(有)妄想心霊屋敷

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新転地はお化け屋敷 第五章 桜の季節・出会いの季節 一

2007-08-03 21:13:17 | 新転地はお化け屋敷
「花見がした~い!」
 今晩は204号室住人日向孝一です。そしてのっけから「みんなで騒ぎた~い!」と声高に主張するのは家守さん。昨日みんなでプール行ったじゃないですか。
 まあ花見となると季節が限られてますから、昨日がどうとかそういう事情はあんまり関係ないのかもしれませんけど。
「そういえば今年はまだやってませんでしたねぇ。んっふっふっふ」
「ぷっくぷっく」
「あんなの集まって飯食うだけだろ? んなの今やってんのとかわんねーだろ」
「何故お前はそうつまらん事だけ正論なのだ? 嫌がらせか?」
「栞もやりたいな、お花見」
「この辺だと、どの辺りでやってるんですか? 花見」
 土地感どころか二つ曲がれば方角を見失う僕にとって、桜がよく見える場所など想像もつかないのでした。
 たまには手抜きもいいだろうと、本日の晩ご飯はしゃぶしゃぶ。会員以外のみんなも招いて、家守さんに持って来てもらった土鍋に肉を突っ込みまくってます。マリモのサーズデイさんは瓶の中から見てるだけなのでちょっと申し訳ないですが。
「んー、いっつもはね? 車でちょっと行った所に大きな公園があって、そこでやってるんだけど………」
 その場所に何か問題があるのか、腕を組む家守さん。そしてその様子に清さんがお湯の中で肉を泳がせながら、
「『たまには別の場所がいい』ですか?」
「さっすがせーさん分かってるぅ!」
 大当たりだそうだ。なんで分かるんですかそんな事が。
「つってもここいらで他の場所っつーと、どこがあるんだ? オレあんま心当たりねーけど」
「確かにな。この辺りは住宅ばかりだし」
「ここの庭に桜が生えてたらいいのにねー」
「にこー」
 普通に会話しているかのように首を傾け合う栞さんとサーズデイさん。その楽しそうな顔が似てるなーなんて思いつつ、ジョンの犬小屋の横辺りに桜の木が生えていると想像してみる。場所がそこなのは特に理由無し。
 ……………うーん、景観は確かにかなり良くなりそうですけど、そこで花見となるとちょっと。まず裏庭っていうのがしょぼくれた感じですし、そんな所で馬鹿騒ぎするとなると近隣住民の皆様に迷惑ですし。しかもただでさえお化け屋敷なんて呼ばれて気味悪がられてるのに、僕と家守さんのたった二人でわいわいやってたら絶対引かれますよ。幽霊とでも遊んでるのかって。
 まあ実際そうなんですけど。
「そこでこーちゃん!」
「はい!?」
 まるで考えを読まれたかのようにナイスタイミングな振りに、つい鍋の中で肉を離してしまって見失う。ああそろそろアク取らないと。ついでに野菜も食べないと。
「そ、そんなびっくりしなくても。おっほん。こーちゃん、大学二日目で知り合いはできた?」
 お玉を手にしていざアク掃除開始、と思ったら家守さんの唐突な質問に手が宙ぶらりんで止まってしまう。花見から急に大学ですか?
「え? は、はあまあ。ちょっと喋っただけですけど」
 それは今日のオリエンテーションでたまたま隣の席だった男の人。
「その人達に花見スポットを訊いてきてください!」
 達って言うかまだその男の人一人だけなんですが。しかもその人だって、
「この辺の人かどうか分かりませんよ? まだ名前くらいしか聞いてないですし」
「ダメもとだよ~。その気になったらせーさんにパソコンで調べてもらったらいいんだし」
 だったら最初からそうすればいいじゃないですか。
 まああの人いい人そうだったし、話の種にはなりそうだから別にいいですけど。


 それは本日の午前、オリエンテーションの中で住所やら緊急連絡先やら何やらを記入してくださいとプリントが配られた時の事。三人がけの席に空席を挟んで僕と並ぶ男性が、にわかにごそごそと安物そうなカバンを漁りながら「あれ?」とか「うっそ」とか呟きだす。そして暫らくののち諦めたように手を止めると、顔を上げてこちらを向いた。
 何を言ってくるかは想定がつく。多分この人は、
「すいません、シャーペン貸してもらえますか? 忘れちまったみたいで」
 やっぱり。
 予想通りの展開に、そう来ると思って自分のシャープペンシルを取り出した後わざと開けっ放しだった筆箱から、普段使っていない予備のシャープペンシルを取り出して手渡し。
「どうぞ」
「すいません」
 まあしかし筆箱開けっ放しなんて特筆するような事でもないですね。我ながら。
「芯が切れてたら言ってください。ありますので」
「芯は……あ、あるある。大丈夫」


