小指ほどの鉛筆

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319.もう大丈夫だよ(テルグラ)

2011年06月19日 18時05分04秒 | ☆小説倉庫(↓達)
さっぱりとした性格の彼が、長い前髪を切らない訳。
サングラスを外さなかった訳。
きっとそれが、彼の本当の姿なんだろう。
世界を暈して見ていれば、優しい彼の同情心は眠ってしまうから。
そして、コンプレックスの塊のような彼を覆い隠すベールのような役割も果たしていた。
要するにアレは、アサシンであるために必要と同時に、人間味を濃く感じさせる臆病の隠れ蓑なのだ。
だから、自分がいた頃の彼は髪を上げていたわけだから、常に自信に溢れた、強いアサシンであったはずだ。
では、今は?
「グララ、今日は前髪上げてるんだな。」
外に出るときは絶対にそんなことをしないから、必然的に、今日は部屋から出ないつもりだ。
アクティブな引きこもりに、自分はいつもどこか面白くない。
何をしたいかと聞かれても困るが。
「似合うだろ。」
「あぁ・・・」
話を戻そう。
グララは今、おそらく十数年ぶりに前髪を上げている。
懐かしいカチューシャだ。
この歳で生え際が老いを感じさせないのは、流石だとしか言い様がない。
正直言って、似合う。
何故か外さないサングラスが少々不満だが、それを補う可愛さだ。
どうやら自覚しているようだから性質が悪い。
「久々に見たよ。」
「俺も久々にやったしな。」
「どうしてまた、急に?」
グララは指先で自分の髪を弄りながら、別に、と呟いた。
意味を自覚していない時が、実は一番厄介だったりする。
そこに深い意味があることを知ることが出来ないのだから。
自分がいったいどうしたのか、どうしたいのか、分からないことが一番辛い。
彼はそういう人間だ。
「なんとなくか?」
「伸びたし、切るにはちょい足りねぇし・・・」
「でも、今まではしなかったんだろ?」
そう問い詰めると、黙ってしまった。
理由がなければいけない訳じゃない。
でも、意味があるような気がしていた。
彼にはいつでも理由があったから。
「懐かしい。昔に戻ったみたいだ。」
微笑みと共にそう言うと、グララはハッとして目を開いた。
「どうした?」
「いや、戻っちまうのは、ダメだなぁ、と。」
何故。
彼は過去の自分を許さない。
「良いじゃないか。俺はこの髪型が好きだし。」
「っ・・・、お前の好みなんて知るかよっ。」
そう言いながらおそらく照れているのだろうグララの顔を見ようと、懸命に背伸びした。
そうでもしなければ、残念ながら身長は届かない。
けれどもそのほのかに赤くなった顔を見れたから、高望みはしない。
アサシンにしては穏やかな表情と性格。
自分はそんな彼の性格に惚れたのだから、身長だのそんなことは、実質どうでも良いのだ。
ただ一つわがままを言うとすれば・・・
「不意打ちのキスがしづらいなぁ」
冗談めかしてそう言ったのに、グララは少しムッとしていて。
そのことに、更にいくらかの不満。
「身長がね。どうして俺の方が低いんだろう。」
大したことじゃない。
でも、だからこそ、悔しい。
そんな理不尽をぶつけておいて、にっこりと微笑む。するとグララはポツリと呟いた。
「・・・しやすいだろ。」
最初は、聞き取れなかっただけかと思った。
けれども、本当にその一言のみを告げたのだと分かると、困惑した。
グララは至極真面目な顔で。
しかし、文脈を辿ればしやすいことなんて一つしかないだろう。
「えっと、キス?」
「しやすくねぇか?俺はいつもつっ立ってるわけじゃねぇし。本読むなら座ってたいし。」
彼はいつも、最初から立ち上がってはいない。
なんだかんだでキスをするのは、いつだってテルルからだ。
それは読書中を狙うことが多い。
彼は座っているから。
「あれ・・・確信犯・・・?」
「違ぇよ!」
少し赤くなった顔が、可愛いと思った。
「確かに・・・しやすいなぁ・・・今日は特に。」
グララの腕を掴んで、ベッドに強引に押し倒した。
突然のことに動揺するグララの身体に圧し掛かり、逃げられないようにする。
おでこに、唇を乗せるだけのキスをした。
「髪上げてるもんな。」
「!!」
「ほら、逃げないで。」
身じろぎしたグララのサングラスを外して、今度は濃厚なキスを唇に。
次第に大人しくなってくる抵抗に、気づかれないように微笑んだ。
