小指ほどの鉛筆

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264.傍にいないと心配で(シャにょぐら)3

2011年08月12日 14時50分51秒 | ☆小説倉庫(↓達)
最初からEROです。
なんだか注意する意味もないくらい最初からです。


______





一際強い突きに、思わず表情が歪む。
「んああぁぁぁ!?」
「っ、全部入ったけど、どうすっか。」
ゆっくり動かされても、生温いような気がする。
けれども激しくされたいかと聞かれて頷くほど、自分も落ちぶれてはいない。
シャインの青い瞳がゆらりと揺れるのを、グララは海を見るような穏やかな感情で見ていた。
きっと混乱している。けれども、脳内は不思議と冷静なのだ。
あぁ、困る。
そんな目で見ないでほしい。
嫌っているわけではないから、なんだか可哀想になってくる。
自分はアサシンで、主がいて、恋人がいて、後輩がいて・・・
彼の居られる場所なんて、自分の中にはもう残っていないのだから、
それを無理矢理立ち入られても、困るのだ。
「あっ、あっ・・・」
「理由・・・理由、ねぇ・・・」
グララを犯しながら、シャインは静かに考える。
何がしたくてこんなことを?
この行為が結論ではないことくらい、自分でも分かっていた。
しかしこれといった理由もない。
「あぁっ、はぁっん・・・や、ら・・・も、やぁっ・・・」
ふわふわした目でシャインを見つめたグララは、もはや理性も羞恥も関係なかった。
キモチイイ。でも、怖くて、不安で、悲しくて、辛い。
そこにはシャインの感情も入っているだろうと思うのは、自分がそういったことに敏感だからというだけのことではないのだ。
可愛そうな人。
そう思ってしまった自分が、誰よりもみじめだった。
「や・・・っ、うぅ、ひっく・・・」
ついに泣き出したグララを、シャインは丸い目で見つめていた。
楽しい。
彼を泣かせるのが。
彼を虐めるのが。
彼を困らせるのが。
それは大佐と共に居るときには絶対に感じられない感情。
あぁ、そうだ、きっとそうだ。
自分は、これが欲しかったのだ。
「・・・何泣いてんだよ。」
流れる涙を舐め取って、それから瞼にキスをした。
「抜けっ・・・」
「何で。欲しくねぇ?」
どうせ男に戻るのなら、この生殖行為の結果なんて関係ない。
「孕むわけじゃねぇし。」
「バッ・・・!当たり前だろ!!」
「当たり前じゃねぇけどな。だから、これはすげぇ貴重でお得な体験だぜ?」
髪を撫でながら、ぼろぼろと涙を流すグララをなだめる。
痛くはしていないつもりだ。
最初に噛み付いた時の胸の赤い華は、紫になっても尚扇情的だった。
泣きわめけ。
そう思う衝動は、同時に大事にしたいと思う心に引き戻される。
そんな義理はないのに、どうしてだか壊してはいけない気がして、
それがもしも彼の恋人に対する負い目なら、まだ良かった。
そうじゃない。本能が、義理も道理も通り越した感情を求めている。
すなわち、愛。
「痛ぇの?」
「違う。」
むしろ優しすぎて怖いくらいだ。
「じゃあ何だよ。ウゼェんだけど。」
「お前は・・・何のためにこんなこと、して・・・」
「まだその話かよ。」
いい加減、何か結論をつけてくれ。
ただし、恋愛感情以外の。
「だって・・・」
「俺がお前のこと嫌いだから?嫌いなヤツにこんなことしねぇって?」
なら、この感情はなんだ。
「じゃあ、好きなら良いのかよ。」
「・・・!?」
「好きだったら、何しても納得すんのかよ。」
「そういうわけじゃ、」
「じゃあ何だよ!?」
突然声を荒げたシャインに、グララはビクリと肩を上げて目を丸くした。
尚更悲しそうな顔で、唇を震わせている。
「これがジララだったら、ムシシだったら、お前は何でも許すんだろうな!」
そんなこと・・・!!」
「そうだろ!?俺は・・・!!」
感情に任せて喋っていたシャインは、ここでハッとしたように口をつぐんだ。
繋がったままで苦しいのはシャインも同じ。
小さな舌打ちを一つすると、少し乱暴に引き抜いた。
「っ・・・」
「あぁ、萎える。マジ、もう少し可愛げとかねぇのかよ。」
「・・・」
グララは未だ思案顔で、しかし涙の跡はまだしっとりと残っていた。
何を考えているのだろうか。
