(有)妄想心霊屋敷

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新転地はお化け屋敷 第三十六章 食事 三

2010-08-12 20:44:51 | 新転地はお化け屋敷
「それより成美さん、それに大吾も」
「なんだ?」
「オレも?」
「帰った後の昼ご飯、一緒にどうですか?」
 話題を変えるためにこの話を持ち出したというのもそりゃあ少しはありますが、しかしそれがなくとも訊いておかなくてはならないことなのは変わりません。そんなふうに考えて余念なく自己防衛をしつつ、訊かなくても分かっているに近い返事を待ちます。
「そういうことなら、もちろんお呼ばれさせてもらうぞ」
「オレも」
 しかしまあ訊かなくても分かっているとは言え、考える時間すら挟まずそんなふうに即答されるのは、やっぱり呼ぶ側としてはいい気分です。よかったよかった。
「うし、じゃあ帰るか。……いや、飯食わしてもらえるからとか、そういうわけじゃなくて」
 タイミング的にそう聞こえなくもなかったというのは確かにあるけど、でも大吾、そんなふうに捉える人はあんまりいないと思うよ。買い物が終わってもここに居続ける意味がないのは、誰だって分かってるんだし。
 というわけで、みんな一緒に帰路に就きます。行きとは違って僕の両手が塞がっているので、ジョンのリードは大吾が持つことになりました。
 が、そんな大吾の後方で、
「片方持つよ、孝一くん」
「ああ、ありがとうございます」
 買い物中はサンデーを抱きかかえていましたが、今はもうそうではない栞さん。二つあるビニール袋の一方を持ってくれるらしいので、そのご厚意に甘えることにしました。一応はこっちのほうが軽いかなと思うほうを渡しておきましたが、しかし正直言ってどちらも同じようなものだったりも。
「おお、そうだ」
 栞さんの腕や首から降りたサンデーやナタリーさんが再びジョンの背中に乗っているのと同じく、再び大吾におんぶされている成美さん。なにやら思い付くことがあったようです。
「一度帰ってからになるが、魚を買いに行くか。今日はそいつもいることだし」
 と、ジョンのほうを見下ろしながら。そいつというのは、まあ間違いなく猫さんのことなのでしょう。ジョンの背中が気に入った……のかどうかは分かりませんが、こちらもまた行きと同じく、サンデーやナタリーさんと同じ場所に位置しているのでした。
 ちなみに「一度帰ってから」というのは、成美さんが買い物をするためには耳を出さなければならず、そのためには着替えが必要だからなのでしょうが――。
「それだったら、僕がこのまま買いに行きましょうか? 帰る途中で行ける場所ですよね、いつもの魚屋さんって」
「む? まあ、そうなのだが……。ううむ、買い物を仕事にしているわたしが人に買い物を頼むというのもなあ」
 これが栞さんの庭掃除だったら即座に「それは駄目」と斬って捨てられるところなのでしょうが、しかしまあその違いというのは単に程度だけの差であって、思いそれ自体は同様のものなのでしょう。
「どうにかできるのにどうもしねえってのもアレだし、頼んどきゃいいんじゃねえか。仕事がしてえってんなら、荷物を代わりに持ってやるとかすりゃいいし」
「なるほど、買ったものを持って帰るのも買い物のうちだろうしな。よし、そうしよう」
 そういうことに決まったようでしたが、すると成美さんはもぞもぞと体を動かし、それに応じてということなのか、大吾が成美さんを背中から降ろしました。
「両方はちょっと無理かもしれんが、片方だけ持つぞ。なに仕事の代わりだ、遠慮はいらん」
 片方ずつのビニール袋を持つ僕と栞さん、顔を見合せます。さてどうしたものか。
「じゃあ成美ちゃん、お願いします」
「うむ、頼まれたぞ」
 相談をする前に栞さんが行動に出てしまいましたが、しかしそれは無言のままに考えを察し合えたというようなことではありません。なにせ僕は、察し合わせる考えがまだ纏まっていなかったのです。僕と栞さんのどちらが荷物を渡すかという、単純な問題についての考えではありますが。
「持てそう?」
「なに、これくらい。今でこそ大人の身体になることはできるが、しかしこの身体だけの時からなのだぞ? わたしが買い物を仕事にしていたのは」
 小さい身体に不釣り合いな、大きく膨らんだビニール袋。心配になってしまうのはなにも栞さんだけでなく僕もそうなのですが、しかし成美さん当人からすれば、慣れてしまった状況でしかないようです。
「ふふ、失礼しました」
