見付けてまたもはりきり始めました。
「うーん。アタシも正直、これだってもんは浮かばないんだけどねえ」
 高次さんには欠点が見当たらない、という捉え方をすれば惚気話に聞こえないでもないのですが、しかしそうではない様子。家守さん、腕を組んで真剣に「むむむ」と唸り始めるのでした。
 そんな家守さんの隣で高次さんは不安そうな笑みを浮かべていたのですが、しかしそれとは対照的な意地悪そうな笑みを浮かべた家守さん、「こじ付け程度ので良ければ」と。
 そしてもちろん、こじ付け程度だったら別にいいです、なんて言い出す人はいないわけで。
「何食べても美味しいって言っちゃうのは、何度言っても直ってくれないねえ。料理を習ってる身としては、割ときっついことなんだけど」
「ごめんなさい」
 何度も言われているからなのでしょう、家守さんが言い終えた直後、高次さんは間髪を置かずに頭を下げました。が、
「でもやっぱり直らないんだろうねえ、多分」
 家守さんはその下がった頭をにやにやと見下ろしていました。
 猫さんについての成美さんの時と同じく、それで気分を損ねたということはないようです。むしろ楽しげでさえあるのはまあ、家守さんの意地悪さの発現ということなんでしょうけど。
 ところがここで家守さん、意地悪そうな笑みがふと、優しい笑顔に。
「これだっていうのが浮かばないのは、それが原因なんだろうね。高次さんの普段の振る舞いって、自分じゃなくて他人への親切とか気遣いが主だしさ。だから『高次さんの』悪いところはなかなか見えないんだよ。いいところはわんさと見れるけど」
 これこそ惚気話――というわけでは、やっぱりないような気がします。いくら家守さんが嬉しそうに語っていても、あくまで真面目な話というか。
「褒め殺しだなあ、この場でそんなこと言われるっていうのは」
「キシシ、だったらそりゃあ褒められる高次さんが悪いんだよ」
 家守さんのそれは半分以上が冗談で出来た買い言葉だったのでしょうが、悪いところをなかなか見せないのが悪いことだというのは、冗談を抜きにしてもなかなか面白い話だなと。でもまあ、そう思ったところで、僕はそうはなれないんですけどね。
「なんか楽しそうだけど、じゃあ姐さんのほうはどうなんだ?」
「アタシ?」
 再度サタデーから尋ねられ、すると家守さんは、笑顔を崩さないままこう言います。
「そりゃあはっきりしてるねえ。いま言った高次さんの親切と気遣いに、どっぷり頼り切ってるところだよ」
 たった今、自分で悪いところが見付からない原因――つまり、同じく悪いところだと言い放った、高次さんの性質。けれどそう思いながらも、家守さんはそれに寄り添っていると。寄り添うことが悪いことだとも思いながら。
「おいおい姐さん、それじゃあ悪いところばっかりになっちまうゼ? 高次との新婚LIFEがよ」
「悪いところで構成されたいいこと、なんだよ。アタシだって不満があるわけじゃなくて、むしろ毎日大満足だしさ。割り切るのは婚約の時点で済ませてるしね、アタシも高次さんも」
「むーん、ナタリーじゃねえけど、俺様にゃあちょいと難しいゼ……」
「あ、もちろん私もよく分からないですよ?」
 そこは胸を張って言うべき箇所じゃないと思いますよナタリーさん。いや、どこからどこまでが胸なのかよく分からない身体ではありますけど。
「なら、そういうお前はどうなんだ」
 ナタリーさんの胸はともかく、そんなふうに尋ねたのは猫さん。誰に尋ねたかというのは、まあサタデーなのでしょう。
「俺様? どうだろうなあ。うるさいなんてのはよく――特に大吾から言われるけど、そう言われたからって大人しくするつもりにはあんまりなんねえなあ。……こういうのでいいか?」
「ふむ」
 変えたくても変えられない、ではなくそもそも変えようと思っていないという話なので、ちょっとこれまでの話からはずれているような気も。しかし猫さんはそんな指摘をするのでなく、
「しかしまあ、面白い話だな。喋るということをしない植物が、喋れるようになった途端にうるさくなるというのは」
 と。
「初めからそんな感じだったのか?」
「だったと思うゼ? 喋れねえっつっても、自分の考えはあるわけだしな。それをそのまま声に出したらこんな感じだったってだけだよ」
「頭の中は初めからうるさかったということか。いや、頭などというものはなかったのだろうが」
「ケッケッケ、そういうこったな。それが面白いってんなら、そりゃあお前が初めから喋れる動物だからだよ。俺様にとっちゃあ当たり前のことなんだし」
 牙の生えたでっかい口で楽しそうに言うサタデーでしたが、その言った内容はなかなか難しいものなのかもしれません。本人にそのつもりがあるかどうかはともかく。というか、そんなつもりはないんでしょうけど。
 僕達にとっては喋れることが当たり前で、サタデー達にとっては喋れないことが当たり前。ならばそれに連なる常識にも当然ながら差が出てくるのですが、しかしそんな差のある常識を持つ者同士が、こうして一つ屋根の下で語り合ったりしているのです。
