(有)妄想心霊屋敷

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新転地はお化け屋敷 第五十章 気になる話 二

2012-10-09 20:56:41 | 新転地はお化け屋敷
「ふふふ、以前行った時は悔いを残してしまっているからな。今回はそれを取り返すぞ」
『悔い?』
 僕と栞と、そして大吾まで一緒になって、成美さんに疑問の声と顔を向けました。
「なんかあったっけか」
 最後に大吾がそう纏めると、成美さんは「うむ」と腕を組んでみせます。
「覚えていないか? 部屋を誰々で使うかを決める時、男女二人組で分けようという流れをわたしが却下してしまったのだが」
「あー、あったっけかそんなこと。そんでオレ孝一と同じ部屋になったんだっけ」
「だったね」
「私は成美ちゃんと一緒になったんだよね」
「うむ」
 女性二人の方はどうだったか分かりませんが、男同士ということでそれなりに下世話な会話に興じてみたりなんだりと、あれはあれで良かったような気がします――が、この話の流れですから、成美さんは違うということなのでしょう。
「あの時は大人げなくもあんなことを言ってしまったからな……。それに風呂に入った時もそうだ」
「風呂」
 大吾が繰り返しました。ならばいろいろ思い返しているところなのでしょうが、もちろんそれは僕も同じく。部屋の話と同じく大吾と二人で湯船に浸かってたら大門さんと木崎さんが入ってきて、なんてことも思い出されたのですが、しかし成美さんが言っているのはそちらではないのでしょう、もちろん。
 みんなで入った混浴の露天風呂。
 混浴の。
「『わたし以外に目を向けるな』などと、思い出すだけでも恥ずかしい」
「あったなあ……」
 相槌を打つ大吾はしんどそうというか、いっそげんなりしていました。他の人の方を見れない――というよりは、成美さんから目を逸らせないという意味で、それはそれは大変だったのでしょう。
 今でこそそこまでではないでしょうけど、当時の大吾と成美さんはまだ、成美さんがそういう行動に出てしまうような関係だったわけです。となったら大吾側だって当然初心というか何と言うかな感じだったわけですが、にもかかわらずバスタオル一枚巻いただけでお湯に浸かってる成美さんをずっと見続けなきゃならなかったわけですからね。しかも周りには他のみんなもいるわけですし。嬉しい悲鳴、なんて言ってられませんよねぶっちゃけ。
「その二点だ。今日また行くというのならその辺り、今度は変な気を起さずに気持ちよく過ごしたくてな」
 ということはつまり、成美さんは大吾と二人で部屋を取りたいと。あと、また混浴に入る気満々だということになるのでしょう。もちろん今更それを揶揄するようなつもりは更々ありません――というか、成美さんと大吾がそういうことになったら僕と栞も多分そういうことになるんでしょう。一人ずつで部屋を取るなんてことはまずないでしょうしね。露天風呂については現段階ではノーコメントですけど。
「んじゃあそういうことで」
 そりゃまあ大吾に反対する理由なんかないわけですが、それにしたってえらく軽く、かつ成美さんの頭にぽんと手を乗せちゃったりなんかしつつ、大吾はそう返すのでした。
「もしかして、馬鹿にされてるか?」
「してると思うか?」
「……いやまあ、されていたとしても文句はないのだが……元々わたしが大人げなかったという話なのだし……」
 と、照れながら弱々しく言う成美さんなのでした。恐らく、馬鹿にされてるなんて初めから微塵も思っていなかったことでしょう。
 などと余計な勘繰りをすると同時に、これ以上はお邪魔になっちゃうかな、なんてこれまた余計なことを。
「じゃあ二人とも参加ってことで?」
「おう」
「うむ」
「迎えに来てもらう時間は……」
『任せる』
 でしょうともね。

「はーい」
 おおよかった、出掛けてなかった。
 というわけで今度は102号室、清さんのお部屋です。
