中曽根演説@防衛省移行記念式典の全文

防衛省の方が、私のブログを見て、親切にも中曽根総理の演説(聞き取り)全文を提供してくださった。感謝申し上げるとともに、ここに掲載させていただきます。

中曽根康弘元総理大臣祝辞@防衛庁省移行記念式典(平成19年1月9日) 

 防衛省の御誕生、誠におめでとうございます。
 昨日は日本の青年の成年式でしたが、今日は防衛庁自衛隊の成年式にあたるおめでたい日で、喜んで参上いたしました。
 考えてみますと、よく自衛隊も、防衛庁の皆さんも、隠忍自重、我慢してこられましたね。私は、防衛庁長官をやった者といたしまして、辞めた後も防衛庁や皆さんのことが非常に気がかりでありましたけれども、ともかく、幹部及び皆さん、よく我慢をされ、隠忍自重されて、今日を期して精進なさったその成果が本日ここに訪れたことを本当に御苦労様であると申し上げると同時に、お祝いを申し上げる次第でございます。
 この次は、いよいよ憲法上にこの防衛関係の名称並びに役目を明記するということが次の我々の向き合う仕事であって、それがそう長年月を要することではないと。安倍総理もそれを心がけておられますし、我々一同そのつもりでありまして、次の任務に向かって、我々は更に志を固めて前進してまいりたいと思いますし、皆さんの御精進を更ににお願いを申し上げる次第であります。
 この機会に、実は自衛隊、防衛庁発足の時の一つの問題点を申し上げて、将来の参考に供してみたいと思うのであります。実は、昭和28年に吉田さんが「バカヤロー解散」というのをやりまして、吉田自由党は少数内閣に転落しました。そこで、重光改進党、鳩山自由党、吉田自由党、3党連立内閣が誕生したわけです。その時に我々重光改進党は日本の防衛体系の転換を強く前から要求しておりまして、3党協力を行おうと、吉田単独内閣では国会を乗り切れない状況でもありましたので、結局3党協定をやろうということになって、その中の一つの大きな問題が防衛問題をどうするかという問題であったと。警察予備隊から保安隊になっておりましたけれども、保安隊というような中間的なものでいつまで日本が保つはずがない。もっと正規な防衛力を中心にした考え方にして国の歩みを整えなければならない、というのが我々の考えでもあったわけであります。結局、各党から代表が出て、新しい法律を作ろうと言うことになりまして、自由党からは西村直己さん、鳩山自由党からは中村梅吉さん、改進党からは私が出まして、3党協定を作ったものです。その時に問題になったことは何であるかと、これがこれからの大事な問題なのでありまして、憲法上、必要最小限の防衛力とは如何なる問題があるかということが一つのポイントでありました。必要最小限の防衛力というものは結局は、国際情勢、あるいは科学技術の変化によって当然それは変化していくべきものであって、固定されるべきものではないとそういう定義で、我々は一致したわけであります。
 次の問題は、実は最も重大ないわゆるシビリアン・シュープレマシーをどういうふうに書くかということであったのであります。いわゆる文民統制という問題であります。日本が大東亜戦争に負けた原因の一つは、統帥権独立の問題があった。我々が新しい自衛隊あるいは防衛庁を作るに際しては、この問題を解決しなければいけないと、非常に強い意識を持って統帥権独立を否定する体系にしようということにしたわけであります。ですから軍政あるいは軍務を両方とも一体的なものをどういうふうにして作るかということは中心で、日夜苦心をしておったのであります。その会議の最中に実は、辻政信さんが代議士として飛び込んできまして、大声叱咤してお前たちが作ろうとしているものは何の役にも立たんと、統帥権の独立を認めずしてどうして戦いが出来るかと言うことを怒鳴り込んできたものであります。我々はそれに向かいまして、戦争に負けた原因は統帥権独立の問題がある。この問題を解決せずして新しい体系が出来るはずがないと。今までのような旧慣例に基づいて新しい防衛体系が世界的に出来るかどうか、これは検討を要する問題だと、そういうことを言って辻さんに反論をして、そして今のような体系にしたものであります。
 しかし、このシビリアン・シュープレマシーという概念はなかなか難しい概念であって、我々が体系を作ったときには、御覧のように内局を作って、参事官制度というものにして、そして大臣や政務次官の意向がそこへ直流して動く、大臣や政務次官は国会の意向を受け継いでそれを実行する。そういう体系にしたものであります。それについては、色々また議論やら、昔の軍人さんの反論等がございました。がしかし、我々はこの体系で新しい体系を作っていくのだという確信をもって今の体系にしたものであります。シビリアン・シュープレマシーという意味は、文民優位ということでありますけれど、これは防衛庁の内局の優勢を示すという意味ではない。国会や政治家の統制の優位を示すものである。それを受けて大臣や政務次官が実行するものである。そういうようなはっきりとした観念を持ってやってるものであって、この防衛庁の内部における内局と、あるいは第一線の部隊、統制関係をやっていらっしゃる皆さんとの融合調和というものを前提にして、この間の大戦に鑑みて我々は新しいそういう体系で、新しい力を作っていこうということであった。
 シビリアン・シュープレマシーというのは内局の文官の優勢を示すものではない。これは、はっきり我々も考えていたことであって、大臣や政務次官、国会、政治の優位というものを示すものである、ということを確認したものであります。
 いよいよ防衛省が前進いたしますけれども、この問題は古くしてまた新しい問題であり、省となれば、自主性、独立性が更に強まって来るものでありますけれども、それだけにこのシビリアンシュープレマシーというものを今後も堅持していくということが一番大事なことではないかと、この法案を作った一人として申し上げておきたいと思うのであります。
 いよいよ本日以降、皆さんは今まで以上に胸を張って、世界に日本に逞しく御奉公出来る状況になりました。どうぞ皆様方、健康に留意されまして、国家国民のために、また世界の平和のために更に御努力なさることを心から祈念申し上げまして、御挨拶といたします。どうも有り難うございました。
以上
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