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戦う者の歌が聞こえるか?~アンジョルラスたち

2013-06-05 20:37:26 | レ・ミゼラブル

本日6月5日は『レ・ミゼラブル』に於いてラマルク将軍の葬儀が行われるさなか市民の暴動が起こり、パリ市内各所にバリケードが築かれた日。原作では、まさに「1832年6月5日」と題した章が設けられています。
市内二十ヶ所くらいに築かれたというバリケードの中の一つ、シャンヴルリー通りの防塞に立て篭って戦ったのが「ABCの友」のメンバーたち。舞台版では、大バリケードのセットと回り舞台をダイナミックに使った演出が見せ場を作っていましたが、現在日本でも上演中の新演出版では、だいぶ趣が変わったようです。
それはともかく、本日はその「ABCの友」の首領アンジョルラスにスポットライトを当ててみます。但し、トップ画像は映画版ですが、中心は舞台やコンサートの話題となります。すみません……


ユゴー先生渾身の萌え描写に彩られた原作アンジョルラスについては、既に御存知の方も多いと思います。
いわく「天使のような美青年」「大理石像」「22歳なのに17歳くらいに見え」「少女のようなみずみずしさ」「小姓のような首筋、ブロンドの長い睫、青い目、風になびく髪、バラ色の頬、みずみずしい唇、きれいな歯」「その曙のような姿」(訳文は新潮文庫版/佐藤朔・訳より)……………
その一方で、強固な信念に身命を捧げる「革命の天使」。まさに「ぼくのかんがえたさいきょうの」ナントカです。
これだけの属性を付与しながらも、アンジョルラスとその仲間たちを「歴史的になりそこなった一団」として、その破滅までを冷徹に描いているのが大作家たる所以かも知れません。

一方、ミュージカル以外の過去の様々な映画化ドラマ化作品で、原作に忠実に描かれたアンジョルラスは皆無に等しいと言って良いでしょう。特に英米での映像化作品では、その役割が一部または殆ど全てマリウスに併合されている場合が多いです。
フランス映画やドラマに於いては、さすがにアンジョルラスやABCにも尺を取っていますが、それでも「天使のような美青年」アンジョルラスには、まずお目にかかったことがありません。
アンジョルラスの外見、役割とも最も原作に近いのが、実は日本のアニメ『レ・ミゼラブル 少女コゼット』だというのも不思議な気がします。

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実はこれ、買ってはあるんですが、つらそうでちゃんと観ていないんですよ……

というところで──



トム・フーパー監督によるミュージカル映画『レ・ミゼラブル』でアンジョルラスを演じた御存知アーロン・トヴェイトさん。
撮影情報を追って、初めて彼のビジュアルを見た時には「随分かわいいアンジョルラスだなあ」と思ったものです(笑)。しかし、映画化作品に於いて原作描写準拠のアンジョルラスはこの人が初めてというのが驚きですね。
ブロードウェイで実績あるスターでありながら、舞台でアンジョルラスを演じたことはなかったアーロンですが、今「アンジョルラス」として最も有名なのはこの人でしょう。但しぶっとんだカリスマヒーローという感じではなく、迷いも焦りもある一人の青年として演じられ、「民衆の歌」の歌い出し辺り特にそれが顕著でした。
友人たちの崇拝を集めて皆を引っ張って行くと言うより、一所懸命でいっぱいいっぱいで、「悲壮」と言うより悲愴感漂い、切なくも痛ましいアンジョルラスでしたが、あの映画に於いてはそれが良かったと思います。

現在アーロンと並んで「アンジョルラス」として名高いのはこの人、ラミン・カリムルーさん。



イラン系カナダ人ながら、ウェストエンドで名を馳せ、史上最年少で『オペラ座の怪人』ファントムに抜擢されるなど、ミュージカル界の次代を担うスターです。日本での人気も高く、今月中旬から彼を含む四人のミュージカルスターによる【4STARS】日本公演も予定されています。
初めて舞台でアンジョルラスを演じたのは2004年ロンドン公演。これで俄然注目を集め、2010年に行われた25周年記念アリーナコンサートのアンジョルラス役にも選ばれました。