「おはようございます日向さん」
『おはようございます』
 僕のことは日向君と呼ぶ清さんですが、だからといって今の「日向さん」は栞を指したものということではないんでしょう。この状況で僕だけスルーってことはないでしょうしね。
 ということは、二人合わせての「日向さん」。いやあ、なんか、照れちゃいますね。
「んっふっふ。朝からお二人の顔を揃って見られるなんて、今日はいい日になりそうですねえ――と、それで御用件は?」
「あ、はい。ええと、四方院さんのほうから結婚式についての電話があったんですけど、そこでどういうわけか泊まりに来ませんかっていうお誘いを頂いちゃいまして。で、それが急な話なんですけど、今日からの話で」
「ほほう。……んー、残念ですけど、今日は予定がありまして」
「予定?」
 ほぼ毎日気ままに出掛けている清さんの口から出てくるには意外な言葉でしたが、しかしその中身を聞いてみれば実に納得のいくものなのでした。
「デート、ですねえ。奥さんと。んっふっふ」
 いつものように笑う清さんでしたが、すると栞もそれに合わせてくすくすと。
「そうなんですか。いえ、私達もこれ、元々はデートの行き先どうしようかって話だったんですよ。ねえ孝さん?」
「そしたらデート先に四方院さんの家そのものを進められちゃいまして……」
「んっふっふ、なるほどなるほど。あそこならそれも充分にアリでしょうねえ。それに式場の下見も出来ますし」
 ん?
 …………。
「それは考えてなかった……」
「同じく……」
「おや?」
 笑顔を崩さない清さんを前に、僕達二人も苦笑い。なんで気付かなかったんでしょうね、そんなこと。「旅館」と「式場」という情報が別々に取り扱われていて、「旅館であり式場」というふうに捉えていなかったってところでしょうか?
 まあ、どう取り繕おうとも間の抜けた話であることに変わりはないわけですけど。
「んっふっふ、まあそれはともかく楽しんできてください。残念ながら私は不参加になりますけど――うん、ちょっと待っててください」
 言って、部屋の中へ戻っていく清さん。何をしに戻ったのかというのは、けれど察しはついていました。様子を見る限り、栞も同じく。
 と、いうわけで。
「宜しくお願いします」
「楽しみであります!」
「ワンッ!」
 清さんは不参加ながら、清さんを除いた三名は参加ということに相成りました。前回行った時もジョンとナタリーさん、それにサタデーと日を跨いでサンデーも一緒に行ったことですし、「蛇が喋った!」とか「ペンギンが喋った!」とか、これまた日を跨いで「マリモに顔がある!」といったようなことについては、心配することはないでしょう。そもそもそれらは、四方院さんと同じく霊能者である家守さんの仕事なわけですしね。
「犬がお利口過ぎる!」については、その限りではありませんけど。
 ともあれ参加不参加が確定したところで、ならば次の質問です。
「迎えに来てもらう時間については……」
「あ、お任せします」
「お任せするであります」
「ワフッ」
 でしょうともね。

「人間四人と犬と蛇とペンギンが一匹ずつ……ってことで、いいんでしょうかこういう場合」
『うふふ、そうなりますよねえ』
 可笑しそうに笑う道端さんでしたが、しかしこちらとしてはいろいろと引っ掛かる報告ではありました。蛇はともかく犬って匹だっけ? 頭だっけ? とか、ペンギンは鳥だから一羽だろうとか、いずれにせよペットというより友人である彼らを匹だのなんだの呼ばわりすることにもにょもにょさせられるというか、そんな感じで。
『お迎えに上がるお時間の方は、いかが致しましょうか?』
「二時くらいでお願いします」
 そこは全会一致で僕が一任された箇所でした。大学の講義は午前中、それも二限すらなく一限だけなので十時半には終わってしまうのですが、ならばなぜそこからたっぷりと時間を取って二時に迎えに来てもらうのか。