テルルが常々言うような、文学のことではないのだろう。
むしろそんな流暢なことを考えていられたら尊敬する。
と、思っていたのだが、シャインはやはり、グララには勝てないのだと実感させられたのだ。
「源氏物語、知ってるか?」
「・・・知らねぇ。」
心臓に毛でも生えているのだろうか。
「なに、その話みたいだってか?そういう悠長なとこがムカつくんだよ。テルル大佐にも同じようなことしてんだろ?マジ同情するわ。」
「俺が、意味もなくこんなこと考えるかよ。」
それは高いプライドを誇張したような発言であったけれど。
それでこそグララだと思うから、許せてしまう。
「お前にとっては意味があっても、俺にとっては無意味だ。」
青い瞳は冷酷に、そして残酷にグララを見つめていた。
けれどもそんな反抗的な瞳さえ優しく見つめかえして、グララは微笑んだ。
「お前は、ちゃんと言ってくれんのな。」
「は?」
それは予想外の反応。
もっと悲しむやら大人しくするやら、何かあるだろう。
どうしてそんな、優しい表情をするのだ。
「テーラは俺のすること全部肯定して、何しても愛だの恋だの・・・だから、俺は自分が何をしていいかわかんねぇし、なにをしたらヤバいのかもわかんねぇ。お前みたいに、なんでも言ってくれたらいいのに・・・」
「んだよそれ。」
「贅沢な悩みかもな。でも、それだけアイツが好きだよ、俺は。」
その目がシャインを見つめた理由。口がテルルへの感情を表現した理由、それはシャインの牽制に他ならなかった。
好きだなんて、言うなよ?と。そう釘を刺された気がした。
シャインは先ほどまでの行為、グララを助けてしまったことも含めて、激しく後悔した。
一番手を出してはいけない人間に、とんでもないことをしたのだ。
彼と自分の関係性。
それがこれ以上悪くなることはないだろう。
いや、それとも、ここまでしてもやはり、自分は彼のトラウマにもなれないのか。
悔しい。そう思った瞬間、目の前が真っ暗になった。
それが起き上がってシャインの胸の辺りにきたグララの頭だと分かったとき、シャインは初めて自己嫌悪した。
サラサラの髪。黒い髪。
少しふわりとしている大佐の髪とは違う。金色にも輝かない。
けれどもこちらは、艶やかで色っぽい。
「シャワー借りるからな。」
立ち上がろうとするグララの上から退いて、シャインはベッドの端に腰掛けた。
先ほどグララの言った源氏物語を思い出そうとして、確か名前だけはどこかで聞いているはずなのだと苦悩した。
そうこうしているうちにシャワールームからは水音。
しっとりとしたグララを想像して、また少し元気になった自身にため息をついた。
アイツの何が良いのだ。
泣き顔以外の顔に興味はない。
余裕の笑みも、悲しそうに眉を下げるだけの顔も、本気で怒ってくれる顔も・・・
それ自体には大した興味もなく、しかし何か、どこか、求めたくなる香りがあった。
もしくは、それは温度であったかもしれない。
暖かい何か。それを自分が求めているかどうかは別としても。
「グララ・・・」
小さく呟いた。
聞こえていないことを願う。
自身に手を伸ばし、一度射精する。
フェラくらいはさせてもよかったかもしれない。
シャインは立ち上がると、ふらりとシャワールームに向かった。
何の遠慮もなくカーテンを引く。
昼とも夕ともとれない時間の薄暗い閉鎖空間の中で、光るラピスラズリと目が合った。
ならばこちらはサファイアの輝きをもって応じよう。
彼に釣り合うか、もしくはそれ以上になるために。
「・・・なんだよ。」
長い髪が背中に貼り付いて、気持ち悪いような、妖艶なような、なんとも言えない見た目になっている。
長い前髪を掻き分けて、グララは気だるげにシャインを見た。
「シャンプーとか、変えた方がいいと思うぞ。ジララとか大佐はすぐわかる。」
俺とお前が同じシャンプーを使っていたらおかしいだろう?と。
常々気にするのはそんなこと。
大佐の家に行った時などは、翌日のジララの視線が痛いから。
「んなこと言われても・・・」
「女物ならあるけどな。」
「なんでだ。つーか、そっちの方が不自然だろっ!」
俺は男だと、無いながらに張った胸で言われても困る。
「もらったから使ってみたでいいじゃねぇか。」
「誰に。」
