Doll of Deserting

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蝶の形成。(捏造侘助+ギンイヅ。アンケートリク)ネタバレ注意!!

2005-08-06 15:32:56 | 過去作品(BLEACH)
*この小説をお読みになる前に、必ずカテゴリーからギンイヅを選択し、「スワロウテイル」をお読みになって下さい。また、この作品は本誌ネタバレを多々含みますのでご注意下さい。

蝶の形成。
 恋次は、霊術院時代、過去に一度だけ侘助の具現化された姿を見たことがある。それはイヅルが初めて斬魂刀を開放した時で、たった一瞬だけ、侘助はその艶やかしい姿を開花させたのだ。しかし恋次は、その時のことを昨日のことのように、今も覚えている。しかし、侘助の姿を見られるのもそれが最後だろうと思っていた。卍解を習得すれば、その姿は人でないものを形成してしまうのだから。
「阿散井君、最近どう?卍解の練習は。」
 書類を取りに六番隊へと訪れたイヅルが、突然聞いてきた。恋次は僅かに一声唸った後、おもむろに答えた。
「どうもこうも…まだ具現化出来ねえからな。」
「はは、大丈夫だよ。僕もまだまだ具現化してくれないから。」
 恋次はそれを聞きながら、まさか、と思う。なぜならば恋次は、既に具現化した侘助を最近目撃していたからだ。というか、侘助は、イヅルが刀の傍を離れる度に具現化しているような気さえする。なぜ主人の前でその姿を晒すことをしないのかと思っていたが、それは決して主人を虐げているわけではなく、むしろイヅルのためにやっていることなのだと気付いたのは、いつだっただろうか。
 故意に姿を見せないのは、イヅルに自分はまだ卍解をする実力を持たないと思わせるためだ。卍解を習得すれば、どこかの隊長がふと失われた時、必然的に所望されることになる。それをさせないためなのだ。彼女達は、イヅルが隊長になることを望んでいないというのをよく知っている。だからこそ、侘助はその姿を精神世界以外の場所で主人の前に晒すことはない。
「お前はいいよな、俺侘助って名前聞いた時ぜってー辛気くせえ顔した男だと思ってたのによ。」
 その予想に反し、実際には美しい女達だった。それほど肉感的な体つきをしているわけではなかったが、男性死神にとって造作の美しい女を斬魂刀として持つことは、至上の贅沢だと恋次は思う。どんな外見をしていようが実力に申し分はないのだが、やはり気持ちの問題なのだ。
「まあ、それはそれで問題があるんだよ。彼女達は気が強いからね。」
「紅はともかく、白はそうでもなさそうじゃねえか。」
「いや、実を言うと白の方がむしろ恐ろしいよ。大人しい人ほど、って言うだろ。」
「ああ、白の方がお前に似てるもんな。」
「…どういう意味かな。」
 にっこりと笑って問いかけてくるイヅルを見ながら、そういうところが、といっそ皮肉を言ってやりたくなる、と恋次は思ったが、何と返されるか分かったものではないので、やめた。恋次には、口でイヅルを負かした経験がない。
 そのまま暫く談笑を交わした後、イヅルは四番隊にも行かなければならないと言い去っていった。恋次は、おそらく三番隊に置いてあるであろう侘助を思い出し、また具現化しているのだろうか、とふと考えた。
                      

