小指ほどの鉛筆

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160.対極のふたり(バリゲリ)

2010年09月20日 16時20分08秒 | ☆小説倉庫(↓達)

「トマトマトマートトマトマト♪」
鼻歌を歌いながら、バリリは直線の通路をスキップで歩く。
時々クルっと回ってみたりして、つまりは、ご機嫌だった。
昼はプルルとお茶をして、次に会う約束までとりつけたのだ。
ケロロ小隊にヘタレと呼ばれた自分は、今はいない。
そんな幸せオーラを出したバリリとすれ違う人々は、皆同様に苦笑して通り過ぎていく。
バリリはそんなことを気にする人ではないから、やはりそのままリズミカルに進んでいった。
そんな、ご機嫌な夕方のこと。
「あの男め!!」
自分の気分とは真逆の、憎しみの籠った声が聞こえた。
びっくりしたバリリは一回転した身体のバランスを崩し、床に頭を打ち付けたのだが。
その頭をさすりながら、声の下方向へと顔を向ける。
ガラス窓の向こう、テラスのフェンスに手をかけて、長い三つ編みの男が立っていた。
平均男性の身長よりは少し低い背を丸めて、何やらぶつぶつと文句を言っている。
詳しいことは聞こえないが、その後ろ姿と声には、バリリも覚えがあった。
(あれは・・・ゲリリ少佐?)
確か、ケロロ小隊の臨時指揮者として地球侵略任務を請け負った後、問題があって更迭されたと聞いた。
それも周囲からの話で、バリリは軍内部で話題になった、問題の映像を見てはいない。
しかし、話だけでも十分に理解はできた。
散々お世話になったケロロ小隊が壊滅する危機だったのだ。
冷静で頭脳明晰ではあるが、同時に冷酷でもあった。
いや、ある意味では、冷たいと同時に、自分のキャリアと昇進に対しての熱い思いがあったのだろうが。
今でも夜空に向かって文句を言っているゲリリを見て、バリリは少しだけ眉を下げる。
随分と荒れている。やはりあの一件についてのことだろうか。
様子を見ていると、少しだけ可哀そうにも見えてくる。
しかし自業自得。いい経験にはなっただろう。
そんな解説を考えていたバリリは、必要以上にゲリリの背を見つめすぎていた。
その所為で、視線を感じたゲリリが振り返る。
「あ。」
ばっちりと、目が合ってしまった。
気まずい空気が流れ、ゲリリの目は鋭くこちらを見続けている。
このままどこかへ逃げることも可能だが、それではバリリの印象が悪くなる。
人のいいバリリには、それが何とも耐えられなかった。
とりあえず、不機嫌なゲリリに謝るだけはしてみようとテラスへ入る。
ゲリリの口が開いた。
「見物?」
そして、第一声がこれだ。
少し高めの声でそう問われると、怒られている気はしない。
けれども圧力だけは、人一倍あるような気がした。
「帰ってくれるかい?僕、考え事してるから。」
とどめの一言は、あと一歩でバリリの心を粉々に砕くところだった。
しかしここは、今絶頂に機嫌のよかったバリリのことだ。
いつもの数割増し、心が強い。
「そ、そうじゃないんです!」
興味をなくして夜空へ向いたゲリリの顔が、また再びバリリへと向く。
「じゃあ何。」
用があるなら早くしてよ、と。
愛想の悪い、不機嫌な顔で応じられた。
「えっと、」
上目づかいで睨みつけられて、バリリは考える。
実を言えば、何を言おうかまでは考えていなかったのだ。
もしかしたら、早々に振り払われるオチを想像していたのかもしれない。
けれどもその想像よりはいくらか、ゲリリは優しいと感じた。
人の話は聞く。それに対しての意見はズバリと言うし、非情なものかもしれないが、それほど悪い人ではない。
もっともそれは、バリリだからこそそう思えたのかもしれないが。
「その・・・どうして、」
ゲリリの組んだ腕の当たりを見つめて、言葉を選んだ。
セーターから出ている指が、綺麗だ。
流石に前線に立たないだけあって、というよりは、デスク仕事だけなだけあって、形のいい爪をしていた。
