さじかげんだと思うわけッ!

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南信州三人旅行記(3)

2007-05-07 22:47:41 | 
早太郎温泉郷は、駒ヶ根市から隣の宮田村の広い範囲にあります。
早太郎とは、人名ではなく実は犬の名前です。開湯は1994年ですから、「むかーしむかしのそのむかし」の話の登場犬物である早太郎とは、直接の関係はありません。
…まぁ、この地に着くまで、温泉の名前が「早太郎」だったことも知らなかったぐらいですので、なぜ温泉の名前が「早太郎」なのかなんて、当然知りませんでした。
いかにノープランな旅だったかがわかると思います。
そこで、旅行記を書くに当たって、早太郎伝説を調べてみました。

今から700年ほど前の話。光前寺の縁の下に、駒ヶ岳に住む山犬がやってきて、赤ちゃんを5匹産み、育てていました。光前寺の和尚は追い出すこともなく、山犬の成長を笑顔で見守っていました。そして、戯れにこんなことを話しかけていました。
「どうじゃ。山に帰るときに、一匹おいていってくれぬか。最近は、何かと物騒だからのぅ」
やがて、成長した山犬たちは、駒ヶ岳へと帰っていきました。
ところが、和尚がふと縁の下を覗いてみると、そこに一匹の子犬が座っていました。
「ほうか、お前がうちの寺を守ってくれるか」
と、子犬の頭をなでると、子犬はうれしそうにわふんと鳴きました。
その後、すくすくと成長した山犬は、風のように素早く走り回ることから「早太郎」と名付けられました。
また、ただの山犬とは思えぬほど、強く大きくたくましく成長し、和尚さんを襲った熊を撃退するほどでした。

その頃、光前寺の村では、遠江国見附村(現在の静岡県磐田市見付)からやってきたという坊さんが噂になっていました。
名を一実坊といい、諸国を旅して歩く流浪のお坊さんでした。その坊さんが村人に、
「早太郎を知らぬか。早太郎という人を知らぬか」
と、聞いて回っているというのです。
その話を聞き及んだ和尚は、「早太郎とはうちの犬ではないか」と思い、急ぎその一実坊を呼び寄せました。
和尚の話を聞いた一実坊は、おでこをぴしゃんと叩いて
「なんと。早太郎とは犬の名でござったか。そいつは意外」
と、坊主頭をなでました。
和尚は、なぜ早太郎を捜していたのかを問いました。
一実坊は、急に神妙な顔つきになり、ことの次第を話し始めました。

遠州見附村では、数年前まで刈り入れ間近の田畑が、村の神社に祭られている神様によって荒らされていたのだ。
案じた村人たちは、その神社の祭りの夜に、生娘を一人、人身御供として神様に捧げ、神さまの怒りを鎮めるようになった。
宵のうちに娘を箱の中にいれ、神社に納めておくと、次の朝にはいなくなっておるというのだ。
神さまが、そんなことをするはずがない。
そう思ったわしは、祭りの夜に神社のご神木の陰にひっそりと隠れ、ことの成り行きを見守り、あわよくば神の名をかたる不届き者を、こらしめてやろうと思っとった。
ところが、その夜に現れたのは、神さまでも人でもなかった。30丈はあるだろう鬼どもがぞろぞろと出てきて、箱を開けると娘をむんずとつかんで帰っていきよった。
わしは、恐怖のあまり身動きが取れず、息すら潜めて震えるしなかった。
そのときに、鬼どもが奇妙な歌を歌っておってな、その歌が耳からはなれんかった。
それはこんな歌じゃった。
 ♪信州信濃の早太郎 走る速さは風のよう
  さすがのおれらも やつにはかなわん
  今宵今晩おるまいな
  早太郎はおるまいな
 ♪おらんおらんぞ早太郎
  けしてやつに知らせるな
  早太郎には知らせるな
とな。その話を村長にすると、ぜひその早太郎とやらを連れてきてほしいと頼まれてな。
それで天竜川沿いに上ってきて、ここに至ったというわけなのだ。
それにしても、犬の名だったとはのぅ…。

またぺちぺちとおでこを叩きました。
「さて、和尚様」
というと、あぐらを組んでいた一実坊は、居直って両方のこぶしを床に押しつけ、頭を下げました。
「お願いいたします。早太郎を、ぜひお貸しいただきたい」
和尚は、ふむとうなりました。子どものいない和尚にとって、長年連れ添った早太郎は、本当の子どものようなものです。
その早太郎を、そんな危険な目に遭わせてよいものか…。
和尚は悩みました。そしておもむろに目を開け、お堂の前で座っている早太郎を見ると、早太郎は微動だにせず、じっと和尚の目を見ていました。
「よし」
といって、こう続けました。
「わかりました。早太郎をお貸ししましょう。そのような話を聞いて、黙っておられる早太郎ではないようです」
「おお、ありがたきかな」
一実坊は、はっと顔を上げました。
和尚はすっと立ち上がると、早太郎の方に歩み寄り、頭をなでました。
早太郎は、昔と変わらずにわふんと鳴きました。