 その常識の差がちょっとしたものだったらまだしも、喋れるか喋れないかというのはどう考えても重大極まるもので、それを考えると「今のこの状況はいったいどうやって成り立っていられるのか」なんて思ってしまったりも。
「……まあでも、自分の考えを声に出すってだけじゃなかったしな実際」
 笑顔を崩さず、しかし声のトーンをいくらか落として、サタデーが言いました。
「会話ってのはいいもんだと思うゼ、うん」
「喋ることが普通である俺達は、わざわざそんなふうには思わんものだがな」
「おいおい、そりゃ贅沢ってモンだゼ? ケッケッケ」
 会話とはいいものであり、そう思わないのは贅沢である。もちろんサタデーにとってもそれは冗談半分なのでしょうが、しかし冗談であろうがそうでなかろうが、そういう発想が生まれる時点でいくらかは本当にそう思っているのでしょう。
「ま、だからそれだけじゃあ満足できずにもひとつ特別なモンを見付けようとするんだろうけどな」
「もう一つ特別なもの? 何のことだ?」
「LOVEだよ。お前に対する哀沢みたいなな」
 なるほど、と。もちろん、それが正しいのかどうかはまた別の話ですけども。
 会話で満足できない動物が、満足できないから、もう一つ特別なものであるところの愛を見つけようとする。猫さんを指して成美さんの名前を出したということは、その愛というのは異性への愛であり、それと同列に語られる会話というものはつまり、サタデーにとって異性への愛に準じるものそれ自体――例を挙げるなら、友人や家族への親愛の情そのもの――だったりするのでしょうか。「そのもの」と言うからには会話をして情を育むのでなく、会話をした時点で情が育まれている、というような。
 サタデー、くるりと周囲を見渡し、一周して顔が再び猫さんへ向いたところで言いました。
「さすがにこれだけのCOUPLEに囲まれりゃあ、知識としてそれがどういうものかは何となく分かったんだけどよ。でも、少なくとも俺様の中にそういう感情はねえゼ?」
「ないのか」
「おおよ。あったところでどうするんだって話にもなるけどな。例えば――まあ、お前らで言う異性ってもんを綺麗な花に置き換えるとして、それに惚れたところでその花は俺様のことなんて知りようがねえんだゼ? 目も鼻も口も耳もねえんだし」
「…………」
 目も鼻も口も耳もないというのはつまり、声というものを得る前のサタデーと同じであると。植物園で聞いた話を持ってくるなら、自分以外の存在を全て「自分が生きるための仕組み」だと捉えていると。
 そういう生物なら、誰かを愛するという感情がなくても当然――というか、ないほうが自然だということになるのでしょう。ただ、自分の中の常識を無視できない僕としては、理屈の面で納得できても感情のほうでわだかまりが残る話ではありますが。
「ケケケ、まあそう黙り込むなって。さっきの話の逆で、LOVEを知らねえ俺様はつまり、現状に満足してるんだからよ」
 会話で満足できないから愛を見付けようとする。転じて、会話で満足できているから愛を見付けようとする必要がない、と。サタデーの中の常識から導かれた論理ではありますが、サタデーの中にだけ適用するのなら、それは間違いなく正解ということになるのでしょう。
「なあ、お前のほうがよっぽど難しい話してるぞ。さっき楓サンの話が難しいとか言ってたけど」
「お? あれ、そうか?」
 ……話に釣られて素直にいろいろと考えてしまいましたが、大吾の言う通り。気付いていながら敢えて指摘しなかったというならまだしも、そういう突っ込みどころに全く気が付かなかったというのは、ちょっと頭が空回りしてしまっている感じです。変に真面目ぶっているというか。
「俺様としてはそんなつもりじゃあ――ああ、でもまあ、姐さんの話も同じことなんだろうな。ケケケ、じゃあそれ自体がDIFFICULTだってことか」
「簡単な筈はないですよね、少なくとも。人間とは全然違う生き物なんですもん。私もそうですけど、サタデーさんはそれ以上に」
 ナタリーさんにそう言われ、サタデーは再度笑いました。
 そういう自覚があってすら人間と親しくしてくれるというのは、それはそれで凄いことだと思います。いつもいろいろと質問をしてくるナタリーさんを見ていると、「そういう自覚があるからこそ人間と親しくしている」というふうにも見えますけど。
 ――ただし、感心するばかりというのも可笑しな話なのでしょう。なんせあちらが親しくしてくれているというなら、同様にこちらだって親しくしているのですから。
「ふん。その違う生き物だというところを指して人間に親しみを持つか逆に嫌うかは、それぞれだがな」
 人間が嫌いな、猫さん。そういうことだって当然あるわけです。むしろ、普通はそちらのほうが多いのではないでしょうか?