 受話器から顔を話さないまま栞の方を向いてみると、にこりと微笑みかけられました。
 まあそういうことです。迎えに来てもらう前に当初予定していた弁当持参のデートもしてしまおうと、そういう魂胆なのです。バチは当たりませんよね? それくらいなら。多分。
『承知いたしました。では、そのように手配させていただきます』
「宜しくお願いします」
『それでは、四方院一同心よりお待ちしております』
「お世話になります」
 事務的な挨拶ではありましたが、でもどうやらそれだけではなさそうな雰囲気を纏わせてもいた道端さん。それが単純に歓迎されているというだけのことなのかどうかは分かりませんが、ともあれおかげで切れ目よく受話器を下ろすことができた僕なのでした。
「それでは孝さん、そろそろ大学に行く時間だよ」
「休む暇もないなあ」
「昨日たっぷり休んだでしょ?」
「それもそうか」
 特に意味もなく愚痴っぽいことを言ってみましたが、ぐうの音も出ない完璧な反論をされてしまい、なので僕は大人しく大学へ向かう準備を始めることにしました。元々意味のない愚痴なので別にそれでどうというわけでもないのですが、
「ねえ孝さん、暇はないけど」
「ん?」
 準備をしている後ろから呼び掛けられ、なので誰でもそうするように振り向いたところ、それをそれと認識する暇もないくらいに素早くそれを為されてしまいました。
 後から理解が追い付いてみるに、それはキスというやつなのでした。
「休めた?」
 唇を話した栞は、悪戯っぽい笑みを浮かべながらそう尋ねてきます。
「まあ、そういうことでいいんじゃないかな」
 それで見栄を張ったつもりになっている僕でしたが、けれど後から思うに、負け惜しみ感に満ち溢れていてむしろ逆効果だったんじゃないかなと、そんなふうにも思うのでした。格好悪いですね、実に。
「ふふっ、なら良かった」
 普通に喜ばれると更に情けないわけですが、まあいいでしょう。変な話ですしね、キスされて落ち込むって。
「夫の健康管理も妻の仕事だしね」
「キスで管理されるって、なんかなあ」
「まあまあ、することもあればされることもあるわけだし。というわけで孝さん、行ってらっしゃいのキスしちゃったんだから、じゃあ行かないとね」
「ああ、今のそうだったの? っていうか凄い理屈だねそれ」
 玄関の方を指差した栞は、僕がそんな返事をしている間も指を下ろすことはなく。厳しい、とういほどのことではないんでしょうけど、そういうところはしっかりしている栞なのでした。
 自分が殆ど学校に行けなかったからなのかな、なんて勘繰りをしてみるわけですがしかし――というかもちろんというか――それは好意的なものなのでした。好意的に見ておいて間違いない人ですからね、栞は。
「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい。庭掃除、今日は孝さんが帰ってくるまでに済ませとくね」
「そんなこと報告されなきゃいけないって、我ながら変な奴だよねえ」
「うん。好きだけどね、そういうところも」
 奥さんが庭掃除をしているところを横から眺めるのが好き。果たしてこれは、好意的にみるべきものなんでしょうか? まあ少なくとも、その奥さんは好意的に見てくれてるようですけどね。
 ともあれ、行ってきます。

 というわけで二日ぶりに大学への道のりを歩いているわけですが、同棲しているとはいえ一昨日の夜からほぼ丸一日と半もの間――庄子ちゃんが来た時にちょっとだけ別れてたりもしましたけど――栞と一緒にいたせいか、いつも以上に隣に誰もいないことが寂しく感じられてしまうのでした。
 とはいえもちろん、ちょっと気になるって程度のことなんですけどね。路上で突然嘆き始めたりしたら怖いですしね。
 なんせその想像の対象が自分だったりするので余計に怖かったりするわけですがそれはともかく、どうせ考えるならここは講義が終わってからの栞とのデートについて考えるべきでしょう。なんせ行き先はもちろん、弁当の献立すら決まってないわけですし。
