.「釜石の奇跡」を検証 犠牲者含め全市民3万8000人避難調査へ
産経新聞 11月5日(土)7時55分配信
東日本大震災で小中学生がほぼ全員無事に避難し「釜石の奇跡」と呼ばれた岩手県釜石市が、津波からの避難行動について全市民約3万8千人を対象に今月から調査に取り組むことが4日分かった。1073人に上った死亡・行方不明者の状況も家族から聞き取る。同様の調査は生存者を対象にサンプル調査が行われてきたが、犠牲者も含めた調査は初めてという。
釜石市は「津波被害の教訓として全国に発信したい」とし調査用紙を今月中旬に各戸配布し、12月初旬に回収する。市の防災・危機管理アドバイザーを務め、小中学生の防災教育を指導した群馬大学の片田敏孝教授が集計・分析し、年明けにも公表する。
調査は、世帯主対象と16歳以上の市民対象の2種。世帯主調査では、犠牲者を含む各家族の地震直後の行動を尋ねる。犠牲者については、地震時の所在地のほか、津波に被災したと思われる場所や被災時にとっていたと思われる行動、遺体確認の時期などを聞く。
市民調査では、避難を開始した理由や避難手段、避難場所に着くまでに取った行動を詳細に聞き、被災者が地震後に津波の脅威をどうイメージし、それが避難行動にどう影響したのかなど心理状態にも踏み込む。
市は「車の渋滞に巻き込まれたり、家族の安否確認に手間取ったりし、間一髪だった場合がある」とみて「避難中にどのような状況で命の危険を感じるような経験をしたか」を問う。また、震災では市民が避難した施設が津波で被災し多数の犠牲者が出たことから、市民が避難した経路や避難場所の被災状況も調べる。
こうした避難行動への質問に加え、被災前に各家庭や市民がどのような防災意識を持ち津波に備えていたかを聞くことで、普段の備えがどう地震後の行動に影響したか分析する。
片田教授は「震災後、津波被害による生死の分岐点が何だったのかについて、表面的な現象として語られてきた」とした上で「それを教訓として他の地域で生かすためには、犠牲者と生存者の区別なく避難の実態を掘り下げ、被災地の人々がなぜそのような行動をとったのかを分析することが必要だ」としている。