「ん? お前にしては珍しく無駄口を叩いたな。お前のことは皆知っているんだし、今の場面でわざわざ言わなくても良かったのではないか?」
「…………」
 成美さんからそんな指摘をされると、その指摘通り、猫さんは黙り込んでしまいました。しかし成美さん、どうやらそれだけでは満足しなかったようです。にやにやと口の端を持ち上げながら大吾のほうを向くと、
「大吾、猫じゃらしを持ってきてくれ」
「なんでそうなるんだよ」
「ふふん、雰囲気を悪くしそうになった罰だ」
 まあ、実際はこれっぽっちも悪くなんてなってなかったんですけどね。成美さんが自分で言った通り、猫さんが人間を嫌っているというのは、みんな初めから知ってることでしたし。
「うーん……」
 成美さんの提案に対し、大吾は何やら訝しそうな表情。罰を言い渡された猫さん自身は黙ったままじっとしていますが、はて、やっぱりそれでも猫さんへの罰に加担するというのは気が引けるものだったりするんでしょうか。
「まあ、分かった」
 それでも結局は成美さんの指示通り、猫じゃらしを取りに私室へ向かったんですけどね。

 ということで大吾が戻って来次第、猫じゃらしの玩具でじゃらされるという猫さんへの罰が敢行されました。
「うらうら~」
「……!……!」
 それっぽい人選ということなんでしょう、猫じゃらしを担当することになったのは家守さん。実に楽しそうに猫さんを虐めています。まあ、やってることは平和そのものなんですけど。
 で、その一方。
「誰の罰か分からねえよな、やっぱ」
「う、うるさい! これは仕方がないことだと何度も言っているだろう!」
 それまでは猫さんを膝の上に座らせていた成美さん、現在は自分が大吾の膝の上に。その立場を自分に置き換えるなら、人前で披露するにはかなり恥ずかしい格好なのですが、しかし成美さんにそんなことを気にする余裕はないでしょう。大吾にその小さな身体を押さえられながらも上半身を迫り出させ、首を前に出し、顎を突き出しさえして、家守さんが持つ猫じゃらしを食い入るように見詰めて……いや、睨み付けているのでした。
 恐らく、私室へ向かう直前に大吾が眉間にしわを寄せていたのは、このことについてだったのでしょう。
「一番辛いのってオレなんじゃねえかな、これ……」
「あはは、恥ずかしがることはないと思うけどね」
「ってことは普通に考えりゃあ恥ずかしいことなんじゃねえかよ、やっぱ」
 栞さんのフォローは逆効果となってしまいましたが、まあそれはそれでいいんじゃないでしょうか。見てる分には面白いですし。
 フォローを入れるくらいだったら栞さんが大吾と変わってあげればいいんじゃないでしょうかとも思いましたが、それもまあそれはそれでいいんじゃないでしょうか。見てる分には面白いですし。
「ど、どうしてもというなら目をつぶったり、何かしら努力はしてみるが」
 猫じゃらしへの勢いは衰えないまま、しかし口調だけは申し訳なさそうに成美さんが言いました。ただ目をつぶるだけのことを努力とまで言ってしまえる辺り、猫じゃらしの魅力はとんでもないものなのでしょう。
 で、それに対して大吾ですが、
「そこまでは言わねえけど」
 おやおや、優しいことで。
「それにしてもよお、猫じゃらし見ると思うんだけど」
 話し始めたサタデーはその猫じゃらし、つまりは家守さんと猫さんのほうへ顔を向けていました。そちらでの猫さんの様子ですが、いつの間にか家守さんに翻弄されるだけでなく、高次さんに背中を撫でられたりも。
 ちなみに、それを見て何か触発されるものでもあったのか、ジョンが清さんにじゃれついていました。清さんもそれを受けて立ち、抱きかかえるようにしてもふもふとその体を撫でるのですが、傍から見ているとジョンに押し倒されそうで少々危なっかしいです。
 でも、それはともかく。