「じゃあ・・・俺が嫌がらせにプレゼントしてやろうか。」
どうしてそうなる。
「・・・根本的解決になってねぇぞ。」
そんなことが分からないくらいに頭の悪い奴でもないだろう。
ふぅと一つため息をついて、グララは腕を組んだ。
「考えりゃ、俺が後で自分のとこで洗い直せばいい話じゃねぇか。」
さっさと帰る気満々なグララは、勝手に自己完結して頷いた。
ポンと手を打ってシャワーをキュッと止め、シャインの横からタオルを引きずり出す。
長い髪から水分を吸いとっていく。
その間もシャインはどこかぼーっとしていたが、床に散乱したグララの服を拾い集めると、それを投げるようにして返した。
「あぁ、どうも。」
それをナイスキャッチして、グララは着替えはじめる。
シャインはベッドに腰掛け直すと、再び源氏物語を思い出そうと記憶を引っ掻き回す。
確か、光源氏とかいう色男がいたはずだ。
あとはよく分からない。
光源氏・・・光・・・光る・・・シャイニング・・・シャイン・・・
まさかそんな駄洒落ではないだろうなと、警戒しつつ窺い見る。
着替え終わった様子のグララがこちらに歩いてくると、まずは何から尋ねようか、頭の中が混乱した。
シャイン、サングラスしらね?確か持ってきたと思うんだけど…
知らねぇよ。
「うーん・・・そうか、んじゃあ、見つけたらヨロシク。」
こんなことがあっても、ちっとも崩れないライフスタイル。
何事もなかったかのように振る舞うのはやめてほしい。
一言を言い残して立ち去ろうとするグララの腕を掴んで、シャインは慌てて引き留めた。
「ちょ、お前っ・・・」
「だからなんなんだっての。言いたいことでもあるのか?」
いや、こちらが言いたいわけではない。
「源氏物語がどうとか言ってたろうが!!」
思えば、それもまたどこかズレた執着だったのだが。
「聞きてぇの?散々無意味だとか何とか言っといてか?」
訝しげな顔をしたグララに、返す言葉がない。
けれども、期待させたのはお前だろう?
お前がとても頭の良いことを知っている。だから、それにはきっと、意味がある。
その冷静な言葉は、事の最中に聞くには重すぎる。
でも、今なら聞きたいと思うのだ。
掴んだ腕を引いて、膝に乗せて抱き締めた。
驚いたようなグララの抵抗が楽しくて、更に強く腕を締める。
だんだんと赤くなってきた耳を食むと、当然怒られた。
「源氏物語がなんだって?」
「それ、この体勢じゃなきゃ駄目か?」
グララの濡れた髪を拭くと、微かに自分と同じ香りがする。
同じベッドで、同じシャワールームで、互いに密着していればそうもなる。
対処をしなければ、ジララは絶対に気がつくだろう。
もしも大佐に気が付かれたら、その時が自分の集大成だ。彼に殺されて、幸せに死ぬ。
まさかテルル大佐は気が付かないと思うが、万が一ということもある。
このことは二人だけの秘密で。
いつの間にかいつも通りになることが大切で。
けれども、それならばなぜ、こんな無意味なことを?と自分に問う。
泣き顔を見た。
それは確かに望んだ通りのもので、だから、もしもそれだけを求めるのなら、今も彼を虐めるべきなのに。
「光源氏はわかるか?」
「わかる。」
そうできないのは、こいつがあまりにも強すぎるからだ。
「コイツは、普通の恋愛はしねぇんだ。いつも、障害の多い相手を選ぶ。」
「ロリコンはここにもいるぞ?」
シャインの発言に、グララは無表情の後輩を思い出して苦笑した。
「光源氏は紫の上だけじゃねぇよ。葵の上だって、藤壺だって、自分の義理の母親だったり、尼だったり・・・身分相応の女なんて沢山いる中で、こういうのばっか選んで言い寄る。でも、相手が自分になびきはじめると飽きちまうんだな。すぐに乗り換える。だから女たちの愛憎劇があるわけだ。呪い殺したりな。」
「・・・で、それが俺となんの関係があるってんだよ。」
「知っての通り、光源氏は超イケメンだ。」
グララはシャインを振り返って笑う。
「お前もな。」
「っ、」
あぁ、その笑顔が反則だとなぜ気が付かない。
テルル以外の男にそんな顔を見せて、何もなく帰れるわけがないだろう。
「光源氏が他の女に鞍替えすると、前の女は悔しくてイライラするわけだ。でも、光源氏自体は、叶わない恋がお好み。そっけなくつれなくされる女を攻略しようと必死だ。相手に男がいようが関係なし。」