「ううむ……」
 とはいえ、なんせ僕です。行き先については栞に任せるしかないでしょう。四方院の人が迎えに来る二時まで、という時間制限も出来たわけですから、あの時言っていたように目的地を決めずに自転車で走り回るだけというのもアリといえばアリなのかもしれませんけどね。
 どちらにせよそこは栞に任せておくとして、ならば今度は弁当の献立について考えてみます。二人で別々の献立を、ということではありましたが――。
「……うーん」
 そうなると、万が一ながら「栞と被る」という恐れがあるわけです。
 いや、冷蔵庫の中身からして作れる料理は結構限定されるので、万が一どころかかなりの確率だったりするかもしれません。となると今ここで何を作るか決めてしまうより、家に帰って栞から何を作るか聞いてから考えたほうがいいのではないでしょうか? これでも料理の先生なわけですから、どちらが譲るべきなのかと言えばそりゃあ僕になりますもんね。
 というわけで結論ですが、デートの行き先についても弁当の献立にしても、僕が今ここで考えるべきことは一つもないということになってしまいました。ないというよりは放棄したという形ではあるわけですが、栞ならきっと理解してくれることでしょう。ならばこれでも問題はなかろう、ということで。
 ……さて、となると考えることが無くなってしまいましたが、しかし都合がいいことにこの大学までの道のりは片道たったの徒歩五分。なので、考えることが無くなるまでの考えを纏めているだけの時間でも、その殆どを進み終えてしまえるのでした。大学はもう目の前です。

「おはよう」
「おお……おお……」
 大学に来たのが二日ぶり、ということで同じく二日ぶりの明くんですが、どうやら今日は講義が始まる前からおねむのようでした。
「昨日はどうしたんだ……? 来てなかったけど」
 月曜日以外は僕と同じ講義を一つ二つ取っている明くんなので、そりゃあ真っ先に出てくる話題はそれになるのでしょう。が、
「そっちこそ今現在どうしてるのそれ」
 いくら明くんであるにしても、いっそ今から寝始めたほうがいいんじゃないかとすら思えてしまう今の状態はちょっと看過しかねます。というわけで逆に訊き返してみたところ、
「安直だが、ちょっと昨日夜更かしをな……」
 とのこと。その返事と同時に軽く笑ってもいたのですが、いろいろと力が籠ってないのでかなり不気味なのでした。
「こっちは一昨日の夜から風邪で寝込んじゃってねえ。まあ昨日の時点で大分楽になってはいたんだけど、大事を取ってってことで」
「はは、取ったってより、取らされたんじゃないのか? 奥さんに」
「なくはなかったけどね、そういうのも」
 一方で今日、こっちも出発するつもりだったとはいえ強引に追い立てたのもその奥さんなんだけどね。とまではさすがに、栞がこの場にいないにしても言いはしないでおきましたけどね。
「で、そっちの夜更かしっていうのはまたなんで?」
 言外に「そんなことしたらこうなるって分かってたでしょうに」なんて意味も含まれていたりしないでもなかったのですが、それはともあれ尋ねてみました。
 すると明くん、顎に手を当てたりしてちょっとだけ考えるような仕草を見せたのち、こう返してきました。
「センのやつが急に泊まりに来たわけだ」
 センというと、岩白センさん。岩白センさんというと、明くんの彼女さん。で、それが泊まりということは。
「あらまあ」
「うん、そういう反応すると思ってたぞ。でもそうじゃなくて、その時俺は小レポートに追われてたんだよ。今日提出のな。……ああ、この講義じゃないからお前には関係ないぞ」
 そんなのあったっけ、と一瞬ひやっとさせられましたが、そういうことだそうなのでほっと一息。
「本当ならそんなに時間が掛かるようなものじゃなかったんだが、まああいつが一緒じゃな。遅れに遅れて、気持ち良さそうに寝息立ててる彼女の横で必死でシャーペン動かしてたわけだ。それで今こんな感じなわけだな」