 記入が済んで、教壇に立つ先生によるいろいろな説明が始まる。が、これといって面白い話でもないので割愛。
 説明が終わると、どうやら時間が少し余っているらしく「あー、どうしましょうかねー」なんて言いながら腕時計と掛時計を見比べる先生。どっちも同じですって。
 そして顔を上げると、「じゃあ明日の話になりますが」と小話開始。正直「明日の事なら明日でいいじゃないですかどうせ明日また同じ事説明するんでしょ?」とは思ったけど、虚しくなるだけなので落ち着いて。
 その明日の話によると、名簿順でゼミが四つほどに分かれるとの事。まあ確かに、抗議の度にこの人数が集まってたら大変ですからねえ。百人くらいいるんじゃないですか? いやー大学の教室って広いですねえ。
「あの」
 説明も終わって小休止中、隣の男性が再び話し掛けてきた。
「シャーペン。ありがとう」
「あ、いえいえ」
 それをきっかけに会話は続く。
「なんか名簿でクラス分けるって言ってたけど」
「らしいですね」
「あんた名前は?」
「あ、日向孝一っていいます」
「お。それなら同じクラスになるかもな」
「そうなんですか? そっちは?」
「俺は―――」


 ―――という事で、なんともあっさり知り合った彼にどうやら僕は明日、花見スポットを尋ねなければならないらしい。さて、どう切り出したもんかね。
 まあこういうのは総じてあんまり考えないのが正解なんだけども。
「分かりました。でも駄目だったからって文句言わないでくださいよ」
「お願いね~」
 肉を頬張る家守さんをよそにアクを掬いつつも、僕は今のところ大学でのたった一人の知り合いである彼の事を思い浮かべるのでした。
 花見に行くような人だといいんだけどなあ。見た感じは活発そうな人だったけど。
「ぷっくぷく~」
 頬? をもぐもぐさせて家守さんの真似をしている………かもしれないサーズデイさんを見て、ちょっとだけ勇気付けられる。
 言葉が通じなくたって分かり合えてる………かもしれないんだから、花見の場所を聞き出すくらいなんとでもなるさ。大袈裟なのは分かってますけど。
 でもまあ、特にそういうのに興味がない人だったとしても「桜が咲いてる場所」とグレードダウンさせれば一箇所くらいは出てくるでしょうし。他県からお越しの~とかだったらさすがに諦めますけどね。
 さあさあ考え事はこれくらいにしてそろそろ食べる事に集中しますかね。肉がなくなりそうだし。
 野菜も食べましょうよみなさん。


 翌日。大学でやる事と言えば未だに説明やらなんやらを聞くだけで、三回生になったら更に分野が分かれる等の正直つまらない話を一通り聞き終わった後にプリントが配られた。
 当然それについての説明が始まる訳だけど、誰でも聞く前に分かってしまう。配られた物が昨日言ってた名簿によるクラス分けのメンバー表なんて物なのなら。
 昨日時間潰しに聞かされたのと同じ説明が部屋中の生徒の眠気を覚ましたり逆に眠気を誘ったりしている中、プリントに書かれた名簿から自分の名前を探す。百名ほどがずらっと並べられているが、名簿順なので分かり易い。自分の名前はすぐに見つかった。そしてその一つ上。
 話していた通り、昨日隣に座った彼は同じクラスだった。幼稚な気もするけどやっぱりちょっと嬉しい。そしてその彼は今日も隣に座っている。が、彼は眠気を誘われた側だったらしく、プリントが配られる前から首をがっくりと垂らして寝息を立てていた。
 諸々の説明はある意味講義よりも重要な話と言えなくもないんだけど、大丈夫なんだろうか? って言うかあの姿勢、起きた時に首が痛いんだよなぁ。