「なんだったら、意地を張って日向のほうも持ってやってもいいぞ。さすがに少し辛いだろうが、無理だというほどのことでもないだろう」
 確かに今のところはまだ余裕がありそうな様子の成美さんでしたが、しかしいきなり荷物の量が倍になるというのはどうなのでしょうか。――いや、考えるまでもないことですね。
「一つくらいなら自分で持ちますよ。ありがとうございます、成美さん」
「いやいや、礼を言うのはむしろこちらだろう。ありがとう日向、魚屋での買い物のほう、宜しく頼むぞ」
「はい」
「まあ何を買うのか選ばなくてはならんし、わたしもついては行くのだがな」
 選ぶのも僕がやってもいいですけど、と思わなくはないのですが、しかし魚を見る目は魚が好きな成美さんのほうが上でしょうし、それを抜きにしても僕には猫さんの好みは分かりませんし、ということで。
 用事を終えた成美さんは大吾の隣まで移動し、すると栞さんが。
「じゃあ孝一くん、それ持つよ」
「え」
「楽をすべきは仕事を引き受けた孝一くんだろうしね」
 そしてここからはちょっと小声で、
「どっちの袋が軽かったかって言ったら、私が持ってた方だったんじゃない? まあ想像なんだけど」
 今こちらの袋を持とうとするならどうして成美さんに自分の袋を渡したんだろう、と思わないでもなかったのですが、しかしなるほど、僕の思考を読んでのことだったようです。袋の重さに差があるなら、そこで重いほうを彼女に持たせたりはしませんもんね、やっぱり。
「でもまあ実際のところ、どっちのほうが軽いってほど重さに差があったかどうか」
「ってことは、軽いほうを持たせようとはしてくれたわけだよね? こっちかなって程度の差だったかもしれないけど」
「まあ、それはそうですけど」
 本当のことなので認めざるを得ないわけですが、しかし栞さんはへへっと笑ってみせ、それに続いて「ありがとう」とまで。でも正直――謙遜とかそういうことでなくこれぐらいは当たり前のことなんでしょうし、なので僕はその程度のことでお礼を言われたことが照れ臭く、どうにもそのお礼に対して言葉を返せなくなってしまうのでした。
 言葉は返せませんでしたがしかし、それ持つよと言われたビニール袋だけは、素直に手渡しておきました。

「さあ、着いた着いた」
 成美さんが疲れから解放されたかのような気持ちのいい声で言いますが、しかし何も自宅に着いたというわけではありません。ならば何処に着いたかというと、魚屋さんです。
「毎度毎度、嬉しい悲鳴だな。この中から一匹を選ばなくてはならないというのは」
 並べられている魚に目を通しながら、誰にともなく語り始める成美さん。店の人の目の前なので僕がそれに返事をするわけにはいかないのですが、確かに魚が好きな成美さんからすれば、この魚がずらりと並べられている光景は宝の山に見えることでしょう。食べることはあるにしても特別に魚が好きだというわけでもない僕からすれば、大量の氷のおかげで空気がちょっとひんやりしてるかな、という程度の場所ですけど。
 ちなみに成美さんに返事をするわけにはいかない僕ですが、しかし執拗に成美さんの後を追って動いています。なんせ、成美さんが買う魚を決定するまでボーっと突っ立っているというのは、店の人からすれば不自然にも程があるからです。買う気あんのかこいつってなもんです。もちろんあるんですけど。
 で、買う気がある素振りを見せている客に対して、ならば店の人は話し掛けてくるわけです。
「お兄ちゃん、あのアパートの人だね? ほら、あっちのほうの」
 魚屋さんの店員と言えばまず思い付くのはおじさんでしょうが、しかしこの店の場合は、おばさんなのでした。珍しいような気もしますが、しかしどうして珍しいのかどうかはよく分かりませんし、ならば実際のところ、あまり珍しいことでもないのかもしれません。
 それはともかく。
「あっちのほうの……えーと、はい。そうですけど」
 おばさんが指差した方角には、確かにあまくに荘が。もちろんその延長線上に別のアパートがあったりする可能性もなくはないですが、まあそこまで考慮する必要はまずないでしょう。
「でも、なんで分かったんですか?」
 一度もここに来たことがないというわけではありませんが、しかしだからと言ってその時にわざわざ「あまくに荘の住人です」なんて自己紹介をしたわけでもありません。当たり前ですけど。
 あまくに荘の評判が宜しくないことが頭によぎってか、声が若干緊張を孕んだものになってしまいましたが、しかしおばさんは全く気にした様子もないまま言いました。
「その大人しいワンちゃん。時々、真っ白で綺麗な女の子がウチで買い物をしてくれる時に連れてるのよ。で、その女の子があそこに住んでるっていうから」
