(有)妄想心霊屋敷

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新転地はお化け屋敷 第五十三章 一晩越えて 二

2013-04-16 20:51:45 | 新転地はお化け屋敷
「朝飯、どうなるんだろうな」
 どうしたものかと思っていたら、大吾が逃げました。確かに気になるところではありますが、気にしてみせる場面でないというのは言うまでもないところでしょう。
「避けるにしたってお前、そんな露骨な」
 あからさまに過ぎたのが逆に功を奏したのか、そう言いながら成美さんは機嫌を損ねるどころか笑ってみせるのでした。
 が、しかし大吾からも言い分がないわけではないようで、
「自分で言うのもなんだけど、誤魔化すとかそういうの向いてねえからなオレ。確実により状況を悪化させる自信があるし」
「ふふ、まあそうだろうな」
 自分で言うのもなんだけど、なんて言っておきながらものの見事に頷かれてしまった大吾でしたが、めげるようなこともなく話の続きを。
「あとは……なんつうか、一緒に風呂入るって話なら、埋め合わせにしても今ここでする話じゃねえかなっていう」
「埋め合わせ?」
 今度は怪訝な表情を浮かべる成美さん。埋め合わせの中身が気になる、というよりは、埋め合わせなんて求めているつもりではなかった、という思いから作られた表情であるように察せられますが、しかしまあその正誤はともかく。
 大吾、ちらりとだけ僕と栞の顔を窺ってから――どうやらジョン達のことは気にならないようで――こう切り出しました。
「オレらは帰ってから大学とかねえわけだし、じゃあなんだ、ここの混浴の代わりになるとは思えねえにしても」
「家の風呂で、ということか?」
「……ま、まあ」
 自分で言えていたならそこまでのことにはならなかったでしょう、先回りして正解を言ってきた成美さんに大吾は身を縮めるのでした。
「お前は」
 そう言って立ち上がった成美さん、大吾の目の前まで歩み寄るとくるりとそちらに背を向け、
「可愛いな」
 そう言いながらすとんとその場に腰を下ろしたのでした。その場というのがどの場かというのは言うまでもないながら、けれど一応言っておくとするなら、大吾の膝の上。つまりはいつもの場所なのでした。
 栞が「埋まりたい」と評していた成美さんの寝癖ヘアーでしたが、残念ながらこれで大吾が独占する形になりました――と、そんな話ではもちろんなく。
「そんな話か? これ」
「そんな話でなくてなんだというんだ?」
「……いや分かんねえけど」
「私は埋め合わせなんぞ求めるつもりはさらさらなかったし、それに埋め合わせにしたって何だその、風呂に入れなかったから別の風呂に入ろうというのは。そのまんま過ぎるだろう」
 確かに。家の風呂じゃあここの混浴の代わりにはなるとは思えない、なんて言うなら他にいくらでもやりようはあるんでしょうしね。
「そういうもんか?」
「そういうもんだ。――あ、いや、だからといって今の案を否定するというわけでもないのだがな。いいじゃないか、家の風呂でも」
「ならいいけど」
「うむ。つまり、結局のところ間違ってはいないというわけだな、お前は」
 めでたしめでたし。
 であればよかったのですが、
「孝さんは言ってくれなかったよね、埋め合わせとか」
 うわあああああ。

「お、誰か来たぞ」
 結局のところ栞のあの一言は冗談だったのですが、しかしそれはともかく大元の話である義春くんにもう一度会うという話と、途中で大吾が切り出した朝食の話がまだ未解決なままだったのですが、するとそんなところへドアをノックされた音が響いてきたのでした。噂をすればなんとやら、というやつでしょう。
 というわけで大吾が玄関へと赴いたところ、
「口宮達は来とらんかのう?」
 違ったようでした。
「孝一達なら来てるけど」
「ということは……二人だけでどこ行っとるんじゃあいつら」
「部屋にいねえってことか?」
「じゃの。そろそろ動いたほうがいい時間じゃろうに物音一つせんから、二人揃って寝坊でもしとるんかと声を掛けに行ってみたんじゃがうんともすんとも」
「ふーん……ああ、まあともかく入ってもらって」
「おお、済まんの。お邪魔します」
「お邪魔します」
 どうやら音無さんもご一緒のようでした。
 というわけで部屋に二人追加。未解決の話について活動を始めるどころか、案件が増えてしまいました。
 口宮さんと異原さんが行方不明。
 ……いや、それはもちろん大袈裟に過ぎる表現なんでしょうけどね。山奥とかじゃないんですからここ。むしろ立派な山をまるごと庭の一部とする更にとんでもない――あれ?