「目も綺麗だし。顔が見やすいから、表情も分かりやすいしね。」
「バッ・・・!ちょ、やめろっ、テーラっっ!!」
何故だか力が入らない身体に、グララは自ら舌打ちをした。
もどかしい以前に、恥ずかしい。
自分がどれだけ彼に惚れているのか、それが少なくとも腰抜けになるくらいだという、事実。
好きだ。当たり前だろう。
けれども、だからといってなんでもしていいという訳ではない。
テルルはいつもその辺を勘違いしているのではないかと思う。
今だって、当たり前のように拒否権がない自分。
されるがままは性に合わないと、グララは数度目になる口づけを右手で拒んだ。
「どうした?」
「やめろってんだろ!」
多少ムキになっているグララに、テルルは不思議そうに首を傾げた。
もっともそれは、とても判りやすくわざとらしかったけれど。
「抵抗しなかっただろう。」
「しただろ!!」
「そうか?お前がその気になれば、俺を退かすことなんて簡単だろ。違うか?」
その言葉には、流石のグララも口をつぐんだ。
確かにその通りだ。
アサシンである自分は、テルルに力で敵わないわけがない。
「優しいなぁ、グララは。」
にっこりと笑って、テルルは静止していたグララの右手を、自身の左手で絡みとった。
怯えたような目も、ひそめた眉も、今は彼の全てがさらけ出されている。
そのことに対する優越感は、半端じゃない。
テルルはグララの額から口の端に至るまで、小さなキスを繰り返し落としていった。
彼は弱い。
簡単にほどける束縛にさえも、こんなに優しいなんて。
けれども、あぁ、何が愛しい?
ただ一人、自分にだけ見せるその弱さが。
「いいだろ?」
手を服の中に滑り込ませて、テルルは擬似的な優しい笑みを浮かべる。
あとは、獲物が食いついてくれるのを待つのみ。
一度捕らえたら、もう離さない。
「やめろ。」
けれども、不思議なほどに落ち着いた腕が、テルルの右手を制した。
「どうして。」
テルルの左手と繋いだグララの右手。
テルルの右手を制したグララの左手。
捕らえられたのは、どちらだ?
怖いくらいに強い瞳が、テルルをジッと見つめていた。
「あんまりしつこいと、俺だって怒るぞ。」
「どうぞ?」
それはハッタリじゃない。
分かっているけれど、怖くもなかった。
「俺、怒られるようなことをしている自覚はあるんだ。」
「学ばない奴は馬鹿だぜ?」
「うん。俺は今、昔のお前を思い出しているんだよ。」
グララは会話を成立させてくれないテルルを恨む。
昔の自分とはなんだ。
今の自分と何が違う。
「プライドが高くて、怖いものなしで、俺を信頼していてくれた頃の、お前。」
まるで今はそうではないような物言いをするものだから、流石のグララもムッとして眉をひそめた。
テルルは参ったように微笑むと、それでも懲りずに話を続ける。
「あの頃のお前を組み敷いた気分だ。」
「ふざけんな。」
「ふざけてないさ。それで、たった今、今度は今のお前をしてやった気分になっている。」
唇を寄せると、避けられた。
「キスくらいいいだろ?」
「やめろっての。」
繋いだ手を解こうと、グララは指を開く。
しかしテルルの左手はそれを許さず、更に強い力で握りしめた。
目が本気になっている。
「・・・昔のお前はな、目こそ見せなかったけど、表情はあったんだ。カチューシャで上げた髪も、ピンと張った背筋も、自信に溢れていた。」
アサシンとしての自分に自信を持てなくなったのは、いつからだったろうか。
ただ一つ誇れるもの、守れるものを失って、それから久しい。
「今のお前はな、目はもちろんのこと、髪も下してるし、いつも微妙に下がったところから人を見ているだろう?凄く、憶病になっているんじゃないのか?」
「俺が?」
「あぁ。それでな、今日は、髪を上げているだろう?嬉しかったんだ。お前が自信を持って、俺の傍にいてくれる気がした。昔みたいに。」
ありのままの自分を、誇らしげに捧げるアサシン。
テルルの理想は、いつだって近くにあった。
彼こそがアサシンとしてふさわしく、自分の未来の改革において、もっとも手元に置いておきたい存在だったから。
「嬉しいよ。お前がまた、俺の手元に戻ってきてくれて。」
「逆だろ。」
「いや、合っているよ。俺の戻ってきた世界に、最初お前はいなかったんだ。グララ。あの頃のお前がいて、今のお前がいる。」
その言葉に、グララはやはり不服そうだった。
