(有)妄想心霊屋敷

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新転地はお化け屋敷 第四十八章 ここにいない人の話 四

2012-06-27 20:57:25 | 新転地はお化け屋敷
 で。
「どうしましょうか」
 改めて見渡してみるとカップル五組に余りが一人の計十一人。なんともまあ大所帯なのですが、その皆さんの自己紹介が済んだところで、余りの一人である僕はカップル五組計十人の皆さんへ、そう尋ねてみます。
 が、とはいえ、今回その皆さんに呼び掛けて集まってもらったのは僕自身。となればそこはもちろん「どうしましょうか」ではなく、自分からすすんで計画なり予定なりを打ち出すべきなのでしょうが……。
 これは様子見です。いつもならどこかで軽くお食事でも、という運びになったりもするのですが、さすがにこの人数だとどうなるか分かりません。そしてそれでもやっぱりどこかのお店に入るということになったのであれば、事前に考えていた通り、支払いは僕がということになります――いや、今の時点では「そうしたいです」なんですけど。
「そうねえ。このへんの小さいお店じゃあ、今の時間帯にこれだけの人数はちょっと入れそうにないし」
 頬に手を当て首を傾げ、いかにも女性らしい仕草で悩むのは一貴さん。そりゃそうですとも、女性が女性らしい仕草をしてたってそれが目につくわけもなし。
 という話はともかく、やっぱり一も二もなくお店の話になるようでした。
「ああそっか、四限終わったとこだしね。いやあ懐かしい懐かしい、そういう時間に縛られる感覚」
 かっかっか、と声高に笑いながらそう言うのは諸見谷さんでした。先程の自己紹介の中でちらっと出てきたりもしたのですが、諸見谷さんはもう大学を卒業しており、今はアルバイトで生計を立てているのでした。
「あら、愛香さんは縛られてない?」
「おうおう、なんか言って欲しそうな感じだね」
「やあん、いけずねえ。察しはいいくせに冷たいんだから」
 …………。
 時間ではなく一貴さんに縛られている、といったところでしょうか。
 まあしかしそれはそれで、あながち冗談オンリーな話でもないのでしょう。なぜ就職でなくアルバイトなのかというのは、やっぱり、一貴さんとの今後を想定してってことなんでしょうしね。
「この近くでこの時間、この人数が入れるところっていうと……」
 今度は深道さん。ありがたいことに――いや、支払いの件を考えると――いやいやでもやっぱりありがたいことに、どうやら思い当たるところがあるようです。
「学食?」
 ああ。
「ここで立ち話ってよりゃいいんじゃないですかね、それでも」
 同調したのは明くん。出来れば他がいいけど仕方がない、と言っているも同然なその言い方は、学食で働いているおばさん方には多分に申し訳ないのですが、まあしかし、学生にとって学食というものの扱いがその程度なのは、これまたやっぱり仕方がないのかもしれません。やってることは学外のレストランなんかと変わらない筈なのに、身近過ぎるというか何というか。
 とは言いつつ、身近も何も僕はあんまり利用してないわけですけど。
「あ、あの……」
 はい音無さん。
「他の学生さんも入ってると思うんですけど……日向さんのお話は、その中でも……?」
 ううむ。
 してもらえて嬉しい心配ではありますがしかし、
「あ、大丈夫ですよ」
 ネタバレになってませんかこれ? 結婚の話は駄目でした、なんて、他の人もいる中で堂々と言えるものじゃないし――いや、案外、そうでもなかったりするんだろうか? いろいろ吹っ切れてむしろ気持ちよく言えてしまったりするんだろうか。
「まあ、ここまでの雰囲気でも察しはついてるんだけどよ兄ちゃん」
「黙れ」
 何かを言い掛けた口宮さんは、異原さんから物凄くドスを利かせた声で止められていました。ああネタバレ以前の話でしたか、といったところで、
「あ、あはは、じゃあ行きましょうか学食」
 そう言いつつ改めて本日お呼ばれ頂いた皆さんを見渡してみるに、恐らくは全員が、いま口宮さんが言い掛けた内容を理解し、かつ同調しているようでした。
 うーん、だからってわざと暗い表情でいるってのも変な話だしなあ……。そうするにしたって完遂するには結構な演技力が要求されるだろうし、もちろん僕がそんなものを持ち合わせているわけもないし。
 嬉しい時に暗い表情を作るって、ねえ?