 とまあそれはともかく、
「あいたっ、あいたたた」
 成美さんが苦痛に顔を歪めます。が、しかし逃れようと思えば自由に逃れられるその苦痛から身を引こうとする素振りはまるでなく、その苦痛を生み出している人物に成されるがままになっているのでした。
「なるほど、これは確かに他の人には任せ辛いじゃろうの」
「申し訳なくなっちゃいそうだもんね……」
 そんな様子を見てそんな感想を漏らすのは、今来たばかりの同森さんと音無さん。僕達と同じく既に私服へと着替えていたことについては、僕達だけが先走ったわけではないということで――というのはもちろん早起きの件もあっての感想なのでしょうが――ほっとさせられるところもありつつ、しかし一方でほんのちょっとばかし残念に思ったりも。
 何がどう、とは言いませんが、音無さんの浴衣姿というのはなかなか見応えがあるものでしたしね。
 とまあそんな話は今どうでもいいとして、
「だからって、栞サンくらいならまだやってくれても問題なかったんじゃあ」
「いやあ、そりゃあ私だって成美ちゃんの髪であれこれしたいとは思ってたけど、いざとなったらやっぱり大吾くんを優先したくなっちゃうもんで」
 そんな栞の言い分には大吾、そして成美さんも、照れ笑いを浮かべてくるのでした。
 というわけで一体誰が何を成美さんにしているのかという話なのですが、大吾が櫛で寝癖を整えているのでした。元々からして強烈な癖っ毛であるとはいえ、やっぱり寝癖を放置はできないのでしょう。
 いやしかし、今にも櫛が折れてしまいそうな力の入りっぷりですが。どれだけこんがらがってればあそこまで櫛を通さないんでしょうか?
「……一応言っときますけど、結構時間掛かりますよこれ。終わるまで待ってもらうくらいなら、口宮達を探すなりなんなりし始めたほうがよくないですか?」
「つまりは二人だけにしてくれと?」
 というのはもちろん冗談だったのですがしかし、意外にもあっさり「そーだよ」などと返してくる大吾。
「オマエだったらじっくり見物されたいか? 栞サンの髪弄ってるとこなんて」
「あー、うん、そりゃキツい」
 なまじその髪がこの上なく好きだということもあり、ならば気を抜いたらでろんでろんになった顔を晒してしまうかもしれないわけです。なんと恐ろしい。
「ふーん、そういうものなんだ?」
 栞は嬉しそうにしていました。が、果たしてその笑みはただ単純に喜んでいるというだけのものなのか、それとも何かしらの皮肉めいたものを含んでのものなのかは、分からないということにしておきました。
「哲くんはどう……?」
 こうなってくると、残った音無さんとしては自分達の場合がどうなのか気にせざるをえなくはあるのでしょう。というわけで同森さんにそんな話を振ってみせるわけですが、
「ワシの場合は――というか、お前の場合か? は、髪それ自体よりも顔かのう。見えるじゃろう、弄ってたら」
 さらりと出てきたその返事はしかし、中々な変化球なのでした。そんなところに話が繋がりますか同森さん。
「だろうけど……ふふっ」
 栞と同様、嬉しそうに笑う音無さんなのでした。
 ……しかし「顔が見えてしまう」を避けたいとした同森さんですが、それは僕と同じ理由なのでしょうか? それとももしかして、自分以外にその顔を晒したくない、というようなことだったり?