地球に行ったときに学んだが、このだぼっとした袖は萌袖と言うそうだ。
この時期にしては着こんでいる。寒がりなのかもしれない。
「その・・・どうして、見捨てたんです?」
そんなことを考えていたからだろう。
出てきた言葉は、ちっとも洗練されてはいなかった。
ゲリリの表情が、目に見えて苦々しいものになっていく。
「部下なのに。大切ではなかったのですか?」
ゲリリが何かを言おうと、への字に曲げた口を開いた。
しかしそれを言う前に、バリリの次の言葉がゲリリの目を丸くすることとなる。
「信じて、くれたのに。」
きょとんとして、ゲリリはバリリを見る。
その表情は、先ほどよりもずっと可愛げがあって、親しみがもてた。
「・・・」
何かを考えるかのように、ゲリリはフェンスにもたれかかる。
バリリがドキドキしながらゲリリの返答を待っていると、その口から出たのは、言葉ではなくため息だった。
「はぁ・・・」
まるで、今までの毒気が抜けたのかのように、ゲリリは肩の力を抜いた。
落ち着いた表情で、自嘲敵にも思える微笑みまで浮かべている。
その表情に、バリリがドキドキしながら言葉を待った。
怒られるのは苦手だ。
「信じるとか、信じないとか、よくわからないから。」
その顔は、寂しそうにも見えただろうか。
「考えたこともないから。」
よく抑揚をつけて喋る人だと思った。
やはり、周囲が言うよりもずっといい人だ。
バリリはそう感想をまとめる。
しかしその間も、ゲリリは自分を責めるかのようにぶつぶつとつぶやいていた。
「・・・僕は、バカなのか・・・?」
そして最終的なゲリリの自己評価は、それだった。
周囲の言うことが分からない。
自分の受けた処罰が的確なようには思えない。
どうして自分の決定が受け入れられなかったのか、理解できない。
今までずっと、そうしてやってきたのに。
どうして今になって、あの小隊に限って、それではだめだったのか。
「ゲリ・・・」
バリリは、そんなゲリリの言葉に反論しようとした。
優しい言葉の一つも、かけてやろうと思ったのだ。
そこに、ドアの開くギィっという音がした。
「お?」
雰囲気に見合わない、明るめの声。
「珍しいのがいるじゃんか。」
屈託のない笑顔で、二人の空間に割入ってくる。
「よっ。お二人さんっ。」
ニィっと笑うと、バリリがパッと明るい笑顔で応じる。
「シャインさん!!」
そんなバリリとは打って変わって、ゲリリは驚いたような、困惑したような顔をしていた。
誰だか分からない。
ゲリリは自分に必要な情報しか集めはしない。
だからだろう。さまざまな部署を駆け回っているシャインのことを知らなかったのは。
そんな様子のゲリリを見て、バリリはシャインにゲリリの紹介をして仲をとりもった。
本音としては、ここで再びゲリリと二人きりにはしないでほしいのが現状だ。
「へー、じゃあ、お前が大佐の言ってた・・・」
「ゲリリだよ。」
「ふーん・・・愛想悪っ!」
「大きなお世話だから!!」
終始笑顔なシャインを訝しげに見ながら、ゲリリは居心地悪そうにフェンスに寄りかかる。
嬉しそうに笑うバリリも、理解不能だ。
こんな笑顔に囲まれたのはどれくらいぶりだろうか。
「それより・・・」
冷や汗交じりに、ゲリリが尋ねる。
「何者だ?」
先からずっと笑みを浮かべて、ゲリリのことを知っても対応一つ変えない。
敬語になるやらおどおどするやら、それなりの対処があるだろうに。
心底警戒しているゲリリに、シャインは不敵な笑みを浮かべる。
「万能兵のシャイン。」
「万能兵って、実在するんだね。伝説だと思ってたから。」
「はは。そんで、大佐の友人だぜ。」
その言葉には、ゲリリの表情が変わった。
何しろ実は、ゲリリのケロロ小隊への対応を見て真っ先にゲリリのもとを訪れたのが大佐だったからだ。
クルルが優先的に大佐に映像を送ったのかもしれない。
どうにせよ、その所為でゲリリは大佐にこっぴどく怒られた。
あの赤い瞳に睨まれると、動けなくなる。
そのまま彼の言う言葉だけを聞いて、処罰を聞いて、いつのまにか事はまとめられていた。
