あの「一風堂」が博多限定の特別店舗として営業していた「五行」がこのたび東京に進出した。「東京一週間(TRY本)」にも大々的に採り上げられている期待の新星である。場所は、西麻布交差点から青山墓地の方に向かって歩き、星条旗通りに入ってすぐの右手である。乃木坂からであれば、少し歩くことになるが星条旗通りの出口にほど近い左手に位置することとなる。
店の外観は、西麻布の一角を飾るに相応しい洒落た中華レストラン又は居酒屋風の佇まいであり、内装も、赤を基調としながらも木材の材質を随所に活かした上品なもの。適度な清潔感があって好感が持てる。
本格的な居酒屋としても使える店を目指しており、お品書きは「締めの一杯」としてラーメンを薦めている。このような、いわゆる多種多様な方面に触手を伸ばしている店は、概してラーメンの味そのものが良くないのであるが「五行」はどうなのだろうか。いささか不安になりつつ、お品書きに目を通す。
ラーメンのメニューは「焦がし醤油」「焦がし味噌」「塩」「つけ麺」の4種類。「醤油」「味噌」「塩」「つけ」が全て揃っている店は多いようで、案外少ない。美味いとされる店に限れば、ごくごく少数なのではないか。「醤油」と「味噌」、「醤油」と「塩」の組み合わせはしばしば見かけるが、3種類すべてを作る店は少ない。数多くの種類のスープを作るのは手間がかかる作業である。限られた時間で3種類のスープを作ろうとすれば、どうしても作業が雑になってしまうおそれがある。以上の理由により、作るラーメンの種類はせいぜい2種類までといった店が多くなってくるのだ。この店はそれに加えて「つけ麺」まで揃えている。これで本当に鑑賞に堪えうる味が出せるのだろうか。あまりにも、多方面に触手を広げすぎているのではないか。
そのような疑問を抱きながらも、まずはデフォルトからということで、酒類には目もくれず、「焦がし醤油」の大盛りを味付け卵入りで頼んだ。
ちなみにこの店、「焦がし醤油」「塩」は700円で、「焦がし味噌」「つけ麺」は800円である。味付け卵、メンマのトッピングが可能であり、それらはそれぞれ100円。チャーシューのトッピングは300円(3枚チャーシューが追加される)。
特筆すべき事項として、半盛りにしても大盛りにしても普通盛りと値段が変わらないことがある。最近になって、大盛り無料のサービスを提供する店も増えてきたが、「半盛り」という概念を導入している店は非常に珍しい。酒のつまみとしてのラーメンを強く意識した戦略であろう。ラーメン以外のメニューを食べ、酒を飲んだ後に締めでちょっと麺を啜るのであれば、半盛りであっても別段奇妙なことはない。
さて話を戻すと、まずは「焦がし醤油」の大盛りを味玉入りで頼んだ。それに加え、とある意図をもって沖縄料理の「ミミガー」も頼んだ。
数分後出てきたラーメンは、ほとんど漆黒に近いスープに焦がしネギが浮いたいかにも曲者といったビジュアルだ。チャーシューは、普通の大きさのものが一枚。卵が1と1/2個載っている。つまり3/2個載っていることになるのだが、1/2は半熟の温泉卵風、それ以外の1/2×2はゆで卵に近い固茹でとなっている。これは面白い工夫だと思った。おそらく、デフォルトで付いてくる卵が温泉卵、オプションで頼んだ味付け卵が固茹でになっているのだろう。つまり、デフォルトとオプションで卵の種類が違うのだ。しかし温泉卵が主流となっている御時世で、ただのゆで卵風の味付け卵に100円の価格設定は、いささか割高感が強いと思わざるを得ない。
次いで、スープを観察する。ほう、この方法を採用しているのか。漆黒のスープに焦がしネギ。ビジュアルだけを見れば熊本ラーメン風に見えなくもないが、敢えて分類を試みるとすれば旭川や室蘭のラーメンに近いのではないか。もしくは、永福大勝軒系。湯気が立っていない。ぶ厚いラード油の膜がスープの上を被るような形で覆っており、これによりスープの熱が外に逃げることなく、最後まで熱々のまま食することができる。永福大勝軒系を除けば、どちらかと言えば、極寒の地方に多い作り方である。
スープを一口啜る。濃厚でクセの強い醤油の味が口の中いっぱいに充満する。醤油とはいえ、決してしょっぱいような代物ではない。単調な味わいでもない。むしろ、甘みが強くそれでいて若干の苦みも含有する重層的な味だ。甘美であると言っても良い。表層を覆うラード油が濃厚なスープに適度な奥行きを与え、絶妙なアクセントとなっている。全体としてはビジュアルから受けるイメージほどのコッテリ感はなく、どちらかと言えばあっさり系に属するスープ。完成度は極めて高い。最初に店のメニューを見た時に抱いた懸念は一瞬で吹き飛んだ。