 その後、分けられたクラス毎に指定の教室へ集まってまた話を聞いて、本日の活動は終了。その際隣で寝ていた彼は当然どこに集まればいいのか分からず、幸いにも起きていた僕に道案内を頼んだのでした。
 「今度同じような事があったら、起こしたほうがいい?」と冗談半分に尋ねてみると、彼は苦笑いを浮かべて「頼むよ」と一言。
 了解しました。デコピンしてでも起こしてあげますよ。
 そんな事もありつつ帰路につこうとすると、どうやら彼は自転車で来ているらしく、校門からちょっと離れた所にある自転車置き場へ向かおうとする。そこで別れようとして………あ、そうだそうだ忘れるところだった。
「ごめん、ちょっと変な事訊くけど」
「なんだ?」
 別れるつもりだったけど話が続いてしまったので、なんとなく自転車置き場へついて行く。
「この辺りで花見ができる場所とか知らない? 僕引っ越してきたばかりで、あんまりこの辺分かんなくって」
 自転車通学ならやたらめったら遠くの人って事もないだろうし、これは期待できそうだ。まあ家守さんが言ってた所と同じ場所だったら駄目なんだけど。
「そうだな。この辺だったらちょっと遠いけど大きな公園があって……」
 ありゃ残念。同じところか。
「いや、あそこでもいけるかな」
 お?
「今言った公園ほど広くはないけど、それなりにいい場所が結構近くにあるぞ。花見に使う奴がいるかどうかは知らんけど」
 これはもしや、いい情報入手ですかね?
 自転車の鍵を外して手で押す彼を隣に、今来た道を逆戻り。
「えーと、孝一君は歩きなのか?」
 君……か。うーん、なんかちょっと気恥ずかしいな。栞さんと清さんの時はなんとも思わないけど。
 大吾が君付けを嫌ったのが分かるような気がする。と言っても大吾の年は知らないんだけどね。多分同じくらいだろうって程度で。
「孝一でいいよ。僕、すぐそこのアパートに住んでるんだ」
 すると彼は、ちょっと驚いたような表情を見せた。呼び捨てにしろという部分に対してか、近くのアパートに住んでいるという部分に対してかは―――ま、後者かな。やっぱり。やっちゃった?
「それって、あの『お化け屋敷』?」
 ありゃりゃ。
「そう呼ばれてるみたいだね」
「へー。で、マジで幽霊出たりすんのか?」
「いや………それは、なんて言うか…………」
 まずったなあ。花見の場所どころじゃなくなっちゃったか。
 チリチリチリチリと手で押している時特有の音が自転車のホイールから聞こえてくる。カンにさわる。ああ気まずい。そうだよ近くに住んでるんなら噂を知っててもおかしくないじゃないか。
 あまくに荘より外の人と知り合うのは引っ越してから初めてだったしなあ。これはとんだ大失態だわさ。
 すると彼の表情がほころぶ。慌てて言葉に詰まっている僕が可笑しいのだろうか?
「大丈夫だってそんなビビらなくても。俺も見える体質だからさ」
「へ?」
 慌てて言葉に詰まっている僕が可笑しい、という予想は外れてはいなかったものの、文全体の意味としては全くの正反対だった。
「で、どうなんだ? やっぱいるのか?」
「う、うん……と言うか、幽霊のほうが多いくらいで………」
「そりゃすげえな。いつか遊びに行ってみよっかな」
 本当に見える人なんだろうか? 嘘をついてるようには見えないけど。
 いや、でもそれならどうやってそうだと気付いたんだろう? 僕はみんなに会って、教えてもらって初めて自分がそういう体質だと気付けた。彼も幽霊と関わってたりするんだろうか?
「あのさ、自分が見える人だってどうやって気付いたの?」
 彼が本当にそうなのか、それともただ冗談を言っているだけなのか確かめるためにも、僕はそう訊いてみた。これで「自分の事なんだから知ってて当然」とでも言われたら多分嘘だ。だって、みんなあまりにも普通過ぎて―――まあ、マリモさんとかダンシングフラワーとかみたいな例外がいるにはいるけど。
 すると彼はあまりにも平然と言ってのける。
「いや、高校の先輩に幽霊がいてな。それで気付いた」
 ……うー……微妙だなぁ。身の回りに幽霊がいたとして、それが幽霊だとなぜ分かったんだろうか? 先輩って言うくらいだから友達だったとか?
 そんなやり取りやってる間に、校門が近くなっていた。
 不味い。まだ花見の場所訊き出してない。
「あの、花」
「あ、いたいた! おーい!」
 もう流れを無視して訊いてしまおうと話し掛けた途端、前方から大きな声が。僕等と同じく外へと流れる人々が、その大声の主のほうへと視線を引っ張られる。もちろん僕もその一人。
 あれは……中学生? かな? 私服だけど。
「んがぁっ! なんであいつここにいるんだ!?」
 前方の子どもに続いて隣の彼も大声を出し、そちらへと駆け寄る。どうやら知り合いらしい。
「えへへ、暇なんで迎えに来ちゃいましたー。後ろ乗せてくださいね」
「歩いて来たのかよ………なんで迎えに来たやつを俺が送らにゃならんのだ」
 視線は送るも立ち止まりはしない人の流れの中で、その二人は仲良さそうに話していた。さっきまで隣にいた彼はなんだか疲れた様子で肩落としてるけど。
「知り合い?」
 近付いて尋ねてみると、彼は溜息ののちにただ一言、
「彼女」
 と。
 そしてそれを聞いた彼女さんはオウム返しの如く、
「お知り合いですか?」
 と。
「そうだ。同じクラスになった日向孝一君」
「いや、君は別に」
 付けてもらわなくても、と言おうとしたが、彼女さんがぺこりと頭を下げたので一旦中断。話を窺う体勢に入る。
「初めまして。岩白セン(いわしろせん)です」
「あ、いえいえこちらこそ」
 珍しいお名前で。
「そしてこっちが日永明(ひながあきら)さんです」
 そちらは存じております。あなたの彼氏さんなんですよね。
「俺の紹介は間に合ってるよ」
「あ、そうですか?」
 しかしまあ、大吾と成美さん程ではないにしてもこれまたえらい年の差カップルで。……もしかしてこの娘も幽霊で、外見に反して実は年上とか? でもさっき周りの人がちらちら見てたし、それはないか。じゃあ見た通りの中学生?
 ん? でもそうだとしたら中学校だってもう授業始まってるんじゃあ? この娘はここにいていいんだろうか?
「?」
 小首を傾げる姿が可愛らし………あいやや、人の彼女様を初対面でじろじろ眺めるのは無礼に当たるか。それに明くんには花見の場所も訊かないといけないし。と顔を明くんのほうに向けると、眉間にシワが。
 やや、やっぱり失礼でしたか?
「先に言っとくけどな」
 はいぃ!
「こいつ、俺等と同い年だぞ」
「へ」
 この身長が? あいやや、この洗濯板さんが? なんのなんの、この彼女さんが? つまり、ナチュラルに体型が実年齢より幼いって事?
 衝撃のあまり素っ頓狂な声を出してしまうと、彼女さんの目が釣り上がる。
「あぁっ! ま、またそんな展開ですか!? これでも三年前からちょっとは大きくなったんですよ!?」
 どうやら彼女自身その事を気にしているらしく、しかも「また」って事は何度も言われているんだろう。しかしどうして基準が三年前?
「焼け石に水だな」
「む~、いいですよいいですよどーせわたしはいつまで経っても小さいですよー」
 ふてくされた彼女さんがぷいと振り返りこちらに背中を向けると、その長い髪がまず目を惹いた。対比物である本人の身長に差があるからはっきりとは分からないけど、家守さんと同じくらいあるんじゃないだろうか? その黒髪は足の付け根辺りまで届いていた。
 そして次に目に留まったのは、その長い髪の先端を束ねている赤いリボンと……小さくてよく分からないけど、そのリボンに添えられている丸くてややくすんだ黄色っぽいアクセサリー。あまり見かけない髪形だけど、似合ってる―――のかな。正直そういうセンスは皆無な自信があるけど、少なくとも僕にとっては似合っているように見えた。
 でもまあさっきヒヤヒヤしたばかりなのでじろじろ観察するのはこの辺にして。
「三年前に何かあったの?」
 そう尋ねてから思い出した。だから花見の場所訊かなきゃ駄目なんだって。もう校門前だし、あんまり長々引き止めるのも悪いだろうからさ。
 すると明くん、ふてくされたままの彼女さんには特に動きを見せないまま、そのまま僕の質問に答える。
 ごめんね間が悪くて。
「いや、付き合いだしたのが三年前ってだけだよ。こいつ、その時から何かと身長の事気にしててな。気にするだけ無駄だってのに」
 そう返す明くんは、口元に笑みを湛えていた。
 それに対する彼女さんは、不服そうな横顔をこちらに向けてやや口を尖らせる。
「明さんがそうやっていじわる言うから気にしちゃうんじゃないですかぁ~」
 要するに付き合いだしてから今までの三年間、ずっと身長の事をからかわれ続けたって事ですか。それは気の毒に。
 うちにもそんな人がいますけど、からかったりなんかしたら首吊る羽目になるからあんまり言えないんですよね。
 彼女さんが普通な人でよかったね、明くん。
 さて、そろそろ本当に訊いておかないとまた忘れそうだ。
「えっと、もう一ついいかな」
「なんだ?」
「なんでしょうか?」
 痴話喧嘩、もしくは三年もの間続く戯れをぶった切ってちょいと強引目に話をさせてもらう。ふう、やっと聞けるよ。
「花見」
「おぉっ! 日永か!? それにセンさんも!」
 うそん。
 声がしたほうを見てみると、そろそろまばらになってきた人の川の中で自転車を手で押しながら明らかにこちらを向いている男性が一人と、その隣に連れらしき女性が一人。
「先輩!? え、ここ通ってたんですか!?」
 明くんが驚いている間に、女性のほうもこちらにやって来た。
「センちゃん! ひっさしぶりぃ!」
「瑠奈さんもいるんですか!? お久しぶりです! ………あ、いやその」
 彼女さんが何やらこちらをちらちら見ているが、どうやらこの場の四人全員が知り合いらしく完全に蚊帳の外になってしまった。かと言ってそのまま立ち去るのもどうかと思うし、そもそも花見の場所がまだ聞けてないし。
 ああ、居辛い。