服の裾をまくったテルルの手を跳ね除けて、もう一方の手にもグッと力を込める。
押し退けようとするその圧倒的な力に、それでもテルルは抵抗した。
「お前は綺麗な顔をしているんだから、あんなサングラスなんていらない。髪も上げていた方がいい。でも、他の奴には見せたくないんだ。」
「めんどくせぇな。」
「でも、ベッドに髪が広がるのも好きだ。目にかかる髪を払いのけてやるのも好きで、ただしそれは、俺には刺激が強すぎる。」
今更何を言っているのだと嘲笑うように見上げているグララを、テルルは懐かしい気持ちで見下ろしていた。
以前はこうして、彼が自分を見下すように笑っていたのを思い出す。
立ち位置こそ逆であるものの、性質的には全く退化したような反応。
「お前の全てを手に入れるために、俺は今、時空を旅しているんだろうな・・・なんて。あんまりお前が昔に近いから。」
「バカじゃねぇの?バーカ。」
「・・・」
笑ってしまうほど淡々と。
グララはテルルの顔を凝視しながらそう言った。
馬鹿だ。コイツは馬鹿だ。
知らなければよかったものを。知らなければ、俺はお前の忠実な僕でいられたものを。
実を言えば、恐ろしかったのだ。
あの頃の自分はアサシンのトップとして自信を持っていて、自分の使命もちゃんとあって。
けれども今ではそんな肩書きは無意味で、守りたい人を守る理由なんてなくて、そのことが、とても虚しかった。
その虚しさが、自分の存在意義を問うた。
自信を持って立っていることなんてできなくて、知らずのうちに自分は憶病になっていて、けれども、テルルは昔のまま、ただ微笑んでいて。
自分はなんのためにここにいて、なんのために生きているのか。
存在意義を問われ、それに答えるために今を生きているのが、とても恐ろしかった。
いつ否定されるのか。いつ今という時間が報われるのか。逸る気持ちが、世界をとても焦れったくした。
怖かったのだ。
けれども、今は違うだろう?と。
握られた手の熱と、狂おしく見つめている瞳の炎とで、燃え尽きてしまいそうになる心に問いかけた。
忠実でいる必要なんてなくて。
従っている必要なんてなくて。
それが彼の意志であると同時に自分の願望であることが、この上なく幸せなものだから。
アサシンとしての自信なんて、もういらない。
ただ一つ、限りある時間を彼と共に過ごせることを、誇りに思って生きて行こう、なんて。
そう思ったのがつい数日前のことで。
だから今日、自分は前髪を上げたのだ。きっと。
昔の自分に限りなく近い状態で、彼を喜ばせることができたのだ。
でも、
「お前は、昔の俺の方が好きなのかよ。」
そのことが、少なからずショックだった。
「そんなことはない。」
「不公平じゃねぇか。俺はお前の未来なんて分からねぇのに、お前は俺の過去も未来も選べて、どんな俺を好きになるかも選べるんだからな。」
「グララ、お前はお前であって、過去も未来も関係ないさ。ただ俺は、以前の自信に溢れたお前が幸せそうに思えたから、心配しているんだ。」
その上げた前髪も、サングラスも、それが幸せの象徴であれば、俺はこれ以上嬉しいことなんてない。
だからこそ、戻ってきた世界のお前が感情を隠していることが、酷く不安に思えたんだ。
「もう大丈夫だな、って。俺はお前にそう言いたかった。俺と出会って、お前は変わったんだ。幾度も変革を繰り返しているんだ。未だにその媒介になれることが、俺は嬉しい。」
媒介?違う。それは明らかな要因なのだ。
グララは昔となんら変わらずに微笑んでいるテルルの、その顔に見合わぬ力を込めた腕を押し上げた。
解放された右手で、その額を打つ。
「痛っ。」
「お前は俺の何を見てんだよ。俺のことは俺だけが知ってればいい。お前はただ、そんな俺に頼ればいいだけの話だろ。」
額をさすりながら、テルルは静かに首を横に振った。
「俺には、知りたいことを知る権利があるよ。お前の感じるどんな不安も、期待も、喜びにも、俺は共感したい。」
「んなの・・・重い。」
「どうして。グララはありのままでいてくれればいいんだ。心配性で、優しくて、幸せなグララが見たい。」
嬉しい、と。
思わず口に出てしまいそうになる言葉を、寸前で飲み込んだ。
「俺は今だって幸せだし、そうでありたいと思ってる。なぁ、テーラ、お前こそ、今の俺を見てくれよ。」
「見ている。」
「だったらどうして・・・いや、お前にとっては、俺と再会するまでの時間がほんの一瞬の出事だったことも分かってる。でも・・・」
