Doll of Deserting

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朧神~おぼろがみ~(ギンイヅ、捏造神鎗)

2005-08-16 11:38:19 | 過去作品(BLEACH)
*この小説をお読みになる前に、ギンイヅカテゴリーの「スワロウテイル」と、「蝶の形成」をお読みになられた方がより話が理解出来やすくなると思われます。

朧神~おぼろがみ~
「吉良殿、果たして私は良い刀だろうか。」
 死神にとって、斬魂刀はいわば神のような存在だ。傍らに存在する、守護神のようなもの、それがまさしく斬魂刀なのだ。少なくともイヅルはそう思っていた。しかし目の前の彼は、イヅルにしてみれば最高の主に仕えているのにも関わらず、目を伏せ、淡々と言葉を続けた。
「度々思うのだ。あれは見た通りに理解の出来ない人種であるから、精神世界で私に流れ込んでくる感情も、もしや偽りのものなのではないか、と。」
「あの人は人間だ。むしろ僕にはやたら感情の起伏が激しい人に見えるよ。というよりも、君達斬魂刀を欺くことは、僕達には出来ない。分かっているだろうに。」
 君が見ている世界が全てだ、と神鎗に語りながら、イヅルはギンという男を想う。あんなにも強く、確固とした信念を持つ神鎗をここまで弱らせるとは、何という人だろう。修羅とも言えるような美しく恐ろしい姿をした彼は、神鎗を巧みに操り標的を斬る。それに従う神鎗は、むしろいつもは硬く、強い印象を与えるのに、今はなぜだか小さく見える。
「私とてそれは分かっているとも。しかし、あれは本来弱くあるべきものだ。自分の感情を面に出すべきものなのだ。だからこそ心配しているのだよ。吉良殿には、いずれ話しておくべきことだと思っていたが…。」
 淡々と、先程までと全く変わらない口調で、神鎗は語り始める。イヅルは僅かに顔を強張らせ、きっと前を見据える。神鎗はその様子に気を良くしたようで、ふっと笑みを浮かべた。