「お前、高校卒業したら親の所に引っ越すって言ってなかったっけ?」
「でもこの大学に受かっちゃいましたんでね。近くのアパート借りて結局親からは離れたままですよ」
 そんな感じで僕の立ち入れない話が二分ほど続いたでしょうか。彼女さんに「瑠奈さん」と呼ばれていた女性が、連れの男性を肘で突いた。
「あぐぉっ! ……な、何するんですか瑠奈さん………!」
 どうやらかなり痛かったらしく、突かれた胸を押さえて多少うずくまる男性。それでも女性は容赦無くうずくまる男性を怒鳴りつける。
「こっちの人! どう見ても日永くんの友達でしょ!? ほっといてずっと喋ってんじゃないわよ! ホントあんたはいっつも空気読めないんだから!」
 そう大声を出しながらビシッと伸びた指が指し示す「こっちの人」は、誰がどう見ても僕でした。
 そう、仰る通りずっと待ってました。正解です。助け舟を出していただき、真に感謝します。多分やり過ぎだとは存じますけど。
「あ、ごめんごめん。いや今のは一人芝居なんでね。痛くない痛くない。ははは」
 明らかに痛みを堪えた無理な笑いを浮かべながら、よく分からないことを言い出す男性。
 一人芝居? 思いっきり肘鉄食らってたのにですか?
 すると明くん、その疑問を一発で解消させる一言。
「ああ、大丈夫ですよ。こっちも見える体質らしいですから」
 なるほどね。じゃあこちらの肘の女性は幽霊って事ですか。
 本当に幽霊ってそこら辺で会えるもんなんだなー。
 驚きの表情を見せる明くん以外の三人の前で、僕は家守さんの「幽霊はたくさんいる」という話を思い出してそう納得していた。