気に食わない。
最初に怒鳴った「あの男」とはつまり、大佐のことだった。
「大佐・・・の・・・?」
「そ。」
「それなら、僕の敵だから。構ってていいわけ?」
ゲリリのその言葉に、初めてシャインは笑みを取り消した。
表情のない顔が、お面のように微動だにしない。
「敵?なんで?」
ゲリリのむっとした顔に、シャインは更に続けた。
「大佐はお前のこと、嫌いじゃないぞ?」
その言葉に、ゲリリが目を丸くしたまま固まった。
どうやら驚くことに慣れていないらしい。
シャインの言葉に、バリリが反応した。
「あぁ、それならうかがっています。なんでも、少佐を降格に留めたのは大佐ですとか・・・」
ゲリリの口が、パクパクと動いた。
小さく、「嘘だ」という言葉が聞こえた。
それをシャインは聞き逃さない。
「あのな。大佐って、裏切りとか、そういうの大っ嫌いなんだ。だからな、裏切られた奴には優しいわけ。」
「な、」
「弱い奴にも同じだ。アイツは優しい。ゲリリ。」
「なにを・・・」
何を言いたいのだ、この男は。
理解不能なことが続く。
ケロロ小隊、大佐、バリリ、シャイン・・・
自分は今、いったいどこにいるのだ。
ここは結果が全ての、非情は軍ではないのか?
それがどうして、道徳やら友情やらを謳わねばならぬのか。
「なぁ、自分がやったこと、結構辛いよな。」
「は・・・」
「過去も、現在も、お前は裏切ってばっかで。だから誰よりも、裏切られる怖さは知ってんだろ。」
そうしてシャインは、一際優しい笑顔でゲリリに向きなおす。
「大佐はさ、幸せになってもらいたいってよ。お前にさ。」
実際には、ゲリリだけではない。
ケロロ小隊にも、地球の人間にも、すべての人が幸せになればいいと、彼は願うから。
「大佐の言い方がキツかったってんなら、俺から謝るわ。わりぃな。アイツ変なとこで厳しいから。」
「でも、優しいですよね。」
「おうよ!俺の恋人だからな!!」
「・・・」
「・・・」
「・・・え?」
時が、止まった。
「おっと、口が滑った。気にすんな。じゃあなー。」
さっさと室内に戻っていったシャインの後ろ姿を見ながら、ゲリリは目を白黒させた。
なんだと?あの大佐と、今の軽そうな男が、付き合っている、と。
というか、男同士だが。
「は、なに・・・え?」
思考がおいつかない。
いや、まずは最後のカミングアウトを置いておいて・・・
大佐が自分に、幸せになってほしい、だと?
降格に留めたのは、大佐だと?
にわかには信じがたい。
だが、思い当たる節がないわけでもないのだ。
「ゲリリさんっ。」
「え、なに、まだいたの?」
ハッと横を見れば、嬉しそうな顔のバリリがいて、少しだけ、胸が締め付けられた。
「良かったですね。大佐さん、怒ってはいらっしゃらないようです!」
「それが何。僕のキャリアに傷がついたのは変えようもない事実だから。」
「キャリアに傷・・・?そんなの、いくらだって直しようがあるじゃないですか。」
「あぁ?」
苛々して、バリリを睨みつける。
するとすぐに縮みこんで、恐る恐る口を開いた。
怖いなら喋らなければいいのに。可笑しな奴だ。
「結果はどうであれ、今後も軍で働けるわけですから、よかったじゃないですか。」
「よくないから。」
「それに今の時点でも、ゲリリさんは私よりはよっぽど凄いです!」
「・・・そう。」
ゲリリが視線を逸らしたのは、バリリのキラキラとした目に耐えられなかったから。
どうにもこういったタイプは苦手だ。
けれども、嫌いではない。
「私なんかこの間も失敗を・・・ハックシっ!」
急にくしゃみをしたバリリに、不覚にもゲリリが驚いた。
肩が上がる。
「な。なに、寒いわけ?」
「いや、大丈夫です、これくらい。」
ははっと笑ってみせて、バリリは言葉を続けようとした。
すると、ゲリリが歩き出した。
室内に入るために、扉に手をかける。
「・・・僕の所為で風邪ひかれても困るから。」
フイっと顔をそむけて、ゲリリは扉を開ける。
先に入れと合図して、バリリを室内に入れた。
