
うっすら雪化粧した別所沼。 あわ雪が解けないうちにと気は急くが、そうもいかない。 やっと昼ごろ出かけた。
ハウスの屋根もまだ積もっていた。 黒々とした春の土も、ところどころ白い。
ふとメロディーが湧いてくる。
紫煙る新雪の… 若い日、 ほそい声で母がよく歌ってた。 いつも明るいひとがしんみりと口ずさむ。 もの悲しい気分になった。
母は立原道造とおなじ大正3年(1914)生まれ。 父は大正4年だ。 姉さん女房とたった6年の結婚生活だった。 両親が、少しだけ道造とおなじ時代を生きた、そう思うだけで胸はいっぱいになる。
むらさきけむる… どこか哀調を帯びたメロディーを、雪を見ると口ずさむ。 子どものころ、あんなにさみしく聞こえたのに。 きょうも歌いながら歩いている。
「新雪」 映画の主題歌・1942年灰田勝彦が歌った。
1.紫けむる 新雪の/峰ふり仰ぐ この心/麓の丘の 小草を敷けば/草の青さが 身に沁みる
2.汚れを知らぬ 新雪の/素肌へ匂う 朝の陽よ/若い人生に 幸あれかしと/祈るまぶたに
湧く涙
3.大地を踏んで がっちりと/未来に続く 尾根伝い/新雪光る あの峰越えて/行こよ元気で
若人よ
白は紫を内包している。 絵を描くとき、ホワイトをいっそう輝かせるために、隠し味にほんの少しブルーを混ぜる。 ますます白く感じられる、 むらさきも煙るように