 当たり前ながら昼食の時間ではないわけですが、けれど学食内にはちらほら程度に人の姿が。ちらほら、とは言っても学食自体が結構な広さなので、人数で言えば結構な数なのではないでしょうか。
 さすが学食、なんだかんだ言っても学生からの人気はかなりのものです。なんだかんだ言った、というか思ったのは僕だったりもしますけど。
 というわけで、計十一人。テーブル代わりの長机の両側を使ってすら、ただ横に並ぶだけでは端から端までが随分と長くなってしまうので、向かいのテーブルも使って席につきます。もちろんというか何というか、それぞれカップル同士で隣り合うなり向かい合うなりの形にもなりつつ。
 でまあ、わざわざここに来たということなら、僕からの話の前に食料の確保です。先に話しちゃったらもう他にすることがないわけで、だったらその後わざわざ残ってまでここで食事をする必要はなくなってしまいますしね。そりゃまあ、雑談とかでいくらでも時間は潰せるでしょうけど。
 ――ということであるなら、さてさて。
「えーと」
「今回もあたしと愛香さんの奢りねー」
 …………。
 言い淀んだ一瞬の隙すら致命傷なのでした。
「あ、あのですね一貴さん」
「ふっふーん。分かるわよお日向くん、貴方の言いたいこと。でもだーめ、気前のいい先輩は意地悪だったりもするのよねえ」
 座った状態でよくもまあそんなに動けるものだ、と感心してしまうくらい、身体をくねくねうねうねさせる一貴さんなのでした。が、それはともかく、意地悪ですか?
「いや、意地悪で言ってるつもりはないんだけどね。少なくとも私は」
 くねくね一貴さんの向かい側からは、諸見谷さんがそんなふうに。けれどその直後、「他の人から見たら結局意地悪なのかもしれないけど」とも。はて、それは一体何がどういうことなんでしょうか?
「ご、ご説明頂いても?」
 何故だかどもってしまう僕でしたが、それは恐らく一貴さんの動きやら何やらに対してであって、諸見谷さんに対してではないのでしょう。飽くまでも恐らく、ですけど。
「私がお金にケチな性格だっていうのは――まあ、知ってもらえてると思うけど」
「はい」
 そしてそれを顕わにするのは一貴さんに対してだけ、というのも。
「私らにお金出すぐらいだったら、喜坂さん――まだ『喜坂』さんなのかどうかって話なんだけど――喜坂さんに、プレゼントの一つでも買ってあげなさいってね。私だったら大抵は『そんなもん要らんから貯金しろ』だけど、まあ、一般的な女性はそんなことないんだろうしさ」
 …………。
 くっ、まずい。否定しなきゃいけない立場なのに普通に嬉しい。
「学食って言ってもこの人数分だし、それなりの額にはなるでしょ。だったら例えば……うーん、実用書とか? 買ってあげられるじゃん」
「他のものでいいからね? 日向くん。くれぐれも」
「他の――くれぐれも!? そこまで!?」
 一貴さんの突っ込みが相当にショッキングだったらしい諸見谷さんは、しょんぼりと肩を落としてそれ以上何も言わなくなってしまいました。
 肩を落とし、俯き、そうして頭が下を向くと、後頭部からちょんと伸びている青いリボンでぐるぐる巻きにされた突起状の髪が目に入りました。
 そんなもん要らんから貯金しろ、な諸見谷さんが一貴さんから受け取ったプレゼントなんですよね、あのリボンって。しかも、長いわけじゃない髪にああして無理矢理装着するぐらいには大事な品らしいですし。
「ああ、可愛いわあ愛香さん」
 ――とはいえしかし、果たしてそこはうっとりするポイントとして正しいのでしょうか……?
