こんばんは。
久々のブログ更新となりましたが、今日は来週発売予定のパルプコーン・フルレンジ2モデル(DCU-F131P、DCU-F171P)についてお話したいと思います。このモデルは、PARC Audioとしては初のパルプコーンつまり紙を振動板に採用したモデルです。
スピーカーユニットにとって最もポピュラーな素材であるパルプコーンが今までPARC Audioの中で1モデルもなかったというのは、我ながらちょっと意外な感じがしないでもないですが、ユニット設計者にとってパルプコーンというのは基本中の基本であり、多くの競合モデルが市場にあることもあり、発売に関してはかなり慎重になったというのが正直なところです。出す以上はPARC Audioらしいユニットにしたいと。
さて最初の難問は肝心のコーンをどうするかですが、コストや生産ロットの問題もあり、このモデルのコーンは中国で現地調達したいと考えいろいろと現地のベンダーを回ったのですが、何とか自分の納得できるものを見つけることができました。当初は音質的に定評のあるノンプレスコーン(オーブンとも言います)と言って抄紙後のコーン紙を機械的にプレスせずに吸引脱水しながらオーブンで乾燥させていくタイプを採用したかったのですが、さすがに中国製のコーンでフルレンジに使えるほどしっかりしたノンプレスコーンは入手できず、手法を変えてプレスコーンに特殊なコーティングをしたものを採用しました。コーン紙については本当に内容が深いので、話すと長くなってしまうのでこれは別途また別のエントリーで書いてみたいと思います。ちなみにコーン紙の方式の見分け方としては、コーン紙の裏側を見てきれいなフラットな面をしていたらそれは一般的なプレスコーンで、凸凹状のあまりフラットでない面であればノンプレスコーンということになります。一度お持ちのユニットを眺めてみるのも面白いかも知れませんね。
さて次の難題はフルレンジとして高域をどう出すかということです。他のPARC Audioのモデルのようにフェイズプラグだけでまとめる手法や、今回採用したサブコーン(中心に付いているお猪口のような格好をした小型コーン)を使ったり、また金属製のセンターキャップを使用する方法もあります。また細かい事を言えば、ショートリングを採用してボイスコイルのL分をキャンセルするかどうかなども決める必要がありますが、これも後日詳しく話をしたいと思います。
実は開発当初はこのモデルもフェイズプラグだけで行こうと考えていました。というのも、私はセンターキャップで高域を積極的に出す手法はあまり好きではありません。理由は、センターキャップは高域再生に貢献はしますが、それと同時に中低域までかなり大きな影響を与えるので、コントロールが結構厄介なのです。もちろん、センターキャップのモデルがダメと言っているわけではないのですが、とにかくユニット設計では結構神経を使うエリアなのです。(そうではないとおっしゃるエンジニアもいるかも知れませんが・・・) コーンケープ(凹形状)にしてしまえば高域は出ない反面、処理はしやすいのですが、これはフルレンジには向きません。
残る方式としてはサブコーンを使うかどうかですが、実は私はサブコーンもあまり好きではありませんでした。理由は、以前カーオーディオ用のユニット開発もしていたこともあり、「サブコーン=安物スピーカー」というイメージがどうしてもあったのです。ちなみにカーオーディオの世界では一般的に一番下位のモデルがサブコーン付きで、中級以上のモデルからトゥイーターを搭載したコアキシャルタイプにするというのが定石となっています。つまり、「サブコーン=擬似トゥイーター」というイメージだったのです。
ではどうして今回サブコーンを採用することになったかということですが、理由は中国で製造ベンダーと開発についての協議をしていた時にさかのぼります。中国でいろいろと現地のコーン紙ベンダーを回っていた時たまたま紹介してもらったコーンベンダーにかなりの種類のサブコーンがあり、まぁ試しにちょっとスリスリしたり、はじいてみたりしてみたところ、これが結構生意気な感触だったのです。ユニット屋の性(さが)として、とにかく素材(特に振動板)は触ったり、指でたたいたり、時には舐めたり、といろんなことをやるのです。別に変な趣味があるというわけではないですよ・・・・。
そんなことを言っている私も、新人の頃は先輩のエンジニアがコーン紙屋さんに行ってコーン紙を舐めたりするのを初めて見た時は正直びっくりしました。まぁこの辺がスピーカーユニットの技術を紙で書いて次の世代に伝承していくのが大変なことの理由なのかも知れません。私自身、自分のことをエンジニアというよりは職人に近いのかなぁなんて時々思ったりもします。