「俺は深道悟(ふかみちさとる)。ここの二回生」
「あたしは霧原瑠奈(きりはらるな)。さっきはごめんねこの馬鹿が」
「い、いえ。えっと、僕は日向孝一っていいます」
 簡単な挨拶の中でも馬鹿という単語が飛び出す辺りとさっきの肘鉄から推察するに、この二人の関係は大吾と成美さんの関係に近いものがあるのではないかと邪推してしまう。けど、よく考えれば悟さんが一方的にやられてるからちょっと違うか。
「そういや孝一さ、先輩が来る直前に何か訊こうとしてなかったか?」
 あ。また忘れるところだった。
「花見の場所なんだけど………」
「そういやそんな事言ってたな。悪い悪いほったらかしにしてて。えーと、こっからもうちょっと東に行ったら急に田舎っぽくなってるんだけど、そっち行ったことあるか?」
 早速場所の案内が始まる。が、それはただ単に「どこどこの桜が綺麗」といった場所名だけの案内ではなかった。僕がここに引っ越してきたばかりという事を汲んでくれているんだろう。ありがとう明くん。
 で、ここから東というと―――あまくに荘とは反対方向になる。かな? なるよねうん。という事は。
「ごめん、行った事ないよ」
 そもそも田舎っぽい風景なんて覚えが無いしね。それがどの程度の田舎っぽさなのかは知らないけど。
 するとここで彼女さん、話に興味があるようで、何やら嬉しそうに明くんへ質問。
「あっちのほうでお花見っていうと、あそこですか?」
 生憎の代名詞だけでの質問に場所は分からなかったけど、そこはさすがに三年連れ添った彼氏。明くんには彼女さんが言う「あそこ」がどこだか分かっているらしく、彼女さんに笑み返し。
「そう、あそこだよ」
 その田舎エリアで桜の咲く場所が一箇所しかないって事だったりするならそうなるのも当たり前だけどー、なんて無粋な指摘はいいとして。
 明くんがこちらを向く。
「あっちのほうにな、神社があるんだよ。そこに桜が結構咲いてんの。高台になってて見晴らしもいいぞ」
 神社?
「え、でもそんな所で花見とかしてもいいのかな」
 というのも当然の疑問だと思ったんだけど、明くん……のみならず、彼女さんも霧原さんも深道さんも可笑しそうにくすくす笑っていた。何か変な事言いましたっけ?
 みんなが何を笑っているのか理解できずにおろおろしていると、彼女さんが微笑んだままで話し掛けてきた。
「大丈夫ですよ日向さん。わたしが許可します」
「へ?」
「それに他の人も、駄目だなんて絶対言いませんから。できればお賽銭も入れてってくださいね」
「は、はぁ」
 彼女さんは何を言ってらっしゃるんでしょうか? と視線のみで明くんに訴えかけると、呆けた僕の表情がそんなに面白いのかくすくす笑いを更に強めたのち、訴えに応じてくれた。
「その神社な、岩白神社っていうんだよ」
 岩白? どこかで聞いたような。あ、ついさっきか。
「岩白センさん」
「はい」
 取り敢えず思いついた名前を口に出してみると、彼女さんが素直に返事をした。
 彼女さんは岩白さんなんでしたもんね。