「大体、外に出るならそれなりの格好をするべきだから。それはいくらなんでも寒いから。」
ゲリリはセーターだが、バリリはワイシャツ一枚。
季節的に、少し肌寒いくらいだ。
「ありがとうございます。ゲリリさんはパイナップルのようですね。」
にっこりと笑ったバリリに、ゲリリが首をひねる。
「パイナップル?」
「外はトゲトゲで痛いのですが、中身はとっても甘くてフルーティーなのです。ギャップってやつです。」
ゲリリは苦笑して、歩き出した。
バリリはその後ろをついていく。
「トゲトゲの殻に包まれてはいますけど、勇気を出してそれを乗り越えれば、待っているのは美味なフルーツなのです!」
何かのスイッチが入ったかのように、つらつらと言葉を紡ぐ。
ゲリリは困惑しながら、振り返った。
「何が言いたいの?っていうか、ついてこなくていいから。」
「え?あぁ、てっきり私はフルーツの例えについて解説が欲しいのかと・・・」
首を傾げたバリリは、純粋にそう勘違いしたのだろう。
性質が悪いと、ゲリリがため息をつく。
「まぁ、確かに意味わかんないけどね。別に執着とかないから。」
そういう間も、バリリはずっとゲリリの後ろをついてあるいている。
どこまでついてくるのだろうか。
ゲリリもどこに行くかまでの宛はつけていない。
「何、話したいわけなの?」
「え?いや、別にそういうわけではないのですが・・・」
「はっきりしてくれない!?僕そういうの嫌いだから!!」
立ち止まって、腕を組む。
仁王立ちしてみれば、バリリはおどおどとし始めた。
しかしよく見てみれば、バリリはゲリリよりもいくらか背が高い。
いや、ゲリリが低いのだが、ゲリリから見れば、バリリが高いのだ。
最初にバリリが話しかけてきたときに、ゲリリは既に彼のことを知っていた。
容姿端麗、高学歴に高収入とくれば、周囲の話題にもなりやすい。
けれども真面目な性格故に、どこか抜けていることでも有名だった。
それがつまり、今のフルーツの例えなわけだ。
「話したい、というより、ゲリリさんとお友達になりたいです!」
そしてこれだ。
もう天然と思う他ない。
「はぁ?何言ってるのかわかんないから。」
「でしたら、カフェで話しませんか?」
「結局話したいんじゃない。」
「あ、そうですね。」
面倒くさい男だ。
「カフェって、人いるでしょ?僕、今は誰かに会いたくないから。パスだね。」
「あ、でしたらうちの小隊の待機室に来ますか?今は誰もいませんよ。」
「コーヒーはあるの?」
「あります。」
「じゃあ行くよ。」
今度はバリリを先頭に立たせて、その後ろをゲリリがついていく。
逃げてしまってもいいのだが、そうするとバリリは酷く落ち込みそうだ。
明るく能天気に見えて、実はとてつもなく繊細な人間な気がする。
「ここです。どうぞ。」
小奇麗な部屋の、リラックスソファーを進められる。
少し躊躇いながらも、言われた通りに腰掛ける。
出されたコーヒーで手を温めながら、前に座ったバリリの嬉しそうな顔を眺めた。
「誰かをお呼びするのは久々です。」
「あっそう。」
「私がフルーツや野菜の例えを使うようになったのは、カウンセリングで言われたからなんです。」
唐突に始まったバリリの自伝に、ゲリリはさして興味はないものの、耳を貸した。
「私、恋をしたのです。それは白衣の天使・・・大根のように白く滑らかな肌、桃色の髪・・・」
「もしかしてプルル看護長かい?」
想像がついてしまうことが悲しい。
誰もがなんとなく思い浮かべられる看護系の桃色の髪の女性など、彼女しかいないからだ。
しかしバリリは、酷く驚いたようだった。
「どうしてわかるんですか!?」
「普通わかるから!」
気を取り直したバリリが、一つ咳払いをする。
「それで、彼女に・・・プルルさんに猛アタックをしたのですが・・・振られてしまいまして・・・」
「それでカウンセリング?」
「はい。その時に、物事を野菜や果物で例えるのがいいとのアドバイスをいただいたのです。」
そのカウンセリング、本当に信頼できるものなのか?