さて本題に戻りますが、というわけでカー用でやっていた時にはあまりお目にかかれないような本格的なサブコーンにめぐり合えたこともあり、まぁ一応音だけは聴いておくかという感じで1発目の試作を行ったのですが、これが何と生意気な音を出すんですね。正直ちょっと舐めて、いやなめていたこともあり、うれしい驚きでした。この歳になっても新しい驚きがあるとは、本当にスピーカーとは奥が深いものだととつくづく思います。
まぁ冷静に考えるとカー用のサブコーンというのはもともと最廉価モデル用ということもあり安価なフィルム製のものが大半であり、私自身今までの設計経験ではクラフト業界で主流のフルレンジはあまり経験していなかったので、本格的なサブコーンについてあまり知らなかったということなのですが、結構いけると分かれば話は早くそれからは一気にその方向で開発が進んだというところです。今更ながら、何事も食わず嫌いはダメですね。反省
ただ、今後PARC Audioのモデルが積極的にサブコーンを採用していくかと言えば答えはNOです。何事にも長所もあれば欠点もあり、サブコーン(特に今回採用したような大きいサイズのもの)からのエネルギーは結構大きいのでユニット全体に与える音質的な影響も想像以上に大きいのです。本当は高域だけを出してくれて、中域以下は全く音を出さないのが理想ですが、そんなうまい話はなく、こまったことに、この子はかなり下の帯域までしっかり音を出してくれます。そのため、コーン胴体と材質が違う場合(例えばウッドコーン+紙サブコーン)ではどうしてもフルレンジ特有の一体感が薄れ、ちょっと音色的に違和感を感じたりもします。といって、現状サブコーンの深い形状に成形できる材料はかなり限られるので、当面はパルプコーンのみに採用していこうかと考えています。
それと今回このDCU-F171Pについては、記念すべきPARC Audio初の17cmフルレンジモデルなんです!
これもサブコーン採用ということがかなり効いていると思います。えっ、ということはパルプコーン以外でPARC Audioのフルレンジモデルはこれからも無いの?と思ったあなたはするどい!
でもそんなあなたにはちゃんとコアキシャルという隠し玉(もう既に知ってました?)がありますのでご安心ください。ただしコアキシャル発売は、ちょっと先になるかと思いますので、ご勘弁を。
ということで、今日はこの辺で。続編に続く。
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アルミコーンだと命懸けかもしれないなぁ..どうします、各々方!? (爆)
tanukineさんも書いていますが、13cmの方は見た目にもサブコーンの比率が高くて、まるでホーンみたいな感じですね。まぁ、自分はこういうのを面白がる方なんですが(^^)。自分もこの辺りのお話を聞きたいですね。
そうでしたか。「隠し玉」の方は、いろいろ事情があり年内発売は微妙かなぁという感じです。お待たせして申し訳ありませんが、必ず発売しますのでお待ちいただければ幸いです。
いえ、さすがにスピーカーに組み込んでから舐めるなんていうことはないですよ。
それと舐めることにはちゃんと意味があって、パルプコーンの場合、ラッカー等の含浸剤やサイズ剤といった防水のための処理をどの程度やっているかを調べるために舐めてどの程度しみ込むかを見たりするのです。まぁ舐めると言っても、べロッと舐めるというよりちょっとツバをつけてみるといった感じでしょうか。
そのため、紙系以外ではあまり舐めることはないですね。(^^;
keik様
13cmの質問の件、了解しました。次回の続編で書きますね。
f特は20KHzまで出ているけど、やっぱりツイーターつけるかな私は~
サブコーンとフェイズプラグ二つついたモデルは初めてみるかな。
あー、スピーカーがどんどん増えていく^^;
DCU-F101WとDCU-F121WとDCU-151W以外のフルレンジとウーハーは、この3機種と表面のフレーム形状とゴムエッジの幅(比率)が違うのですが、特別な意味があったら教えて下さい。
黒一色のユニットがこれで三種類となりますよね。コアキシャルも来春ですか?出そうですが、外見上の区別や単純に見た目のことやら考えてフェイズプラグを黒以外のものにするのはどうでしょうか? カナダのCSS FR125Sはちょっと高級感を漂わせている気もしますし、逆に多少オーディオを知っている人の持つ「サブコーンの安っぽいイメージの打破」も含めてです。
勿論冨宅さんのポリシーがあれば書いて頂いて結構です。