13 コメント

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Unknown (Unknown)
2007-08-05 00:48:06
居眠り癖と、口調だけで、もしかしてアイツなんじゃないかと、ものすごい期待しちゃうんですが…チャリ通学やし…
返信する
Unknown (さきまんじ)
2007-08-05 01:12:46
!!やはり、ここでも繋がりが・・・?
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Unknown (代表取り締まられ役)
2007-08-05 21:13:12
コメントありがとうございます。
いやー、お察しの通りで。一つの話毎の登場人物が少ないのでこのくらいならやっちゃっても大丈夫かなーというか、こうしたら面白そうだなーというか。
あれから三年、彼等に何か変化はあったのかとか考えるの楽しくて仕方ないですはい。
あとはそれが自己満足で済んでしまわないように気をつけなければならない訳ですが、大丈夫でしょうかね?
まあ大丈夫でしょう。多分。
さあまた色々考えないと。
返信する
Unknown (さきまんじ)
2007-08-05 22:57:49
明とセンキタ━━━━(゜∀゜)━━━━ !!!!!
こういうリンクな設定自分は大好きですww
今回は本格的に話に絡んできててもうwktkです(・∀・)


あ、あと誠に勝手ながらリンク貼らせていただきました><
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Unknown (Unknown)
2007-08-06 05:19:03
三年たってもセンは洗濯板…
返信する
うぉぉぉ~わぁぁぁい (Unknown)
2007-08-06 09:36:20
センだぁぁぁぁ!!!!!!!
返信する
Unknown (代表取り締まられ役)
2007-08-06 21:15:50
センさんと明くん復活ですが、まだそれだけではない様子です。「彼」と「彼女」を憶えてくれている方が果たしてどれだけおられるのかという話ですが、まあ気にせず出しちゃいました。
あとは話に矛盾がでないように……ってそんなに大層な話でもないんですけどね。

あ、リンクは大歓迎ですよ。ありがとうございます。
特に明記とかしてませんでしたけどって言うか今までそんな事考えもしませんでしたけど。
どっかにちゃんと書いとこっと。
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Unknown (Unknown)
2007-08-07 00:01:06
センだけではなくラムネのオマケ君まできましたか~



返信する
Unknown (Unknown)
2007-08-07 04:42:26
センキタ━━━━(゜∀゜)━━━━ !!!!!
返信する
Unknown (代表取り締まられ役)
2007-08-07 21:12:04
ラムネのおまけと言いますかラムネそのもの……まあそんな細かい事はいいとして。

ちょっと予定が入りました。今月の12日から16日まで九州の祖母の家へ行ってきます。
向こうにもパソコンはあるので恐らく更新はできると思いますが、もしかしたら用事とかで更新できない日もあるかもしれないです。
ご了承くださいませ。
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