「ここにあるのは玩具だけど、本物の猫じゃらしって、植物だったよな?」
「ん? そうだけど?」
 これはさすがに誰でも応えられる質問でしたが、それでも一番早く反応したのは大吾でした。こういった質問に答える係だというのが普段から定着しているのもあるのでしょうが、しかし今回は、喋って気を紛らわせようという考えもあったのかもしれません。今現在の彼は、常に恥ずかしい思いをしているのです。
 でもまあ、それは僕の想像にしか過ぎないわけですけどね。自分だったらそうだろうな、と。
「それであんなふうになっちまうんだったら、俺様のBODYでも同じようなことができるんじゃねえかなあ」
 妙なことを言い始めたサタデー、少し離れた位置の猫じゃらしに心を奪われている成美さんへ向けて、茨の数本をウネウネと波打たせました。変な電波でも送っているかのような光景でしたが、もちろんそんなこともなく。
「……サタデー、それは何だ?」
 必至とも言える形相で余所を向いていた成美さんも、これにはさすがに視線を移動させました。同時に、必死の形相は消え失せてしまいましたが。
「何って、こっち見てなかったっつっても話くらいは聞いてただろ? どうよこのSEXYな動き」
 言いつつ、引き続きウネウネと。もしもこれが本当にセクシーだったなら、植物と動物の垣根を越えて多少なりとも何か「そういうふう」に思うところもあったのでしょうが、しかし残念ながら、そんなことは茨の棘の先ほどもなく。
「いや、すまんがわたしには全く分からん」
 成美さんも僕と同じ意見のようでした。声に出しはしませんが、見た感じ栞さんと大吾も。
「ちぇっ」
 一応あれで自信はあったようで、サタデーは残念そうに舌打ちをしました。が、
「その動きがセクシーってことになると、普段の私の動きもセクシーになっちゃいませんか? 似たような感じですし。まあ、植物じゃないっていうのはもちろんですけど」
「OH、言われてみりゃあそれもそうだな」
 ただ動くだけでウネウネしてしまうナタリーさんの指摘を受けると、あっさり納得するのでした。
「ねえサタデー」
「ん? 何だ喜坂」
「いきなりそんな話をしだしたのって、もしかして成美ちゃんに構って欲しかったとか?」
「ケッケッケ、何言ってんだよ」
 栞さんのそれはまあ冗談だったのでしょう。ならばということでサタデーもそれを笑い飛ばしたのですが、
「別に哀沢じゃなくたっていいんだゼ? 哀沢にだけ構って欲しいんだったら、TALKも哀沢とだけすりゃあいいんだしよ」
 僕が思ったのと、笑い飛ばす箇所が違っていました。しかしまあ、そのほうが正しいと言えば正しいのでしょう。構って欲しいと思ってないならそもそも喋らないですし。
「あはは、それもそっか」
 ――というわけで。
 サタデー、栞さんの膝の上に。羨ましくなんてありませんとも、もちろん。
 ちなみに、残った者同士せっかくなのでということで、僕の膝の上にはナタリーさん。栞さんがこれを見て羨ましがったりは……しませんよね、そりゃ。
「旦那サン、そろそろ体力が保たねえんじゃねえか?」
 周囲の僕達に動きがあったところで大吾が改めてあちらを窺い、そして猫さんの心配をするのですが、
「それも含めての罰だ! ふふん、それにあいつだって楽しんでいる部分はあるだろうしな!」
 未だ猫じゃらしに感情を高ぶらされ、無駄に声が大きい成美さんでしたが、しかし言っていること自体は落ち着いていました。けれどもその言葉より何より、成美さんがまだまだ元気はつらつであることが、猫さんの体力に心配がないことを表しているような気もします。体格がまるで違うんですから、あくまで目安ですけど。


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