麺は細麺ストレート。本家の「一風堂」よりも若干太めの麺を用いている。このような系列のスープにストレート麺を用いるケースは珍しい。麺がうまくスープを絡めとるように、麺の若干の縮れを持たせるケースが大半なのであるが、あえてストレート麺を用いているようだ。
そのため、麺だけを箸ですくい上げて食べると麺そのものの味わいを、スープをレンゲに掬って麺と一緒に食べればスープと麺のハーモニーを、心ゆくまで堪能することができる。一粒で2度美味しい仕組みだ。今回は初回の実食になるので、麺硬め指定などは行わなかったが、デフォルトで注文しても若干硬めに茹で上げられる麺は、十分に芯が残っており食感も抜群。麺に臭みも全くなく、非常に好感が持てる。
私は、いつの間にかスープの最後の一滴までをも完食してしまっていた。持論になるが、真に旨いラーメンとは、食べ進めていくうちに麺とスープが同じような割合で減少していき、最終的にはほぼ同時にゼロとなるものと考えている。そのような意味においては、この焦がし醤油ラーメンもまさしく真に旨いラーメンに属するものであり、十分にオススメに値すると思う。
ただ、難を言えば具が凡庸である。特にチャーシュー。九州エリアのラーメン屋に共通する特徴として、総じてチャーシューの質が悪いことがある。ここ「五行」のチャーシューも御多分に漏れず、あまり上手く調理されているとは思われなかった。人によっては気にならない程度なのかも知れないが、臭みも若干あるような気がした。
採点は、麺:12点、スープ:18点、具:2点、バランス:9点、将来性:8点の計49点。
「焦がし醤油」について言えば、西麻布、六本木エリア一帯ではトップ・クオリティに近い逸品であると確信する。麻布十番を含めても、ほぼ敵なしのレベルなのではないか。このエリアに立ち寄られた際には是非食していただきたい。
続いて、口直しに「ミミガー」の小皿を食べた後、満を持して「塩」を頼んだ。連食である。ミミガーは醤油の味を消し、改めて塩に臨むために注文しておいたものなのだ。隣客の女性2人組が目を丸くし、店の女性スタッフも少し驚いたようだったが、ラーメン課長たる私にとってはそれ程珍しい行為でもない。
出てきたラーメンは「焦がし醤油」とは打って変わって、透明感の高いスープが爽やかな、いかにも「締めの一杯」といった感じのもの。
「塩」については、2種類の麺を選択することができる。極細麺と平麺である。私は平麺をチョイスしたが、スープの中を若干分量少なめの平麺が泳いでいるサマは見目も麗しく優雅であり、食欲をそそるものである。
こちらのスープについては、お品書きにもあるとおり、5種類の魚介類をブレンドさせて作ったいわゆる「魚介類系」のスープであり、ニューウェーブ系に通じるものがあると思う。「青葉」や「斑鳩」のスープに塩味を若干加えたような趣である。これら2店よりは、若干味に奥行きが足りないかなあとは感じるものの、一般的には取り立てて気になるようなレベルではない。清涼淡泊な味わいで、与しやすいあっさりテイストを前面に押し出した佳作。
ストレートの平麺は「こがし醤油」の細麺とは異なり表面積が広いため、スープを非常によく絡める風味高き逸品となっている。こちらももちろん無臭であり、また、茹で加減も良好であるため、食感もすこぶる良い。
ただし、こちらでも具のクオリティに課題を残している。特にチャーシュー。「塩」については、スープそのものに強い味がある「醤油」や「味噌」と比較してスープの味が淡泊になるので、具材のクオリティのゴマカシがきかなくなる。美味い具の長所も不味い具の短所も助長されるわけだ。つまり「醤油」の時に感じたチャーシューのわずかな臭みが、「塩」になるとかなり鼻につくようになるわけだ。
「塩」については、麺:12点、スープ:14点、具:2点、バランス:7点、将来性:7点の計42点。
かなり旨いラーメンではあるが、わざわざ是非という程のものでもない。お好みにもよるが、スープは「焦がし醤油」に軍配が上がるだろう。麺はお好み次第といったところか。具は「醤油」「塩」ともに改善の余地あり。バランスにおいても「焦がし醤油」の方が若干上といった感じかと思う。まだ「味噌」と「つけ麺」は未食であるが、少なくとも「焦がし醤油」と「塩」で迷うのであれば、私は「焦がし醤油」をオススメしたい。
