小指ほどの鉛筆

日記が主になってきた小説ブログサイト。ケロロ二次創作が多数あります。今は創作とars寄り。

129.憧れの人(ジラユラ)1

2010年06月12日 22時45分53秒 | ☆小説倉庫(↓達)
注:オリキャラの女の子、「ユララ」「ルリリ」が登場します。

____________

出会いは突然。

―ドンっ

「きゃっ」
「おっと。」

通路の角でぶつかるなんていう、ありふれたロマンス。
「すまない。大丈夫か?」
彼女が見上げた先には、自分を受けとめた頼もしい顔があった。
滅多にない異性との出会いに、顔を赤くする。
「だ、大丈夫です!こちらこそすみませんでした。」
けれども彼女にとってそれは特別で、
彼にとっては、ありふれた一コマに過ぎず、
しかしそれが彼にとっても特別なものとなるには、もう少し時間が必要だった。

そんな、一方通行の話・・・―

「それで、恋しちゃったわけだ。」
コーヒー香る午後のブレイクタイム。
肩より上で切り揃えた髪をふわりと揺らして、彼女は友人の言葉に激しく動揺した。
「別に、それで一目惚れってわけじゃないよ、ルリちゃん。」
「えー?他にいつ会ったのよ。まさかユララ、私に秘密で!?」
ポニーテールにした栗色の髪を気にしながら、ルリリは愉しげに問う。
「ち、違うよ!シャイン君が色々話してくれるし、たまにだけど、一緒に歩いてたりするから・・・」
顔を真っ赤にしたユララに、ルリリは微笑む。
「なんだ、目を付けたってことか。」
「それも違うよ~っ!」
慌てて否定したユララは、手元のカップを手に取った。
恥ずかしさを必死に隠そうとはするものの、それは誤魔化そうとすればするほど、より鮮明になっていく。
(恥ずかしいなぁ~///)
目の前でニヤニヤと笑うルリリを見て、ユララは更に顔を赤くした。
「よっ。お二人さん。」
そこに、一際明るい明るい声が加わる。
「シャイン君!」
「ユラ、どーした。顔赤いぞ?」
横からユララの顔を覗き込んで、それからシャインは、意味深に微笑むルリリの横に座った。
そっと耳打ちして、事情を聞く。
その口からジララの名前が出てきたとき、シャインは目を丸くして、やや困ったように笑った。
「へー、ジララをねぇ?」
「う。シャイン君までからかうの?」
頬を膨らませて睨めば、シャインは弁解するように両手を振った。
「とんでも。まぁ、いい奴だし、お前の人を見る目は正しいと思うぜ。うん。でもな~・・・」
テーブル頬杖をつくと、シャインは隣に置いてあったルリリのコーヒーカップをとり、躊躇い無く口をつける。
一息ついてから、やはり困ったように眉を下げた。
「ちょっと。」
ルリリがカップを奪い、杖突いた肘を崩す。
そして落ちた頭を押さえつけ、問い詰めた。
「言いたいことがあるなら言ってよ。ユララも不安になるじゃない!」
「ちょ、ちょっとルリちゃん!シャイン君かわいそうだよ!!」
「この男にはこれくらいしないと!」
一つのテーブルでガタガタ言っている男女を、周りのギャラリーは慣れた様子でスルーする。
軍内でも割と明るく、飄々としたグループに属するメンバーに、シャインはよく加わる。
風の噂も聞けるし、何かあった時に頼りになるのは、意外とこういった人物達だ。
「痛ぇって!分かったから!」
鼻が潰れん勢いで押しつぶされた顔を気にしながら、シャインはやっと解放された首を回す。
言いにくそうな顔をしつつ、口を開く。
それでもやっぱり、なかなか言い出そうとはしなかった。