「とまあ冗談はさておき、そういうことよ日向くん。結婚の話がどうなったにしたって、今は二人にとって大事な時期なんでしょうしね」
 …………。
「……はい」
 頷いてしまいました。しっかりと考える間を挟んだうえで、そうするしかありませんでした。ぐうの音も出ないとはこのことです、反論したくはありますがその論が見付かりません。
「あのー、俺は」
「もちろん奢らせてもらうわよ?」
 手を挙げた深道さんは明らかに遠慮しようとしていたトーンでしたが、そちらも僕と同じく許す気も隙も全くない一貴さんなのでした。
「霧原さんもね」
「!」
 何を言ったところで一貴さんの耳には届かないわけですが、一言を発する間すら与えられない霧原さん。しかしどうやら、深道さんよりは一貴さんの提案に前向きなご様子なのでした。
「いい人じゃないの、あんが――あ、いやいや」
「はは、そうですね」
 失礼そうなことを言い掛けたような気がしないでもないながら、ともあれ何かしらの言葉を引っ込めた霧原さんへ、深道さんは遠慮がちな笑顔を向けるのでした。指摘しなければご本人の耳には届かないわけですしね。
 そして深道さんとしても、気持ちは分かる、といったところなのでしょう。まあ、やっぱり、そういうふうにもなるんでしょうね。さっき会ったばっかりだと。
 異原さんはくすくすと笑っていました。

 さて。
 結局はいつも通りに奢って頂くことになりましたところで、ならば食事のお買い上げに。それまで誰もいなかった注文カウンターに突如十人の列ができ、それぞれ思い思いに料理を注文していきます。
 十人。
 一人足りません。
「明くん」
「ん?」
 たまたま僕の隣に並んでいた明くんに声を掛けてみます。が、それはたまたま隣にいたからというだけの理由ではなく、
「岩白さんはいいの?」
 その足りない一人が岩白さんだからなのでした。
 が、すると明くん、すぐ隣という距離の割にやや大きめな声でこう返してきました。
「あああいつ、こっち来る前にたらふく菓子食ってきたらしいから」
 へえ。――と思ったら、今度は小声でこんなふうに。
「普通の飯は食わんのよ、あいつ」
「へ?」
 もちろんながらそれがどういう意味なのかは分かりませんでしたが、しかしそれに関係していそうな話を思い付くぐらいはなんとか。
「前に言ったろ、あいつが何なのか」
「うん、今思い出した」
 それを聞いたのは一度だけでしたが、印象的というか衝撃的というか、ともあれはっきり記憶に残っていました。岩白さんは、人間ではなく欲食いというものなんだと。お金を介して人の欲を食べるんだと。とはいえ普通の、僕達にとっての「普通の食事」をしないというのは、今初めて聞きましたけど。
 ……むむう。
「後で出たお釣り、あいつに渡してみ。欲の内容にも依るけど喜ぶぞ」
 別に岩白さんについての話を疑っているわけでもなし、ならば断る理由も特になかったので、その提案には頷いておきました。
 ――で。
「あ、そういえばそうでしたね。孝一さん、私のこと明さんから聞かされてたんでしたっけ」
 岩白さんと直接その話をした覚えはないので、明くんが話したということなのでしょう。何をどう言えばいいのか分からないので「これ」とだけ言って僕がお釣りの小銭を渡すと、岩白さんはそう言って嬉しそうに微笑むのでした。
「では、いただきます」
 小銭を受け取ったその姿勢のままそう言った岩白さんは――けれど特にそれからどうするということもなく、ただその姿勢のままで居続けていました。
 ただし、何やらその直前の微笑み以上の笑顔を浮かべてはいましたが。
「明さん明さん!」
「お、どうした?」
「デリシャスです!」
「はは、そりゃ良かったな」
 ……は、はて。一体何がどういうことなのやら。
「欲を食べる」ということのメカニズムが分かっていない僕には、岩白さんがいきなり興奮し始めた理由というか理屈がさっぱり分かりません。なんでしょう、そんなに美味しいものなんでしょうか。