少し、主旨が分かってきた。
「藤壺にご熱心な光源氏に、葵の上は嫉妬すんだ。ただし、浮気相手は紫の上だと思っている。葵の上は感情を激しく表す方じゃないから、心の中で光源氏を恨みつつも、それをぶつけるには至らなかったんだな。ただ、妬み恨みってのは募るもんだ。」
なぁ?と首を傾げたグララに、シャインは今更ながら背筋がゾッとした。
そうだ、まさにその通りだ。
大佐はとても怒る。
けれども笑顔で応じるのだろう。
そうしてある日、自分は殺されるのだ。
大佐の、恋人の、その狂おしいまでの愛の果てに。
「ほら、今の状況そっくりだろ?ちなみにこのキャストだと、テーラが帝。」
「帝?へー・・・」
大層な御身分で。
「アイツ、怒ると結構怖いんだぜ?気を付けろよ?」
「忠告どうも。意地でも告げ口しねぇ気か。」
「したらバレんだろ。俺はことを穏便に済ませたい。」
テルルがシャインを怒るのも、自分がジララに怒られるのも、シャインが大佐に殺されるのも、自分が何も言わなければ回避できること。
言わない。言うもんか。
「俺たちの秘密ってか?」
「そうだ。」
「ふーん・・・」
背徳感よりも、出し抜いた優越感が勝った。
テルルが知らないグララの顔も、ジララが知らないグララの不幸も、全部自分が知っている。
「グララ。」
「ん?ちょ、なにす・・・!!」
抱きしめたまま横に倒れて、濡れた髪の香りを吸い込んだ。
しっとりと濡れた肌は好みである。しかも、白い。
「黙ってれば美人なのにな。」
「お前こそ。」
「自分がイケてることくらい知ってる。」
「そうかよ。」
ムカつくやつだ。
小さく舌打ちをすると、右手で口を塞がれた。
「そういうとこが残念だっつってんだよ。黙ってろ。」
「むー、うー・・・」
要するに、見た目だけはいいということか。
そんな理由で部屋に連れ込まれたのかという、それこそとても残念な話。
シャインは絶対に大佐以外に興味なんてないと思っていたのに。
いや、今でも確かにそうなのかもしれない。けれども、全ての感情が大佐のためにあるわけではない。
それは本人にも分かっていないだろう、確かな人の特徴なのだが。
彼は自分の全てが大佐にあると思っている。
そうではないのだ。
今この瞬間、彼の人格の一部が自分に向いてしまっているということに、グララはもちろん気が付いていた。
恋愛感情ではないかもしれないが、それは明らかな好意。
それを指摘すれば逆上されるかもしれないが。
大丈夫、いつか自分で気が付くだろう。彼は頭がいいから。
ならば、今は戯れとして共にいてもいいだろうか。
彼がそれを自覚するまでは、甘やかしてやってもいいだろうか。
自分の素直な感情をぶつけることは、彼にとって稀であったことだろう。
最低限を与えてやるから、それで満足して帰してくれればいいのに。
テルルのところへ、早く帰ってやらなければ。
そう思うのに。
彼を朴っておくこともできず、ましてやこの強い腕から抜け出すことは敵わず、こうして時間ばかりが過ぎていく。
「なぁ、そろそろ帰らせてくれよ。」
「なんで。」
どうしてここから逃げようとするのかと、少し拗ねたような声で問われると、弱い。
「テルルんとこ行かねぇと。」
「どうして。」
駄々っ子の頭をくしゃりと撫でて、あやした。
仕方ないだろう。
俺はお前のものじゃない。
「ちょっと逃げてきちまったから・・・謝んねぇと。」
「明日でいいじゃねぇか。」
「明日まで帰してくんねぇのかよ。」
「眠ぃから、まだここにいろ。」
意味がわからない。
そう思っていたところに、後ろから細い息。
少しくすぐったい。
「シャイン?」
どうやら寝ているらしい。
「え、待てよ。マジでこのまま・・・えー・・・」
自分をしっかりと抱きしめたまま眠っているシャインは、普段では絶対に見られないような顔をしているのだろう。
けれども、後ろ向きに抱かれているのではその表情も見れず。
変なところで意地を張るくせに、こういう時は素直に甘えてしまう彼。
器用なのか不器用なのか。
どちらにしても、なんだかほっとけない存在で。
仕方ない、彼が起きるまではこのまま抱き枕でいよう。と。
絆されていく自分の気持ちにも、いつか向き合わなければいけない日がやってくるのだ。
傍にいてやりたい。
寂しくないように。


