さじかげんだと思うわけッ!

日々思うことあれこれ。
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雲のようにのんびりと。

なぜ彦根で猫なのか。

2007-07-25 23:50:42 | 

さて、では早速予習その一です。

彦根はただいま、「国宝・彦根城築城400年祭」の開期中です。
そのイベントのキャラクターは「ひこにゃん」といいます。
詳しくは、リンク先を見ていただければいいと思うのですが、なぜ彦根で「猫」なのでしょう。
まぁそれも、リンク先のプロフィールを読んでもらえればわかってしまうのですが、せっかくなので物語をしてみましょう。


昔。…そう、江戸時代の最初の頃の話です。
江戸は世田谷に、豪徳寺という貧乏寺がありました。
もちろん、そんな貧乏な寺にも和尚さんという人がいて、その和尚さんは一匹の白猫とともに暮らしていました。
飼っていたのか、それとも単に住み着いていただけなのかはわかりませんが、とにかくともに暮らしていたのです。
和尚のする世話といえば、せいぜいご飯の準備ぐらいのことでしたが、それでも和尚にとっては少ない収入口からご飯を出していることもあって、毎度ごはんのたびに、
「おう、猫や。お前は毎日ただ飯ばかり食らいおって。一度でよいから、恩返しというものをしてくれんかの」
といって、一人で笑っておりました。

ある年の夏のことでした。
この世田谷の地は、徳川家が治めるようになってから、その忠実な家臣であった井伊家の領地となっていました。
その井伊家の当主は、まだ年若き直孝でした。
武芸を好み、物静かな直孝は、その鍛錬のために鷹狩を好んでいました。
その日も朝早くから、家来6人をつれて鷹狩を行っていました。
ところが。あまりに熱中しすぎて、すぐ近くまで夕立雲が来ていることを気がつきませんでした。
雷のゴロゴロという音を聞いて、ようやく夕立が近づいていることがわかりました。
「殿。こいつは不覚でした」
「…うむ」
気がついたときには、雨がぽつぽつと降ってきており、雨宿りする場所を探すのも間に合いそうにありません。
仕方なしに、そばにあった木の下に避難しました。
雲は妖しく光り、雨脚はじょじょに強くなっていきます。
「殿。こいつは長引くかも知れませんな」
「…うむ」
その時でした。
突然、近くの茂みから白猫が飛び出してきたのです。
直孝と家来たちは、興味深くその猫を見ていますと、猫は少し放れたところにちょこんと座り、右手を挙げて手招きをしました。
家来たちは、どっと笑いました。
これは愉快だ。猫が手招きをしたぞ。と。
愉快に思ったのは、家来たちばかりではありません。直孝も、表情にこそ出しませんでしたが、愉快に思っていました。
「…うむ。じい」
「は。いかがなさいました?」
「どうだ。あの猫の誘いにのってみぬか」
言うが早いか、雨の中へ出て、猫を捕まえようとしました。
するりと直孝の手を抜けて、また離れるとちょこんと座って手招きをします。にゃーおと、今度は鳴きました。
直孝は一城の主とは思えないような無邪気な顔をして、白猫を捕まえようと必死です。
家来たちは顔を見合わせていましたが、猫を追いかけてどこまでもいってしまう直孝をそのままにするわけにもいかず、追いかけていきます。
と、その時でした。
目の前がぱっと明るくなったかと思うと、どおんと轟音が鳴り響きました。
あっと声がして、家来の一人がどさっと倒れ込みました。
直孝ははっと我に返り、振り向くと先ほどまで雨宿りに使っていた木が真っ黒になって、白い煙を上げ、所々に赤い火が見えています。
「…殿。危ないところでございましたな」
「…うむ」
「猫が現れて手招きをしなければ、今頃は揃って命を落としておりましたな」
「…うむ、そうだな」
と、白猫を見ると、相変わらず手招きをしています。
直孝は、雷の衝撃で気を失った家来を馬に乗せるように命じ、この白猫のあとをついて行くことにしました。