 ――などと妙な勘繰りをしてしまうのは、僕がかつてその顔に惚れ込んでいたからなんでしょうけど。
 過去の話です。
 栞がそうさせてくれましたからね。
「じゃあどうしましょうか、口宮さんと異原さん探しに行きます?」
「いやあ、子どもじゃあるまいし、さすがに放っておけばそのうち戻ってくるとは思うんじゃが」
「誰にも声を掛けずに二人だけでってことなら……あんまり、邪魔したくもないですしね……」
 大吾達にはここで待ってもらっておく、という話は既に前提としておいて。
 これからどうするかを決めようとしたところ、口宮さん達の捜索についてはそんな意見が。確かにその通りなのでしょう、二つの意見ともに。
 といったところで、栞がぽつりと。
「進展したってことかなあ」
「……さらっと凄いこと言うね栞」
 さすがに聞き逃せずそう指摘してみたところ、しかし栞は「えっ?」とすっとぼけたような表情に。
 これはあれですか。むしろ僕のほうこそ、という展開ですか。
「あっ、ごめん、全然そんなつもりじゃなかったんだけど」
「ああ、うん、こちらこそ」
 栞にそのつもりがなかった以上、これっぽっちも「こちらこそ」ではなく完全に僕だけがアレだったわけですが、しかし卑怯にもお互い様ということで決着を付けようと画策する僕なのでした。
 そうですよね、あの二人を見てたらそんな言葉も使いたくなりますよね。進展って。
 というわけでお恥ずかしいところを見せてしまったわけではありますが、しかしまあ勘違いにせよ何にせよ、出てきてしまえば頭に留まらせざるを得ない話ではありまして。
「まあ、そうなっておかしくない状況ではありますがの」
「て、哲くん……」
「そうじゃろう? 実際」
「……そうだけど……」
 と、同森さんと音無さん。そうなのです。それを取り巻くあれやこれやの状況がどうあれ、そういう関係の男女が一晩を共にする、という話ではあるわけで、ならばもし本当にそうなっていたとしてもなんら不自然なところはないのです。
「それで落ち付いてくれるんならこっちとしても有難い話じゃし――と、あいつらの場合、落ち着いたら余計に騒がしくなるわけじゃが」
「ふふ、それもそうだね……」
 そんな話に怪訝な表情を浮かべたのは大吾でした。
「落ち付いたら騒がしくなるって?」
 僕達に出て行って欲しかったんじゃなかったっけ、とは、まあ言いますまい。それにしたって手を止めるくらいしてもいいとは思いますけど。
 ともあれそういったところで、同森さんから「普段の口宮さんと異原さん」についての簡単な説明が。
「今はあれじゃろ? 口宮が何か仕掛けて異原が騒いで、口宮がもう一言何か言って異原が黙って、みたいな」
「ああ、まあそんな感じだな」
「今までだったらそこから更に言い合いが続いとったんじゃ。下手したら手やら足やらまで出てきてのう、それを止めるのは大体ワシの役目だったんじゃ」
「へー。で、でも今はなんか勝手に静かになっちまうと」
「じゃの。……あれ? ワシ、今のほうが楽じゃなこれ」
「あ、本当だ……」
 え、今初めて気付いたんですか?
「どうしたもんかの静音」
「うーん……でもやっぱり、戻ってもらえるなら戻ってもらった方が落ち付くっていうか……」
「やっぱりそうなるかのう」
 落ち付いたら騒がしくなる人達だけど、そうなってもらえたら自分達も落ち付く。
 そうして一文にしてしまうとなんだか分かるような分からないような話なのですが、しかしまあ、そうなる事情を知っている身としてはよく分かるお話なのでした。
 照れたり喜んだりする場面ももちろんあったわけですが、それにしたって心労はかなりのものなんでしょうしね、異原さん。それに、その異原さんを常に気遣い続けている口宮さんも同じく。
「――と、済まん済まん、ここを出て何かしら始めるっちゅう話じゃったの。いや、つい居座ってしもうて」
「必死になるような話でなし、別にいいんだけどな」
 といって、出て行く僕達を引き留めもしない大吾ではあるのでした。
 ちなみに成美さんですが、痛い痛いと言っていた筈なのに、今ではすっかり二度寝なさっています。髪を梳いてもらっている以上は大吾にもたれかかっているわけでもなし、ならばそれは割と器用な技なのでした。

「口宮達のことは放っておくとして、他にすることっちゅうのは何が?」
 大吾と成美さんの部屋を出たその場、つまりは廊下で一旦立ち止まった僕達は、同森さんのその質問を契機に改めて今後の予定を決め始めることに。
「くいくい」
「……えー、日向君、サーズデイさんは今なんと?」
 先行き不安です。
 というわけで真っ先に動いたのはサーズデイさん。彼、もしくは彼女入りのビンは現在音無さんが両手でしっかり抱えて(というほどの大きさではない筈なのですが)おり、それを覗き込んで口元を緩ませています。まあ可愛いですもんね、サーズデイさん。
 で、それはともかくそのサーズデイさんなのですが、細長い自身の一部を腕だか指だかに見立てて自分を指しているのでした。