早太郎を連れた一実坊が見附村に着いたのは、ちょうど祭りの夜でした。
頼みの早太郎が、ただの犬だったということに村人は驚きましたが、それでも他に頼れるものもなく、いつも娘を入れる箱に早太郎をいれ、神社に納めました。
一実坊は、前の時と同じようにご神木の陰に隠れて、ことの成り行きを見守っていました。
やがて、遠くの方からあの歌声が聞こえてきました。
 ♪信州信濃の早太郎 走る速さは風のよう
  さすがのおれらも やつにはかなわん
  今宵今晩おるまいな
  早太郎はおるまいな
 ♪おらんおらんぞ早太郎
  おるはずないわ早太郎
  早太郎などどこにもおらぬ
どしんどしんという地響きとともに、身の丈30丈の鬼が3人も現れました。
一実坊は、やはり息を吐くのも困難なほどに恐怖に駆られて、じっと早太郎が入った箱を見ていました。
月が出ていない暗い夜でしたが、そのよだれで光る鋭い牙は不気味に光っているのがわかります。
「どぉれ。ではえものをいただくか」
鬼の一人が箱に手をかけた、その時でした。
箱から早太郎が飛び出し、箱を開けようとした鬼ののど笛に噛みつきました。
「わぉーん」
「ぐわっ、はや、早太郎だ!」
のどに噛みついた早太郎を、無理矢理引きはがすと力任せに地面に叩きつけます。しかし、早太郎はひるまずに立ち向かいます。
足下をちょこまかと動き回る早太郎を、鬼は踏みつぶそうと地団駄を踏みますが、風の速さの早太郎をとらえることができません。
すきをついて、鬼の足に噛みつく早太郎。
「ふぬわ~」
とたまらず鬼が倒れ込んだのは、一実坊が潜むご神木の前。早太郎はすきを逃さず、のど笛に噛みつきます。
噛みついて動きが止まったところを、別の鬼に力いっぱいに蹴たぐられます。しかし、一度噛みついたら、なかなか離れない早太郎です。蹴られた拍子にとんだ早太郎に引きずられて、鬼ののど笛がかみ切られてしまいました。
とばされた早太郎がご神木に当たり、ご神木はめきめきと音を立てて倒れました。一実坊もこのときばかりは慌てて逃げ出しましたが、間に合わずに彼の頭の上にご神木の葉っぱの部分が覆い被さり、一実坊はそのまま気を失ってしまいました。

次の朝早く、一実坊は村人に起こされました。
村人たちは、いくつかの家に集まって身を寄せて、戦いの間中震えていたといいました。そして、恐ろしい叫び声が落ち着いたかと思うと、早太郎の遠吠えが聞こえてそれきり静まりかえったというのです。
気になった村人の一人が、勇気を振り絞って神社に赴くと、そこには齢百を超えているかというような大きなヒヒが三匹、のど笛をかみ切られて死んでいました。
そして、倒れたご神木の下敷きになっていた一実坊を見つけ、たたき起こしたのでした。
ヒヒの死がいには、すでに多くの村人が群がり、石を投げたり、棒でつついたりしていました。
一実坊は、村人の肩を借りて立ち上がると、すぐに早太郎の姿を探し始めました。
「は、早太郎はどこじゃ。皆の衆、早太郎を捜してくれぃ」
憎しみで我を忘れていた村人も正気に戻り、早太郎を捜しましたが、とうとう早太郎の姿を見つけることはできませんでした。

光前寺の和尚は、早太郎を送り出してからというもの、深い眠りにおちることはありませんでした。
その晩も、布団には入ったものの目を閉じてじっとするだけで、なかなか寝つくことはできません。
月が明るい晩でした。
和尚の寝床の外で、かたんと音がしました。
はっとした和尚は起き上がり、廊下に通じるふすまに目を向けました。
ふすまには、山犬の陰が映っていました。前足を不自然に折り曲げ、鼻の頭を使ってふすまを開けようとしているところでした。
和尚は慌てて駆け寄り、ふすまを開けました。
そこには、すっかり変わり果てた早太郎の姿がありました。
和尚が腰を下ろすと、早太郎は安心したように、和尚に身体を預けるように倒れ込みました。
そして、一言わふんと鳴いて、そのまま眠るように息を引き取ったのでした。

その後、この霊験あらたかな山犬・早太郎は崇められているということです。
光前寺本堂脇には、早太郎のお墓が今でも残っているといいます。

というのが、早太郎伝説ですが…長くなりました。
ちょっと調べた説話にいろいろと脚色していたら、こんなんなってしまいました。
反省…早太郎温泉のことはまた明日にしましょう…。

今日の一枚は、『こまくさ橋から望む中央アルプス』です。
詳しい説明は…明日以降ということで…。

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