 三番隊執務室では、珍しくギンが隊長机に腰を落ち着けていた。手には筆を持ち、さらさらと書類を片付けていく。こういうところを見ると、イヅルは必ず「やればお出来になるのに」と愚痴を零す。確かに、こういう時のギンはイヅルにとって有能な上司でしかない。ギンも霊術院を首席で卒業している身なので、やろうと思えば並以上に仕事は出来る。ただ、それをあえてやろうとしていないだけだ。
 なぜ今日に限ってこうして真面目にしているかというと、わざわざイヅルが斬魂刀を執務室に置いていっているところにある。今ここには、イヅルと同等の、否それ以上の監視がついているのだ。
「…なあ、侘助。そない真面目にイヅルの代わりせんでええんやで?刀置いてどっか行ってもええ。」
『ならぬ。主がおらぬ以上、我等がお前を監視せぬことには、戻った主が困ることになるであろう。』
『理解されましたら、大人しくお続けなさいませ。軽い身体をむやみに重くされたくなければ、ですが。』
 侘助というものは、主に反して恐ろしく強い。芯が強いというところではイヅルも同じだが、特に「紅」に関しては、本当にイヅルの従者かと言いたくなるほどだ。ギンは、厄介な刀持ちよってからに、とイヅルの帰りを懇願していた。むしろこれならばイヅルが戻った方が幾らか都合が良い。
『そういえば、お前に言うておくことがあったのだが。』
 紅が、艶めかしい黒髪をさらりとなびかせ言った。ギンは、動かしていた手をふと止めて紅の方を振り返った。
「何や、また神鎗が粗相したんか。」
 神鎗は、こともあろうに侘助、とりわけ紅を気に入っていた。ギンからしてみれば無難に白を選択しておけと言いたいところなのだが、神鎗としてはむしろ気の強さがお気に入りの所以らしい。主従といえど恋い慕う相手の好みは決して同一ではないのだと思い知った瞬間だった。
『そうではありません。貴方様への言葉なのです。』 
 ギンは、静かに瞠目し、目を見開いた。しかしおもむろにああ、と呟いた。ギンは一度、過去に侘助から同じような状況で懇願されたことがある。また同じ内容だろう、と察しがついた。
『その様子だと分かっておるな。単刀直入に言う。…主を返せ。』
「何度も言うたるわ。出けへん。嫌や。」
 子供が駄々をこねるような口調ではあったが、その返答はどこまでも静かなものだった。ギンは、何度誰からイヅルを解放しろと頼まれても、絶対に放しはしない。もう何年も前に、それだけは自分の中で確定していたことなのだから。
『今まで我が君をどのようになされても目を瞑って参りましたが、近頃のあの方は尋常ではありません。おそらく貴方様に最後まで付いていこうと思っていらっしゃるのでしょうが、私共がそうはさせません。貴方様のために命を捨てるようなことは、絶対に。』
 白が、いつになく射抜くような視線でギンの方を見つめる。儚げな容貌からは想像も出来ない、幾人もの人間を跪かせてきた女王の威厳。迷い無く標的を殺すという決意ある双眸は、全てイヅルのためにあるのだ。
「ホンマに、君達はイヅルのために生きとるんやねえ。でもあかんな。イヅルはやれん。」
『…跪かされたいか。』
 紅が、赤く染めた爪を鋭く伸ばす。刺しはせずとも、触れただけで簡単に、標的の足を止め、確実に地に伏せさせる。ギンは今、ほぼ丸腰の状態なのだ。しかし例え神鎗がなくとも、鬼道さえあれば何とか出来るという自信があった。しかし、ギンには兼ねてから考えがあった。このまま意地を張ったようにして紅に向かうのも良かったが、ここいらで頑なに駄目だの一点張りだったのを緩め、紅の手をすっと止めて言う。
「ボクために命落とさせるやなんて、そないなこと最初からさせへんよ。ボクかて最期までイヅル連れてくつもりやあらへん。近々な、どうせ置いていかなあかんようになる。」
 ギンの落ち着いた言葉に、張り詰めていた空間が一斉に狂い、静寂を留めた。一つ一つの言葉が、ただただ一点に絞られて吐き出される。
「連れていきたいのは山々なんやけどな、あかんのや。そこまで連れていったらイヅルは絶対死ななあかんようになる。せやから…置いていかなあかん。」
 ご免な、と最後に一言絞り出し、ギンは黙り込む。侘助は以前この質問を投げかけた時、ギンが絶対に最後まで殺さずイヅルを護ること、というのを条件に約束を取り付けたはずだった。しかし、あまりにもイヅルが傷付きすぎたような気がして、再びギンに詰め寄ったのだ。
『…その言葉、確かに真実なのだな。』
「ああ。」
 紅が、そっと爪を引っ込めた。背後に控えていた白が、淡く長い金糸に縁取られた目を伏せて、手を前で組んだ。おそらく自分達から離れろと問いただしたくせに、いざ本当に去るとなるとまたイヅルが狂うのだと思い、悲愴感をもったのだろう。
 ギンは、ふう、と一つ溜息を吐いた後、そのまままた机に腰を下ろした。無心に筆を動かす様を見て、侘助ももう何も言わなかった。


「あれ?隊長、仕事をしていらっしゃるのですか?」
 執務室を開き、途端に弾むような声が聞こえる。侘助はその扉が開く前に、既に刀身にふわりと舞い戻っていた。
「…たまにはなあ。」
 焦るようなギンの声に、イヅルはふっと笑ってお茶の用意を始めた。自分のまえから、まさか道となるものが消えようとは思わずに。


 そうして、やはり三ヶ月が経過した後、ギンはどこへともなく姿を消した。イヅルは彼に最後まで従い、そして棄てられたと本人は思っている。それからだ。イヅルが笑顔を見せなくなったのは。しかし、侘助は夜になると自室で泣くイヅルの姿を知っている。
 ギンが消えた夜、初めて侘助はイヅルの前に精神世界以外の場所で姿を現した。ギンが消えた今、もう具現化して困ることはない。そしてそっとイヅルの背を抱き、暗闇の中でさめざめと泣く彼を、何も言わず見守っている。
『ようやった。市丸よ…。』
 紅が小さく呟く。白はそれを聞き、すっと眉間に皴を寄せた。
『しかし結局、我が君は貴方様に縛られております。』
『神鎗まで巻き込みおって…。』
 僅かに毒づきながら、尚もイヅルを慰める。イヅルは初めてここで侘助を見た時、決して驚くということはしなかった。イヅルも知っていたのだ。彼女達が、わざと姿を見せていなかったのだということを。
 イヅルの目に、紅く白く輝く丸い月が映る。あの人はあそこらへんに去っていった。ここにあるものを全て置いて、去っていった。僕に何一つ、言葉すら残さずに。そう思うと、なぜだか泣かずにはいられなかった。どんなことがあろうともう泣きはしないと、あの人に付いていくとき誓ったはずだったのだが。
 月明かりのせいで、彼女達を形成している蝶のようにしなやかな体躯が、朧に映る。霞んだその様子は、けぶるように美しかった。


 何かやけに長くなりました…。(汗)結局多分侘助(紅)も神鎗のこと好きなんだよーみたいな感じでスミマセン。(汗)ていうかこんな設定にしてスミマセン。神鎗は真面目一点張りかチャラ男かで迷っておりましたが、この分だとチャラ男かもしれません。(笑)捏造侘助絡めたギンイヅ、アンケートでリクエストして下さった方有難うございますvvこんな駄文で宜しければ、是非貰ってやって下さいませ。掲示板かプログのコメントなどで申告して下さると嬉しい限りです。


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