Rondo Capriccioso ~調律徒然日記~

Piano Labo.(代表)竹宮秀泰によるブログ。
「ピアノ」を主題に気まぐれなロンド形式で綴ります。

ソステヌートペダルのプチ修理

2016年10月14日 | 作業レポ

半年ほど前のことですが、レスナーのお客様宅へ調律に伺った際、ソステヌートペダルの踏み心地についてご相談を頂きました。
どうやら、軽く感じるそうです。

ピアノはYAMAHAのC3B、約2年前にオーバーホールしたピアノです。
この時代のソステヌートペダルは、概ね踏み心地が軽く出来ています。

後発のモデルチェンジの際、このふわついた感触は改善されましたが、ヤマハの初期のソステヌートペダルは、全体的に軽い傾向が見受けられます。
これは、構造よりも、主に材質に起因すると言えるでしょう。
具体的には、天秤と呼ばれる部品の材質が、初期は木材だったのが、後に鋳鉄に変更されました。
そうすると、天秤そのものが重くなる為、ペダルの踏み心地も重くなります。
また、天秤の材質の変更に伴い、取り付けられているスプリングもより強度の高いものに変わりました。
その分、負荷も掛かるので、更に重くなったのです。

さて、このピアノの場合、木材の天秤による弱いバネのソステヌートです。
軽いのは当然でして、抜本的な解決はアッセンブリ毎交換するしかありません。
これは、その場で急に出来る作業ではない為、どうやって「誤魔化す」か、考えながら調律を行っていました。

その時、ふと隣のピアノに目が止まりました。
実は、このレスナー宅には、GPが2台あるのです。
そして、一台はまだ新しく、主に生徒さんが使用するピアノです。
そう、新しいピアノ……




勿論、こちらのピアノも三本ペダル。
期待を胸にすかさず天秤をチェックしてみると、予想通り、鉄製の天秤でした。




バネを外してみると、見た目にも分かるぐらい太くて長く、勿論、強度も強いです。




本当なら、天秤毎交換するのがベストでしょうが、微妙な部品の取り付け位置が合致せず、他の部品への干渉も生じる為、現地での作業は困難と判断し、バネのみを交換しました。




これだけでも、随分と踏み応えがあるようになり、お客様もご納得くださいました。

もちろん、これが十分な仕上がりとは思っていませんし、新しい方のピアノを少し犠牲にした面も否めません。
しかし、予め準備をしていない現場作業としては、なかなか良い判断が出来たかなと思っております。

 


一部の記事を非公開にしました

2015年12月21日 | 報告

日頃より、当ブログをご愛顧いただきありがとうございます。

随分と更新が滞っているにも関わらず、毎日たくさんのアクセスが記録されており、嬉しい気持ちの反面、驚きや戸惑い、そして、申し訳ない思いで一杯になります。



さて、本日より、【調律日記】【コラム】【雑記】のカテゴリーで書いた記事を、全て非公開にしました。

これらの記事は、全て文章を主体としたものでした。
つまり、仕事の記録と言うよりも、調律師としての個人的な思想や哲学を語る面も持ち合わせており、人によっては読み辛く感じられるかもしれませんし、記事によっては、賛同も得難い内容もあったかもしれません。

今後は、【作業レポ】と【工房便り】を一つにまとめ、画像を盛込みながら、日々の業務を伝えていけるようなブログにしていこうと思っております。

尚、これまでの【調律日記】や【コラム】に書いてきた記事は、部分的に加筆や修正をして、某サイトにて連載していく予定です。
どこかでお見掛けしましたら、変わらぬご支援のほど、お願い致します。

では、今後とも、当ブログをどうぞよろしくお願いいたします。

ピアノラボ(代表)竹宮秀泰

 


YAMAHA C3A ダンパーガイドレールブッシングクロスの交換

2015年10月26日 | 作業レポ

グランドピアノのダンパー機構で、トラブルの発生頻度が高いパーツの一つが、ガイドレールのブッシングクロスです。

これは、ダンパーが上下運動を行う位置を決定し、同時にブレを防ぐ役割を担っています。

オーバーホール、ダンパー交換、弦交換などの修理の際には、必ずとも言える確率で交換する部品ですが、この部品のみを単発で修理することは稀だと思います。

と言うのも、グランドピアノでのダンパーの取り付けは、慣れていない技術者にとっては、なかなか時間の掛かる厄介な作業だからです。
いや、数本のみなら、大抵の技術者は対応出来ます。
しかし、全部取り外すとなると、残念ながら躊躇する技術者もたくさんいます。

