Organic Life Circle

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ビタミンC

2006年03月02日 | 科 学


ビタミンCは不思議な栄養素です。人間、猿、モルモット以外の哺乳類動物は、肝臓でビタミンCを合成することができます。ビタミンCが不足すると、細胞と細胞の間で接着剤の役割をする細胞間物質コラーゲン collagen も不足し、全身の細胞の結合がゆるくなります。目立つ症状としては、血液が血管から漏れ出し、全身が内出血で黒ずんで死に至る壊血病 scurvy があります。ビタミンCの化学名アスコルビン酸 ascorbic acid は、この壊血病を防ぐという意味で、a(対抗する)+ scurvy から名付けられました。


<壊血病の歴史>

人類の歴史は、壊血病に彩られています。ビタミンCを全く摂らないで3ヵ月もすると壊血病になります。ドイツなど北ヨーロッパの国々では、冬の間に多くの人が壊血病で亡くなり、人口が半分以下に減ることも度々ありました。野草や樹木が芽吹く春まで持ちこたえれば、ビタミンCが含まれる新芽をお茶 herb tea にして飲んだり食べたりすることで回復できます。

コロンブスがアメリカ大陸からジャガ芋を持ち帰り、冬にジャガ芋を食べることができるようになってからは、壊血病で死ぬ人が減り、ようやく北ヨーロッパの人口が増え出しました。寒い地方で栽培できて、ビタミンCを含み、しかも冬の間貯蔵可能で、腹持ちがよくて主食になる食べ物はジャガ芋を除いて他にありません。(ジャガ芋のビタミンCは加熱調理しても比較的安定しています。)

江戸時代末期の日本では、ロシアの南下を防ぐため、当時の日本の領土であった択捉(エトロフ)島に越冬隊を毎年派遣していました。この越冬隊は東北の諸藩が持ち回りで100名ほど派遣していたものですが、毎年多くの人が壊血病のために亡くなり、時には一人を除いて全滅ということもありました。米と味噌、漬物、魚はあるものの、野菜や果物がなく、全員が壊血病に罹りました。

日露戦争では、203高地を巡って日露が対決したまま冬を迎えて春間近というときに、ロシアの将軍が白旗を持って降伏してきました。壊血病で兵士が次々に倒れ、これ以上被害者を出したくないとの判断でした。一方、日本側は大豆からモヤシを作って食べており、壊血病を出さずに耐えることができたのです。大豆そのものにはビタミンCはありませんが、発芽してモヤシになると澱粉からビタミンCが合成されるのです。

3か月以上の長期に渡る航海では、必ずといっても良いほど壊血病による死者が出ました。コロンブスがアメリカ大陸を発見できたのは、レモンを積んで行ったからと言われています。1497年にアフリカ希望峰回りの航路を発見したバスコダガマは、163名の乗組員のうち100名を壊血病のために失いました。1519年、世界一周航海に出たマゼランの5隻の船団のうち、帰り着いたのは、わずかに1隻だけで、しかも18人しか残っていませんでした。

カナダ関係では、1535年、カナダを発見したフランスのジャック・カルチエ Jacques Cartier 船長率いる探検隊が初めてカナダで越冬したとき、ほとんどの人が壊血病に罹りました。まず、足が腫れて黒くなり、次に尻、肩、腕、首と広がります。歯茎からの出血はますますひどくなり、痛みで食べることも困難になってきます。鼻血や血尿も頻繁に出て、2月までには100人の隊員が壊血病に倒れ、動けるのは10名足らずと記録されています。原住民の女性に教わり、マツ科の常緑高木トウヒ spruce の新芽をお茶にして毎日飲むことで、ようやく壊血病を治療することができました。


<ビタミンCの働き>

ビタミンCは、体内のエネルギー物質であるブドウ糖 glucose から水素を2個減らしただけの比較的単純な物質です。ところが、これによって他の物質から水素イオンを奪う強力な還元力を持つようになります。ビタミンCは、多くの体内反応において、電子のやり取りである酸化還元に関係しています。血液中や細胞内のビタミンCの濃度が低いと、多くの化学反応が滞るようになり、コラーゲンを作る反応も進みません。コラーゲンは、血管だけでなく、すべての臓器や皮膚の細胞を結合していますので、不足すると皮膚がシワになりやすく、傷の治りも遅くなります。