「んー、えっとな・・・」
「何よ。早く!」
「えっと・・・その・・・あぁ、もう!ジララはなぁ・・・」
ヤケになって話そうとしたそのとき、自身の上に落ちた影とユララの赤い顔に、シャインは慌てて口を塞いだ。
「俺が、なんだって?」
「うわっ、ジララ・・・空気読めよ・・・」
「読んだ結果だが?」
自身を見下ろす視線に、シャインは気まずそうに応じた。
風のように現れてシャインを驚かしたジララは、当然のように、空いているユララの隣に座る。
恥らう乙女の様子が、シャインには酷に見えた。
「今暇なのか?」
とりあえず、と。
適当な話題を振って、ジララの反応を見た。
「あぁ。何か飲もうと思って来たら、お前が珍しく圧されているから何かと思えば・・・」
「あー!気にすんな!その話は後でな!後で!!」
「?まぁ、後でじっくり聞かせてもらう。」
ユララを傷つけるのも、ジララを困らせるのも嫌だ。
苦悩するシャインの脳内を知ってか知らずか、シャインを見るルリリの目は、心なしか心配そうに見えた。
シャインは出来るだけ感情を抑えて笑う。
不審な動きを見せるべきではない。けれども道化を演じるには、少しばかり厄介な相手だった。
あぁ、どちらに転んでも、誰かを躓かせる。
「ん?」
不意に、ジララが横を向いた。
シャインはドキリと胸を鳴らす。
顔を赤くするユララを2秒ほど見てから、シャインに問うた。
「そういえば、勝手に混ざってしまった。すまない。」
「今更それかよ・・・ま、別にいいんじゃね?な?」
二人に問う。
状況を確認しよう。
「全っ然平気。私はルリリ。はじめましてー」
笑顔で応じるルリリは、いつもとなんら変わらない。
好奇心に満ちた瞳は、自分もジララも得意としないものだったけれども。
「わ、私はユララといいますっ。」
「ジララだ。知っていると思うがな。」
赤くなった顔を隠しながら、ユララはジララの声に耳を傾ける。
幸せそうな、恥ずかしそうな、そんな純な様子に、シャインは心が締め付けれられるのを感じた。
珍しい。自分がこんな感情を持つなんて。
我ながら、てっきり自分は大佐のことしか考えない人間だと思っていた。
優先順位はいつだって、大佐>>・・・その他だ。
もちろんこの場に大佐がいれば、自分は真っ先にそちらへと関心を向けていたことだろう。
だが、それにしても酷だ。
「ジララさんは、アサシンなんですよね?」
「元、な。」
「凄いです!」
キラキラと目を輝かせるユララに、これ以上自分は干渉出来ない。
頭を抱えたくなった。
「シャイン?」
隣で、心配そうな声を聞く。
ルリリがシャインの顔を覗き込んでいた。
「ん~?」
「なんか、隠してない?」
察しがいいとか、勘がいいとかじゃなくて。
今回はちょっと動揺しすぎた。
唯一の友人を困惑させたくなくて、仲間を傷つけたくなくて。
本当のことも、まだ、言い出せない。
「別に。」
「・・・嘘。」
キッパリと言われた。
あぁ、嘘だとも。
けど、だからといって、俺にどうしろっていうんだ。
あんなに嬉しそうなユララを見たのは初めてだし。
女性を横にして微笑むジララを見たことなんてなかったし。
「まぁいいわ。今回は勘弁してあげる。」
「は?」
「今度は徹底的に問い詰めるからね。ちゃんと答えてよ?」
何を?ジララのことをか?
「ユララ、そろそろ時間になるよ。」
「あ、うん!」
恥ずかしそうに話していたユララは、パッと顔を上げて。
それから恐る恐る、ジララの目を見た。
明るい笑顔で手を振る。