所在地:西麻布
実食日:03年12月
→採点方法について
店の外観は、西麻布の一角を飾るに相応しい洒落た中華レストラン又は居酒屋風の佇まいであり、内装も、赤を基調としながらも木材の材質を随所に活かした上品なもの。適度な清潔感があって好感が持てる。
本格的な居酒屋としても使える店を目指しており、お品書きは「締めの一杯」としてラーメンを薦めている。このような、いわゆる多種多様な方面に触手を伸ばしている店は、概してラーメンの味そのものが良くないのであるが「五行」はどうなのだろうか。いささか不安になりつつ、お品書きに目を通す。
ラーメンのメニューは「焦がし醤油」「焦がし味噌」「塩」「つけ麺」の4種類。「醤油」「味噌」「塩」「つけ」が全て揃っている店は多いようで、案外少ない。美味いとされる店に限れば、ごくごく少数なのではないか。「醤油」と「味噌」、「醤油」と「塩」の組み合わせはしばしば見かけるが、3種類すべてを作る店は少ない。数多くの種類のスープを作るのは手間がかかる作業である。限られた時間で3種類のスープを作ろうとすれば、どうしても作業が雑になってしまうおそれがある。以上の理由により、作るラーメンの種類はせいぜい2種類までといった店が多くなってくるのだ。この店はそれに加えて「つけ麺」まで揃えている。これで本当に鑑賞に堪えうる味が出せるのだろうか。あまりにも、多方面に触手を広げすぎているのではないか。
そのような疑問を抱きながらも、まずはデフォルトからということで、酒類には目もくれず、「焦がし醤油」の大盛りを味付け卵入りで頼んだ。
ちなみにこの店、「焦がし醤油」「塩」は700円で、「焦がし味噌」「つけ麺」は800円である。味付け卵、メンマのトッピングが可能であり、それらはそれぞれ100円。チャーシューのトッピングは300円(3枚チャーシューが追加される)。
特筆すべき事項として、半盛りにしても大盛りにしても普通盛りと値段が変わらないことがある。最近になって、大盛り無料のサービスを提供する店も増えてきたが、「半盛り」という概念を導入している店は非常に珍しい。酒のつまみとしてのラーメンを強く意識した戦略であろう。ラーメン以外のメニューを食べ、酒を飲んだ後に締めでちょっと麺を啜るのであれば、半盛りであっても別段奇妙なことはない。
さて話を戻すと、まずは「焦がし醤油」の大盛りを味玉入りで頼んだ。それに加え、とある意図をもって沖縄料理の「ミミガー」も頼んだ。
数分後出てきたラーメンは、ほとんど漆黒に近いスープに焦がしネギが浮いたいかにも曲者といったビジュアルだ。チャーシューは、普通の大きさのものが一枚。卵が1と1/2個載っている。つまり3/2個載っていることになるのだが、1/2は半熟の温泉卵風、それ以外の1/2×2はゆで卵に近い固茹でとなっている。これは面白い工夫だと思った。おそらく、デフォルトで付いてくる卵が温泉卵、オプションで頼んだ味付け卵が固茹でになっているのだろう。つまり、デフォルトとオプションで卵の種類が違うのだ。しかし温泉卵が主流となっている御時世で、ただのゆで卵風の味付け卵に100円の価格設定は、いささか割高感が強いと思わざるを得ない。
次いで、スープを観察する。ほう、この方法を採用しているのか。漆黒のスープに焦がしネギ。ビジュアルだけを見れば熊本ラーメン風に見えなくもないが、敢えて分類を試みるとすれば旭川や室蘭のラーメンに近いのではないか。もしくは、永福大勝軒系。湯気が立っていない。ぶ厚いラード油の膜がスープの上を被るような形で覆っており、これによりスープの熱が外に逃げることなく、最後まで熱々のまま食することができる。永福大勝軒系を除けば、どちらかと言えば、極寒の地方に多い作り方である。
スープを一口啜る。濃厚でクセの強い醤油の味が口の中いっぱいに充満する。醤油とはいえ、決してしょっぱいような代物ではない。単調な味わいでもない。むしろ、甘みが強くそれでいて若干の苦みも含有する重層的な味だ。甘美であると言っても良い。表層を覆うラード油が濃厚なスープに適度な奥行きを与え、絶妙なアクセントとなっている。全体としてはビジュアルから受けるイメージほどのコッテリ感はなく、どちらかと言えばあっさり系に属するスープ。完成度は極めて高い。最初に店のメニューを見た時に抱いた懸念は一瞬で吹き飛んだ。
