M1A2SEP エイブラムス ~ イラク治安維持
・ イカロスMOOK 「AFVプラモカタログ」掲載作例
現代のコンピューターを中心とするエレクトロニクス技術の進化は目を見張るものがあり、戦闘兵器においては情報処理能力の高度化、射撃統制装置、味方部隊の情報の共有化などのシステム能力が、カタログデータ以上に大きな意味を持っています。「M1A2SEP」は、高い攻撃、防御能力を誇る「M1A2」をベースに、上記のシステム関係をグレードアップしたもので、外見こそはあまり変化が無いように見えますが、戦闘能力が格段に強力になっています(90式戦車も見習って欲しいところと思いませんか?)。
さて、キットはドラゴンのもので、同社の「M1エイブラムス」シリーズも実車同様進化を続けています。
今回、SEP専用のパーツの追加と、履帯がDS素材による一体物に変わりました。
ドラゴンといえば、最近はスマートシリーズに見られるようなパーツを少なくして組みやすさの要素を取り入れていますが、このキットは従来のドラゴンキットの路線です。パーツが膨大に多く、一旦箱の中身を出すと再び同じように箱が閉まりません。また、パーツ同士の合いが良くない箇所も有り、ちょっと大変なキットです。
一番厄介なのが、説明書の不親切さで、接着位置の指示が不明確な箇所がかなり存在しますので、実車の資料を用意するか、本作例を参考にして下さい。ただし、実車自体も改造の元となった車両の生産時期等で、細部が若干相違していますから、あくまでも作例はその一例とお考え下さい。
今回は、ディテールアップパーツとしてボイジャーモデルの「現用アメリカ M1A2 エイブラムス用 (PE35021)」を使用。このパーツはタミヤのキット用の上、このキット自体にも専用のエッチングパーツが付属しているので、効果的と思われる箇所のみに使っています。
なお、このエッチングは、パーツによって真ちゅう板の厚みを変えるなど、タミヤ用としては、なかなかの優れ物です。
【 「M1A2SEP」の作成 】
まず、全体の注意点としては、バリとまでは言わないものの、エッジ部分が荒れているパーツが相当数ありますので、事前にしっかりと整形処理しておきます。
エンジンデッキ部分はハッチ類を中心としたパーツ分割が多く、接合にズレが生じる可能性があります。ここは、接着剤が乾かないうちに一気に組んでしまい、各パーツの位置調整は、全パーツを接着した後に行った方が良いでしょう。
サイドスカート部分に関しても分割が多く、説明書通りに組むと、歪みが発生しかねませんので、平らな箇所でスカートパーツ及び支柱パーツ「V1」だけで真っ直ぐに組んでおき、ある程度乾いた後に、本体へ取り付けるようにします。
車体前端の接合部は、溶接跡のモールドが二重になっています。車体上部「T7」側のモールドを接着前に削り取り、接着した後に両端部分の接合部をパテ埋め整形しておきます。
履帯は前述のようにセンターガイド部分以外はDS素材です。組立てはひじょうに楽ですが、少々長いので、1コマ分を切り詰めて使用しました。
選択パーツの牽引用のバー(bパーツ)は、箱絵のように前方に取り付けている場合の他に、後部に付けている車両もあり、作例もその状態としました。
砲塔は、前面部分の溶接跡が実車とは異なるため、一旦モールドを削り取り、直接エッジ部分にナイフ等を使って、溶接跡のモールドを付け直しました。その際、砲塔上部の滑り止めのパターンが欠落してしまいますが、ラッカーパテを叩き付けて再現しています。
砲塔前面のロの字の識別帯(?)は、キットではステッカーで表現するようになっています。ステッカーの色と車体色を合わせるのは難しく、また、実際は或る程度の厚みがあるようですから、0.3mmのプラ板で作成し、識別帯のL形の部分はタミヤの「M1A2エイブラムス」のデカールを流用しています。
砲身は、金属製とプラ製のパーツが用意されていまが、金属製のものは、砲身上に存在する穴のモールドがないので、プラパーツの方を使用。
ただ、このパーツをそのまま組むと、中央部の排煙器のパーツとの合わせがひじょうにキツいです。
作例では、何とかそのままで接着しましたが、パーツにテンションが掛かっているため、塗装時のウォッシング作業の際に、排煙器ごとバキッと折損してしまいました…。(泣)
プラパーツを使う場合は、排煙器の内側を少し削ってから接着することをお勧めします。同様に、車長キューポラ部分のリング(X12)も噛み合わせがキツく、これも事前に削って処理しておいた方が無難です。