このブッシングクロスが湿気等で膨らむと、ダンパーがスムーズに動かなくなり、止音不良という音が止まらなくなる症状が出ます。
この場合、ブッシングクロスを圧縮調整すれば容易に治ります。
しかし、その為には、必ず該当するダンパーを取り外す必要があります。
数本だけなら問題ありませんが、止音不良がたくさん発症している場合、症状が出ていないキーも確認する必要がある為、全てのダンパーを取り外す必要があります。
そうなると、なかなか手を出せない技術者も少なくありません。



今回のピアノも、ほぼ全鍵に渡り、ブッシングクロスがスティック(動きが鈍る症状のこと)しておりました。
なので、通常だと、一度ダンパーを全て外し、ブッシングクロスを調整し、ダンパーを取り付ければ済むことです。
しかし、このピアノに限っては、そういう訳にはいかない事情があったのです。

実は、ブッシングクロスが、ガシガシと音を立てるぐらいに硬化していたのです。

話を伺いますと、元々止音不良はよく発症していたようです。
その度に、調律師さんは、細いノズル付きのスプレーで油を差していたそうです。
つまり、ダンパーを取り外してのブッシング調整は行わなかったのです。

機械油は、その時、その場では効きます。
しかし、ブッシングクロスが膨らんでいるという問題の根本は解決しておらず、ただ単に「滑ってる」だけなのです。
それだけならまだしも、機械油はクロスや木材には適しておらず、時間と共に溶剤のみが吸収され、または揮発し、残留物が表面で硬化します。
そうなると、元以上のスティックになります。
そこでまた、油を差して誤魔化し……という悪循環を繰り返すうちに、ブッシングクロスは膨らんだまま硬化してしまい、雑音を伴う調整不能の状態へと悪化します。

つまり、やるべき調整を行わず、その場しのぎの誤った処置を繰り返した結果、ブッシングクロスは使い物にならなくなっていたのです。

というわけで、今回は、現地でダンパーガイドレールのブッシングクロスのみを交換するという、少しレアな修理となりましまた。



先ずは、ダンパーを全て取り外し、続いてガイドレールも外します。








レールの埃と汚れを綺麗に掃除し、ガイドレールのホールに嵌め込まれたブッシングクロスを除去します。




写真を撮り忘れましたが、木材にも油が浸透している可能性があるので、穴の中をベンジンで綺麗に拭き取りました。

そして、新しいブッシングクロスを取り付けます。
今回は、ヤマハの純正パーツを使用しました。
取り付けの際、雑音防止の為、接着はしません。




ブッシングクロスを専用の工具で圧縮調整し、レールをピアノ本体に取り付けます。






ダンパーを取り付けていきます。




折角の機会なので、使用により変形している中音部の三本止めのWフェルトは、先端部分をカットします。
この部分をカットすることにより、ダンパーが解放される時の抵抗が軽減され、ピアニシモが弾きやすくなり、止音時の微かな雑音も取れ、音質も改善されます。




左がカットしていないダンパーです。
この僅かな違いが、タッチにも音にも影響します。




最後に、ダンパーの諸々の調整を行い、完了です。




ちなみに、この修理を行う羽目になったそもそもの問題点は、未熟な技術者の誤った処置ではなく、ブッシングクロスが膨張したことにつきます。
その原因は、高い確率で湿気によるものと考えられます。

なので、何よりも環境改善に努める必要があり、再発防止のためにもお客様の御協力をお願いする他ありません。

その為のアドバイスは調律師の仕事に含まれると考えておりますが、実際の環境作りはお客様にしか出来ないのです。

 

 


YAMAHA U7A レールの手入れと取付

2015年07月14日 | 作業レポ

アップライトピアノのアクションは、一般的な構造の場合、ブラケットとセンターレールを土台に、三種のアッセンブリと幾つかのレールで構成されています。

三種のアッセンブリの修理について、個別に取り上げさせていただきました。

・ハンマーアッセンブリの修理

・ウィペンアッセンブリの修理

・ダンパーアッセンブリの修理


さて、今回は、オーバーホール時の各種レールについての手入れについてのレポートです。

まず、オーバーホール時には必ず行うべき修理の一つ、レギュレーティングボタンパンチングクロスの交換です。
レギューティングボタンは、レギューティングレールに取り付けられている大切なパーツです。
このボタンの位置により、ハンマーの運動が適切な位置で脱進します。
ボタンにはパンチングクロスが貼られてあり、実際にはこのクロスがジャックのテールを受け止めます。
つまり、このクロスの状態次第では、正常に歯切れ良く受け止められないばかりか、我々技術者による調整作業にも支障をきたし、微調整が非常に困難になるため、タッチも不揃いになりがちです。

