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黛信彦の時事ブログ

浜矩子語録(95) 日本経済、『新たな夜明けか、更なる闇か?』

2010年02月28日 | 浜矩子語録
妖艶なエコノミスト・浜矩子は22日、ヒルトンホテル大阪の昼食講演会で語った。
“新たな夜明けか、更なる闇か?”が演題である。
主催は関西カナダビジネスアソシエーション(KCBA)、大阪商工会議所が共催し、香港上海銀行(HSBC)がスポンサーだった。

講演に先立つ開会挨拶で、カルロス・ラミレスKCBA代表が浜矩子を紹介した言葉の一つを受けて、
「私のことが『女性版ポール・クルーグマン』と言われている、との紹介を受けましたが、私は、これは全然正しくないと思っておりまして、正しくは『ポール・クルーグマンが、男性版浜矩子』である」と言ってもらわないと困っちゃう、というふうに思っております」
と切り替えしたことから、会場は大ウケ。大爆笑と大喝采に包まれた直後一気に和んだ。

浜矩子は、早速本題に入った。
~・~・~ 日本経済“新たな夜明けか、更なる闇か?”ということでお話をさせていただくわけですが、その謎を解くにあたって、どういうことを考えておくべきか。
私には、今の日本経済を見て、1つの内憂と3つの外患に当面している状況にあると考えられます。
これは、放っておけば間違いなく永遠の暗闇が我々を待ち受けているわけで、相当頑張らないと新しい夜明けには到達できなというふうに思っている次第でございます。
それでは、1つの内憂とは何か、3つの外患とは何か、それをざっと申し上げて中身に入って参りたいと思います。

まずは、1つの内憂。
これは、私の言い方で云えば『新型デフレ』でございます。
新型デフレは新型インフルエンザよりも遥かに怖い、毒性の強い病気であると思っております。

そして3つの外患。その1は即ち『金融再暴走』でございます。
リーマンショックをもたらした金融大暴走がまた戻って来るという『金融再暴走』がその1。

外患のその2、それは『国家総破たん』。
国みんな須く(すべからく)破綻に向かって行くということでございます。

そして、外患その3は『通貨大波乱』ということで、為替市場が大きく揺れるということでございます。

●新型デフレ
『新型デフレ』をなぜ新型かというと、デフレーションというのは英語が示す『縮む』ということで、経済活動が縮むということをデフレーションというわけでございますが、ところが皆様よくご承知のとおり、実はこの間、日本のGDPは全然縮んでおりません。
直近で10~12月期のGDPの数値が発表されたのは先週のことですからご記憶に新しいと思いますけれども年率にすれば4%台のプラス成長という事なわけでございます。
このような状況であるにもかかわらず政府はデフレ宣言をせざるを得ない。

ここが今までと違う。経済活動が縮まないデフレなのです。これが新型デフレの新型たる所以な訳ですが、これは非常に厄介なことでございます。
ある意味では実質GDPが大きなプラスになればなるほど事態は深刻である、内憂は深刻であると考えざるを得ないのが今日の状況なのです。

どういうことかと申し上げれば、成長率がマイナスにならないデフレというのは言ってみれば、生産活動を縮ませないようにして、企業たちが一生懸命「安売り合戦」をする。
『安売り合戦』の結果として、生産は伸びるけれども誰もそれによって恩恵に浴すること、ハッピーになることは出来ない。
このような姿が今の日本のデフレの実態であると言わざるを得ません。

ともかく、値段をどんどんどんどん安くして行くことによって、なんとか生産を縮まないようにしてゆく、言ってみれば出血景気、出血成長、血を流しながら成長だけはプラスにして行く状況だと思います。

なぜそうなるかと言えば、厳しい経済状態に当面している日本の家計が、人々がちょっとでも安いものを買うことによって生活を楽にしようとしている。
それに対応して企業は、ちょっとでも安いものをどんどん作って行くことになり、少しでもより安い物をつくるために少しでもより安い賃金を求める。
人々は安物買いをする、それに対応しようとする企業たちは人の値段つまり「給料を買い叩く」、という格好で、ここにひとつの悪循環が生まれるわけです。
モノが安いから人の値段を安くしなければならない、人の値段が安いから高いもモノは買えない、というので、モノと人の値段が追いかけっこをしながら、下へ下へと動いて行ってしまう。
これが、今、日本経済が陥ってしまっている新型デフレの落とし穴ということになると思います。

この落とし穴から如何に脱却して行くかが、深刻な問題としてぶら下がっています。
ですから、実質成長率がプラスになったということで喜んでいるのは、まったく今の状況の読み違いであると言わざるを得ないのです。
新型デフレは底なしの下向きスパイラル、死に至る病、止まらないわけですから、結果的に経済活動が成り立たなくなる、誰もそこにはいなくなってしまうというところまで進んで行ってしまう。

●金融再暴走
3つの外患の一つ目に挙げた『金融再暴走』は、既に始まっています
今年の年明け早い時点でニュースとして目に留められたのではなかろうかと思いますが、
国際決済銀行(BIS)、本部はスイスのバーゼルにございますけれども、BISが、世界の主要な金融機関の経営責任者たちをバーゼルに呼び寄せて非常に厳しく警告を発するということがございました。
BISが発した警告は「あんたたち、リーマンショックに至る前と全く同ことをまたやり始めているではないか。あの時と同じやり方でカネ儲けをしようとしているが、このままで行ったら又、あの時と同じことが起こってしまうではないか、何をやっとるのだ。リーマンショックから皆さんはどんなことを学んだのか」というような手厳しいことがあったと報道されております。
BISは、世界の中央銀行のための中央銀行、金融の世界の世界的総元締でありますから、この大親分がここまで言うということは、金融の世界がまた、のど元を過ぎればすっかり熱さを忘れて、元に舞い戻ってしまったことを示していると思います。
そして、リーマンショックの前の状態に戻るとなれば、また同じことが起こる。
山高ければ谷深し、ということで、又、深いデフレの谷底に地球経済が落ちて行くことになるわけです。
このように、外からやってくる危機として、金融再暴走は非常に怖い。