「こっちが期待したようなことはなかった感じ?」
「あったら期待させるようなこと言わないからな。なんで自分からそんなこと報告せにゃならんのだ」
「あはは、そりゃそうか」
 小レポートを片付けてた、とだけ言えばいいんですもんねこの場合。それをわざわざ岩白さんのことを、しかも小レポートのことより先に口にしたというのはつまり、わざと僕にそういう期待を持たせたということなのでしょう。
「ところで明くん」
「なんだ」
「話してる間に目、覚めた感じ?」
「おっ」
 どうやらまるで気がついていなかったらしく、自分のことなのに驚いてみせる明くんなのでした。とはいえしかし、ちょくちょくあるんですけどね。岩白さんの話をしている間に眠気が取れてたっていうのは。
「……まあ、なんだな。期待されたようなことはなかったにしても、寝顔思い出すくらいはするわなやっぱ」
「そっかそっか、思い出すだけで目が覚めるほどなのか。岩白さんの寝顔は」
「するなとは言えないけど、あんまり詳細には想像しないでくれ」
「努力はしてみるよ」
 すればするほど深みに嵌まってしまいそうな気はしましたが、ともあれそこは素直に頷いておきました。気持ちは分かりますしね、今朝目が覚めた直後の自分を振り返るだけでも。
「でもやっぱ誰かと話すってのは大きいよな。自分一人で想像してるだけじゃあ別に目なんか覚めんし」
「あー、気持ちよくなって余計眠くなるとかね」
「想像の続きを夢で見たりな」
 ああ、これまで何度そうやって料理をする夢を見たことか。しかも下手すると自分が寝てることに気付いてなくて、目が覚めて夢だったってことが分かった瞬間に結構がっかりさせられるんだよねあれ。
「明くんの場合、講義の続きを夢で見られたらいいのにねえ」
「持ち合わせてない知識を夢で見るのは無理だろやっぱ。できたらすっげえ有難いけど」
「だねえ」
 よくよく考えればそれは明くんに限定せずとも有難い話だったのですが、どうやら当の明くんはその突っ込みどころに気付いていないようだったので、そのまま流しておきました。
「で、こっちがセンの話したところでそっちはどうよ。栞さん」
「どうって言われても」
「例えば昨日、寝込んでる間の話とか」
「うーん、もちろん看病とかはしてくれたけど、取り立てて話すようなことは……」
 もちろん僕個人としては実に有難い話だったわけですが、だからといってそれが他の人が耳にして楽しい話かと言われれば、首を傾げざるを得ないわけです。どれだけ有難かろうと、看病は看病でしかないわけですしねそりゃ。
「ああ、話すことって言ったらむしろ今日かな。一昨日、結婚式の話したでしょ? 式場の側からそれについての連絡があったんだけど、それが変な方向に話が進んじゃって」
「変な方向って、どんな方向だ?」
「今日泊まりに来ませんかって誘われちゃってね。旅館もやってるとこなんだよ、そこ」
「結婚式場と旅館って――いや、うーん、驚きかけたけど凄いのか凄くないのかよく分からんな正直。ああ、でもなんか霊能者関係とかそんなこと言ってたっけ一昨日」
「うん。幽霊相手の施設なんて殆どないからやれるだけやっちゃえ――ってことなのかどうかは、僕も知らないんだけど」
 お金取らないってことだから、少なくともその結婚式場と旅館については完全にボランティアでやってるってことだもんなあ。いち利用者として有難いのはもちろんなのですが、でもそれ以上になんか一般人的には途方もない話のような。今更ですけど。
 その後、大吾にも言われたような「平日に泊まりって、明日の講義は?」みたいな遣り取りを挟んだのち。
「あそうだ」
「ん?」
「明くんも来ない? あまくに荘の何人かで行くんだけど」
 後から修正を入れる形にはなってしまいますが、迎えに来てもらうのが二時ということを考えれば一人二人の人数の追加は問題ないんじゃないでしょうか。なんてやや身勝手でもある判断から軽い気持ちで誘ってみましたが、