「どんなだった?」
 明くんが続けてそう、岩白さんに尋ねます。どんな、というのはやっぱり、欲の内容がということなのでしょうか。
「料理についての美味しいとか嬉しいとか楽しいとかが満載です! ええと、なんだか、わたしがそういうことと無縁なのを心配して頂いたみたいで!」
 …………。
 凄いですね欲って。と、明くんの話を聞いた時に浮かんだ感想を丸ごと読み取られた――というか食べられたらしい僕は、恥ずかしいやら申し訳ないやらを誤魔化すために、冷静ぶってそんなふうに考えてみるのでした。
「もしこれをお腹いっぱい食べたりしたら、いくらわたしでも太っちゃうかもしれないです」
「そんなにか」
「胸も大きくなっちゃうかもしれないです」
「ないな」
「意地悪です……」
 こんなでも一応は真面目に気持ちを落ちつけようとしている僕の前で、明くんと岩白さんは明らかにふざけ合っているのでした。……ふざけ合ってるんですよね? 本気の悩みじゃないですよね? その胸の話って。
「まあまあそう落ち込むなよ。――で、ありがとうな孝一。見た通り過ぎるだろうけど大喜びだわこいつ」
「い、いやそんな……というか、驚きの方が強過ぎてお礼を受け切れる状態じゃないかも」
「はは、まあそりゃそうなるわな。すまんすまん、もうちょいちゃんと説明しときゃよかったか」
 悪い気がするわけではないので、それについては首を横に振っておきますが――しかし、欲という言葉の響きからもっと曖昧なものを想像していたのに、殆ど頭に思い描いたことそのまんまとは。
 という部分に驚きもしつつ、けれどそこから転じてこんなふうにも。
 よっぽどしっかり好き合ってないと関係を続けてられないよねこれ、と。なんせ、ちょっとでも批判的なことを考えたらそれが食事を通して伝わってしまうってことなんでしょうし。
「ご馳走様でした孝一さん。いやもう、本当にご馳走でしたよ」
「お粗末さまでした」
 で、いいのかなこの場合。むしろこっちが「ご馳走様でした」と言いたい気分だったりもするんですけど。
 ちなみにですが、霧原さんが幽霊であるということはもうこの場の皆さんに伝わっているものの、対して岩白さんが人間でないというのは伝わっておらず、また伝えるつもりも全くないわけですが、ならば今の会話は他の人から見てどう映ったのか。
「ちくわ……そんなに美味しかったんですか……?」
 さすがにみんなから少々くらいは離れていたとはいえ、そんな中でも最も近い位置にいた音無さんから、そんな質問。
 なぜここでちくわが出てきたのかと言いますと、それは僕が買い求めたちくわの磯辺揚げを指しての言葉なのでしょう。つまり、僕が岩白さんにお裾分けをしたと、
 他で食べてきてお腹いっぱいだからという理由から奢られることを断った、ということになっている岩白さんに食べ物をお裾分けするというのは少々おかしいのですが、けれど状況的にはそれが一番自然な流れであり、ならば他の人の目からするとそういうことになってしまう、ということなのでしょう。栞と一緒に大学に来たりしていると、そういうことにはもう慣れっこなのでした。
 そういうことついでにもう一つ言うならば、もちろん僕が買ったのはそのちくわの磯辺揚げだけということはなく、一緒に炒飯も買っています。そしてちくわも炒飯も、まだ全く手を付けていない以上は少しも減っていません。
 ならば何故、音無さんはちくわをお裾分けしたと思ったのか。
 それは、綺麗に盛られたままの状態で明らかに全く減っていない炒飯よりは、小皿の上に数本並んでいるちくわのほうが「減っている可能性があるから」なのでしょう。
 ……実情を知っていればいろいろと突っ込みも入れられましょうが、そういうもんなのです。案外と。
「はい。今初めて食べたんですけど、これはレシピの一つに加える価値ありかもです」
