次郎作が畑に種を蒔いていると、与太郎がやって来て、
「何の種を蒔いているんだ?」
と尋ねる。しかし、
「…」
次郎作の声が小さくて聞こえない。
「? 聞こえねぇよ、もっと大きな声で言えよ」
次郎作は仕事の手を休め、与太郎に近づくと耳元で、
「大豆」
と、囁く。
「囁かなくてもいいだろうに」
「いや、鳩に聞かれるとまずい」
用心深い百姓
ある百姓、畑に物種を蒔き居たりける。
隣の畑の与太郎、見て、
「なんと次郎作、結構な日和(ひより)じゃ。何を蒔きたるぞ」
次郎作、返事をすれども聞へず。
与太郎、見て、
「何といふぞ。すきと聞へぬ」
と言へば、そばへ寄り、耳の端へ囁(ささや)きて、
「大豆を蒔く」と言ふ。
「はてさて、囁かいでも大事ない事を」
と言へば、
「高ふ言へば、鳩が聞く」
『露休置土産』(宝永4年 1707年)
「何の種を蒔いているんだ?」
と尋ねる。しかし、
「…」
次郎作の声が小さくて聞こえない。
「? 聞こえねぇよ、もっと大きな声で言えよ」
次郎作は仕事の手を休め、与太郎に近づくと耳元で、
「大豆」
と、囁く。
「囁かなくてもいいだろうに」
「いや、鳩に聞かれるとまずい」
用心深い百姓
ある百姓、畑に物種を蒔き居たりける。
隣の畑の与太郎、見て、
「なんと次郎作、結構な日和(ひより)じゃ。何を蒔きたるぞ」
次郎作、返事をすれども聞へず。
与太郎、見て、
「何といふぞ。すきと聞へぬ」
と言へば、そばへ寄り、耳の端へ囁(ささや)きて、
「大豆を蒔く」と言ふ。
「はてさて、囁かいでも大事ない事を」
と言へば、
「高ふ言へば、鳩が聞く」
『露休置土産』(宝永4年 1707年)