疑問は多いが、あえて突っ込まないことにした。
「すると、プルルさんの対応が少し変わってきたのです!」
「ありえないから!」
「いいえ!二度目のお見合いから、少しずつですが、彼女からお茶に誘っていただけるようになりました。」
もしかしてその野菜とフルーツの例えとやらには、魔法がかかっているのか?
そう疑ってしまうほど、ありえないことだった。
ゲリリは更に話を聞く。
「それで、進展してるの?」
「恐らくですが・・・はい。あと10回ほどお会いしたら、改めておつきあいをしていただけるか聞いてみます。」
「慎重だね。まあ、石橋は叩いて渡るくらいがいいから。」
きょとんとしたバリリに、こいつは馬鹿だと悟る。
誰だ、高学歴なんて言ったやつは。
「慎重に進むのがいいってことだからね。」
「あぁ、はい。そうですね。」
微笑んだバリリの顔が、妙に優しく見えた。
容姿端麗というのは、間違いではないようだ。
「君、顔は良いんだから。彼女が落ちるのも、時間の問題だと思うよ。」
「本当ですか!?」
「多分ね。」
コーヒーをすすってから、ため息をつく。
なるほど、それで自分はパイナップルか。
外はトゲトゲ。中は・・・
「ねぇ、ちょっと待って。僕がパイナップルだって言ったね?」
「え?はい。」
どういうことだ。
どういう意味なのだ。
「外はトゲトゲ。」
「それは分かるよ、なんとなく。」
「中は甘くてスウィーティー。」
「は?」
露骨に嫌な顔をしたゲリリに、バリリが慌てて解説を入れる。
「で、ですから、表面上はちょっと怖いですけど、実はいい人で・・・」
「いい人!?僕が!?」
「なんで怒るんですか!?」
バリリとゲリリ、両者とも驚き、そこで一旦会話が途切れる。
先に復活したのはバリリの方だったが、ゲリリはその後もしばらく驚いたまま、固まっていた。
本当に、驚くことに弱い人だ。
「だ、だって、人の話はちゃんと聞いてくれますし、実はすごくいろいろ考えてますし・・・」
「それは常識だから!」
「えー・・・いい人って言われるの、嫌いですか?」
ゲリリはグッと詰まる。
嫌いなのではない。慣れていないのだ。
凄いだとか、仕事ができるだとか、そういったことは度々言われてきた。
しかし、いい人だとか、そういうことを言われたことは、いまだかつてない。
「・・・私たちは、かぼちゃとトマトのようなのです。」
ゲリリの困惑した様子を見て、バリリはゆっくりと話し始めた。
「冬は、かぼちゃでホクホクすればいいのです。夏は、トマトでさっぱりすればいいのです。だから・・・」
ゲリリは、大人しく話を聞いている。
「だから、ゲリリさんが冷たいなら、私がかぼちゃになってホクホクにしてさしあげます。」
「!?」
「私が熱い時は、ゲリリさんがトマトになって冷やしてください。」
「・・・何言ってるのかわからないから。」
「逆も然りです!お互い、助け合っていきましょう!ということです!ゲリリさんにはゲリリさんのいいところがあります。」
その物言いは、決して嫌味ではなくて。
むしろゲリリの心に、すんなりと入ってきた。
「お友達になりましょう!誰がゲリリさんを悪く言ったって、私はお友達です!」
「・・・意味、わからないから。」
けれどもそう言ったゲリリの口元は笑っていて、どこか気恥ずかしそうに見えた。
バリリは笑う。
ゲリリは手に持ったカップをギュッと握り締めて、口を開いた。
「別に気を許したわけじゃないから。・・・バリリ。」
「はい!これからゆっくりと、ですね!プルルさんみたいに!!」
ゲリリは苦笑して、バリリを見た。
嬉しそうな顔。
今日は何度、この顔に心穏やかにされてきただろうか。
冬は暖かいかぼちゃのシチューのように。夏は冷たく冷やしたトマトのように。
彼が自分を、自分が彼を助ける様子を思い浮かべて・・・
ゲリリは恥ずかしそうに一口、コーヒーを飲んだ。


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