青い鳥通信局

2つの世界の旅人

本ーストーリーてリンク

2017年07月13日 | 
本ーストーリーてリンク
読書が好きで図書館で本を借りて行くときはいつも幸せな気分です。
しかし、課題としての読書はあまり気が進みません。
レポートの提出日が迫ってきたので 本のリストの中から幾つかを借りて
読んでは返す日々です。

間崎ルリ子作ストーリーテリングを読みました。
ストーリーテリングの歴史の浅い日本で長いこと現場で
実際に物語を語ってきた著者が語り手の手引書になるように書いた本です。
著者はこの本の中で語りの技術だけではなく聞く人々の心に届くように
語り手の気持ちと心のあり方に目を向けて欲しいと書いています。

著者である間崎ルリ子さんが30数年間物語を語っていく
原動力になってくれた初めての体験話が印象に残りました。
”昔々あるところに”と語り始めた著者の声で物語の世界に
すんなりと入っていた一人の小学校4年生の姿は子供だけではなく
大人さえも虜にしてしまう物語の力を物語ってくれます。

十年ほど前に私も似たような忘れられない経験をしました。
語り手講座に参加して6分ぐらいの物語をひとつ覚えました。
自分の子供達にも聞かせ、何回か人々の前で語りました。
そして、ある小学校で1年生のクラスの前で語ったときのことです。
20数人ぐらいの子供たちが机と椅子を後ろに片付て
教室の床の上にみんな座りました。

2人1組で一人が語り終わってから私の番になりました。
そして、物語が進んでいく中で先までざわざわしていた
子供たちの目が真剣に私の方を見つめていました。
あまりにも静かになった教室の中で私の声だけが聞こえました。
語りが終わってからはほとんど覚えてないのですが
私は今でも私を見つめていた子供たちの眼差しと
夢中になっていた表情を忘れることが出来ません。
人生の中で私の話をあれほど真剣に聞いてくれた子供たちとの初めての出会いです。
その思い出は挫けそうになった時、私に勇気を与えてくれる力にもなっています。

この本を読みながらあの子達も 私が語っていた
物語の世界に 完全に入っていたことを知りました。
気が散るような色々な物に囲まれている私達の生活の中で
本当に”傾聴”という言葉は死語に近いものになりつづあります。

テレビやスマホなど自分の世界に夢中になっているので
周りから聞こえる色々な話や音に真剣に向き合い、聞いている人があまりいません。
自分の世界にはまり、大事な話しまで聞き流したり、むしろ聞いてない人々が増えています。
そんな傾向になっている今の時代を著者は
心が受け止められなくなっていると言っています。
言葉は本来心を表すものであり、その言葉が行動に移され
それで心が確認できると言っていいます。
しかし、言葉を交わすことで確認できるお互いの心の受け渡しが
疎かになっているのです。

人々は自分の心に留めておけないでき事や 溢れ出す感情を
人々に伝えたい衝動に駆られます。
それを感情や心を込めて言葉で表現します。
その表現の在り方で詩と呼ばれたり音楽や物語に変わっていったのです。

限られた時間や空間の中で生きる人々が経験できる事は僅かです。
それを補える方法が物語の世界を通して体験できる世界です。
時代を超え、住む世界を飛び越え、知らない世界を冒険できる物語の世界は
子供だけではなく年を取り感受性を失いつづある大人までも楽しめる
素晴らしい文化遺産ではないかと思っています。