「また今度、ジララさん。」
「あぁ。」
小さく手を振り返したジララを見て、シャインは溜息をつく。
ユララをはやしたてながら、ルリリも持ち場へ戻っていった。
「それでシャイン、最初の話しはなんだったんだ?」
「・・・いや~・・・お前ってさ、好みのタイプとか、あんの?」
何を聞いているんだ!俺は!!
「は?・・・可愛いのがいいが。」
「あぁ、カゲゲみたいな?」
落ち着け俺!
そんなこと、最初から知っている。
だからこそジララの趣味にぴったり合いそうな、ユララの存在が不安なのだ。
彼女は、カゲゲと何所となく似ている。
「アイツは姿を退化させすぎてるからな。俺と同じくらいにすれば、美人だぞ。」
「惚気か。そうなのか。」
「失言だった。」
「・・・」
言う言葉が無い。
言うべきか、言わざるべきか。
「・・・シャイン?」
訝しげなジララの顔を見て、シャインは再度溜息をつく。
結局何をしたって、友人を困らせる。
そんなことを望んでいるわけじゃないのに。
いっそ、言ってしまったほうがいいのだろうか。
こんなことでどうにかなるジララではないだろうし。
ここで迷っている自分は、彼を信用していないのか問われれば、そうではないのだし。
「率直に聞くぞ。」
だから、シャインは今度こそ、真っ直ぐにジララを見つめた。
「あぁ。」
「ユララのこと、どう思う。」
ドキドキ。
「ユララ?あぁ、さっきのか。可愛いと思うぞ?」
ドキドキドキ。
「うん。で?お前のタイプなワケ?」
口を閉じて考えていたジララは、やがて首をかしげて答えた。
「・・・それとこれとは別問題だな。好みのタイプと好きな奴は違う。」
「そりゃぁそうだけどな?」
そういうことを言いたいのではなくて・・・いや、これが答えなのか?
ユララは可愛いけれど、好きにはならないと。
ジララはカゲゲのことが好きで、それ以外は眼中にないと。
「じゃあさ、その・・・ユララが、お前のこと好きだったら・・・どうする?」
「・・・」
「・・・」
沈黙が恐ろしかった。
シャインは、隣に置きっぱなしになっていた冷めたコーヒーを飲み干す。
ルリリに怒られそうだが、ここに置いてあるのだ。まぁいいだろう。
ジララの熟考は、まだまだ続きそうだ。
「・・・それは例えか?」
「・・・う・・・ん。」
間が空いてしまったのは、やっぱり迷っているからなのだ。
ユララはお前のことが好きなんだぞ、と。
普通の男のように、そう言えてしまえばいいのに。
「・・・そうだな・・・俺は、カゲゲ以外の誰をも好きにはならないが・・・好意は、受け取っておく。」
それは、どうなのだ?
優しいことか?酷なことか?
彼女にとっては、どうだろうか。
「そっか。」
「シャイン、それは本当に例えなのか?」
「本当だったらどうするよ。」
途端に黙ってしまったジララを、ジッと見つめる。
ユララを傷つけたら、いくらジララでも、自分は少し怒るかもしれない。
けれども事の発端から考えれば、そうなったときに一番悪いのは、他ならぬ自分なのだ。
「まぁいっか。うん。この話しは無かったことにしよう!」
気まずさから、そう言った。
もちろんジララは腑に落ちないような顔をしていたけれど。
「自分から言っておいてなんなんだ。」
「いーのいーの!んじゃぁ、俺も仕事戻るわ。またなー」
無理やり話しを終結させて立ち上がったシャインの姿を、ジララの視線が追う。
予想はしている。
けれどもそれを悟ってほしくはないのだろう。
ジララは溜息をついてから、置きっぱなしのカップを片付けた。