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このコンサートのDVDやブルーレイディスクは現在CD・DVDショップで普通に入手可能だし、レンタルで置いてあるお店もあると思いますので、是非ご覧になって下さい。
圧倒的な歌唱力と本人のまとうカリスマ性をそのまま炸裂させたような「熱い」アンジョルラスが見事です。
なおこの25周年コンサートからは、何人もの若い俳優さんたちが映画版にも出演しているので、そちらにも目を向けられると楽しいと思います。

それ以外にも世界各国で様々な人たちが演じて来たアンジョルラスですが、代表的な役者さんとして未だに多くの人が名前を挙げるのが、アンソニー・ワーロウとマイケル・マグワイア。
「アンジョルラス」と言えばまずこの二択と称されるお二人、方やインターナショナル・キャスト、方や10周年記念コンサートに選ばれ、実際の舞台を知らない人たちでも接する機会が多かったから、という理由もあるかと思います。



オリジナル・シドニー・キャスト(1987)にしてコンプリート・シンフォニック・レコーディング盤(インターナショナルキャスト)にも選ばれたアンソニー・ワーロウ様。
元々オペラ歌手でもあり、本当に「様」を付けてお呼びしたくなるほど豊かな声量と歌唱力のアンジョルラス。ご覧の通り顔立ちもギリシャ彫刻みたいに端整で、高貴ささえ感じさせるほどの美貌です。この二点に於いてはまさに「神が与え賜うた」という表現が相応しいと思います。
でも、これ学生運動のリーダーじゃないでしょ?むしろ国軍の司令官じゃないの?と言いたくなるくらいの威厳とカリスマ感に満ちて、この人こそがベスト・オブ・アンジョルラスとの呼び声も高いです。

というわけで、昨日もご紹介した1989年シドニーでのコンサート映像より「赤と黒」そして「民衆の歌」を。



画質音質はともかく、ワーロウ様のアンジョルラスがどういうものであったか窺い知ることは出来ると思います。
が──
アンジョルラスはさておき、他のABCメンバー及びマリウスの、本当にこれでいいのか!?と問いたくなるほどの(主に扮装面での)あまりと言えばあまりなへっぽこぶりが……
加えてオーケストラまでもがあちこちへっぽこ。周囲がアレ過ぎて、ちゃんと「グランテール」なグランテール(ニール・メルヴィルさんだと思います)が寧ろマトモに見えて来るほどです。
本当にこのアンジョルラスがいなかったら、一日で崩壊しそうなABC……もしかして、そこらの学生とは別の次元に属するかのような彼の「天使」性を際立たせるための演出だったのかも知れませんが、それにしてもねえ……

というところで、この人。マイケル・マグワイアさん。
1987年のブロードウェイ初演、そして1995年の10周年記念コンサート(TAC)のアンジョルラスです。



彼については、このブログでもツイッターでも他の所でもさんざん書いて来たので、もう聞き飽きたという方もいらっしゃるでしょう。何しろ、今や「マグワイア アンジョルラス」で検索すると、検索結果に自分のツイートやこのブログがズラーッ!と並ぶ有様ですよ……

でも、懲りずに繰り返します。昨日も書きましたが、この人こそが「my Enjolras」です。
声量や歌唱力に於いて彼が一番とは思わないし、実は10周年の頃は既に舞台からも遠離り、更に当時インフルエンザにも罹っていたということで、CD等で聴くBW初演時に較べると本人比で若干の衰えも感じます。

では、何が彼の評価を高めているかと言うと、「アンジョルラス」として完璧だったその演技に於いてだと思います。
実のところ、金髪でない以外は、最も原作アンジョルラスのイメージに近いのがこの人ではないかとも思っています。図抜けた長身、スタイルの良さ、ルックス、美声、雄々しさ、ストイックさ、高潔さ、何より「革命」以外眼中にないようなそのカリスマ性、そしてそのあやうさや或る種の狂気に於いて。
昔はじめてテレビでTACを観た時も、2005年に英版DVDを買った頃も、普通にカッコいいと思ってはいましたが、比較対象が増えた今改めて観直すと、結局彼がいちばん「天使」でした。その無垢と言っていいくらいの清廉潔白さに於いて。また既に「ヒト」の世界に属していない別次元の存在であるかのようなところや、人として何かが物凄く欠落していそうなところも。
まさに鷲の翼を背負い、炎の剣ならぬマスケット銃を掲げた大天使ミカエル。いや、ご本人の名前がそうだから言うわけではなく(笑)。