「具体的な内容まで聞き取れるわけじゃないですけど、ウェンズデーの話でしょうね。帰る前にもう一回義春くんに会いたいっていう」
「こくこく」
 どうやら正解のようで、頷いてもらうことが出来ました。音無さんの口元がますます緩みます。
 もう一つの話ももちろん考えるべきではあるわけですが、しかしそれもまた口宮さん異原さんの話と同じく放っておいてもどうにかなるならいずれどうにかなる話ではあるわけで、ならば先にすべきはこちらの話ということになるのでしょう。
 どうなるんでしょうね、朝ご飯。
「ふむ。で、そのためにワシらは何をしたらいいんじゃろうか。というか、何処に行けばいいんじゃろうか?」
 重ねて尋ねてくる同森さん。そりゃまあそうなるのでしょう、僕達はこれから何処かへ行こうとしていたところなのですから。
「まずは……電話?」
「だよね」
 返答ついでに栞に尋ねたりもしてみたところ、問題なく頷いてもらえました。
 それはいいのですが、
「っちゅうことは、結局何処に行くわけでもなく部屋に戻ることになるんじゃな?」
 ということになるわけです。もちろん、少なくともその「部屋」というのは今出てきた大吾と成美さんの部屋以外、ということになるわけですが。
 なんだか微妙に締まらない話に、僕も栞も肯定には言葉や仕草でなく沈黙のみをもってそれに代えさせて頂いたわけですが、
「じゃあどっちにするかの。いや、別にどっちでも変わらんのじゃろうが――ワシらの部屋か、日向君達の部屋か」
 どちらか決めろ、というほどそれが重要な話でないことはもちろんなわけですが、しかしそれでも決めないことにはここから動きようがありません。ずっとここでこうしている間に大吾と成美さんが出てきてしまったりしたら、なんかいろいろともにょもにょしたことになりそうですしね。
「じゃあ、僕達の部屋で」
 というわけで、別にどちらでもいいという以上は気楽にそう決めさせて頂くことにしました。
 とはいってもそれは、特に理由もないまま、というわけではなかったりします。なんせこれはここまでの流れの通りに間の抜けた話であるわけで、ならば形としてはたまたま居合わせてそれに巻き込まれた格好になってしまった同森さんと音無さんについては、ゲスト扱いをしたほうが賢明――とまでは言わずとも、流れに沿っている、ということではあるのでしょう。
 となれば、招待するかされるか。ここは「する」ということになるわけです。
 ……まあ、どっちの部屋も大して変わらないわけですけどね。

 ともあれ、そういうわけで。
「あー、すいません、日向です」
 旅館の内線電話で自分の名を名乗る、というのは実に、そうする前に想像していたのより遥かに違和感のある行動ではあったのですが、しかしそうせざるを得ない話である以上、避けようもなくそうするしかない僕なのでした。
 不特定多数の客の一人、ではなく、義春くんの友人その一、なわけです。名乗りもしない相手に「お宅のお子さんに会わせて頂きたいです」とか言われても怖いだけですしね。
「はい。えーと、それでですね……いきなりなんですけど、帰る前にもう一度義春くんに会っておきたい、という話になりまして。もし御迷惑でなければ」
 ウェンズデーの名前を出そうかとも思いましたが、それは控えておきました。提案したのがウェンズデーなだけであって、という話ではあるでしょうし、そしてそれよりも、この場で自分以外の名前を出すというのはこう、なんというか、言い訳とか言い逃れとか、そんなふうに感じられてしまったのです。
「あ、はい」
 少々お待ち下さい、とのことだったので、そのように。そりゃまあお客様カウンター(という名称ではないのでしょうが)の電話番さんがいきなり結論を出せる話ではないですよね。
 で、暫くののち。
「あ、そうですか――あれ? それって」
 無事快諾していただけたわけですが、その「是非行かせてもらいたい、だそうです」という言い方に眉を潜めつつも頬を緩ませたところ、それ以降はあちらも笑み交じりの対応になったのでした。
 なんというか、いい意味で緩いですよねこの家。仮にも名家であらせられるというのに。

 というわけで、さらに暫くののち。
「おはようございます!」
 元気よく遊びに来てくれた義春くんなのでした。
「ぷいー!」
 彼を呼んだ直接の人物はウェンズデーなわけですが、そのウェンズデーを内に抱えているサーズデイさん、そのウェンズデーの代わりにと言わんばかりの喜びよう。ビンの水面が揺れるほど飛んだり跳ねたり――と言ってもそりゃあ水中なので、下降は緩やかなのですが――を繰り返しています。
 となればこれまたビンを抱えている音無さんの口元が緩み始めるわけですが、しかし今回はさすがにそのままというわけにもいかなかったようで、そのビンを義春くんに手渡すのでした。
「ええと、何さんで、何なんですか?」