 で、それはともかく岩白さんがそう受け答え。さてそれはちくわの磯辺揚げについて言っているのか、それとも実際に食べたものについて言っているのか。後者だったらいいなあと思う反面、照れ臭くもあります。誰かの模倣でやることじゃないですもんね、普通は。
「あ……お料理、なさるんですか……?」
「修行中ですけどね、お姉ちゃんと一緒に」
「お姉さん……」
「はい。格好良いんですよお、眼鏡で」
「一番に挙げる要素じゃないだろそこ」
 明くんから入ったそんな突っ込みは一見ごもっともでしたが、でもよく考えると二番以降ならいいの? とか、そもそも格好良いという部分については否定しないんだねとか、まあ、そんな余計な茶々を入れる程度の隙があったりもするのでした。
 岩白さんのお姉さん。僕もちょっとだけ会ったことがありますが、まあ確かに眼鏡でしたし、同じく確かに格好良いと評するのも分かるような雰囲気は放ってらっしゃいました。あれで同い年なんだよなあ、と思うと余計に。
「眼鏡……というと……」
 そう言って音無さんが視線を向けた先には、諸見谷さん。眼鏡の女性であるということならば、彼女もまたそれに当て嵌まるのです。――と、わざわざそんなふうに言うほど希少なケースでもないんですけどね。
「諸見谷さんも……格好良い人ですよ……」
「ほう! それは親しみが湧きますね!」
「あきらかに眼鏡ってのも含めて言ってるけど、眼鏡重要視し過ぎだろお前」
 とまあ、それはともかく。
 もし一貴さんと諸見谷さん、そして同森さんと音無さんがこのまま結婚まで、ということになると、諸見谷さんは音無さんから見て義理の姉、つまりはお義姉さんということになるんでしょうか。ううむ、それはなんとも感慨深い――という感想は果たして正しいのか否か。
 ……重ねてそれはともかく。
 まあ、全員揃って手を合わせて「いただきます」な場所でもないので、席につき次第各員思い思いに食べ始めています。
 ということで。
「えー、皆さん」
 自分の席に戻った僕は、実は減っていないちくわに手を付ける前に、お集まりいただいた皆さま方へ向けて呼び掛けました。
「この都度わたくし、無事喜坂栞さんと結婚いたしました」
『おー』
 やはり見え見えの結果だったのでしょう、その歓声には祝福こそ見えども驚きは含まれていないようでした。これについては僕の手抜かり――ですが、それで喜ぶのも結局は僕なので、あまり気にしないでおきましょう。
 ちなみに、拍手の方はそりゃもう惜しみないものが頂けたのでした。他のお客さんの視線を集めることにはなってしまいましたが、それもやっぱり気にしないでおきましょう。
「えー、それに際しまして、栞も『喜坂』から『日向』を名乗ることになりましたので、その旨、宜しくお願い致したく存じ上げますです」
 すると、もう一度拍手と歓声が。
 いや、なんかこう、感激ですねやっぱり。
 ――さて、見え見えな結果報告ではありましたが、しかしそうは言ってもこんな報告をしたならやっぱりいろいろと質問が飛んできます。住む所はどうなったのかとか、両親とはどうだったとか、心境に変化はあるかとか。
 それら諸々に答えてみるにどうも女性陣のほうが関心が強そうというか、特には異原さんと霧原さんが僕が何か言う度キャーキャー言ってたりなんか。
 もちろんそれは話への関心もあってのことなのでしょうが、どうもこのお二人、気が合うようなのでした。知り合ったのはついさっきだというのにえらく仲がいいというか。
 ……気が合う、ということであれば、確かにそれぞれの彼氏に対する態度なんかは似通っているところもあるような気がしますけど、そうなると今度はその彼氏であるお二人が少々可哀想に思えてきたりしないでもありません。もちろん要らんお世話なんでしょうけど。
 それはともかく。
「にしても、意外っちゃ意外だよねえ。失礼かもしれないけど」
 どうやら質問ではなさそうなその言葉を発したのは、やはり女性陣から諸見谷さんでした。もちろんそれは僕の話なのでしょうが、はて、意外とは?