「ああ」
 その大人しいワンちゃん、というのは当然ながらジョンのことで、真っ白で綺麗な女の子というのは、ならばこちらも当然成美さんのことでしょう。成美さんはもう何度もこの店を利用しているわけですから、世間話からそういう話題になったことがあるということでしょうか。自分が何処に住んでいる、という。
「でも最近、その女の子が来なくなっちゃってねえ。代わりに――お姉さんか、お母さんかしら? その女の子がそのまま大きくなったような美人さんが来るようになったんだけど、女の子のご家族の方なのかしら、やっぱり」
 ……まあ、確かに気になって当然のことなのでしょう。しかし今時だと、同じアパートに住んでいるからと言って必ずしも住人同士に交流があるわけじゃあ――って、同じ犬を連れて歩いてる時点でそれはないか、普通に考えれば。
「姉だ、姉」
 低い位置から声がしましたが、もちろんそれは成美さん。そういうことにしておけ、ということなのでしょう。
「お姉さんです、あの女の子の」
「あら、やっぱりそう?」
 正解して嬉しそうなおばさんでした。が、お姉さんお母さんと二つもの可能性を挙げていたわけですから、それを正解とするのはちょっと卑怯のような気もします。
「お姉ちゃんも妹さんも、凄いのよ? 買っていくのはいつもその魚の中で一番新しい魚でねえ。ご両親が魚を扱ってたりするのかしらねえ、ウチみたいに」
 そりゃ驚きです。いや、僕も初めて聞いたんで、割と真面目に。
 そんな僕の隣では、成美さんが「日向、今日はこれと――あとこれにするぞ」とそれぞれ別の種類の二匹を指差していました。ではこれらも、同じ魚の中では一番新鮮なものだったりするのでしょうか?
「えーと、これと――これも、ください」
「……お兄ちゃんも魚扱ってる人?」
「いえいえ」
 やっぱりそのようでした。

「なんで姉だったんですか?」
 魚屋での買い物を終え、そこからあまくに荘に着くまでのそう長くない時間。あまり取り立てることでもないような質問ですが、まあちょっと気になったので尋ねてみました。
「前に同じことを訊かれた時、姉だと答えていたからな。答えが違ったら不自然だろう、やはり」
 なるほど。考えてみれば、僕に訊いてきたことを成美さん本人に尋ねないでおく理由もないですしね。
 しかし、です。成美さんに尋ねて返事もあったというのに、それでも僕に同じことを尋ねてきたというのは。
「疑われてたんですかね、やっぱり」
「ははは、まあ見掛けの年齢以外は瓜二つだからな。それでまさか同一人物だとは思わんだろうが、気になるくらいのことはあるだろうさ」
 そりゃあ、僕だって同じような状況に立ったら同じような行動に出たかもしれませんけど。なんて思っても悶々としたものが心に浮かぶ中、「それに」と成美さんは続けました。
「あまくに荘に住んでいる者、だしな。いろいろと怪しまれるのも仕方がないさ」
 ……今回のことに限らず、みんなは周囲からのそういう扱いを平然として受け止めている。でも僕は、どうしてもそうはなれないんだよなあ。毎回。
「不満そうだねえ、孝一くん」
 僕の顔を覗き込むように腰を折り曲げながら、そう栞さんが声を掛けてきました。しかしそれもまた成美さんと同じく平然とした――どころか、むしろ楽しそうな顔ですらあり、となると僕はこう言わざるを得ないわけです。
「いや、そういうわけじゃあ」
 みんなが何とも思ってないのに僕だけ不満を募らせたって、そりゃあ無駄骨ってやつなのでしょう。みんなにとって問題でないものを、勝手に問題としているだけなのですから。
「オレ等からすりゃありがてえことなんだろうけどな。そういう顔されるっつうのは」
 集団の先頭を歩いている大吾が、こちらを振り返ることなくそう言いました。
 俺等。と、僕。別々のグループとして扱っているように聞こえるけど、実際にもそのつもりで言ったんでしょう。幽霊とそうでない人、ということで。
「こういう話になる度に嫌な気持ちになって欲しいってわけじゃないけど、これからもそんなふうに思ってくれると嬉しいかな、やっぱり」
 というふうにこの話題は栞さんが締め括り、締め括りというからには、その後は誰も何も言及しませんでした。――いや、何も言えなかったというわけでもなければ何も言わなかったということですらなく、そのタイミングであまくに荘に着いたというだけの話なんですけど。
 でもまあ、そう言ってもらえて安心できたのも事実なんですけどね。

 さて、ようやっと自分の部屋に到着しました。買い物に行って帰ってきただけなのに、なんでまたこう疲労が溜まっているのでしょうか。
