映画なんて大嫌い!

 ~映画に憑依された狂人による、只々、空虚な拙文です…。 ストーリーなんて糞っ喰らえ!

ストレイト・ストーリー

2010年04月26日 | 洋画・鑑賞ノート
 『イレイザーヘッド』に引き続き、デヴィッド・リンチ監督作品です。

     ■『ストレイト・ストーリー』 (1999年/米) デヴィッド・リンチ監督

 例によって、時間に2重の意味を持たせていたように思います。この作品前の『ロスト・ハイウェイ』(1997年)ではメビウスの帯に、この作品後の『マルホランド・ドライブ』(2001年)では空間の統一に対して時間を圧縮させてドラマを描いていました。実兄に会いに行くという旅路のドラマは、同時に主人公のアルヴィン(リチャード・ファーンズワース)の回顧劇でもあり、まるで《死への旅路》のようでもありました。アルヴィンが倒れる場面では、移動するカメラがゆっくりと窓に寄り、「ドタッ!」という音を重ねて、対面には飽食の女ドロシー(ジェイン・ギャロウェイ・ヘイツ)という配置でした。そして、フェードアウト…。ここに《死》と《生》の対比を感じさせます。冒頭と最後の《満点の星空》、は実兄との懐かしい思い出としても語られていましたが、娘ローズ(シシー・スペイセック)との別れの場面でも印象的に使われていました。そこでは日の出の太陽のカットへとオーバーラップして、更に旅立つアルヴィンのトレーラーへとオーバーラップします。道路の中央線は、トレーラーのゆっくりとした進行を描くと同時に、《死》と《生》を分かつ境のようにも思え、その上をカメラは移動しながらパンアップして空を写し、再びアルヴィンのトレーラーを捉えます。そして、度重なるトウモロコシ畑の収穫風景と、全てを眺めているような低い太陽。旅先で出会う人々は、走馬灯のように浮かんでは消えて行く記憶の断片のようでもありました。妊娠中の家出少女、自転車レースの若者たち、鹿を轢き殺してしまう女、中産階級の夫婦、同じ戦争世代の老人、墓地に囲まれた教会の牧師さん…。妊娠中の少女をアルヴィンが諭す場面に挿入されるローズのカットには、ローズも嘗て同じような理由で家を出た事を示唆しているようでもありました。また、故障したトレーラーの面倒を見てくれた中産階級の夫婦と、アルヴィンからの電話を受けたローズがカットバックする台所の場面にも、切なさが募ります。火災訓練中の燃える家、死んだ鹿…。森羅万象の中で、一生涯が経験する悲しい記憶の残骸が、満点の星空のたった一個の星のように輝いていました。旅の最後にトレーラーが再び煙を吹いて故障してしまいます。前方に続く道のカットからアルヴィンへのオーバーラップが2度ほど繰り返されます。道半ばです。おそらく、そこが旅の終焉だったのでしょう。トレーラーが引っ張って来ていたものは、アルヴィンの体が横になれる木製の寝床でした。さながら棺のようです。最後に実兄が問います。「あれに乗って来たのか?」と…。星空の下で…。

 アルヴィンを遠くから眺めるような、やや違和感のあるロングショットが何回か入ります。観客が感情に流されないよう歯止めを掛けたロングショットでした。これが上手い事、森羅万象の一部という印象を齎しており、《満天の星空》と対比させています。感情に任せてアルヴィンの人生を特化させる演出では無く、寧ろ命の儚さを際立たせた映像演出で、作品に厚みを与えていました。儚いが故に愛おしい…。美しい作品です。

 以前、テレビ放映を録画して見た時は、アットホームなヒューマンドラマという印象だったのですが、その後、未見だった『ロスト・ハイウェイ』『マルホランド・ドライブ』を続けて見る機会があり、この一見アットホームなヒューマンドラマが、リンチ作品としては異質な作風である事を知りました。それ迄は、異型を鏡に既成概念への揺さ振りを掛けようという戦略面での印象が強く、いよいよリンチも『ブルーベルベット』の後、本格的に正統派劇映画へと進出したんだなぁ…くらいに思っていたのです。なので、ここ数年、もしかしたら何か重大な認識違いをしているのではないかと思えて仕方がなかったのです。今回、『イレイザーヘッド』と続けて見て感じた事ですが、『イレイザーヘッド』が《生》へと向かう《エロス》の作品だったのに対して、この『ストレイト・ストーリー』は《死》へと向かう《タナトス》の印象が強く、2作品が対称の関係にあるように感じられました。また、『イレイザーヘッド』の男性的な《エロス》に対して、『ストレイト・ストーリー』は女性的な《アガペー》の印象も重なり、この2作品が姉妹関係にあると捉えれば、異質な作風と感じられた違和感も解消されて行くようです…。


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