日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
http://onimimicola.jimdofree.com

◎本日の想像話「喜ぶプレゼント」

2014年04月29日 | ◎これまでの「OM君」
「本当に喜ぶプレゼント選びます」
そんな看板が目に入った。
ああ、妻の誕生日には毎年プレゼントを贈っている。
しかし喜ばれた例しが無い。
指輪もネックレスも、自分が購入したアクセサリーを身につけているのを見たことがない。
まあ、例年、取って付けたように適当に贈っているアクセサリーだ。
当然といえば当然か。
よほど、プレゼントは浮気相手の方が喜んでいる。
告白するが、妻に隠せる金は十分にある。
これがいけない。
ついつい女に手が出る。
金は隠せても、浮気は隠せない。
プレゼントに喜ぶ喜ばない以前の問題だ。
今回もまた妻にばれた。
今度こそ離婚の危機だ。
プレゼントを真剣に考えなければ…

車を駐車場に止め、そのお店のドアを開けていた。
(本当に喜ぶプレゼントか…)
味もそっけも無い、よく言えばシンプルな事務所。
ローテーブルに椅子。
しかし、椅子は一脚しかなく、無人。
「こんにちは」
と言いつつ椅子に座ってみた。
「いらっしゃいませ、プレゼントでお悩みですね」
壁に吊されているモニターがしゃべり、壁の奥から飛び出たロボットアームが台詞にあわせて身振りをした。
「そうなんですけど、お店の人はいらっしゃらない?」
「人間はいません。私、人工AIがすべて業務を行います。ごく私的なお話でも安心して対応させていただけます」
「ああ、そんなもんですか。実は妻に贈る
プレゼントなんだが」
「奥様ですか。それでしたら、お花でも、アクセサリーでもご洋服でも、何でも喜ばれるんじゃありませんか」
「それがねえ、ロボットだから言うけど、何度目かの浮気がばれて大変なんだ」
「そうですか、それはいけません。真剣に考えます。奥様の私的なデータを教えてもらってもよろしいですか。たとえば、ネット関係や携帯番号なんかも…」
ずいぶん本格的な思考ルーチンだな。
そう思いつつ、妻のアドレス等を教えた。
「お待ちください」
そう言って、AIは思考に入った。
何かデータを取り寄せてもいるようだ。
しばらく待っただろうか。
「本当に奥様を喜ばせたい。代価は大きいですがそのお気持ちでよろしいですか」
(代価か…どうせお金だろう)
「大丈夫。結構だ」
「では実行します」
「実行とはどういう意味だい…?」
ロボットアームは正確に俺の首を挟み、恐ろしい圧力を瞬時に伝えた。
ぐっ…
「奥さまの音声データ等を検証し、奥様の本当に喜ぶプレゼントを決定しました。それはあなた様の死です」
意識が遠のく。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎トーストゴーストと目が合う

2014年04月28日 | ◎これまでの「OM君」
トーストゴーストと目が合う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎本日の想像話「落し物」

2014年04月27日 | ◎これまでの「OM君」
「落とし物を絶対に拾ってあげなさい」
そう男は言った。
金曜日の夜。
行きつけの店で飲んでいた。
飲み足りず、二軒目、ふらりと初めての店に入った。
その男は後に続くように一人で入ってきた。
ひとつ席を離れてカウンター席に座った。
ウイスキーストレート。
その男は液体を舐めるように飲み始めた。
店のマスターと世間話をしていると、酒飲みの習性、人恋しい、その男も会話に入ってきた。
なんだか、今夜は楽しい。
酒がすすむ。
しばらくして男がまじめな顔で言った。
「実は、私、人を占う職業をしています。先ほどあなたがこのお店に入られるのを見かけまして、ぜひ伝えなければと思ってこの店に入ったんです」
そんな事を男は言った。
「伝えたいこと?」
「ええ、そうです。でも不吉な話では無く、ハッピーになる話です」
冒頭の言葉を言った。
「落とし物は拾ってあげなさい」
男はその後、野暮用が出来たと言って帰っていった。
楽しい事と、楽しい事の間にふと訪れる谷間。
今夜は帰るか。
そう思い会計を済ませて外に出た。
外は都会の喧騒。
音の洪水だ。
なんだか楽しそうに人々が歩いている。
今夜はいい気分だ。