ということで、このレールの手入れのメインは、パンチングクロスの貼り替えになります。

まずは、レギューティングレールを取り外します。




写真は撮っていませんが、ここのスクリューが適切なトルクで回るかどうか、一つ一つ確認します。

次に、刃物を使い、パンチングクロスを剥がし取ります。
スクリューがバカネジになる恐れがある為、ここでは蒸気は使いません。




新しいパンチングクロスを接着して、完了です。
このピアノの場合、レギューティングボタンが樹脂製の為、ゴム系の接着剤を使用します。




続いては、ハンマーレールのクッションフェルト交換です。
このレールは、静止状態でのハンマーの位置を決める役割りを担っています。
それはつまり、ハンマーと弦の距離(打弦距離)であり、アクション運動のスタート地点でもあり、打弦後のハンマーを受け止める役割りも果たしております。
長年の使用により、ハンマーの重みと衝撃で、フェルトにシャンクの跡の窪みが出来、波状に変形しています。




これを綺麗に剥がし取り、新しい部品を接着します。
今回はアルミ製のレールなので、やはりゴム系の接着を使用します。
材質に応じて、適した接着剤を使い分けなくてはいけません。






最後に、ダンパーロッドの手入れです。
これは、アクションの背面側に取り付けられたレールで、ダンパーペダルの動きに連動しダンパーを解放させるパーツです。
表面が薄く錆びており、雑音の原因にもなり得る状態です。
また、この状態ですと、ダンパーレバークロスを無駄に消耗させる恐れもあります。




これを、機械で綺麗に研磨します。
また、レールの動きの軸となるヒンジのクロスも、貼り替えておきます。
かなりの負荷が掛かる部分なので、硬めに調整します。




あとは、アクションを組立て、本体にセッティングします。
その前に、筬の手入れを今のうちに。
ピンを磨きパンチングクロスを交換し、バックレールを貼り替えておきます。




アクションの位置決めをし、ダンパー、ハンマーを取り付けて完了です。



 



YAMAHA U7A ダンパーアッセンブリ修理

2015年07月06日 | 作業レポ

一般的なUPのアクションは、3種のアッセンブリと幾つかのレール、ブラケットから構成されています。

今回は、3つ目のアッセンブリ、ダンパーアッセンブリの修理を紹介します。

通常のUPオーバーホールでは、ダンパーに限っては、全てを新品パーツに交換することが多いです。
と言いますのも、UPのダンパーの取り付けは、微妙な位置のズレでも上手く機能しなくなるため、全てをリセットした方が楽なのです。

一方で、矛盾するようですが、ダンパーは、最も再利用し易いアッセンブリでもあります。
パーツが少ない上、交換作業も容易な為、作業上はさほど大変ではありません。



今回は、木部のコンディションが良好な為、再利用を前提に進めました。

まずは、取り外したダンパーアッセンブリを順番に並べます。
再利用する場合、ダンパーは、他のアッセンブリ以上に順番が大切です。




ダンパーフレンジを外し、蒸気を当てながらレバークロスとパンチングを剥がし取ります。






パンチングは、ポンチでくり抜いて作成し、膠で接着します。






さて、一般的なアップライトピアノのアクションには、3種のアッセンブリに1種ずつ、計3種のスプリングが使われています。
ハンマーにはバットスプリング、ウィペンにはジャックスプリング、そして、ダンパーアッセンブリにはダンパーレバースプリングが装備されています。

基本的に、アクションのスプリングは燐銅線で出来ているため、数十年でバネがへたり、破損の恐れも出てきます。
従って、オーバーホールの際には、スプリングは全て交換します。

しかし、ダンパーレバースプリングの交換は、非常に手間の掛かる作業です。
従って、今回はスプリング付きのフレンジを購入し、取り付けることにしました。




ついでに、ナンバリングをしておきます。




最後に、レバークロスを貼り付けます。




ダンパーヘッドも、ウッドは再利用し、フェルトのみ貼り替えます。







補助ダンパーも貼り替えます。




これで、ダンパーアッセンブリの修理は完了です……が、やはりダンパーに限っては、アッセンブリごと取り替えた方がずっと楽だなって確認にもなりました。