物欲王

思い付くまま、気の向くまま、物欲を満そう

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八月の路上に捨てる

2006-09-04 04:55:04 | 
子供の頃から今に至るまでいくつかの夢が描かれては僕の中を過ぎ去っていきました。ほとんどの夢は叶うことなく憧憬は淡い思い出に変わり、その過程を無視するかのように日常生活が連綿と続いていきます。特に社会人になってからというもの日常生活の重みは増し、何かに憧れることすら忘れてしまうくらい日常が我が身に迫ってくる気がします。出色の才なき凡百の人間はこうした日々の現実が突き付けられてこそ健康に生きていくことが出来るのかも知れません。

近所の本屋さんによったついでに何気なく『八月の路上に捨てる』を買ってみました。芥川賞をあまり気にしたことはなかったのですが、たまたま『沖で待つ』も読んだので今年は完全制覇です。

標題作の「八月の路上に捨てる」は再婚を期に缶ジュースのルート配送の仕事から総務の仕事に異動しようとしている職場の女性に、主人公が離婚に至るまでの過程を話すという内容です。心の底から望んでいるのかわからない夢を何となく追い続け気が付くとアルバイトで生計を立てるようになっていた大卒の三十男と、就職活動や人間関係という自分の夢とは本質的に無関係なところで挫折してしまった女が、出会い、結ばれ、すれ違っていく過程はあまりに自然で「今」を感じさせるものでした。普通ならば重くのしかかってくるだろう怠惰な現代の現実を、新たな転機を迎えようとする職場の同僚に語るという設定を取ることで、ひっかかることなく流してしまうあたりに嫌になるくらい今生きている時代を感じてしまいます。

人によっては読後感が浅いという人もあるでしょうが、『八月の路上に捨てる』には爽やかに今自分が暮らしている世界を突き付けられた気がします。


八月の路上に捨てる

文藝春秋

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