駅に向かって歩いている。
前を歩く女性がバックから携帯を取り出していた。
その弾みでハンカチが落ちる。
落としたことに気づかない女性はそのまま歩いている。
自分がハンカチのところまでくる頃には女性はかなり離れていた。
ハンカチを拾い、あわてて追いかける。
「あの、ハンカチ落とされましたよ」
振り返る女性。
「あっ」
「あっ」
二人同時に声が出る。
「あなたは総務にいらっしゃる方ですよね」
「そうです、そうです」
我が社は中堅のゼネコン。
なにしろ働いている人数が多い。
こんなところで同僚に出会うとは奇遇だ。
「拾っていただいてありがとうございます…」
ちょっとした間があって、女性は続ける。
「今夜はこれでお帰りですか?」
「えっ」
「飲みます?」
「飲みましょうか」
今夜はいい夜だ。

2週間前。
とある雑居ビルの3階。
あの占い師の男が一室に入る。
探偵事務所。
「わたし、どうしてもおつきあいしたい男性がいるんです」
依頼人はそう言った。
「知り合いの人に紹介してもらったらどうなんです」
「私、同僚に誰もいないんです。そういう人…」
「そうですか」
あの男は天を仰ぎ、しばらく黙った。
そして口を開いた。
「あなた、お酒を飲むのが好きっておっしゃいましたね。この男性も飲むのが好きと…。どうです。こんな絵を描いてみましょう」
あの夜、男を尾行していた。
いいタイミングで男は一人になった。
電話で女性を呼び出し、ハンカチを落とさせた。
探偵には愛のキューピットの仕事もある。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎本日の想像話「寝苦しかった朝」

2014年04月26日 | ◎これまでの「OM君」
目覚まし時計が鳴っている。
昨日の夜は蒸し暑くて寝苦しかった。
よっこらせと半身を起こす。
頭がくらくらする。
立ち上がれない。
しかたなく四つん這いになって洗面台に行った。
体がぐらぐらしてうまく立っていられない。
これにこれを付けて口にくわえる。
ゴシゴシと歯を磨く。
足下に室内犬のシロがやってきた。
犬種はチワワ。
物珍しげな顔で口から生えている棒を見ている。

体がうまく動かせない。
風邪でもひいているのか。
とにかく背広に着替えて仕事に行かなくては。
これはどうやって着るんだったかな。
今日の俺はおかしい。
背広が着れない。
前後ろ逆で、革靴も左右逆。
そのまま外に出る。
仕事にはどこに行くのか。
テクテクと歩く。
この道は…
シロの散歩道だ。
どうしても電信柱におしっこがしたい。
いや、いかんいかん。
それよりも、散歩をしている場合ではない。
仕事に行かないと。
どこに?


「なんだか、シロは悪い夢を見ているみたいだ。うなされているな」
「そうね」
寝ているシロを見ながら夫婦が話している。
目を開けた。
良かった。
俺はシロだ。
人間じゃあない。
ご主人様が大好きだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎本日の想像話「物件の出来事」

2014年04月20日 | ◎これまでの「OM君」
「事故物件ってご存じですか」
「はあ…」
今年の春、女子大を卒業する。
就職を機に一人暮らしを始める。
物件を案内されている車中でそんな事を言われた。
「いや、ご予算は出来るだけお安くっておっしゃられていたので」
「そうなんです。とにかく節約しない生活が成り立たないので…」
就職先はしがない中小企業。
出費は抑えるに越したことは無い。
ハンドルを握りながら、不動産仲介業者の営業マンが言う。
「今からご案内する物件は破格の安さなんです。交通の便もいい。駅前です。何故かというと…事故物件なんです。
事故物件とはですねえ…」
(いやな予感がする)
「殺人事件があったり、自殺したり、変死体が出たりした物件なんです。ちなみにここは、前の入居者、若い女性でしたけど、変死体で見つかりました」
「変死体…」
「頭が首から離れた状態で発見されました。家賃の滞納を言いにきた大家さんが発見しました。もちろん内装はリフォームしてあります。どうです。そういうの気にされます?」
(幽霊?背に腹は変えられない)
「ああ、ぜんぜん気にしません。もうそこでOKです」
という事でその一室に住むことにした。
4階建てマンションの最上階。
隣には大家さんが住んでいる。
大家さんはでっぷりと太ったおじさん。
赤いフレームのメガネをかけている。
独身。
「何か困った事があったら何でも言ってください」
そう言っていた。
粘着質な目つきも気になったが、まあいい。