「やったじゃないユララ!」
「まだ少し喋っただけだけど・・・」
「それでも進歩よ!顔見知りになったんだから、いつ話しかけたっていいんだし!」
「!そ、そっか・・・。」
顔を赤くして嬉しそうに微笑んだユララを、ルリリは優しい瞳で見守る。
ユララとは、幼少期の頃からの親友だ。
内気でいつも本ばかり読んでいたユララは、ろくに友達も作れなかった。
そんな彼女に積極的に声をかけたのがルリリで、学級のリーダー的存在であったルリリの友人になったユララは、一気に友達が増えた。
それでも恥ずかしがり屋で内向的な性格はあまり変わっておらず、今でも心配が絶えない存在だ。
そんな彼女が、初めて恋を打ち明けてくれた。
それは嬉しいと同時に、とても心配なことで。
ルリリはいっそう優しくユララを見守ると共に、精一杯応援しようと決めたのだ。
「でもシャイン君は、なんか微妙な顔してたよね。」
「アイツのことなんか気にしなくていいって!良い奴だって言ってたし。」
「うん・・・」
腕を組み、堂々と断言するルリリを頼もしそうに見つめる。
ユララは一つ深呼吸をすると、何度目かになる恋に、小さく胸ときめかせた。
ジララに初めて会ったのは、数ヶ月前。
軍内のカフェでコーヒーを飲んでいる姿を見かけたのが最初だった。
周りにいた成人男性よりも少しだけ高い身長と、落ち着き据わった目が興味を引き、
しきりに時計を気にしながら、わざわざ暇を潰すかのように過ごすその様子に、少しの寂しさと大人っぽさを感じた。
そんな感想を持ちつつ、ユララはカウンター席に座り、いつものラテを頼む。
だんだんと客が増えてきた頃、ジララの動きに変化があった。
それまで窓際のテーブル席に据わっていた彼は、スッと席を立ち、そこを二人組みの客に譲る。
そして自分は団体の好まないカウンター席、ユララの隣の席へと移動したのだった。
先程までジッと見つめていたヒトが、すぐ隣にいる。
思わぬ接近に、頬が熱くなった。
―ステキなヒト・・・
穏やかで優しいヒトなのだと、すぐに分かった。
あと一さじの勇気があれば、もしかしたらその時に声をかけることが出来たかもしれない。
「全くアイツはー!なんでユララを不安にさせるようなこと言うかなー!?」
思い出に浸りながら、隣でプンスカと怒る友人に苦笑する。
そういえば、ジララがシャインの友人だと知ったのは、割と最近のことだ。
通路を二人で歩いているのを見かけた。
それ以前から関わりのあったシャインと親しいということには驚いたが、何よりも、その笑顔に驚かされた。
シャインはいつものようなはっきりとした笑みではなく、含み笑いのような笑い方をしていて、
そしてジララは、そんなシャインの話を聞きながら、穏やかに微笑んでいた。
これを見れば一瞬で、二人は気を許す友人なのだと分かる。
シャインは素顔の自分を晒すことが出来て、ジララは素直に笑うことが出来る。
カフェで見かけたときよりもずっと柔らかい表情を浮かべていたジララに、思わず見惚れた。
「シャイン君は多分、ジララさんのこと、本当によく知ってると思う・・・」
「え?」
「だからもしかして、私が好きになっちゃいけない、大切な事情があったのかも。」
今思うと、先程のシャインの目は、確かにジララを見ていた。
「何言ってんのよ!恋に事情も理由もあったもじゃないわ!」
「でも・・・」
「いいからいいから。アイツの言葉なんて気にしないの!」
二度、顔を見ただけだった。
シャインから話を聞いただけだった。
それだけならきっと、憧れで済んだのに。
「通路の角で正面衝突なんて、そうそう無いわよ!?これは運命だって!」
出会ってしまった。
互いに目を見て、言葉を交わしてしまった。
そしたらもぅ、恋をするしかないじゃない。
「告白しちゃいなよ!」
「ま、まだ早いよっ!?」
「え~?そっかなぁ~?」
あぁ、本当に。
どうして恋なんて恥ずかしいことを、私はしてしまったのだろう。

