「APS」というボタンがテレビ局のサブ(副調整室・スタジオにディレクター等が指示を出す部屋)にはある。
TK(タイムキーパー・番組の『残り時間』をスタジオに読んだり、VTRをスタートさせたりする)がCMに行く時、この「APS」を使う
例えば、「11PM」が全国28局で生放送されていたとする。
発局を含め、28局で流れる「CM」は全て異なっている。
「APS」を押すと、大阪の発局から系列各局に、「CMの VTRをスタートさせる信号」が自動的に送られるのである。
その信号を受けて、VTRがスタートして3秒後、各局のCMが流れ始める。
「11PM」の場合でも「APS」を押すと、テレビ画面の右下に「11PM osaka」の表示が出ていた。
これは聞いた話だが、「APS」の信号が無い頃、各局はこの画面上のスーパーが出たら、「CM」のVTRのスタートボタンを押していたらしい。
伝説の音楽番組「ザ・ベストテン」(TBS)や現在も放送中の大型番組「オールスター感謝祭」(TBS)も生放送ゆえ、「CM」に入る前、番組タイトルが必ず右下に出る。「APS」を押しているからだ。
僕が「11PM」をやっていた頃、この「APS」装置を持たない地方局が存在していた。
その時は「放送している地方局の映像と音声」を大阪まで送ってもらい、「APS」のボタンを大阪で押して、大阪から全国に電波を流していた。
ある時、海の上のフェリーから地方局が中継した。
船上からの電波が上手く本土に届かなかったのだろう。
大阪のサブにいて、「APS」のボタンを押す役目を担っていた僕。
生放送の1時間、何も映っていない「砂嵐」の画面を見ながら、「APS」を押して「CM」を入れていった。
「APS」のボタンにはプラスティックのカバーが付いている。
カバーを押し上げてボタンを押す。
間違えて押すと、番組途中でも「CM」に入ってしまう重要なボタンだからだ。
先輩がTKデビューした時、緊張のあまり、そのカバーの存在を忘れて、何度も何度もカバーの上から「APS」を押そうとした。遂にカバーは壊れてしまった。
無事に「CM」には入ったが。
何気なく流れているテレビ。その裏で「APS」を毎日押している人がいる事を想像してみるのも楽しいのでは。