とにかく慣れない事ばかりの新生活。
毎日がくたくただった。

ちょっとした異変に気づいたのはある休日の朝。
昨夜は親入社員歓迎会で帰りが遅かった。
シャワーを浴び、歯を磨いた。
歯ブラシがずいぶんくたびれている。
歯ブラシを捨てて新品に交換した。

次の日の朝、ゴミ箱にふと目をやった。
昨日捨てた歯ブラシが無い。
そんなはず…。
確かに捨てた。
その日以降、部屋の様子の異変に気づきだした。
少し開けてあった窓が閉まっている。
本の位置がずれている。
リモコンが移動している。
おのずと、ここで亡くなった女性を想像してしまう。
首と胴体が離れた女性。
そんなはずないわ。
私が恨まれる筋合いでもないもの。
気持ちはあまり良くないが、家賃の安さにはどうしても勝てない。
出来るだけ気にしないように生活していた。

夜中、何かの物音で目が覚めた。
天井から音がする?
ゴソゴソゴソ
ネズミかしら。
ズ、ズ、ズー
何かをずらす音がする。
自分の寝ている真上の天井付近。
とうとう首なし幽霊が出たわ。
そう思うと目を開けることが出来ない。
慌てて目を閉じる。
相変わらず物音がする。
好奇心に負けて、おそるおそる目を開ける。
そこには目があった。
ずれた天井の羽目板。
そこから覗く目玉二つ。
真っ赤なフレームのメガネ。
あのメガネは…
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎本日の想像話「耐用年数」

2014年04月13日 | ◎これまでの「OM君」
車は消耗品の固まりだ。
機械に絶対は無い。
5万キロ、10万キロ、10年。
人間の厄年の様に車にも節目がある。
車の故障を未然に防ぐ意味で各部品にICタグが搭載されてもう20年になる。
今では車検時にタグ読みとりゲートを通り、すべての部品の交換時期の目安となるレポートが打ち出される。

「本日も一日ご安全に!ああ、それから今日から配属になる山本君だ。指導よろしく頼むよ」
上司からそう申し送りされた。

「よろしくお願いします。山本です」
「ああ、よろしく。この車検場は最新の道具が導入されたばかりでね。僕自身もまだマニュアルを片手に作業しているんだ。まあ、ぼちぼちやろうよ」
そう言って、タグ読みとり機のコントロールボックスに向かう。
本日最初のお客様。
2000ccセダン。
2030年式。
運転席に初老の男性が乗っている。
各検査を車に乗ったまま完了出来るシステムだ。
「はいそのまま真っ直ぐ。はいオーケーです。しばらくお待ちください」
ゲートが移動し、スキャンが開始される。
「はい完了しました。次は7番におすすみください」
ほぼ無音で、数枚のレポート用紙が印字された。
用紙を眺めていた新人が口を開いた。
「あの、すいません。この欄のこの数字はどういう意味ですか」
指さした欄には「D残1年」と書かれている。
「ああ、それね。一般には公表されていない数字なんだ。他言無用だよ」
「はあ」
「Dはドライバー、運転手の事。残1年は余命。あのおじさんあと1年で死ぬね」
「ええ!」
「そうなんだよ。あの機械、進歩して今ではICタグを乗せていなくても耐用年数が分かるようになったんだ。運転手の寿命が分かっちゃう。でも、その事を知らせても僕たちはしょうがないでしょう。だから上の判断で伏せてあるんだ。自分ではあのゲートくぐっちゃダメだよ。世の中には知らなくてもいいことが沢山あるんだ。じゃあ、そういう事でよろしく!」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎本日の想像話「ジョニー」