●国家総破たん
外患の2番目の国家破綻といえばギリシアが頭に浮かんで参りますが、ギリシアだけの問題ではございません。
今、世界中の国々の財政状況が非常に厳しくなっているということは、あえて皆様に申し上げることでもないと思います。
まさに金融大暴走がもたらした、そして新型デフレもそうですけれども、こういう状態から脱却しようという方向で国々が財政の大盤振る舞いをし、金融政策も現金をどんどん金融市場に流し込んでいるという事をやって、なりふり構わず国が大盤振る舞い政策をやることによって、何とかデフレの深化を食い止めようと、大手の金融機関や大手の企業を国有化する動きも盛んに行なわれて来たことも申し上げるまでもないことですが・・・・。

国がリーマンショックでずたずたになった民間経済を必死で支えようとする、その国の努力が結果的に国自体の屋台骨を揺るがすような状況になってきてしまっている、ということで、国家破綻問題というのが大攪乱要因として外から日本を揺さぶり、そして勿論、国家破綻というテーマの問題で日本がその(原因の)一角を形成していることは、もとより間違いないことでございます。
ギリシアの公的債務の残高、対GDP比で113%(2011年には130%超に達する見通し)でございますが、対して日本の場合はなんと180%という状態でございますから、どっちのギリシア悲劇のほうがより悲劇か、と言うまでもない事でございます。

地球経済を挙げて国家破綻問題に対応しなければならない、到底ありそうもない、まさかそんなことはないだろうと、誰もが思いそうな『まさか』、これが今現実になろうとしている怖い実態、これもまた大きな、外からやって来る脅威として、しっかり見つめておかなければいけない問題だと思います。

●通貨大波乱
そして3つ目の外患が、通貨大波乱でございます。
通貨大波乱と国家総破綻の間には非常に強い相関関係がございます。
いずれかの国が国家破綻に陥るかも知れないとなれば、その国の通貨が売られることになるのは当たり前ですが、次々といろいろな国がその危機に晒されるということは、どの国の通貨から先に逃げておけば良いか、どの国の通貨が先に紙くずになるかを巡って通貨市場が緊張している(のが今の)状態でございます。
こいう状態で金融市場が荒れない訳はございません。

ギリシア問題もさりながら、最も本質的な問題を申し上げれば、端的に申し上げれば、ドルと円のどちらが先に紙切れになるかが、為替市場の最大のテーマと言って過言ではございません。
更に通貨の世界について、加えて大きな問題があるとすれば、各国の間で為替切り下げ競争が起こりそうな状況が次第に深まってきているという問題がございます。
厳しい、難しい経済状況になって参りますと、みんな我が身がかわいい、ということになって参ります。
先ほど申し上げましたが、日本でなぜ新型デフレになるかと言えば、家計が我が身可愛さ、家計の自己防衛、企業も生き残って行かなければならない、「我が社さえ生き残れば」と言ってどんどん安売りをする。皆、我が身可愛さ行動に走るというのがこういう状況の常でございます。
国々も同様に、非常に保護主義的な行動に走る状況になっております。アメリカでもバイアメリカン政策がとられてしまう状況になってしまっております。

保護主義的な政策の末期症状、一連の保護主義的対応の最後の場面で、必ず出てくるのが為替切り下げ競争でございます。
歴史的に見ても、このパターンははっきりと出てきておりますが、その最たるケース、最も深刻な、最もひどい為替戦争をもたらしたのが1930年代のケースでして、今、それを彷彿させるような状況が明らかに出てきていると思います。

面白いもので、菅(直人)財務大臣が就任した直後に「日本は、円は高すぎる、もっと円安になったほうが良い」と言いましたし、そして昨年の11月に、オバマ大統領が日本においでになりましたが、その中のスピーチで「アメリカもこれからは輸出することを学ばなければいけない」と申しましたが、輸出が出来るようになるということは、為替レートもそれなりに低くしなければならない、ことになるわけです。
こうなってくれば、ヨーロッパも中国も通貨切り下げ競争に参戦してくることになりますでしょう。

為替切り下げ戦争要因にぴったりとくっ付いて存在するドル不信要因、そして、どの国が最初に破産するか、これらが相まって通貨大波乱を予感させる状況がひたひたと生まれつつあると言えます。

このように新型デフレという、たちの悪い状況が内にあっては存在し、外からは今申し上げた3つの危機が押し寄せてくる、このような条件が揃ってしまえば、とてもではございません。
新しい夜明けどころの騒ぎではなくて、間違いなく我々は永遠の暗闇を目指して突っ走っているのだと・・・・。
しかし、これで話を終わってしまっては余りにも酷過ぎますので、それでは何が起これば、新しい夜明けの方に向かって扉が開かれて行くのかを語らなければなりません。 ~・~・~以下次編

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1 コメント

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金融暴走 (山岡 由美子)
2010-03-01 14:35:06
小泉竹中改革の時も、今回のリーマン破綻でも、社会の混乱を迅速に安定化するために、破綻企業の迅速な救済を支持しましたが、今の不健全な経済状況を見つめるに、救済が間違っていたのかと危惧しています。
この点についても、是非、次編にて言及いただければ幸いです。宜しくお願いします。
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