「うーん……いや、すまんけど遠慮しとく。悪いな、誘ってくれたのは嬉しいけど」
 とのことでした。
「いやいや、こっちこそ急な話で」
 そんな気の遣い合いに軽い笑みで区切りをつけ、明くんは遠慮した理由を話し始めました。
「霊能者関係の人達ったって、センはさすがに専門外だろうしなあ。あと孝一だけならともかく、他の人達にはセンのこと話してないわけだし」
「ああ」
 お金から人の欲を取り出して食べる。岩白さんは、そういう人なのです。厳密には「人じゃない」ということでもあるわけですけど。
 ちなみにですが――訊くまでもなく岩白さんも一緒に行くつもりなんだね、とは言いますまい。こっちだってそのつもりで誘ってはいましたしね。
「別に変に疑ってかかってるとかそういうわけじゃないけど、下手に広めたくはないしな。で、隠すつもりでってことになったらあいつ、せっかく出掛けてもいろいろ動き難くて窮屈だろうし。そうでなくてもちょっとしたことではしゃいで回るやつだしな」
 ふむ。
「いい彼氏だね」
「はは、そうあろうとはしてるな、少なくとも」
 というのはもちろん冗談半分の物言いではあったのですが、しかしだからこそこんな反論も。
「まあお前と比べればまだまだなんだろうけどな、俺なんか。いいとか悪いとか以前にもう『彼氏』じゃないわけだし。なあ旦那さん?」
「いやいや……」
 軽い謙遜こそしてみますし、これが引き続き冗談交じりの会話であることは分かっているのですが、しかしそれでも「そんなことはない」と強く言ったりは出来ないのでした。そんなことはある、じゃないといろいろ困るわけですしね、やっぱり。
 というわけで、双方軽く笑い合ったのち。
「まあ、今日はやめとくにしてもこの間言ってた結婚式には行かせてもらうつもりだからな。その時はセンともども宜しくってことで」
「こちらこそ」
 招く側と招かれる側。宜しくされるべきのはどちら側なのかと考えたら、それはやっぱり招かれる側なのではないでしょうか。――というのは自分が招く側だからそう思うだけなのかもしれませんが、しかし取り敢えずそこに疑いは持たないことにしておきました。
 で、式の話ということならもう一つ。
「その結婚式なんだけどさ」
「お?」
「予定とかはまだ決まってないって、この間はそう言ってたと思うけど……」
「決まったのか?」
 言いつつ、やや身を乗り出してくる明くん。楽しみにしてもらってるんだなあ、なんて嬉しくもなりますが、そうして嬉しくなる分だけ、逆に申し訳なさも増してしまったり。
「ああいや、そういうことじゃないんだけどね。ただ、最短だと次の日曜日になるって、それだけ今日受けた電話で知らされて」
「次の――ってえらい早いな。今日水曜日だろ? あと四日しかないぞ」
「そうなんだよね。……で、まだ決定じゃないんだけど、招待する人の予定を聞いておこうかなって」
 事情が事情故に呼べる人はそう多くないので、だったらその全員に都合のいい日を選べないかなと、そういう魂胆です。後ろ向きに聞こえないこともない話なので、それをわざわざ明くんに言いはしませんでしたけどね。
「そういうことなら、次の日曜は予定とかないぞ俺は。ああ、いやまあ、なくはないのか?」
 ないと言い切った直後に考え始める明くん。はてそれは一体どういう?
「……ええと、どゆこと?」
「結婚式あるらしいけどどうする? なんて訊いたら百パーセントじゃあそっちに行こう! って大喜びするやつがその予定の相手なもんでな」
「岩白さん?」
「当たり」
 実に当てに行くまでもない問題でした。
「さっきの話で名前も出てたのになんでわざわざそんな、問題形式みたいな」
「そうやって想像力を働かせることで眠気をより強く飛ばせないかなと」
「なるほど」


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