 僕がいらんこと考え過ぎたからですね、はい。
「で、結局お昼ご飯の献立が決まってないんだけど、どうする?」
 だったら何も考えないでおこうと思った矢先、栞さんから考えなければならない事案がもたらされました。もちろん、もたらされなくとも行き着くところは同じだったんですけど。
「どうするー? ジョン、今頃気持ちよくなってるんだろうなあ」
 サンデーがそれに続きます。そして栞さんとサンデー以外、大吾と成美さんとナタリーさんとジョンは、202号室でジョンの毛繕い中なのです。料理ができるまでは待つだけですしね、今の時点でこの部屋に来てもらっても。
 では栞さんはともかくサンデーがなぜここにいるのかといいますと、まあ、あの話です。彼の目の前で卵とか鶏肉とか扱っちゃってるけどどうなのっていう。
「献立を決める前に、話をしてもいいかな」
「お話?」
「……内容によっては、さっき買った鶏肉を唐揚げにでもさせてもらうよ」
 悪足掻き、というわけではないけど、なんとも底意地の悪い言い方になってしまった。サンデーは鶏肉を使うことは何とも思っていないようなので、それを底意地が悪い言い方だとは捉えないのかもしれないけど。
 話をすることについて、サンデーから不満の声は出なかった。だからといって賛成の声が出たわけでもないけど、まあ、問題ないということなんだと思う。するとそこへ、
「私はどうする? 外したほうがいい?」
 栞さんからそんな質問。僕としては初めから一緒にいるものだと決め付けていたけど、しかしどうやら栞さんは――というか僕以外のみんなは、今回のような話を既にしたことがあるようだったので、ならば確かに栞さんは、一緒でなくともいいということなる。
「んー……いや、できたら一緒に話をしてもらえると」
 今回のような話を既にしたことがある、ということで話し相手としてはサンデーと同等だという点から、しかし一方でサンデーと一対一で話をするのに怖気付いたという点もあって、そうお願いすることにしました。
「サンデーはそれでいい? 私が一緒でも大丈夫?」
「え? うん。大丈夫じゃない理由が思い付かないし」
「ありがとう」
 というわけでサンデーに快く了承された栞さんでしたが、「うーん、何がありがとうなのかもよく分かんないや」と、お礼の言葉にすら首を傾げるサンデー。彼にとっては、ひたすら重要性と重大性のない話題らしいのでした。
「なんでなの? 喜坂さん」
「ふふ、それは秘密」
「孝一くんとお話できるから?」
「……鋭いなあ。まあ、それで正解ってわけでもないんだけどね。惜しいってところかな」
 もしも僕と栞さんの立場が逆だったら、僕も栞さんと同じような対応をしていたでしょう。なんでかといいますと、さっきのあれです。重要性と重大性のある話だからです。だからこそ同席を遠慮すべき、という話になる場合だって往々にしてあるんでしょうけど。
 ――というわけで、「お話」の陣を組みます。栞さんと、その膝の上に座ったサンデー。その二人と僕が向かい合って、僕だけが一方的に後味の悪い思いをしている話題が開始されました。
「えーと……どう切り出せばいいのか」
 この座談会を持ち掛けた側のくせになんとも軟弱ですが、そんなことを言いながら僕は頭を掻いてみせました。無論、サンデーが全く気にしてないというのは分かってるんですけども。
「まあ、そうなっちゃうよねえ」
 苦笑しながらそう言ってきたのは栞さん。さてその苦笑が僕の情けなさに向けられたものなのか、それともその台詞から推測される「栞さんもそうだった」ということに向けられているのか、気になるところではありました。気になっただけで済ましてはおきますけど。
「サンデーは、私達が鶏を食べてても何とも思わない?」
「思わないよ?」
 僕が言い難く思っていたことを栞さんが代わりに尋ねてくれましたが、それに対するサンデーの返答は躊躇いもなければ、それ以前に返事を考える時間すらまるで挟まないのでした。
「当たり前のことでしょ? お腹が空いたらご飯を食べるって」
「まあ、そうなんだけどね」
「多分、ボクが鶏だってことを気にしてるんだとは思うよ。だいぶ前にもそんな話、したと思うしね。孝一くんはその時まだここに来てなかったけど」
 話の中身に踏み込んだ。――となれば、これ以上栞さんに頼るのは駄目だろう。理屈を語るまでもなく、単純に駄目なのだろう。
「サンデー自身が鶏だってことを考慮に入れても、やっぱり僕達が鶏を食べるのって、サンデーからすると何ともないことなの?」
「孝一くん、そんなこと言ってたら何も食べられないよ?」