「あ。」
「え?」
資料整理の途中、シャインは自身に向かって発せられただろう声に振り向いた。
「なんだ、ルリリじゃんか。どした?ここは専門外だろ?」
情報部の端っこにある、紙の資料が詰まった資料室。
そこの整頓を任されてしまったシャインは、それでも通常の任務の気休めにでもなればと、それを請け負った。
黙々と作業をし始めて早2時間、滅多に人の来ないこの部屋に、まさか知り合いがやってくるとは。
「古代兵器についての資料が見たいの。どこにあるか分かる?」
「あぁ、それなら・・・」
なにやらガタガタと梯子を移動したり棚を動かしたりと、どうやら少し時間がかかりそうだ。
ルリリは近くにあった歴史書を手に取り、積み重なった本の上に腰掛けた。
「おいおい、その上座んなって。」
「良いじゃない。私そんなに重くないわ。」
「そういう問題じゃねぇよ。」
そう言いつつも、無理にどかすほどではないらしい。
定めた一つの棚を丹念に調べていたシャインは、やがて数冊の本を抱えて戻ってきた。
簡単に埃を払い、ルリリに手渡す。
「ありがと。」
「換気悪ぃから、読むんなら他をオススメするぜ?」
「いいの。あ、邪魔?」
「別に。」
流れのままに本を読み始めたルリリは、ふと先程のことを思い出す。
そして、気の向くままに尋ねた。
「アンタって、好きな人いるの?」
シャインの手が一瞬止まる。
「あー、大佐だっけ?好きな人。男の人でしょ?」
「・・・あぁ。」
「・・・そっか。まだ、好きなんだ。」
「うん。」
ジララやガルルになら、何時間でも惚気てやるのに。
いつもならばよく動く口が、今日に限って重い。
それがどうしてかなんて、無意識のうちに分かってはいた。
「お前はさ、好きな奴とかいんのかよ。」
しかしそれをあえて聞いてしまったのは、もやもやとしたこの疑念に、けりをつけてしまいたかったからかもしれない。
自分の返事次第では、切り捨ても出来るから。
酷い男だと、自覚はしている。
「私は・・・いるけど・・・」
「別に無理して言わなくていいぜ?」
そう言って、逃げもした。
「ううん。好き。アンタが・・・好きだった。」
「過去形?」
「だって・・・!なんか、悔しいじゃない・・・」
自分の想いを素直に伝えることが、今の今まで出来なかったくせに。
こんな時に、こんなに簡単に伝えられるなんて。
損をした気分だ。
しかも相手にはもぅ、惚れに惚れ込んでいる人がいる。
「好きだけど、フラれるの分かってるもの。」
プライドの高い彼女らしいと、シャインは笑った。
それにムッとしたルリリは、本をバタンと閉じる。
「アハハ・・・あ、悪ぃ。別に真剣に聞いてねぇわけじゃないからな?」
「ふんっ。何よ!こっちは結構緊張してたのに!!」
立ち上がったルリリは、埃を軽く掃って立ち上がった。
「戻るのか?」
「そ。ちょっとムカっときたから。」
扉を開けると、新鮮な空気が肺に優しく感じる。
そのまま持ち場に戻ろうとしたルリリの背を見て、シャインは小さめの声で、その名を呼んだ。
「ルリリ。」
「・・・何。」
こういう時、どんな顔をしたらいいのか分からない。
「ごめんな。」
その謝罪が何に対してのものなのか、理解するのに少し時間がかかった。
ルリリは泣きたい衝動を抑えて、シャインをキッと睨みつける。
「謝らないでよ。馬鹿にしてるの?」
それが強がりだと知っていたけれど、シャインは笑った。
いつも通りの彼女だ。安心した。
閉じた扉に溜息をついて、シャインは再び、鼻歌を歌って書庫の整理を始めた。