「グララ、昨日はどこに行っていたんだ?」
翌日テルルに問われたのはもっともな質問。
いつもいるだろうところにはどこにもいなくて、散々探し回った挙句、結局見つからなかったという。
それはそうだろう。普段なら絶対にいないようなところにいたのだから。
しかしグララはへらりと笑って、ひらひらと手を振った。
「わりぃわりぃ、移動してたから、すれ違っちまったのかもな。一応夜には部屋に戻ったんだけど・・・」
「携帯に連絡も入れたのに。」
「いや、ほんと悪かったって。」
「いつのまにか姿も戻っているしな。」
そうなのだ。昨日シャインの部屋で眠ってしまったあと、今朝起きたらいつもの自分に戻っていた。
シャインの腕がきつくなったのではない。自分の姿が大きくなったのだとわかった。
慌ててシャインを起こして、ぼーっとしている彼を尻目に部屋に戻り、シャワーを浴び直して着替えた。
サングラスは見つかっていない。
「まったく、心配したんだぞ。」
「わりぃ。」
「ただでさえ傍にいないと心配なのに・・・」
けれども安堵したような表情に、少しの罪悪感。
今日は首元の開いている服を着ていない。
シャインの歯形はちゃんと残っていたから。
困ったものだ。これが消えるまでは、迂闊にテルルと二人きりにもなれない。
それが彼の独占欲であったとすれば、自分もそろそろ本気で情操について考えなければいけないだろう。
そして、と、相変わらず黙々と仕事をしている大佐を窺い見た。
彼は何も知らなくていい。
知らない方がいい。
しかし、自分が思うよりも、彼らは賢かったようだ。
「グララ大尉。」
「あ?」
大佐が、ペンを置いた。
ただの世間話でないことは、これでわかる。
ドキリとした。
「昨日、7時頃はどこにいらっしゃいましたか?」
「え?7時・・・どこだろうな。歩き回ってたからわかんねぇな・・・」
「シャインが、電話に出ませんでした。」
「へぇ・・・」
赤い瞳が、グララを見つめた。
これはもう確信しているな、と。
グララは観念したようにため息をついた。
「んで?」
「同じころ、テルル大佐が貴方に電話をかけました。やはり出ませんでしたね。」
「あぁ。」
「そして今朝です。シャインから侘びの電話がきて、その直後にあなたが来ました。」
「ほぉ。」
「そして・・・」
シュンっと、ドアが開いた。
「おはよ。」
入ってくるシャイン。
大佐の纏う空気とグララの目に、敏い彼はすぐに状況を飲み込んだようだった。
「今、彼が来た。身支度の時間を考えれば、貴方達が同じころに起きたことは分かります。生活スタイルが全く違うことも知っていますから、そうすれば、大体の理由は察せますよ。僕も馬鹿じゃないので。」
場の空気は、意外と穏やかだった。
ただ、テルルだけは、少し緊張した空気を纏っていたが。
グララがシャインに対して肩をすくめ、シャインはそんなグララをちらりと見てから、大佐に向き直った。
「浮気とか思ってる?」
「まさか。君のことは僕が一番よく知っているよ。でも、君の名誉のために何も言わないでおいてあげる。寂しがり屋さん?」
「・・・あはは。大佐は可愛いなぁ。」
「馬鹿じゃないの。」
言う言葉と笑顔と纏う空気と・・・
全てがちぐはぐで、おかしな気分だった。
そういったことに敏感なアサシンであるグララは、気持ち悪くて仕方がない。