「…………」
 そりゃあまあ、そうなんだろうけど。
「うーん、そうだなあ。……例えばね孝一くん、さっき、魚屋さんで買い物したよね? 哀沢さんに頼まれて」
「したね」
「おじいちゃんおばあちゃんのお家にはね、魚もいたんだよ。もしかしたらボク達の中に魚がいてもおかしくはなかったわけだけど、もしそうなったら孝一くん、その魚さんにも今みたいな話をするのかな」
「するだろうね、多分」
 今のサンデーと全く同じ状況だ。だったら、対応もまた同じであって然るべきだろう。話の流れから、サンデーは「それはおかしい」と言おうとしていることは分かっていたけど。
 そしてその想像通り、サンデーの口から次に出てきたのは「それはおかしい」の内容。
「そうなったら、チューズデーとウェンズデーはどうしたらいいのかな。こうしてくっ付いてるならずっと一緒にいるわけだけど、じゃあ、ずっとその魚さんに謝らなきゃいけないのかな。魚を食べてごめんなさいって。それに、魚さんはチューズデーとウェンズデーを嫌いにならなくちゃいけないのかな。よくも魚を食べたなーって」
 チューズデーさんとウェンズデー。前者は猫で、後者はペンギン。どちらも、魚が大好物だ。
「…………いや、それは」
 明確な理由があるわけじゃないけど、それは違うような気がする。自分の意見と矛盾した話だとは分かっていても。
「だったら孝一くんもそれと同じだと思うよ? もちろん、ボクはその魚さんと同じだし」
 それを言われると、もう僕は反論ができない。こんな当たり前とも言えるような理屈で完封されるとなると、そもそもどうしてあんな疑問を持ってしまったんだろうとすら。
「ねえ孝一くん、ちょっと思ったんだけど」
「な、なに?」
「孝一くんがボクと友達になってくれたのって、ボクが鶏だからってわけじゃないよね?」
「え? ええと」
 質問の意味を考えるのに数瞬、その後どうして今こんな質問が出てきたのかを考えるのにもう数瞬。しかし結局、前者については聞いたまま、後者については分からないまま、答えなければ間が保たない段階に。
「うん、そのつもりだけど」
「じゃあ初めからボクには関係がないんだよ、孝一くんが鶏を食べるかどうかって。もしボクが鶏じゃなくても、孝一くんはボクと友達になってくれたんでしょ?」
 理屈の上では、確かにその通り。……だけれど、そこまで理屈の通りに割り切れるものだろうか? いや、サンデーの場合、割り切るとか以前に初めからそう考えてるみたいだけど。
「あとね、これは前に同じ話をした時に思ったことなんだけど」
 口に出さない僕の疑念など話題になるわけもなく、サンデーの話が続きます。同じ話をした時、ということで、栞さんも興味を引かれたようにサンデーを上から見下ろしていました。
「人間って、人間が他の動物に食べられちゃうことに慣れてないよね、多分。だからそんなことが気になっちゃうんじゃないかなあ」
 慣れとかそういうことでどうにかなるのものなんだろうか、それって。――という考え自体、サンデーに言わせれば「人間らしい」ものなのかもしれないけど。
「ああでも、そんな人間っぽい不安のことでボク達のことも心配してくれるっていうのは、孝一くんが優しいからなのかもしれないね」
 僕に限らず誰だってそうなるんじゃないか、と思う。ただ、「人間以外の生き物と友達になる」というなかなか高いハードルを越える人っていうのが、そもそもそんなにいないんだろうけど。
 ……その点僕は、しっかり友達になっているわけで。そしてそんなふうに「友達になった」と断言するからには、「人間はこう考えるから」というものを押し付けていてはいけないんだろう。
「だからボク、文句は言わないよ? 優しくしてもらえるっていうのは嬉しいもんね、やっぱり。それでも、ボクが孝一くんみたいな考えかたをしないっていうのは変わらないけど」
 それに良いか悪いか以前の話としてこう言ってもらえているわけだし、ならば理屈のうえでの「するべきか否か」よりは、友達に向ける心情としての「したいかしたくないか」のほうが優先度は上だろう。僕は僕の勝手な心配をサンデーに押し付けたくないし、サンデーの考え方を受け入れたい。
「じゃあ、サンデー」
「なに?」
「お昼ご飯、鶏の唐揚げにしても問題ないかな」
「うん。問題なんてないんだしね、初めから」
「あとサンデー、もう一つ」
「なに?」
「抱っこしていい?」
「うん、いいよ? こっちもやっぱり問題なんてないしね」


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