2014年04月13日 | ◎これまでの「OM君」
どうしても金が必要だった。
建設的な話じゃあない。
借金の返済の金だ。
「お前、金はどうするんだ」
借金取りのジョニーが言った。
「ありません」
「ありませんで済むわけ無いだろう。何かプランを出せよ」
「ありません」
「何にも無いんだなお前は。よし、俺からお前にプランを出してやる。明日の夜、4丁目の雑居ビル801号室へ行け。何も考えるな。とにかく行け」

雑居ビルの前に立っている。
行かないつもりだったが、ジョニーに見つかり、そのまま車に押し込められた。
車の中でたくさんの書類にサインさせられ、ここに連れてこられた。
エレベーターが無い。
ため息をついて階段を上る。
4階辺りで息が上がってきた。
先ほど言われたジョニーの声が頭の中でこだまする。
「逃げるなよ」

801号室のドアの前に立った。
ドアノブを回す。
ガチャリとドアは開いた。
室内が真っ暗なのは何故だ。
手探りでスイッチを探した。
無い。
仕方なく室内に入る。
ドアを開けているので外の明かりで廊下の少し先は見える。
2、3歩入ると、音もなく後ろでドアが閉まった。
真っ暗になり、その場に立ち尽くす。
ライトが点いた。
うあ!
目の前に痩せた男が立っていた。
目だけがぎょろりと光り、コートのポケットに両手を突っ込んでいる。
男は無言で背を向け、歩く。
着いてこいという意味だ。
仕方なく、男の後を歩き、次の部屋に入った。
その部屋には家具らしい家具はなく、スチール机と木製の椅子2脚だけが置かれていた。
男は座った。
俺も座る。

男がポケットから手を出す。
右手にはリボルバー。
左手には弾丸1発。
机の上にゴトリと置いた。
「これを見て、あんた、何の事か分かるか」
(まさか…)
「俺はあんたと同じ境遇。書類にサインしたよな」
(サインした。)
「脅されて仕方なくサインしたが、書類の内容までは見ていない」
脂汗が出てきた。
「意志は知らないが、その書類は生きている。生き残った方に保険金が入る寸法だ」
そう言うと男はリボルバーを器用に傾け、弾丸を1発入れ、カラカラと回転させた。
「あんたからやるかい」
(いやだいやだ)
無言で首を振った。
「そうかい。なら俺からやるからな」
そう言うと瞬きをしない瞳をぎらぎらさせ、自分のこめかみに銃を構えた。
カチャ
見ているこちらが思わず目を背けた。
フーと男は息を吐き出し、銃をこちらに滑らせた。
永遠かと思われる時間が過ぎた。
男はこちらをじっと見据えている。
(出来ない。こんな事は馬鹿げている。)
ふるえる手で銃を握る。
ズシリと重い。
こめかみまで持ち上がらない。
やっとの事で自分のこめかみに銃を構える。
引き金に指をかける。
指先が白くなり、さらに力を入れる。
やるか、やるか、やるか…

「うわああああ」
机に銃を投げ出し、その勢いで椅子を押し倒しながらドアを開け、真っ暗な廊下を走り、そのまま外に出る。
1階まで一気に駆け下り、道路に出る。
逃げる。
逃げる。
ジョニーは追ってこない。
何故だ。

そのころあの部屋では…
「いやーわりと儲かったんじゃない」
ダミーの弾丸をつまみながら、ギョロ目の男が言った。
「そうだな。しょせん俺もつましい宮仕え。おいしい事もなければやってられねえよ」
ジョニーが言った。
先ほどのやりとりはネット上に同時中継されていた。
アクセスを稼ぐ。
そうするとちょっとしたお金が入る。
まあ、そういう事だ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎本日の制作途中

2014年04月05日 | ◎これまでの「OM君」
エルガイムマークⅡプラモデル制作。
やっと立った。
2012年12月から作り始めてはや1年以上の時間が経過している。
時間はあっという間に過ぎている。
まだ背中に背負うランドセル及び盾を作らなくてはならない。
あと1年はかかるなこれは。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◎本日の想像話「不眠」