というわけで、こちらも「赤と黒」そして「民衆の歌」を続けて──





(追記:以前貼った動画が削除されてしまったので、同じナンバーの別動画を貼り直しました。)

このTAC「赤と黒」はマリウス(マイケル・ボール)そしてグランテール(アンソニー・クリヴェロ)とのケミストリーが凄いといつも思います。これについても、機会があれば詳述したいと思っていますが、今はそれより「民衆の歌」について。

アカペラでつぶやく "Lamarque is dead." や、その前の間、そこからタメを作らず一気に「民衆の歌」まで持って行く流れは( "They will come when we ca--ll !!" などの発声はやや苦しげですが)やはりこの人が一番好きです。アダム・サールズくんのガヴローシュがまた素晴らしいですね。
他のアンジョ役者さんたちの歌唱をいろいろ聴いた後でも、ラマルク将軍の死に一応ショックを受けた後、「あ、これ使える」と気づいてからの冷静と狂気の間を一気呵成に突っ走るあたり、その疾走感もあやうさも全部合わせてこの時のマグワイアさんが一番「アンジョルラス」だったと思います。声自体はBW初演時の方が安定していたとしても、そのあやうさが寧ろ好もしくさえ感じられるのは贔屓目が過ぎるでしょうか。
前述したように、既にこの世の人ではなく、殆ど別世界へ行ってしまっているような感じが本当に「革命の天使」です。ヒトの世界とそうでないものの境界を疾走して行く大天使。
というわけで、マグワイアさんの演技は、原作アンジョルラスの「具象化」ではなく、見事な「抽象化」であるというのが、私の見解です。

また、この時の「民衆の歌」については「首領(leader)」アンジョルラスがいったん極限まで達した高揚をグッと抑えながらも力強く歌い始め、「先導者(guide)」コンブフェール(デイヴィッド・バーズリー)が冷静に呼びかけ、「中心人物(center)」クールフェラック(ジェローム・プラドン)が熱く煽り、「民衆」代表としてのフイイ(マット・キャメル)が締める──という流れも、歌唱と言い演技と言い完璧で、なぜこれが「ドリームキャスト」と呼ばれるかということがよく理解できます。ここでグランテールが彼らの歌に加わっていないことにもご注目下さい。
なお後半の映像は、この公演の時のものではなくイメージ映像です。

以前、或る日本のアンジョ役者さんが「アンジョルラス」という役について、「学生たちの熱気の中心にポンと置かれた孤高の鳥」と表現していらっしゃいましたが、ワーロウさんもマグワイアさんも、まさにそういうアンジョルラスだったと思います。
このお二人が今なお代表的なアンジョルラスと評価され、二人で「アンジョルラス」という役のハードルをすごく高く上げてしまったと言われるのも、まさにその「孤高の鳥」感──どこか別の世界からやって来てヒトの中に降り立ったような感じが、ルックスその他の条件も合わせて、おいそれと表現(体現)できるものではないからなのでしょう。

余談ながら、TACも実はワーロウさんが first choice だったけれど健康上の理由だったか他の仕事がはいっていたかで適わず、マグワイアさんに代わった──などと言われる一方、ソースの見当たらない風説に過ぎないとの声もあって、真偽のほどは不明です。
私自身は、この公演のグランテールがBW初演グランテール役のクリヴェロさんだったことからも、当初からセットで選ばれたのだろうと考えています。
どちらが「ベスト・アンジョルラス」かということについては未だ決着がついていない感じですが、あえてお二人を較べるなら、これも以前から言っているように、ワーロウ様が「King of Enjolras」で、マグワイアさんが「THE Enjolras」。または「最高アンジョ」と「最強アンジョ」とでも表現するしかないと思っております。

TACについては、まだまだ書き足りない気持ちなので、これからもまたいきなり長文でしつこく語ることがあるかと思いますが(笑)なにとぞ御寛恕のほどを。
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1 コメント

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Unknown (しかこ)
2013-06-30 01:56:52
プラドン氏を検索していて 初めてお邪魔しました。
6/5はラマルク将軍葬儀だったのですね。
原作はずっと昔読んだきりで、覚えていませんでした。

6/5といえばコルム・ウィルキンソン氏の誕生日!
それだけなのですが コルムファンなので「おおっ」
と深夜に一人でテンション上がったこと、お伝えしたくなりました。

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