 ビンを受け取った義春くん、ビンの中身さんにそんな質問。仕方ないとはいえなんともシュールな質問ではあったのですが、しかし残念ながら彼、もしくは彼女にできるのは、簡単な手振り身振りと感情表現くらいのものなのです。
「マリモのサーズデイさんだよ」
「サーズデイさん。マリモ、っていうのは?」
「毬みたいな藻、だねえ」
 と言ってみたところで今度は「毬」が通じるかどうか疑問ではあったわけですが、しかしここは義春くんの反応を待つことなく話を続けてみます。
「大吾のほうが詳しいんだけど、そうやって丸っこく固まる藻だからマリモなんだって」
「へえ!」
 遠回しに「知識に不備があるかもしれないけど」という意味も込めて大吾の名前を出してみたわけですが、こんな小さな子に向ける話法ではなかったかもしれません。まあしかし、単純に「大吾はそういうことに詳しい」という情報を伝えられただけでもよしとしておきましょう。
 いやまあ、それについてはもうとっくに気付いているかもしれませんけどね。昨日だって、混浴じゃない方の風呂でペンギンの解説なんかしてみせてたわけですし。
 ともあれ義春くん、興奮気味な反応をしてみせた後、キラッキラした目をサーズデイさんに向けるのでした。大吾ほどになれというわけではありませんが、動植物に興味を持つというのは良いことなのでしょう。
「ぷい!」
 そんな義春くんに、ちょっと後ろにのけぞってみせるサーズデイさん。なんせ球状なのでちょっと分かり難いですが、それはきっと「自慢げに胸を張ってみせた」ということなのでしょう。
「ふふ、可愛い……あれ? でも」
 こうなればもう音無さんと同じ道を歩むことになるんだろうな、なんて思い、そして実際にそうなりかけたところ、しかし何やら首を傾げ始める義春くん。
「日向さんがさん付けしてるってことは、大人なんですか? サーズデイさんって」
 ごもっともな疑問ではあったのですが、通常この場合に使われる単語は「大人」よりも「年上」が一般的なのでしょう。まあ確かに、十八歳の僕の年上となればほぼ間違いなく大人ということにはなるのですが、まさかそんな計算の上に今の言葉があったというわけでもないでしょうしね。そもそも、藻類が何歳から大人かなんて分かったもんじゃないですし。
 というわけで、年上イコール大人という思考を巡らせた可能性が非常に高い義春くん。いい意味で年に不相応なしっかり者ではあっても、やはりそういった子どもらしい面もあるのでした。
「サーズデイさんにそのまま当て嵌まるかどうかは分からないけど、そういえば前に大吾がこんなふうに言ってたっけなあ。マリモがサーズデイさんくらいの大きさになるとしたら、百年以上掛かるって」
「じゃ、じゃあサーズデイさん百歳以上ってことですか!?」
 そりゃあ驚く義春くんだったのですがしかし、同森さんと音無さんもその義春くんと同じような顔をしていたのでした。いや、もちろん、音無さんは口元しか見えていないわけですが。
「多分ね。ただサーズデイさん自身もよく分かってないみたいだし、それに家守さんに喋れるようにしてもらった時、大きさを変えてもらったりしたかもしれないしね。ほら、前に来た時会ったサタデーなんて、口とか付いてたでしょ? 花なのに」
「そうでしたね、そういえば」
 そんな話になるとあっさり納得してしまう義春くんなのでした。さすが霊能者一族の、と言うべきなのか、それとも彼個人の器量を評すべきなのか、といったところではありましたが。
「ぷい!」
「いやサーズデイさん、自分でもよく分かってないってもう言っちゃってますから。自慢になりませんから」
「てれてれ」
 とまあ、サーズデイさんの紹介が済んだところで。
「ええとね、義春くん」
「あ、はい?」
「こんな早くにわざわざ来てもらったっていうのは、ウェンズデーがね。今日はもうサーズデイの中だけど、帰る前にもう一回会いたいって言ってたからで」
 ということを伝えるのは、なんだかそれに対する「ある返事」を強制しているようでなんとも居心地が悪かったのですが、しかしやはり伝えずに済ませるわけにはいかないだろうな、と。ウェンズデーが表に出てこられるなら本人に任せればいいわけですが、そういうことでもないんですしね。
「ウェンズデーさんが」
 義春くんは嬉しそうでした。その笑顔がどうやら気遣いから生まれたものでないらしいということに、思った以上にほっとさせられる僕なのでした。
「ええと、今、僕の声ってウェンズデーさんに伝わりますか?」
「うん。表に出てるのはサーズデイさんだけど、他のみんなもその中で一緒だからね」
 それって一体どんな気分なんだろうか、なんて考えてみたことがないわけではありませんが、しかし想像でどうにかなる話ではないのでしょう。
「ありがとうございます、ウェンズデーさん。僕、すっごく嬉しいです」
「にこっ」
 サーズデイさんが笑い返します。言わずもがな、それはウェンズデーの代弁、ということなのでしょう。


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