麺は細麺ストレート。本家の「一風堂」よりも若干太めの麺を用いている。このような系列のスープにストレート麺を用いるケースは珍しい。麺がうまくスープを絡めとるように、麺の若干の縮れを持たせるケースが大半なのであるが、あえてストレート麺を用いているようだ。
そのため、麺だけを箸ですくい上げて食べると麺そのものの味わいを、スープをレンゲに掬って麺と一緒に食べればスープと麺のハーモニーを、心ゆくまで堪能することができる。一粒で2度美味しい仕組みだ。今回は初回の実食になるので、麺硬め指定などは行わなかったが、デフォルトで注文しても若干硬めに茹で上げられる麺は、十分に芯が残っており食感も抜群。麺に臭みも全くなく、非常に好感が持てる。
私は、いつの間にかスープの最後の一滴までをも完食してしまっていた。持論になるが、真に旨いラーメンとは、食べ進めていくうちに麺とスープが同じような割合で減少していき、最終的にはほぼ同時にゼロとなるものと考えている。そのような意味においては、この焦がし醤油ラーメンもまさしく真に旨いラーメンに属するものであり、十分にオススメに値すると思う。
ただ、難を言えば具が凡庸である。特にチャーシュー。九州エリアのラーメン屋に共通する特徴として、総じてチャーシューの質が悪いことがある。ここ「五行」のチャーシューも御多分に漏れず、あまり上手く調理されているとは思われなかった。人によっては気にならない程度なのかも知れないが、臭みも若干あるような気がした。
採点は、麺:12点、スープ:18点、具:2点、バランス:9点、将来性:8点の計49点。
「焦がし醤油」について言えば、西麻布、六本木エリア一帯ではトップ・クオリティに近い逸品であると確信する。麻布十番を含めても、ほぼ敵なしのレベルなのではないか。このエリアに立ち寄られた際には是非食していただきたい。
続いて、口直しに「ミミガー」の小皿を食べた後、満を持して「塩」を頼んだ。連食である。ミミガーは醤油の味を消し、改めて塩に臨むために注文しておいたものなのだ。隣客の女性2人組が目を丸くし、店の女性スタッフも少し驚いたようだったが、ラーメン課長たる私にとってはそれ程珍しい行為でもない。
出てきたラーメンは「焦がし醤油」とは打って変わって、透明感の高いスープが爽やかな、いかにも「締めの一杯」といった感じのもの。
「塩」については、2種類の麺を選択することができる。極細麺と平麺である。私は平麺をチョイスしたが、スープの中を若干分量少なめの平麺が泳いでいるサマは見目も麗しく優雅であり、食欲をそそるものである。
こちらのスープについては、お品書きにもあるとおり、5種類の魚介類をブレンドさせて作ったいわゆる「魚介類系」のスープであり、ニューウェーブ系に通じるものがあると思う。「青葉」や「斑鳩」のスープに塩味を若干加えたような趣である。これら2店よりは、若干味に奥行きが足りないかなあとは感じるものの、一般的には取り立てて気になるようなレベルではない。清涼淡泊な味わいで、与しやすいあっさりテイストを前面に押し出した佳作。
ストレートの平麺は「こがし醤油」の細麺とは異なり表面積が広いため、スープを非常によく絡める風味高き逸品となっている。こちらももちろん無臭であり、また、茹で加減も良好であるため、食感もすこぶる良い。
ただし、こちらでも具のクオリティに課題を残している。特にチャーシュー。「塩」については、スープそのものに強い味がある「醤油」や「味噌」と比較してスープの味が淡泊になるので、具材のクオリティのゴマカシがきかなくなる。美味い具の長所も不味い具の短所も助長されるわけだ。つまり「醤油」の時に感じたチャーシューのわずかな臭みが、「塩」になるとかなり鼻につくようになるわけだ。
「塩」については、麺:12点、スープ:14点、具:2点、バランス:7点、将来性:7点の計42点。
かなり旨いラーメンではあるが、わざわざ是非という程のものでもない。お好みにもよるが、スープは「焦がし醤油」に軍配が上がるだろう。麺はお好み次第といったところか。具は「醤油」「塩」ともに改善の余地あり。バランスにおいても「焦がし醤油」の方が若干上といった感じかと思う。まだ「味噌」と「つけ麺」は未食であるが、少なくとも「焦がし醤油」と「塩」で迷うのであれば、私は「焦がし醤油」をオススメしたい。
所在地:西麻布
実食日:03年12月
→採点方法について
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