別所沼だより

詩人で建築家 立原道造の夢・ヒアシンスハウスと別所沼の四季。
     

かすかな情感

2009-12-25 | アートな時間

 埼玉県立近代美術館 小村雪岱とその時代   
          2009年12月15日(火)~2010年2月14日(日)

  以前、常設展でご紹介した郷土ゆかりの画家 小村雪岱です
   (1887明治20年川越市~1940昭和15年、東京都千代田区)。 
  彼のモダンで繊細な作品が好きだ。  今回は、 雪岱を中心に橋口五葉の装幀など。 雪岱が夢幻的で清らかな美しさに魅せられたという鏑木清方の「註文帖」(全13点 泉鏡花の小説をもとに制作)と 雪岱の註文帖模写も並んでいる。 紗をかけた贅沢な空間でゆっくり鑑賞できる。
 ほか、 同時代の竹久夢二  岩田専太郎、 志村立美、 小林秀垣らの挿絵など比較しながらみせる。 
  

 私は個性のない表情のなかにかすかな情感を表わしたいのです 
  かすかな趣を浮かび出させたい… 

  これぞ雪岱  雪岱が描く粋で細緻なせかい、 かすかな情感を読み取りたい  

第1章  粋でモダンな東京で-資生堂意匠部時代

マッチラベルの展示はありません

  東京美術学校在学中の習作 「秋海棠図」
  「唐津くんち」 「春昼」 蝶が舞う幻想的な光景

  「香水 菊」 ガラスの香水瓶、瓶のラベルと菊の図案、 デザインは雪岱と確定されている。 アールヌーヴォーやピアズリの影響がみられる。
  「資生堂関係者の集合写真」 
  雪岱は、その絵のように涼やかな顔立ちでうつっていた。

 

  

 

表紙

第2章 「日本橋」
-装丁家・小村雪岱の誕生


  雪岱が憧憬する泉鏡花の小説「日本橋」、 この装丁に始まり鏡花本の殆どの装幀を手がけた。 書籍がたくさん展示されていてうれしい。 

 細緻なること春信に過ぎてゐる     鏑木清方 
 袖の中に入るほどの小形の本… 袖珍本シュウチンボン
  表紙は絹の裏打 木版多色摺りの装幀。 細かいところまで凝っていて 工芸美術のようだった。  念入りに見ておきたい。 
 表紙は 並び蔵に出舟入舟、 乱舞するのは…

 

 

 

 

見返し(表

 駒下駄ならして路地の細道に立ちあらわれる芸者が仰ぐ星空と、 中天にかかる白い月。 蔵の窓から そっと覗いた隣家の青柳、 座敷に置かれた三味線と鼓。
 雪岱のえがく絵は 鏡花えがく小説同様に、すべて羅曼主義の色彩を深く帯びていうにいわれぬ哀愁のはかなさが底に流れ、見るひとの心をうち、他面、
絢爛として華やぎ、美しさは比類もなかった。 「星川清司著 小村雪岱」

見返し(裏   

   
第3章 白と黒の美学-「雪岱調」、挿絵界に新風

  春告鳥  雪岱の美人画 「春告鳥」 

   「見立寒山拾得」 
 ふつうは隠者がふたり ここでは 女性ふたり 落ち葉に筆で 詩でも書いているのだろうか 

  邦枝完二作「おせん」 挿絵 小村雪岱。  昭和8年朝日新聞に連載された時代小説。

  舞台は江戸の明和期、主人公は笠森稲荷境内にある水茶屋の看板娘 おせん。往来で彼女に言い寄る若旦那の徳太郎を振り切っておせんがにげる場面。 頭巾を被っているのがおせん。 桐油合羽トウユガッパ(桐の実の油を引いた紙で作った雨コート)を纏っているのが徳太郎。(美術館絵葉書 解説から)  

 強い雨が降りしきるなかの 緊迫した光景、 雨音は臨場感をさらに盛り上げ、おせんの動悸に重なってくる。  徳太郎 すぐ近くにいるよ
 蛇の目の渦巻 ランダムな配置  強い雨脚… 黒い線描き  余白の美。 モダンなアート。


   青柳 「青柳」  彩色 絹
  これは新派の舞台をみるような心地がする。 
  座敷の奧を俯瞰する、 三味線や鼓が置かれ今しがたまで人がいたに違いない。 春の柳がそよそよ吹かれ、 まもなく主は戻ってくるのでしょう。 留守模様。 どことない寂寥感。

   「雪の朝」


第4章 檜舞台の立役者-名優の信頼を集めて

 「河庄」      
  
    舞台装置原画  「源氏物語 葵の巻」 「すみだ川」


                            

     「一本刀土俵入り」 模型  

  雪岱の挿絵が小説を引き立てるように、 装置やセットが俳優を生かし芝居や映画の雰囲気を盛りたてた。 たとえば背景の松など役者を大きく見せるように構成され俳優の信頼もえた。

 装置考証書留帳… 雪岱は台本を精読し大道具、小道具、衣裳、鬘など内容やそれぞれの人物に合わせ考証をかさねた。  図入り、びっしりと書き込みあり。衣裳のデザイン画など。  

  装置は舞台に隠れてしまうのが最上のもの、 どこまでも背景にならなくてはなりません。それでいて充分に情景が点出しうる技巧が、 装置者の腕であり苦心でありましょう   雪岱

 新派の舞台はTVで。 祖母のかたわらでよく見たものだった。 花柳章太郎の女形に釘付けだった中学生の頃。  雪岱の舞台装置だったか。     

      -☆-

  買い物ついでにあわただしく見たので心のこりだ。  もっと静かに向き合いたい。 心にしみ入るような、 かすかな情趣をていねいに受けとめたい。 

  新春に もういちど。   

  (資料・画像は チラシ 絵葉書 など)  
 メモ  鏑木清方記念美術館    
      曲亭馬琴

  


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