白猫は、しばらくいったところにある、荒寺…豪徳寺に入っていきました。
直孝とじいは顔を見合わせると、家来の一人に命じて、寺の中を見てくるようにいいました。
命じられた家来は、寺の中に入ると、白猫の代わりに和尚の姿を見つけました。
そして、今、寺の前に、身分尊きお方がけが人を抱え、雨宿りを望んでいるのだが、という話をすると、和尚は
「おお、さぞお困りでしょう。こんなぼろ寺でよろしければ。何のおもてなしもできませんが」
と答えました。
家来は急ぎ戻って、直孝たちを招き入れました。
馬からけがをした家来を下ろすと、本堂にしかれたふとんの上に寝かせました。
一同は、本堂に上り、わらじを脱ぎました。
「こんなぼろ寺で、白湯しか出すことはできませぬが。まぁ、夕立です。じきに止むことでしょう」
と人数分の茶碗を盆に載せ、和尚が現れました。和尚は、その身分尊きお方がどちらの方か、わかっていないようです。
「…うむ。ところで、和尚」
と、直孝が茶碗を口に運びつつ、和尚に尋ねた。
「この寺に、猫はおらぬか。白い猫じゃ」
いきなり、何を聞くのだろうと和尚は面食らっていましたが、
「ええ、ええ。おりますよ」
と答えました。
ずっと湯をすすると、「…うむ。そうか」といいました。
「その猫は、今どこにおる?」
「…さぁ。雨の日ですと、お堂の下にでもいるはずなのですが」
と、本堂の廊下から頭をのぞき込ませると、白猫が何食わぬ顔で毛繕いをしています。
「おりました。床下で雨宿りをしておりますわい。…して、うちの白猫がいかがしたのですかな。もしかして、小便でもひっかけましたか」
と和尚が言うと、一同がはははと笑いました。
「実はの、和尚…」とじいが、例の話をしました。
一通り話が終わると、
「はは、そんなことがあったのですか」
と頭をぺちぺちと叩きました。
「そう、和尚が飼っておる猫のおかげで、命拾いをしたというわけだ」
普段、あまり笑わない直孝が、また「ははは」と声を上げて笑いました。
ひとしきり笑うと、ふと空を見上げました。
いつの間にやら暗くて重い雲はかき消え、お日様が顔を出しています。
「…うむ。さて、和尚。すっかり世話になったな」
「いえ、何のお構いもできませんで」
と、深々と頭を下げました。
寝込んでいた家来も目を覚ましました。
「おう、大丈夫か。雷にやられたようだ」
と家来を気遣い、声をかけました。
「まだ歩くのは無理であろう。わしの馬に乗るがよい」
わらじを着け、地に降りると、床下をのぞき込み、その白猫に声をかけました。
白猫は、声に答えるようにニャオと鳴くと、床下の奥の闇へと消えていきました。
ふっと微笑むと、立ち上がりました。
「…うむ。和尚。わしは、彦根の井伊掃部頭と申す者だ。もし、和尚の迷惑でなければ、この寺を我が井伊家の菩提寺にしたいと思うのだが。どうだろうか」
「は。」
いきなりの申し出に、和尚はなんと答えて良いかわからない。
「わしの命を守ってくれた猫が住む寺じゃ。何か礼をしたいし、礼をしたいにもこう荒れておったら、井伊家の名折れだ。いかがか、和尚」
「あ、ありがとうございます。なんと礼を申し上げたらよいか…」
「ははは、礼を言うのはこちらの方だと申しておろう」

こうして、豪徳寺は井伊家の菩提寺となりました。
直孝は死後にこの寺の墓地に葬られ、直孝の子孫である井伊直弼の墓もこの地にあります。
直孝の命を守ったあの白猫は、その死後に「招猫殿」を設けられ、今もまだ残っています。
そして、和尚はその白猫の功績を称えて、「招福猫児(まねぎねこ)」を作り、崇めているそうです。


というわけで、彦根藩主だった直孝の命を救った猫をモデルにして、このキャラクターは作られたわけです。
ふー、疲れました。久しぶりにこんな長文を書きましたね。
明日は短い文にしましょう…。


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