「偶然――ってのはちょっと違うような気もするけど、まあともかく、今ここにいるのって彼氏彼女の集まりなわけでしょ?」
「ですね」
 それを気にして明くんが岩白さんをわざわざ呼び付けた、なんてこともあって。
「一番乗りで結婚まで漕ぎ着けたのが日向くんってねえ。例えば、年だけで言うなら私と一貴が一番上なわけだし」
「あー」
 失礼かもしれないけど、なんて前置きがありましたが、とんでもございません。言われてみれば自分でもそう思います。
 そうしなければならなかった事情を考慮しなければ、という話ではありますけど。
「まあその、できるだけ早めに一緒になった方がいいような理由っていうのが、一応あったりしまして」
「ほう。……ちなみにそれ、聞かせてもらっちゃって大丈夫そうな話?」
 というのは僕もちょっと、栞がこの場にいないということもあって考えはしましたが、しかしまあその辺はもう大丈夫だろうと。もちろんのこと、大丈夫だからといって何から何まで説明するということでもありませんけど。
 というかむしろ、説明せずに済ませたいことの方がやっぱり多いわけですけど。
「なんせ幽霊なんで、って言っちゃうと霧原さんも巻き込んじゃいますけど、もちろんそこは別の話として――」
 とは言いつつも霧原さんの顔を窺ってみたりする僕なのですが、すると霧原さんは、無言でこくりと頷いてくださいました。有難うございます。
「その辺のいろいろな事情から、栞には支えになる人が必要だったんです。恋人同士、でも何とかならないことはなかったんですけど、そこで出し惜しみする理由なんてなかったんで、じゃあいっそってことで」
「へー」
 当たり前ながら、省略した部分だらけな説明ではありました。いろいろな事情、というのもそうですし、実は僕の前にも支えてくれる人が――支えてくれていた人がいたということも、言わないでおきましたし。
 その情報自体に問題があるわけではありませんが、あまり言い過ぎると栞が弱い人間だと思われてしまいそうな気がしたのです。そんなことないのは僕が一番――か二番目くらいに――いやいややっぱり一番――よく知っていますし、だったらそんなふうに思われてしまうのは気分が良くないですしね。
 栞は強い人です。心の底から惚れ込んでしまえるほどに。
「私はまだ一度も会った事ないけど、じゃあ喜坂さん、じゃなくて日向さん、幸せなんだろうねえ」
「あはは、だといいんですけどね」
「なら逆に日向くんは?」
「え? 僕、ですか?」
「日向くんは、日向さんからどんなふうに幸せにしてもらってるのかなって。私は、まあこれでも」
 そこまで言った諸見谷さんは、「と、それでも」と言って一貴さんへ視線を向けてから、「女の側の立場だからさ」と続けました。
 ……まあ、一貴さんが女の側ってことは、そりゃもちろんないわけですしね。
「参考までに聞いてみようかなってね。どういうことしてやれば旦那さまを幸せにしてやれんのかってところ」
 言い切ったところで、眼の色が変わったのは他の女性陣。いや、音無さんの眼はもちろんこっちから見えてないんですけど、気迫というか勢いというか。
 ちなみに、それを言った諸見谷さんご自身は一貴さんにじっとりした視線を送りながらにやにやしておられました。他の女性陣とは違った表情ながら、これはこれでやる気充分ってことなんだろうなあ、と。


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