日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
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◎本日の想像話「亜光速スペースシップ「ワルキューレ号」の冒険」

2016年09月22日 | ◎これまでの「OM君」
モニターを見つめながらコーヒーをすする。
先ほどまで人工冬眠のカプセルの中で眠っていた。
半年ぶりの目覚めは、すっきり爽快というわけにはいかないが、目標が近づいた事と同じ意味と思うと悪くない気分だった。
モニターには我が亜光速シップ「ワルキューレ号」が進んだ軌跡が点線で点滅している。
このワルキューレ号は父の船だ。
父もまた祖父から譲り受けていた。
年代ものの宇宙船を運転する俺は生まれついての宇宙飛行士なのだ。
ワルキューレ号はメインフレームが頑強に設計されていたおかげで幾多の改修にも耐え、そして亜光速エンジンを載せることも出来た。
エンジンを載せたのは俺だ。
父にエンジン載せ変えの構想を報告したのは病院のベッドの上だった。
「そうか…」
父はそう一言つぶやいた。


今回の目的はスパチュラ星人との商談だ。
スパチュラ星には通貨というものは存在しない。すべて物々交換によって取引を行う。
今回のお目当ては、亜光速エンジンの制御にかかせない鉱石「カプリウム」
現在スパチュラ星と他、数カ所でしか「カプリウム」の存在は確認されていない。
なのでスパチュラ星人との物々交換の成功、及び情報は成功者の特権として決して明かされはしない。
トップシークレットであることは十分理解できる。しかし、それにしても情報がなさ過ぎた。
雲をつかむような話だった。
それでも俺は独自ルートで調査した条件をもとに今回の商談に挑んでいる。
要は奴らが何を欲しがっているかなのだ。
ここでスパチュラ星人の外観及び分かっている気質を紹介しよう。
外観は青い雪だるまに細長い手足がにゅっと生えている。
手足はいつも小刻みに動いていて、全体的行動のスピードはすごく緩やかだ。
決して走ったりはしない。
集団で行動し、単独行動はしない。
オスメスという明確な性別は無く、雌雄同体で、生まれついた気質により後天的に性格が確定される。
そして特徴的気質は旺盛な物欲。
それからするとまったく「カプリウム」獲得は簡単な話のはずだ。

スパチュラ星のスターゲートに無事着陸した。
族長とその家来たちが俺を待っていた。
握手を交わした。
彼らの体温は冷たかった。

俺は積み荷のコンテナシップを切り離し、彼らを招き入れた。
地球で考えられる金、銀、ダイヤ、プラチナ、貴重な鉱石、そしてそれらをふんだんに使用した装飾品。
おもちゃ、ゲーム、マンガ、DVD、カメラ、時計…
考えられるアイテムを満載して俺はここにいるのだ。

彼らの表情を見る。
だが、反応は薄い。
手に取ろうともしない。
しまった…、失敗したか…そう思った刹那、
彼らはうれしそうに俺の目を見た。
そして指をぱちんとならした。
そうすると族長の家来たちはゆるゆるとした動きで希少金属「カプリウム」をワルキューレ号の荷室に乗せ始めた。
驚いた表情の俺に族長は指でオーケーサインを出しながらワルキューレ号のコックピットに案内するようゼスチャーで示した。
そして地球への帰還ルートの入力をうながした。
狐につままれた表情の俺は言われるがままオートパイロットの入力を終えた。
エンジンを点火させれば自動でワルキューレ号は地球に帰るのだ。

族長は一言「商談成立」と言うと、今までの緩慢な動きとはうってかわって、俊敏に俺の背後に回り込み、腕を固められ、そのまま前に倒された。
!!
「どういうつもりだ」
「あなたの青い目。その美しい青い目が欲しくなりました。何代もの世代を経て、時間をかけ、交配を繰り返し、奇跡的に発生した、その美しい青い目。その青い目が今回の取引の対価です。この船は地球に送ってあげます。ただしあなたにはここにいてもらいます。住まいは我々の鑑賞用の檻の中になりますが、なかなか快適かと思いますよ」
「ふざけるな!」
俺はうつ伏せに倒された状態のままリストバンドのボタンを押した。
室内の照明が青白く切り替わり、蛍光色にすべてのものが光った。

ぐおおおぅ!
スパチュラ星人たちは表皮から煙を発しながら苦しみだした。
「ただのブラックライトなんだがな、あんたらには殺人光線になるらしいな。おやじから聞いてたんだ。おやじも偶然知ったらしい。半信半疑だったが、これほどのことになるとは思いもよらなかったぜ。できれば両方ハッピーなまま商談を成立させたかった。残念だ」

俺は荷室いっぱいのカプリウムを載せ、この星を離れた。
用意した金銀財宝のレンタル料の支払いと、燃料代、カプリウムの売値の引き算を考え、にやにやしながらコールドスリープのボタンを押した。
どうやら、ぐっすり眠れそうだ。
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