小指ほどの鉛筆

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64.お花見(シャ大?+グラ)

2011年04月03日 17時20分40秒 | ☆小説倉庫(↓達)

―桜の樹の下には屍体が埋まっている。

そんな言葉を好んで使うのは、平凡に飽きた人間だけだと思っていた。

「綺麗な花。」
「だろ?」
春爛漫。淡いピンク色をした花が、みぞれのように大きな粒、基、花びらを散らせていた。
シャインは久々の休日に大佐を連れ出し、大きな公園に来ていた。
最初は人混みが嫌いな大佐が渋々着いて来ていたのが、この満開の桜を見てからは、大佐が進んで前を歩いている。
それが新鮮でもあり、斬新でもあり。
どこか非日常的な光景に、シャインはほんの数時間前の、グララの言葉を思い出していた。
―桜の樹の下には、屍体が埋まっている。
大佐と桜を見に行くんだとジララに話していたら、その後ジララと話していたグララの言葉を聞いてしまった。
どうしてそこで立ち止まったのか分からない。
気配をすぐに察知してしまうアサシンの会話を、わざわざ神経を張りつめながら盗み聞くなんて。
多分、引き込まれてしまったのだと思う。
その幻想的な言葉に、自分も。
「シャイン?」
薄手のカーディガンを羽織った大佐が、いつもより口数の少ないシャインを不審がって立ち止まる。
春風が、そのやわらかそうな髪を撫でた。
「ん?何?」
「君から誘ってきたくせに、乗り気じゃないね。何か計算違いでもあった?」
微笑む大佐の、その幸せそうな顔。
そこが既に計算違いというか、嬉しい意味で予想を裏切られていたのだが。
いや、それ以前に、誤算があった。
まさかこんなに意識しているなんて。
「別に?・・・なぁ、大佐・・・」
「何?」
「桜の樹の下には、っていう話、知ってるか?」
「何それ。」
一蹴されて、シャインは苦笑した。
日本文学には弱いらしい。
自分だって初めて知った。
地球の、しかも日本に限られた場所での文学なんて、あまり知る機会もない。
グララは日本の文学が主に好きなのだと言っていたが、それにしても、あそこであんなことを言うなんて。
本当に、どうして聞いてしまったのだろう。
上を見上げながら歩く大佐の、いつもより和やかな表情。
首筋の生々しさ。
その首筋の、肌の白さに際立つ血管に、目が釘付けになった。
周りを歩いている人々の誰もが、その首に刃を滑らせる瞬間を狙っているような妄想に襲われて、シャインは大佐の手をとった。
「!」
「上向いて歩いてっと転ぶぞー?」
「・・・エスコートってこと?」
「お前が桜を堪能できるように。ナイトがお守りします。ってこと。」
「バカ。人目につくでしょ。」
そっと手を解いて、大佐はさっさと先へ歩いていく。
淡いピンクの花びらが、大佐の肩に乗った。
ドキリとして目を見張る。
―桜の根は貪婪(どんらん)な蛸のように、それを抱きかかえ、いそぎんちゃくの食糸のような毛根を聚(あつ)めて、その液体を吸っている。
何の本の引用だったのか分からない。
その言葉の全てがフィクションだったのかも分からない。
けれども、あの男の言葉の全てが、今、こんなにも自分を恐れ震えあがらせる。
桜色。
その淡い色が、あまりにも残酷に見えた。
けれども、あぁ、なんて綺麗なんだろう。
大佐の屍体の全てを吸い尽くした桜の樹があったなら、それは、この世にまみえぬ美しさなんだろう。
「大佐、綺麗。」
「うん。僕も、こんな綺麗な花、間近で見られるなんて思わなかった。」
ありがとう、なんて。
珍しい言葉を不意打ちで頂いたものだから。
お前のことを言っているんだ。なんて言えなくなってしまった。
―一体どんな樹の花でも、所謂真っ盛りという状態に達すると、あたりの空気のなかへ一種神秘な雰囲気を撒き散らすものだ。
グララの言葉が離れない。
次から次へと浮かんでは、大佐に投影されて不安にさせる。
しかしその不安が、残酷さが、どうしてだかこの桜を美しく魅せた。
儚い命の源を吸ったこの樹が、生命の脆さを象徴していることを知っている。
生々しくて、人間臭くて、だからこそ、目が離せない。
この神秘的な、幻想的な並木道から、自分はシュールな妄想によって脱出したのだ。
浮かれた人々よりよっぽど現実的な美を見つめて、自分は今、歩いているのだ。
「大佐。なぁ、桜も綺麗だけどさ。」
「僕の方が綺麗だって?」
「っ・・・」
先を見据えられていた。
儚げな目に映る、春の幻想。
燃えるような目の中に、その桜は恐ろしく紅い。
美しい盛りを迎えたのが、桜ばかりではないのなら、あぁ、そうか、彼も一つの神秘なのだ。
どこか人を朦朧とさせるような、幻想のような恋人。
彼を俺が見つめるには、そこに一つの残忍さを見出さなければいけなかったのだ。
そうして初めて、自分は彼を見つめることが出来た。
決して純粋ではない彼だからこそ、自分はそれを躊躇いなく抱きしめることが出来た。
つまり、そういうことなのだ。
―今こそ俺は、あの桜の樹の下で酒宴をひらいている村人たちと同じ権利で、花見の酒が呑めそうな気がする。
「大佐はズルイなぁ。そんで、綺麗。」
「ふっ・・・どうしたの、なんか静かじゃないか。」
少しだけ眉を下げて、けれども決して心配はしていないといった顔で。
その冷たさが、春風に浮かれた心を静めていく。
お前もまた、何かえぐい底に秘めたもので生きているなら。
人の死を改まるアサシンの彼が、どうしてあんなことを言えたのか、やっとわかるような気がした。
美しいものを、そのまま眺めることの出来ない彼らが。
見えないそこに何か犯罪めいたものを埋めることで、やっと静かな心でそれを眺めることが出来るのだと。
シャインは上を向いて立ち止まった。
それを見た大佐も、一度立ち止まって笑う。
「綺麗でしょう?」
僕ばかり見ていないで、と。
やっと春に向き合ったシャインを咎めた。
お前の心に残酷な何かがあるように。
桜の樹の下には屍体が埋まっている。
そして、罪深い俺と、あの男と、彼と、友人のために。
この妄想が真実であることを仮想する。

―これは、信じていいことだ。

あぁ、信じよう。
お前の信じたい誰かの言葉を、俺もまた信じたい。
いや、違う。そんな願望めいたものじゃない。

これは信じていいことだ。

______

ってなわけで。
シャ大じゃないかな?
ちょっと難しいかんじ・・・
引用は、梶井基次郎の桜の樹の下にはです。
おなじみですね。
解釈がすごく、おぼろげではあるんですけど。
抽象的な考えを言葉にしてみたくて、とりあえず挑戦。
他の作品の解釈もしてみたいなぁ。

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