「ユララ!おまたせ。」
ルリリの声に振り返ったユララは、黒い髪をふわりと揺らす。
短くとも女の子らしいその髪型は、ルリリの自慢だった。
彼女は誰よりも可愛い。
その可愛さは、自分が一番よく知っている。
けれども今は誰よりも、彼女の好きな人に、それを知ってもらいたいと思った。
「遅かったね。本、なかなか見つからなかったの?」
「うん。ちょっとね。待った?」
「へーき。」
微笑んだユララの顔は、いつもより明るく見えた。
それは、彼女が恋をしていることを知ったからだろうか。
けれどもユララの笑みは、失恋後のルリリの心を少なからず痛めた。
「ルリちゃん、何かあった?」
「へ?」
突然、ユララが心配そうな顔をしたものだから。
ルリリは慌てて笑顔を繕い直した。
「何が?なんでもないよ。」
首をかしげたユララを引っ張るようにして、通路を歩きだした。
やっぱり、分かってしまうものだろうか。
彼女に隠し事なんて、していいはずが無いのだけれど。
心配をかけたくなんてなくて。
それはどうにも、裏目に出るようだ。
「どこか静かなとこで調べよう。せっかく借りてきたんだし。」
古びた本を掲げて、ルリリはユララに振り向いた。
「うん・・・」
どこか腑に落ちないような顔をして、
けれどもユララは、ルリリに連れられるがままに歩き出した。
読書スペースは堅苦しい。
そこで選んだのは、中庭の木陰だった。
ベンチもあるし、静かだ。
端っこに座ったルリリの隣にユララは座り、そのまま少し伸びをする。
「じゃあ、まずは最初の項目からね。」
「情報部は何か対策は見つけたの?」
「ううん。全然。」
「そっか・・・」
分厚い本のページを一枚一枚捲りながら、ユララはメモをとっていく。
ルリリは戦闘上の経験を述べながら、そんなユララの補佐をしていた。
「シャイン君に手伝ってもらったほうが良かったかな?」
「・・・アイツも忙しいだろうし、出来るだけ私たちでやろう。」
ユララは、目を丸くした。
「どうしたの?ルリちゃん。いつもはそんなこと言わないのに・・・」
しまった。
やはり動揺しているのだ。
自分は少なからず、シャインのことが、好きだったのだ、と。
自覚してしまうことの方が、悔しくて悲しかった。
「やっぱり何かあったの?」
「別に何も無いわよ。」
「うそ。ルリちゃん、いつも私に問い詰めるくせに。」
「だから、本当に何もないんだって。」
疑い深い目が、真実を突き止めようと見つめてくる。
丸くて黒い瞳が綺麗な分、恐い。
どうしようかと悩んでいる間に、不自然な間が開いてしまったらしい。
ユララは尚更心配そうに眉を下げ、ルリリの顔を見る。
「どうして言ってくれないの?」
「だって、気を使わせちゃうでしょ?」
「そんなことない!」
珍しく強い口調を使ったユララに、ルリリは驚く。
けれどもルリリにだって、なかなか口を割れない理由があった。
「ユララは今恋してるじゃない!!周りに暗いのがいたら、テンション下がっちゃうでしょ!?」
「え。」
「気を使わせたくないの。まだ・・・言いたくないの。」
気まずくなってしまった空気は、爽やかな夏の空気には程遠い。
ルリリは多少なりとも思い悩む。
こんな空気では、結局ユララに迷惑をかけてしまう。
それだけは避けたいのに。
そうして顔を上げたルリリの目に留まったのは、ガラス越しの通路を歩いている、ジララの姿だった。
「あーー!!」
いきなり大声を出したルリリに、ユララはびっくりして肩を上げる。
ジララは声が聞こえたのか、はたまた視線に気が付いたのか、立ち止まってルリリのほうを向いた。
そうしてやはり、少しだけ目を丸くした。
「ジ、ジララさん・・・」
「やった!チャンス到来!!今はシャインもいないし!!あの人暇そうだし!!」
「し、失礼だよ~~!」
二人のやりとりをガラス越しに見ていたジララは、首をかしげて、来た道を逆走し始めた。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。