赤血球ヘモグロビンに含まれる鉄(ヘム鉄)も、ビタミンCがないと作られないので、ビタミンCが不足すると貧血になります。メラニンは、日光(紫外線)に晒されると酸化され黒くなりますが、血液中にビタミンCが豊富にあると、酸化されたメラニンを還元して白くしてくれます。油に溶ける性質の抗酸化剤ビタミンEやベーターカロチンは、他の物質からのフリーラジカルを捕らえると、自分自身が過酸化されてフリーラジカルを放つようになってしまいますが、そこに 水溶性の還元剤であるビタミンCがあると、また元どおりの抗酸化力を持つようになります。

ウイルスや細菌などを攻撃する免疫細胞は、還元状態で攻撃力を発揮するため、血液中のビタミンC濃度が高いと免疫力が上がります。ストレス状態の時にはアドレナリンというホルモンが分泌されますが、この時、ビタミンCが消費されるため、強いストレスが続くとビタミンCが欠乏してきます。ストレスに負けないためには、ビタミンCを余分に補給する必要があります。  他にも、体内の多くの重要な化学反応がビタミンCを必要としています。


<ビタミンCと人間の進化(退化?)>

ビタミンCは不思議な栄養素と最初に書いたとおり、猫や犬などは自分で必要に応じて体内で合成していますので欠乏症になりません。(しかしビタミンCを合成している肝臓の機能が衰えると欠乏症があらわれるそうです。)なぜ人間は、体内の多くの化学反応において重要な役割を果たしている物質を自分で合成できないのでしょうか。

一般的な説明では、猿はビタミンCが十分に含まれている葉や果物を森の木の上で食べていたので、自分で合成する必要がなくなったというものです。人間はチンパンジーと遺伝子が99%同じですから、木から降りてしまった猿(人間)もまた、ビタミンCが合成できないというわけです。

しかし、これは羊や牛や馬などの草食動物がビタミンCを合成できることから次のように考えるべきでしょう。遺伝子に起きた突然変異のために、ビタミンCの合成ができなくなった猿は、森の木の上で生活する者だけが生き残った。ところが再び突然変異で、木の上での生活に必要な腕や木の葉を食べるに必要なあごの筋力を失った猿(人間)は、地上で生活せざるをえなくなった。そこで、木の葉よりやわらかい野菜の栽培や火を使った調理の能力を持った人間〔ホモサピエンス〕だけが生き残った。こう考えると、人間は万物の霊長というよりは、遺伝的欠陥を持った落ちこぼれであるが、なんとか生き残れた動物と見たほうが正しいように思えます。


<ビタミンCの所要量>

ビタミンCは、他のビタミンとは違い、所要量が格段に(50~100倍)多い栄養素です。体内には、満たん状態で1.5g貯蔵され、普通の状態では一日にその約3%が消費されています。ですから、通常一日約50mgを補給すれば十分ということになります。乳幼児が人工栄養で育てられている場合、ビタミンCが不足し幼児壊血病になることもありますので、妊婦は普通の人の2倍、授乳期には3倍の所要量となります。

また、ストレスや病原菌、毒物と戦っているときには必要量が増えるので、摂取量を増やす必要があります。一日の所要量をはるかに超えた約1gのビタミンCをサプリメントで補給しておくと、いろいろな病気の予防・治療効果があることもわかってきました。その中でも、紫斑病、関節の腫れ、皮下出血、感染症、副腎萎縮、歯肉炎、口臭、骨折、下肢痛、骨形成不全、貧血などに有効です。


<ビタミンCの多い食品>

野菜や果物は、収穫するとすぐにビタミンCの酸化が始まりますが、湿度が高い冷暗所(冷蔵庫)に置くと、これを防ぐことができます。冷凍すると、解凍時に急速に酸化が進んでしまいます。日光に良くあたった野菜や果物には、より多くのビタミンCが含まれています。柑橘類のビタミンCは収穫後もあまり変化しませんが、リンゴは収穫後すぐに酸化されてしまいます。キャベツ、トマト、玉葱は、大きなものより小さなものにビタミンCが豊富に含まれていることが多いようです。

調理による損失は加熱時間が短いほど少なく、おひたしや油炒めなら損失が少なくなります。ただし、金属イオンが存在するとビタミンCは急速に分解されるので、鉄鍋や銅鍋での調理は避けてください。野菜(青菜各種、パセリ、ブロッコリー、芽キャベツ、菜花、苦瓜、シシトウ、唐辛子、ピーマン、サヤエンドウ、大根)や果物(柑橘類、ギャバ、イチゴ、キウイ、柿、メロン)、緑茶、昆布にはビタミンCが多く含まれています。ただし、遠距離からくるイチゴなどの果物には殺菌剤がコーティングされていますので、オーガニックを選ぶように心がけましょう。

(海波農園 菅波 任)


オーガニック・ライフ・サークル会報
2004年4・5月号(No.57)掲載

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