「あれは、現世時代、家では疎外されていた。」
 京都では古い老舗の呉服屋に生まれたギンだったが、そこの長男だからといって優遇されることは決してなかった。白銀の髪と、紅い瞳。日本人には決して出ることのない色彩を持って産まれたギンは、当時それが世間に知れることを恐れた両親から拘禁された。当時は髪の色が少しでも違っていると、「メリケン」と称され家族共々迫害されたからだ。むしろ銀の髪というのは、アメリカ人にさえもない色だったのだが。
 普通ならギンの母は異国人と浮気をし、ギンを産んだのではないかと疑われるところだが、それはなかった。なぜならギンの紅い瞳は、どの国の人間にも出ない色だったからだ。むしろ、人間ではないのかもしれないと疑われたのはギンであり、狐や狸でも化けているのではないかとひどく恐れられた。ギンは、そんな尋常ではない容姿をしていながら、美しい顔の造作をしていた。それもまた、異形のものが化けた結果だと言われた要因でもある。
「両手両足を折られ、息づくこともままならなかったギンを連れ出したのは、他でもない私だ。私は、将来あれが私の主人になることを知っていた。例えそのまま死んでしまうとしても、死体の始末をあの親に任せるわけにはいかなかったのだ。」
 暫くギンを連れて、具合の良い土地を見つけるとそこへ身を横たえさせた。その時には既にギンの肉体としての息はなく、後は死神の魂送を待つだけだと思われた。そこで神鎗はまた身を翻し、去った。
「腕を折られ、足を折られ、それでもあれは他の子供のように泣き叫び、出してくれと懇願することをしなかった。だからこそ懸念しているのだ。果たしてあれは、素直に泣くことが出来るのだろうか、と。」
 最低限に簡易された語りが、静かに終わる。気付けばイヅルの目からは涙が溢れていたが、神鎗の方を強く見据えることは決してやめなかった。自分はそこまで弱くはないと、主張するかのように。
「あの方は、素直に泣くことの出来るお方だ。僕は一度だけ、過去にたった一度だけだが―…見たことがある。」
 その言葉に、神鎗が僅かに瞠目する。まさか、というような顔でもあり、なるほど、というような顔でもあった。しかし、そうか、と静かにではあったが何か思い立ったように言うと、そのまま続けた。
「あれの精神世界は、全く変化することがない。いや、風景で言えば変わってはいるのだが、そこにある闇は決して変化しないのだ。夜空である時もあり、薄暗い檻である時もあり、、瓦礫の山である時もあり、もしくは一面が深い闇に囲まれていた時もある。しかし、そこにある闇は決して変化しない。しかし一度だけ、乾いた砂礫であったことがある。」
 どこまでも晴れ、どこまでも枯れていた。晴れることなど滅多にないと喜ぶのも束の間、その大地がひどく熱を帯びていることに気付く。そして暫くすると、一筋の水滴が地面に落ち、またすぐもとの闇に還った。
「あれはおそらく、ギンの中に何かが足りない、という暗示なのであろう。吉良殿、もしやその時、床に伏せってはいなかったか。」
「ああ、巨大虚との接戦で、怪我をして意識が戻らなかったらしくてね。」
 目を覚ました時には、彼が顔を袖に隠していた。表情は見えなかったが、あれはまさしく泣いていたのだろうと思う。イヅルはそれを見た時、驚愕したのもあったが、むしろ歓喜してしまった。神鎗は、イヅルの方を見ながら、ふっと僅かに表情を和らげた。相変わらず端麗な顔をしている、とイヅルは思った。
「…ギンはいい副官を持ったな。侘助もいい主人を持った。」
「…ありがとう。」
 素直に礼を言ってから、イヅルはふっと微笑んで神鎗を見た。「侘助」と発する時の彼の声が、僅かに震えていたのを感じとったからだ。
「君は本当に侘助が好きだね。」
「…まあな。『紅』だけだが。」
 彼は白のことが少しばかり苦手らしい。それを聞いて、イヅルはああ、彼女の「裏」の部分を見てしまったのだなと思う。白は、柔和な雰囲気を持っているが、一度怒気をあらわにすると手がつけられなくなるのだ。普段は神鎗と至って仲良くしているし、神鎗も白を虐げてはいないのだが。
「吉良殿からもそろそろ私を受け入れるよう言ってくれないか。」
「さあ、それは君が紅をどうにかしないことには。」
 イヅルの言葉に、神鎗が溜め息を吐く。全くこの刀は、紅のことになると形無しになるのだから。とイヅルは笑った。暫くそうしていると、神鎗が突然はっとして言葉を発した。
「ギンが来たようだな、そろそろ失礼しよう。」
 そう言うなり、すっと身を鞘に収めた神鎗にイヅルは苦笑する。主人が来ると消える刀など、おかしなものだ、と。イヅルは、自分の刀も同じことをしているというのに、気付いていないのだから。
「あら?イヅルだけか?何や他の霊圧があったような気がしたんやけど。」
「先程まで神鎗がいらしていたんですよ。」
「…アイツ、具象化して以来姿見せんくせに、イヅルがおる時は出てくるんやから。」
 さてはイヅルに気があるんとちゃうやろな、と訝しげに眉をひそめるのを見て、イヅルが再び苦笑した。まさか、と言ってから、ギンに向かって答える。
「彼が用があるのは、僕ではなく僕の刀ですよ。」
「ああ、侘助、なあ。」
 ギンは、神鎗の心が本来どこにあるのか全て知っている。知っていながらも、たまに神鎗のことを信じていないような素振りを見せるのだ。
「ちゅうか、イヅル、今日非番やったやろ。」
「ええ、隊長はお仕事ですよね。」
「終わらしてきた。」
 言うなり、その場にすとんと座ってイヅルを抱き寄せる。イヅルは本当ですかと訝しく言いながらも、その腕に素直に身を預ける。さらさらと流れる金糸が頬をくすぐる感触に気を良くしながらも、ギンは恍惚とした意識の中、控えめに見ても幸福などとは縁遠かった昔を思い出す。そして、今の幸福を全身で感じ、更に昔の自分が哀れに思われるのだった。
「…絶対、離れんでな。」
 微かに呟いた声が、果たしてイヅルに届いたかどうかは、誰にも知れない。

僕達に、神はいない。
僕達に、神は必要ない。
僕達の間には、朧に浮かんだ二本の刀だけが残される。
頭上で霞む月など、とうの昔に僕達を棄ててしまったことだろう。


 捏造神鎗です。何ていうか捏造侘助と結構リンクしています。しかし捏造斬魂刀完結編みたいなつもりで書いたのに、「蝶の形成」の方が話が新しい!!(痛)市丸さんは何だかこんな最期を迎えてそうな気がします。神鎗は個人的趣味で真面目さんにしました。言っておきますが彼はムッツリです!(誇らしげに言うな)リクを下さったこはく様、ありがとうございましたv宜しければこはく様のみお持ち帰りOKです。こんなので良ければもらってやって下さいvv今日はテンション高いから朝から更新するぜ☆と張り切って書こうとしたら、起きたの10時☆みたいな感じです。(さらに痛)もう12時になるじゃないかアハハ。パラレル連載と普通(とも言えない)の連載を明日にでも更新したいなー。と思ってます。あ、今日のアニメは叫びますよvv(先に宣言。笑)

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