けれども当事者である以上、ここからすぐに出て行くことも適わない。
何より、隣で神妙な顔つきをしているテルルを置いてはいけない。
「嫉妬なんてしないからね。君の思うようにもしない。」
「結構怒ってんじゃねぇか。」
「そんなことはないよ。僕と彼では役割が違う。君がどちらも望むのなら、僕は今は大人しく見ているから。」
賢い大佐。
そう呟いて、シャインは歩み寄った。
いつもと変わらないように見える大佐の手をとって、その甲にキスをする。
大佐の表情は何も変わらなくて、ただ、少しだけ寂しそうなオーラが、グララを苦しめた。
「グララ。」
テルルが口を開いた。
相変わらずタイミングの悪い男だ。
「んー?」
「説明はしてくれるんだろうな?」
「そりゃもちろん。」
「ならよかった。」
知らないままにされるのが、一番辛いから。
どんな理由があったのか分からない。けれども、少なくともグララが自らシャインの元に行くとは考えにくかった。
ソファーに座ったシャインを見て、グララは昨日の概要を話し出す。
ばれてしまってはどうしようもない。
怒られても仕方ない。
途中でやってきたジララとガルルにも知られることになったが、グララは自分が悪いとも思っていなかった。実際そうなのだ。
話の途中でシャインの注解が入ったりもしたが、ものの10分ほどで説明は済んでしまった。
その程度のことだったのだと、割り切れてしまう自分が嫌いだ。
「グララ・・・どうしてすぐに俺に頼ってくれないんだろう。お前は。」
「別に。頼るほどのことじゃねぇよ。」
「ほどのことだろう!?」
どうして自分が怒られるのかわからないといった様子のグララを、シャインは頬杖をついて見ていた。
堂々とした加害者の態度に、ジララはシャインを一度デコピンしてたしなめた。
「シャイン。お前もだ。」
「・・・テルル大佐はさ、もっと押さえつけとくべきだと思うぜ?」
ジララにデコピンされた額をさすりながら、シャインが言った。
ジララはジトッとした目で見ている。
「何?」
「馴れ初めもそう。押さえつけときゃ殴られなかったんだ。抱きしめときゃ逃げなかった。今回もそうだろ?追いかければ、コイツはテルル大佐がアサシンゾーンに入る前に立ち止まったはずだ。そういうヤツだって知ってんだろ?それともなんだよ。俺の方がコイツのこと知ってるっつーのか?ふざけんな。俺はただコイツを保護しただけだ。コイツも馬鹿なんだ。悪意のない犯罪だってあるんだっつーこと、わかってねぇんだよ。性善説なんて俺は信じてねぇぞ。だから、テルル大佐がコイツを引き止めときゃよかったんだ。コイツがアサシンの世話なんてしてなきゃよかったんだ。御人好しが集まって、その結果がこれだ。世間ってやつを教えてやってんのに、ちっともわかってねぇ。コイツはさっさと後輩も俺も許しやがるし、テルル大佐はヘタレだし。大佐は嫉妬してくんねぇし俺は7時間も規則正しく睡眠とっちまったし、いいことなんてなんもねぇ!なんでお前らそんなにスローペースで生きてられんだよ。意味わかんねぇ。しっかりつかまえとけって話っすよ。」
「それは・・・」
それは、どういう意味だ?
けなされているのか、応援されているのか。
よくわからないままのテルルをよそに、グララはシャインに微笑んでいた。
その優しい笑みに、虫唾が走る。
「ケッ。」
「シャイン。お前は本当にわかんねぇ奴だよ。いや、マジで。でも、それも面白ぇかもな。」