虚しいのは、過去の自分にどうしても勝てないこと。
彼にとってのこの身が、歳を経て魅力的にはならないこと。
「グララ、勘違いしないでくれ。俺はお前が好きだよ。」
「昔の。」
「今だってこんなに愛してる。」
「違う。」
違うだろう。
それは自分を誤魔化しているだけだろう。
お前が好きなのは昔の俺で、そんな俺が成長したから、仕方なくこんな俺も好きだと言ってくれるような。
そんな情けのような好意なんて、行為なんて、俺は欲しくない。
「お前の言うとおり、俺はそれなりに変わったさ。ただし、マイナス方面にな。」
「そんなこと・・・」
「アサシンとしても、人としても、お前に対してだって、昔ほど立派な俺じゃない。」
いつかは廃れるとわかっていた。
心がいつまでも自分の思い通りになっているだなんて、そんなことは微塵も思ってはいなかった。
けれどもいざその時がくると、こんなにも切ないものなのか。
「お前はいつも、俺の過去を探してんだろ?」
「グララ、本当にそう思っているのか?」
「事実だろ。」
黙ってしまったテルルに、グララはなだれ込むような悲しみを覚えた。
こんなこと、今までなかったのに。
こんな我儘、今まで言ったことなんてないのに。
どうして今になってこんな、どうしようもない子供のような姿を晒しているのか。
「っ・・・わりぃ、ちょっと冷静になってくるわ・・・」
立ち上がってベッドから降りようとしたグララの腕が、強い力で引っ張られた。
「どうしてそんなことを言うんだ。」
抱きしめられた肩が、強張っていた。
「離せ。」
「俺はどんなお前だって好きなのに。」
「離せって。」
ダメだ。苦しい。
溢れだしそうな、今にも泣き出してしまいそうな心臓を、このままでは抑えられないのに。
「冷静になんてならなくていい。感情をぶつけてくれていい。だから、俺の傍にいてほしいんだ。」
どうしてそんなことを言うのか。
裏切ったのはお前のくせに。
俺の絶望も悲しみも苦しみも、全部全部、お前のせいなのに。
どうしてこんなに、愛しているんだろう。
「ざけんなよ・・・いなくなったのはお前のくせに。何が傍にいろだ。自分勝手にもほどがあるだろ・・・いや、違う。それは俺の方で・・・でも、俺はどこかでまだ、お前のことを許せてなくて、過去の見限った俺をお前が想いつづけてんのは悔しくて、でも何も成長してねぇことは確かで、お前が昔の俺を思い出すくらいなら、俺は今の俺としてお前の記憶に残るため、すぐにでも死んでやれそうなくらいで、だから、つまり、俺は・・・こんなに、お前が好きだけど、それをお前が認めてくれねぇのは、辛い。」
とぎれとぎれの告白。
「死んでやるなんて言わないでくれ。俺のためだなんて思わないで。」
「ちげぇよ。俺のためなんだ。」
「だったら尚更だ。その綺麗な心を、自分のためだけになんて使わないでほしい。」
抱きしめられている肩が震えて、とうとう溢れそうになる心臓の叫びを、唇を噛むことで押さえつけた。
綺麗なんかじゃない。
「成長したさ。お前はあの時よりもずっと、人が好きになった。優しくなった。笑顔になった。」
「甘くなっただけじゃねぇか。」
「うん。でも、俺はそんなグララの方が、よっぽど好きだよ。」
不安げにテルルの言葉を聞いているグララの瞳が、地面から腕、テルルの顔へと移動していく。
「本気で?」
「本気さ。いつでも、とりわけ、グララに対しては。」
緊張の糸がほぐれたように、グララの肩の力が抜ける。
「じゃあ、昔の俺がどうとか、もう言うなよ。」
「あぁ、悪かった。でも、好きな人の過去も現在も未来も、気になるものだろう?」
「全然。」
きっぱりと言い切ったグララに、テルルは少々落胆した。
「・・・今で精一杯だ。」
「っ、はは、そういうことか。」
微笑んで、テルルはグララの額にキスをした。
それは小さな、まるで小鳥が木の実をついばむかのようなものだったけれど。
グララはそれ以上ないものをもらったかのような、満たされた笑顔を湛えていた。

大丈夫だよ。
俺は今のお前が好きだから。

何も変わらなくていいんだよ。
でも、お前が幸せそうでよかった。

過去の自分に嫉妬なんてしないで。
もう、うつつをぬかしたりしないから。

大丈夫。
愛してる。

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