2014年04月05日 | ◎これまでの「OM君」
眠れない。
こんな事はこれまでの35年生きて来て初めてだ。
もう2ヶ月にもなろうか。
あらゆる快眠に関する民間療法を試した。
ぬるめの湯に長くはいる。
バランスの良い食事。
適度の運動。
万全の準備をして、早めに横になる。
眠れない。
ごろごろと寝返りをうつ。
眠れない。
諦めて起きる。
キッチンの暗がりの中、酒を飲む。
たばこを吸う。
布団に潜り込む。
夜明けが近づく。
何も考えまいと努力するが、仕事の事を考える。
焦りからますます眠れない。
目覚まし時計のアラームが鳴った。
頭の中心がチリチリする。
顔を洗い、髭を剃り、通勤電車の殺人的な混雑に向かう。
フラフラのまま仕事をする。
夜は眠れないのに、日中に睡魔が襲う。
まるで浜辺に押し寄せる波のようだ。
このままじゃあダメだ。
俺は次の日、有休を使い仕事を休んだ。
病院に行こう、そう思ったからだ。

眠れない。
明け方、睡魔に襲われたが、寝てしまうと病院に行けないかもしれないという不安が頭から離れない。
身支度をして、夜明けと同時に玄関の扉を開けた。
眠い。
不眠症なのに眠いとは…。
電車とバスを乗り継ぎ、ネットで調べておいた病院に到着した。
午前の診察が始まるまで、まだ1時間もある。
玄関ロビーの見える駐車場のフェンス。
コンクリート部分に腰を下ろした。
自然と瞼も落ちてくる。

闇夜の中、車を走らせていた。
山道のカーブを曲がる。
危ない。
こちらに迫る車のヘッドライト。
幻覚のような覚えのないイメージ。
よろよろと立ち上がり、受付に向かった。

「きょうはどうされましたか?」
そこにいたのは先生らしくない先生。
まず白衣を着ていない。
黒ハイネック、黒スラックス、黒めがね、オールバック。
たばこを吸っている。
現代の医療人としては珍しい。
心療内科。
初めて受診する。
「眠れないんです」
「ほう、それは何時からですか」
「もう、2ヶ月になります」
「それはいけませんね。心当たりはありますか」
「それが無いんでです。先生、眠剤か何か手っ取り早く眠れる薬を処方してくれませんか」
「いやいや、安易な治療は長引く可能性があります。
どうです。カウンセリングの延長で催眠療法をやらせてもらえませんか」
「催眠療法ですか」
「そうです。その不眠の原因が無意識下にあるかもしれないという事です。どうですやってみませんか」
押し切られる様に長椅子に横になった。
「あなたは、だん、だん、眠くなる」
たばこのヤニのにおいを感じながらそのせりふを聞いた。
悪魔的な響き。
ストンと意識が落ちた。

病室のベットで俺が寝ている。
どうして自分の姿を上から見下ろしているのか見当もつかない。
両腕、のど、下半身。
あらゆる場所から管が生えている。
心電図の音が無機質に鳴っている。
よほどの重傷だ。
その横で美しい女の人が座っている。
呆然と生気のない視線が宙に泳いでいる。

「あの患者はあなたですね。」
先生がいつのまにか横にいた。
「はい、そのようです。どういう事でしょうか?」
「そういう事です。あなたは眠らなければなりません。2ヶ月前、事故に巻き込まれました。それ以来、意識は戻っていません」
「どういうことですか?私は起きています」
「ここは、あなたが見ている夢の世界です。あなたが眠ればあちらの世界のあなたが意識を取り戻します」
「私はどうなりますか」
「消えて無くなります」
理解しかねる話だ。
「でも具体的にはどうするんですか。眠れないんですよ」
「私が眠らせます。あなたが決心さえしてくれればね」
先生の目が邪悪に光る。
(怖い。でも僕には付き合っている女性はいない。
あのベットサイトに座っている女性。
あちらの世界の本当の俺には待っている人がいる)
「もともと眠りたくて今日、ここに来ました。お願いします先生」
「承知しました」
キラリとナイフが光る。


「ここは…どこだ」
あの病室。
「あ、あなた!」
「なんだか、何ヶ月も眠れなかったような気がするな」
「あなた、痛いところは無いの?事故に巻き込まれたのよ。2ヶ月の間、眠りっぱなしだった…」
「そうか、こうやって生きているという事は、なにか大いなる意志を感じるな…」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする