小指ほどの鉛筆

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・諦めてしまっているのかもしれません。ただ少し、愛したいと思うだけで。 (大佐メイン)3

2009年01月11日 10時48分26秒 | ☆小説倉庫(↓達)
いくら仕事を片付けてきたからといっても、それで1週間ボーっと過ごしているわけにはいかない。
クルルから受け取った書類には、ついこの間発生した問題についての対策や、援助を訴えるものが数多く混じっていた。
いつ訪れるか分からないこれらの書類にコメントとサインをして返さなくてはいけない。
よって、退屈で死んでしまうようなことは全くないわけだ。
「めんどくさーい・・・」
ぼそりと呟き、ペンを持つ。
自分の知らないところで発生している問題について、どうコメントしろというのだ。
判断の仕様がないではないか。
大佐の空白の予定は、大半がこういった書類に関しての情報集めに使われる。
今回はケロン星ではないためにあまり多くの調べものは出来ないが、それでもやらなければいけないのだ。
それが使命であり、仕事だから。
けれどもこういった問題の対策や援助要請ばかりなら、大佐は喜んで対応しようと思う。
大佐は一際多い紙束を眺めて溜息をついた。
一番嫌なのは・・・
「大佐さん。」
はっとして顔を上げると、扉の前に日向秋が立っていた。
重要書類だけを裏に返して、微笑む。
「これは、秋さん・・・どうしたんです?」
「コーヒー淹れてきたんだけど、飲むかしら。」
優しい微笑みに、緊張が解ける。
「いただきます。気を遣わせてしまって申し訳ない・・・」
そう言ってコーヒーを受け取ると、冷たかった手にぬくもりが戻ってくる。
一口飲めば疲れも一気に吹き飛ぶというもの。
いや、この程度で疲れるような身体ではないのだけれども。
「休暇なのにお仕事?」
「えぇ・・・まぁ、いつ何が起こるかなんてわかりませんよ。」
「そうね。私もいつ呼び出されるか分からないし。子供達にはいつも寂しい思いをさせちゃってるわ・・・」
そう言った秋の瞳は母親のもので、慈愛に満ちた、やさしいものだった。
―満たされている。
そう思ったのは、直感であって感覚であって、思考ではなかった。
しかし彼女は確かに満たされていて、その表情がどんなに悲しげだったとしても、きっと心の中は暖かいのだろうと、
そう、思った。
「秋さん・・・家族って、何ですか?」
それを聞いてしまうのは、自分の中ではルール違反のような気もした。
自分で見つけないと意味のないもののような気が・・・
けれどもあえてこれを尋ねた理由。
いや、これも直感だった。
口が滑ったとでも言うべきだろうか。
「家族?どうして?」
「・・・いや、いいんです。なんでもない・・・すみませんでした。」
「?」
コーヒーをまた一口飲んで、大佐は机に向かった。
ペンをすらすらと動かしていく。
―彼女に聞いてどうする。
―自分で見つけずにどうする。
頭の中に要素は揃っているはずなのに、繋がらない。
どうして、と呟く。
どうして自分はこんなに、脆くなってしまったのだろうか。
昔はこんなに苦しくなかった。
親の死を目の当たりにしても平然としていられたし、辛い環境で生きる術を見つけることが出来た。
何かを必死に求めることなんて、しなかった。
失ったものを取り戻したいとは思う。
けれども足りないものを補おうとは思わない。
なのに、知識がほしい。
まだまだ、知識がほしい。
・・・そうじゃない。
知識で埋めようとしている何かが、足りない。
それがなんなのか・・・分かったから、ここに来たのだ。


「大佐、買い物行きませんか?」
「買い物?」
早急な仕事は全て片付け、大佐は地球の新聞を読んでいた。
似たような事件が多発していることについて、疑問を持たずにはいられない。
皆何を考えているのだろうか。
自分ならこの事件とトラブルを1日で解決して見せるのに・・・
そんなことを考えているとき、ガルルから声をかけられた。
横を見れば、買い物袋を持たされたガルルが苦笑していた。
「・・・パシリかい?」
「そういう言い方はやめてください。」
ムッとしたガルルを見てから、大佐は新聞をたたんだ。
なるほど、この間は行くことのできなかった場所へ調査へ行くのもいいかもしれない。
しかも買い物。
地球製の酒を買い込もうと決め込んで、大佐は立ち上がった。
コートを着て、財布を持って・・・
「いってきます。」
そう一言残して、出かけた。
外は寒く、歩く町の人々は早足だ。
「何を頼まれたんだい?」
「今夜のカレーの材料だそうです。」
「カレーね・・・」
その料理を聞いて思い出すのは、ケロロ小隊の参謀、クルル曹長。
彼のカレー好きは以前から知っている。
「大佐、お酒買うつもりですね?」
「え?何で分かったの。」
「地球製の酒はおいしいんだとか言っていましたから・・・」
覚えられていた。
「あはは、よく覚えてるね、そんなこと。実はこの間の散歩でも、日本酒を送っちゃったんだ~」
既に酒を買っている抜け目のない大佐に、溜息をつく。
ケロン星に帰ったら酒浸りだ。
そうしたら暫く近づかないことにしよう。
「どうせガルル君はお酒飲めないから、付き合ってくれないんでしょ?」
「当たり前ですよ。」
「まぁ、シャインが結構強いからね・・・彼に付き合ってもらうよ。」
シャインの名前が出てくると、付き合うが別の意味に聞こえるのは何故だろうか。
そういえば・・・
「大佐、シャイン先輩と付き合っているんですか?」
「・・・先輩って・・・」
大佐はげっそりとした様子で聞き返す。
「あ、あぁ・・・階級は嫌だから先輩と呼べと・・・」
そう言うと、なぜだか大佐はため息をついた。
「何が先輩だよ。全然世話もしていないじゃないか。」
「それでも、呼びつけにしろといわれるよりはマシです。」
「君も律儀だね・・・」
そうして質問を巧くかわされたことに気づく。
大佐はそういったところにも抜け目がない。
しかし、今回はガルルの勝ちだった。
「それで大佐、どうなんです?」
「何がだい?」
「シャイン先輩と付き合っているんですか?」
応えは沈黙。
大佐にしては珍しい。
「言いたくないならいいですよ。」
「じゃあ言いたくない。」
「それは肯定でいいんですか?」
「・・・」
言いたくないと言っているのに、と顔に出ている。
けれどもこの表情から事実を察することは出来なかった。
ガルル自身、そこまで器用ではない。
そうこうしているうちにスーパーへついてしまった。
大佐は一目散に酒売り場へ行き、腕組をする。
仕方無しにガルルは野菜選びに向かう。
こういったことはゾルルの方が得意だ。
なぜゾルルを連れて来なかったのだろうか・・・と考え、ゾルルがまだ眠っていたことを思い出す。
「全く、だめだな・・・」
まさかゾルルを忘れるだなんて。
ありえないと思いながらも、代わりに連れて来た人物のキャラクターを思えば、あり得ない事ではなかった。
「えっと、にんじんにんじんっと・・・」
小さく呟きながら野菜売り場をほっつき歩く。
すれ違う奥様方からの熱い視線を受けながら、逃げるように歩を進めた。
そして進むこと数十メートル。
やはり奥様方の視線を集めている、真面目な表情をした男が一人。
「大佐・・・」
焼酎を手にとって成分表を熟読していた。
「・・・何も見なかったことにしよう・・・」
手に持っているのがワインだったら、もっと様になるだろうに。
あえて焼酎を手に取った大佐に、少しもったいないと思った。
ワインを持っている大佐はカッコイイ。
男の自分でもそう思うのだ。ましてやこの辺の奥様なら・・・
「焼酎持ってるわよ。」
「やだ、カッコイイ~」
「でも慣れてないのね~、ずっと読んでる。」
「きっと普段は洋酒なのよ。」
世の中の女性の想像力は、予想のはるか上を行っていた。
大佐に念を送る。
あなたの素性、少しばれてますよ。と。
けれどもジッと悩み続ける大佐に、ガルルは場所を移動した。
カレールーも買わなくてはいけない。
中辛だったはずだが、種類が沢山ありすぎてどれを買っていいのか分からない。
キッチンに空の箱があった気がするのだが、パッケージも覚えていない。
こういうとき、大佐を呼びに行きたいのだが・・・
「ガルル君、何を悩んでいるんだい?」
「うわっ!」
いつの間にか隣には大佐が居て、しかも手には大量の酒が入ったカゴを持っている。
「それ・・・」
「ん?あぁ、ビールと焼酎。面白そうだから。」
「何が面白いんですか・・・?」
「味かな~。そうそう、昨日はネットで地球のお酒、色々と自宅に送ってもらっちゃった。」
何故貴方がネットをしているのだとか、住所はどうしたのだとか、そんなことを聞く力は残っていなかった。
「そ、そうですか・・・」
「うん。」
嬉しそうな大佐の顔は、先ほど売り場で真剣に表示を読んでいた人物とは別人のよう。
そしてそのギャップにも、奥様方はキュンとくるようだった。
「あ~何かしらこの胸の高鳴りは・・・!!」
「いい男が2人も!」
「独身かしら。やだ、旦那より数十倍かっこいいわ。」
「あの時々見せる笑顔が素敵・・・」
時々見せるは真剣な表情の方だと思いながら、ガルルは面倒なことだと溜息をついた。
これだから買い物は嫌だ。
「で、何を迷っているの?」
「カレールー、種類がいっぱいありまして・・キッチンにおいてあった空箱の銘柄が・・・」
「思い出せないわけだね。」
「えぇ。」
楽しげに微笑んで、大佐はぐるりと周りを見渡した。
そして一つの箱を取って、かごに入れる。
「これ。中辛でいいのかな?」
「ありがとうございます。相変わらず記憶力がいいんですね。」
それをとったら他に何が残るのかと聞かれて、少し困ってしまった。
記憶力に関わらず、彼は頭がいいではないか。
それに、これほどに女性を虜にすることの出来る顔だって持っている。
それをとっさに言えなかった事に、むしろ驚いた。
「さ、会計してかえろっか。秋さんも待ってるだろうしね。」
歩き出した大佐の後をついていく。
奥様方と視線を合わせないように、真っ直ぐ一点を見つめながら歩く。
対応に慣れすぎていて、それこそ驚いた。


「ただいま。」
そう言って玄関を開ければ、帰ってくるのは「おかえり」の声。
買ってきた材料を渡すと、秋は笑った。
「人気者だったでしょ。ご愁傷様。」
「!!分かってたんですか・・・!?」
「ごめんなさい。でも結構荷物が多いから、夏美には頼めないと思って。」
手を合わせて謝る秋を起こる気になどならない。
怒るほどのものでもない、というのが正しい。
「あら、大佐さんのその袋は?」
「大量の酒ですよ。あの人は無類の酒好きですから。しかもどれだけ飲んでも酔わないんです。」
性質が悪い、と呟くと、秋は鈴の音のように笑った。
しとやかで、したたかで、やさしい。
彼女は本当に全ての女性の見本となるべき人だ。
そう思いながら、しばし見とれた。
大佐は日向秋が好きなのだろうか。
地球人でなくとも、この女性に見惚れるのは当たり前のことのように思える。
それは大佐でも例外ではないのではないか・・・?
けれども彼は、彼女を「恐ろしい」と称した。
確かに美しく思えるが、その美しさは恐ろしさからきているのだ、と。
あの人は、人を美しいと思ったことがないのだろうか?
人生で最大のトラウマであった大切な人の死を、彼は美しいと思ったのだろうか。
白い雪に赤い血。
大切な人の屍。
彼は生きている人間を美しいと思ったことが、果たしてあるのだろうか?
「ガルちゃん?」
「ガ、ガルちゃん!?」
「ケロちゃんはケロちゃんだから、貴方はガルちゃんよ。」
「は、はぁ・・・?」
郷に入っては郷に従え、とはよく言ったものだ。
これがこの家のルールなら、それに従うまで。
なんだか大佐が少しだけ、羨ましくなった。


沢山の資料に目を通して、ベッドに横になった。
どうしたものだろうか。
ちっとも眠くならない冷めた頭に、思い切り熱湯をかけてやりたくなった。
身体は人並みに疲れているのだ。
しかし頭は、眠ることを許してはくれない。
ちぐはぐな自分自身に、嫌気を感じる。
いつから自分はこうなった。
最初から?
父と母が殺された、あの日から?
それとも、大切な人が殺された雪の日から?
もしかしたら、彼らに過去を全て話し終えたつい最近からかもしれない。
狂う要素は沢山あった。
状況の変化についていけないほど、沢山の事があった。
全てが思い出。
良くも悪くも、自分の今後を左右する重要な出来事だった。
―トントン
「はい?」
扉を叩く音。
もぅ夜だというのに、いったい誰が自分を訪ねてくるのか。
「入っても良いかしら。」
その声はお世話になっているこの家の主のもので、こんな時間に尋ねてくるには不自然すぎる人だった。
「どうぞ。」
ベッドから起き上がり、眼鏡をかける。
扉を開けて入ってきた秋は、優しい笑みを湛えていた。
「どうしたんですか?夜中に女性が、男の部屋に入るものではないですよ。」
そう茶化しても、秋の表情は変わらない。
「あら、貴方がそんな人じゃないことくらい分かるわ。クルちゃんのところには行かない方が良い事もね。」
「流石にしっかりしていらっしゃる。」
それで、相手の訪問理由はいったい何なのか。
人に聞かれてはまずいこと?
それならここも安全とは言い切れない。
クルルの監視システムがあるだろうし、扉の向こうから誰が聞いていてもおかしくはないのだから。
「この間コーヒーをもって来た時、家族について聞いたでしょう?」
「あぁ、あれですか。もう良いんですよ。」
「いいえ、よくないわ。貴方はそのために、ここに来たんだもの。」
どうして彼女がそれを悟ったのか。
自分はよほど思いつめていただろうかと、しばし考える。
けれどもそれも無駄なことだと分かった。
美しい女というのは、恐ろしいものなのだから。
「凄いですね、人の考えていることを読み取ってしまうんですか?」
それはちょっとした冗談なのだけど。
「アサシンになれそうですよ。」
嫌味に近かった。
「どうして、分かったんです?」
「家族を知らない人ほど、不幸な人は居ないわ。大佐さんは頭がいいから、きっとその事に気がついたんでしょう?」
殆ど正解に近いその回答に戸惑いを覚えた。
彼女こそ、頭が良い。
「寂しそうだったもの。大切な人が、亡くなったのかしら・・・?」
ずいぶん前に亡くなっている。
けれども多分、悲しいことだけではないのだ。
「最近、私のことを好きだと言ってくる人がいるんですよ・・・でも私にはよく分からなかった。」
違う。
「分かりたく、なかった。」
分かってしまうこの頭脳が、大嫌いだった。
どうして人は恋をする?
大切なものとは?
愛するって、何?
分からない事だらけなのに、好きの意味だけ理解できてしまって。
「両親は殺された。その殺人鬼に、育てられた。彼に愛を押し付けられた。兄弟は泣いた。彼は自殺した。軍が私を招き入れた。大切な人は目の前で殺された。大切な人は微笑んだ。雪と血が綺麗だった。その大切な人にそっくりな人に出会った。彼は恋をしていた。その恋人は美しかった。2人は幸せになった。太陽のような友人を思い出した。彼は私を助けてくれた。そして、彼は私を好きだと言った・・・」
出会いと別れの連続。
新しいことが怖くて、別れが来ることが分かるから、悲しくて・・・
人を好きになるという事が、どれだけ覚悟のいることだか、知っているから・・・
だから、彼の告白に何も言う事が出来なかった。
「そもそも彼っていう事は、男の人でしょう・・・?」
「えぇ。それはもぅどうでもいいんです。今更ですからね。」
沢山のことを考えた。
ぐるぐると、頭の中を沢山の言葉や過去が駆け巡って、何も分からなくなった。
「好きとか、愛しているとか・・・そういった言葉を考えていたら、家族ってなんだろうかと思ったんです。」
家族ってなんだろう。
父と母が殺されて、育ての親も兄弟もいなくなって、それで、自分には何が残っているのだろうか。
幸せとは、なんだろうか・・・?
「ガルル君は、愛があれば家族になれると言いました。貴女は、どう思います?」
自分で考えることは諦めた。
彼女に甘えてしまいたくなった。
もぅ、疲れたのだ。
「家族のあり方って、それぞれだと思うわ。でも私の場合は、絆かしら。」
「絆・・・ですか。」
「愛っていうのは、ちょっと大きすぎる気がするの。もう少し優しくしたら、絆かしらって。」
簡単なようで、難しい。
絆というのは、手を繋ぎ合えるような関係だろうか。
信じあい、助け合うことのできる仲のことだろうか。
「大佐さんは、家族がほしいのかしら。」
そう聞かれると、答えるのが難しい。
確かに昔は、そういった係わり合いがほしいとも思っていた。
今でも確かにその気持ちは残っているのだが、それとはまた違う気持ちがある。
シャインに出会い、想いを告げられて、それに応える事が出来なくて、それで・・・
「家族・・・か・・・」
ずいぶん前に、その存在を求めることを止めてしまったのかもしれない。
「諦めてしまっているのかもしれません。ただ少し、愛したいと思うだけで。」
愛したい。
愛という熱い感情を、持ってみたい。
それで彼の気持ちに応えたい。
家族に愛があるというのなら、絆があるというのなら、その作り方を教えてほしい。
家族という名の絆がほしい。
愛という名の決定打がほしい。
そして、幸せに囲まれたい。
我侭で貪欲な自分だけれども、それを求めるのは必然的なことだと思うのだ。
だって、だって・・・
「全てを失って、新しいものを手に入れて・・・けれどもその本当の扱い方が分からないんですよ。」
今まで、自分から接することを選ばなかった。
だから失ってしまったのだ。ボーっとしている場合ではない。
ぽっかりと空いた心の隙間を埋めるために、知識だけを求め来た。けれども今は、違う。
確実にそれを埋めようと、愛することを知ろうとしている。
やっと頭と身体が繋がった。
だから・・・お願いだ。
愛するという事を、教えてほしい。
「こんなに本気で愛したいと思ったことはなかったんです。今まで。頭が、混乱して・・・」
「そう、今まで辛かったのね・・・」
ケロン人は地球人よりも寿命が長い。
実際は秋よりも大佐のほうが実年齢は高いだろう。
しかし地球人で言えば大佐のほうが若くなるわけで、それはこういった精神面でも現れるのだ。
母親の眼差しをした秋に、大佐の胸が高鳴る。
今まで感じたことのない感情が湧き上がってきて、止まらない。
「とりあえず泣きなさい。」
「え?」
優しい笑みで、秋は両手を大きく開いた。
そして、その両手で大佐の頭を引き寄せて抱きしめる。
「・・・!?」
「こら、じっとしてなさい。」
こんな場面誰かに見られたら・・・
そう思いつつも、大きな抵抗をする気にはならなかった。
泣きなさいと言われて、何かが吹っ切れたのだろう。
いつのまにか熱い雫が頬を伝っている。
静かな泣き方は、自分らしいと思った。
そっと髪を撫でる秋の手が懐かしいような気がして、不思議だった。
かつて自分もこうして誰かに抱かれていた。
女性の香りは懐かしく、優しくて。
抱き締める腕は強くて。
周りの世界から遮断された世界で、思う存分泣くことができた。
両親が死んだときに流すはずだった涙も、
鎖につながれたような生活をしていたときに流すべきだった涙も、
大切な人が死んだときに流すことが出来たはずの涙も、
今、この瞬間に追い出した。
溜め込んでいたものが溢れ出して、止まらなくて、けれどもどこか満たされたような気がして・・・
知らないことばかりだった。
初めて知ったことばかりだった。
母の愛とは、これのことなのだろうか。
これを知らずに過ごしてきたから、自分は泣くことが出来なかったのだろうか。
「大丈夫?」
「っ・・・えぇ・・・なんか、吹っ切れました。どれくらいぶりだろう・・・こんなに苦しくなったのは。」
「家族のあり方というのはそれぞれだと思うけど、一つ、覚えておいてほしいの。」
秋は大佐の頬を両手で挟んで、訴えかけるように口を開く。
「我が家に来て、こうして私と話しているってことはね、貴方も家族の一員になったという事なの。」
温かいミルクのような言葉だった。
喉を通り、胸に染み入る。
「少なくとも、私は貴方のこういう脆い所も愛おしく思うのよ?」
どうして彼女がこんなに優しい言葉をかけるのか、分からなかった。
分かりたくないと思った。
けれども、分かってしまった。
自分は大切にされているのだ。
愛されているのだと、分かった。
そして愛し方も、判った気がした。
「秋さん、貴女は恐ろしい人だ・・・美しいほどに、恐ろしい・・・」
「あら、有難う。」
褒め言葉に代わってしまった本音は、少しだけやわらかいものになっていた。
そうだ。
ケロン星に帰る前に、彼女に何かプレゼントしよう。
長い指を飾るリングか、胸元に光るジュエリーか、迷うところだが。
そしてあの星に帰ったら、今度は愛しい人に会いに行こう。
まだ愛しているとは言えないけれど、せめて、思い切り抱き締めよう。
それが大切にしているという証になるだろうから。
だから、そしたら彼にも、抱き返してほしい。
今の精一杯の気持ちを込めて、互いの気持ちが同じだと、感じてほしい。
家族を得て、愛を知った自分は、彼にそれを与えることが出来る。
涙も
笑顔も
何もかもを知った自分を、彼は喜んでくれるだろうから。
そして、大切な人の眠る場所へ向かうんだ。
涙を流して、彼らに謝ろう。
大好きだったと言おう。

全てを手に入れるために

もぅ、私は迷わないことにしたんだ。

_________

完。
何故だか大佐の話しになると長くなる;
自分なりに頑張ったつもりです。

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2 コメント

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ヘイ! (ゆき)
2009-01-11 14:24:01
大佐っとおおおおお・・・・秋ママさんですね!!

家族かぁ・・・私、一日一人で過ごしてる時間の方が長いですからね~・・・
あまり考えたことないです。

naru先輩の小説で家族というものを思い知らされました!!現在腕、振り回してます
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何故腕を振り回すのだ(笑 (naru)
2009-01-11 19:54:26
どうして腕を回すのですか(笑
心を動かせたようで何よりですがw

私の中で、一番失って恐ろしいものは家族だったり、絆だったりすると思うんです。
なので大佐系シリアスは思い切ってそれにしました。
好きな設定を混ぜ込んだキャラクターなので、その分沢山動かしますよ!!
マイナーキャラはいじり易いですw
秋ママは、本当はもっと大佐と絡ませるつもりでしたが・・・自重しました。
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