「グララ。」
ジララが厳しい口調で名前を呼んだ。
甘やかすなと言われているようだったが、いいではないか。甘やかしても。
甘えさせてやりたいんだから。
「捕まえとけ、か。俺が捕まりにくいってのも問題だな。お前は?」
「拘束されてぇなら来いよ。」
「ははっ」
「笑い事じゃないだろう。」
訝しげなジララを、グララはやはり優しい瞳で見つめた。
笑い事だ。笑い事なんだ。
こんな状況。
「いいじゃねぇかジララ。俺はテーラが好きだ。」
「っ」
「でも、そこにいる意地っ張りをほっとけやしねぇよ。」
「誰が意地っ張りだクソジジイ。」
「まだ40代だ。」
ソファーの背に顎を乗せて、不貞腐れたようにしているシャイン。
どうして許してくれるのだろう。
どうして何もかも許容して、守ろうとしてくれるのだろう。
弱いくせに。
本当は誰よりも怖がりなくせに。
意地っ張りはどっちだと、嘲笑ってしまいたい。
けれどもそれが出来ないくらい、本当は強いのだ。
勝てない。
勝ちたい。
好きだ。
嫌いだ。
泣かせてやりたくて。
それが自己満足なのか、それとも彼のためだったのか。
自分はそれを理解していなかったのだ。
悪意ではなかった。
善意であったかもしれなかった。
それを、グララはちゃんとわかっていた。
「バカじゃねぇの・・・」
「お前もとんだ馬鹿だよ。」
「うるせぇ。」
視線を逸らしたシャイン。
その先には、大佐の赤い瞳。
まるで泣きそうにも見えて、大いに焦った。
今日にでも、弁解しなくては。
違うのだと。
自分はきっと、グララを助けることで大人になりたくて。
彼を泣かせることで優位に立ちたくて。
彼を抱きしめることで安心したかった。
甘えていた。
それを認めることはとても癪だ。
けれども、大佐は既にそれを理解していて。
それでもこんなに悲しそうにこちらを見ているものだから。
愛していると言ってやらなければ。
抱きしめて、囁いて、キスをしてやらなければ。
「不器用なやつ。」
ぼそりと呟いたグララの言葉に頷いたのは、ジララ。
本当に、とんだピエロだ。
自分のついた嘘に自分が騙されて、翻弄されて、結果、沢山の被害者を出して。
それでも幸せになりたかったのだろうか。
「テーラ。」
「・・・なんだい。」
「愛してるぜ。」
「!?」
ニヤリと笑って、それからグララは、執務室を出て行った。
ジララも、ガルルも、テルルも出て行く。
残るのは大佐とシャインだけ。
ゆっくり話し合えばいい。ただ、心中だけはしてくれるな。
「グララ。」
「なんだ?」
「俺も愛しているよ。」
「知ってるっつの。」
手錠も、強い腕も、俺を束縛出来やしなかった。
捕らえておくことなんて、彼にはきっとできない。
それができるのは・・・
「グララ、今日は逃げないでいてくれるか?」
「・・・善処する。」
彼のこの声。
指先。
もらった首のクロスと、そこに込められた願い。

傍にいる。

誰にも囚われてしまわないように。

お前の籠にだけは、自ら喜んで帰ってこようじゃないか。


_________


完っ!

終わりはテルグラですけど^^;
とりあえずシャグラです。
これから多分シャグラがきますよ。

それにしてもこいつらフラットだわ。

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