装備品は、キット付属のものと、タミヤ及びガレージキットのレジンパーツを使用。片方のアンテナ部分には、実車で良く見られる毛布類を巻き付けた状態を表現しました。
ドラゴンの「M1A2SEP」のキットにはペリスコープ部を中心として、透明パーツが用意されています。
実車のガラス面は表面コートの関係で、光線、角度等により複雑な色の変化が見られるのが特徴ですので、今回は、砂漠地方で良く見られる赤系の反射色とし、透明パーツの裏側をワインレッドに塗って取り付けました。
枠の部分は、マスキングにより全体と同時に塗装。マスキング不良が発生したら、飛行機モデルの要領で、はみ出た塗料を爪楊枝で剥ぎ取って処理しています。
【 M1A2SEP」の塗装 】
基本塗装は、タミヤのアクリルカラーを使用しています。
「XF2 フラットホワイト」と「XF59 デザートイエロー」を3:1程度に混色したもので塗装しました。
白色を主体としたツヤ消し塗装は、後のウォッシング作業等でトーンがかなり落ちてしまいます。そのため、基本塗装の直後、クリアーを薄く溶いて吹き付け、半光沢仕上げとし、ウォッシング液の定着を低く抑えました。
基本塗装終了後、薄くシャドーを吹き、ウォッシング、細部の塗装等を施します。
チッピングは新鋭戦車ということで少々控えめに(実車でもあまり見られません)し、その代わり、雨垂れ表現等を強めにしています。
車体後部パネルの塗り分けは、説明書では車体色と同色のものを含め2つのタイプが表示されています。
作例では、実車写真を参考に変則的なパターンの塗り分けで塗装しました。
説明書には塗装指示がありませんが、スモークディスチャージャーに装填される発煙弾の色は、長い方(a2)がライトグリーン、短い方(a1)がブラックです。ちなみに、全て長いタイプを装填している車両も見受けられます。
【 M1A2SEPエイブラムス ジオラマの作成 】
AFVモデルの楽しみの一つとして、フィギュアと絡ませたり、ジオラマへと拡張させたりして、ストーリーを展開できるということが挙げられます。
1/35というスケールにおいては、AFV本体のキット化が進み、従来ではガレージキットアイテムとされていたものまでインジェクションキットとなって登場していますが、フィギュアに関してはまだまだ少なく、車両上に乗せるフィギュアも数が限られているのが現状です。
また、AFVモデル自体が技術、技法が先鋭化し、キットのパーツ数が増して行く中で、ユーザー自体も車両単品で作るのが精一杯であり、フィギュアまで手が回らないという裏事情もあるかと思います。さらに、AFVモデルとフィギュアとは表現力を突き詰めると違う技法を必要とするため、より躊躇する対象となってしまっています。
しかし、車両とフィギュアとは切っても切れない間柄であり、車両上にフィギュアを配置するだけで、生き生きとした表情を与えてくれます。何より、車両が持つ魅力を一段と深めることができるのが魅力ですね。
一方、「マスターボックス」「ICM」「ミニアート」「ズベズダ」という東欧系の新興模型メーカーを中心としてフィギュアキットが着実に開発されています。
当初、これらのメーカーのキットは、デッサンは良好なものの、顔の表情やモールドのシャープさに劣っていましたが、現在ではインジェクションキットとしてハイレベルなものへと進化しています。このような東欧系のフィギュアキットに興味を持っているユーザーも多いのではないでしょうか。
今回は、マスターボックス社のフィギュアを中心としたジオラマを作製しました。
同社のキットは、第2次世界大戦時の戦場のワンシーンを切り取ったようなセットが多いのですが、今回はマスターボックスとしては珍しい、現用の兵士を再現した「アメリカ 現用陸軍 中東拠点警備 フル装備 (US Check Point in Iraq) (MB3591)」を使用しています。
【 ジオラマ製作の前に 】
同社のフィギュアキットは、単体だけでもストーリー性を持った内容となっており、キットのフィギュアを小さなベースに並べるだけで、簡単に雰囲気を持ったジオラマを作ることができます。今回、以前製作した「M1A2エイブラムス」の完成品がありましたので、これを組み合すことで、より広がりが感じられるジオラマへと拡大、キットの表題通りにイラクの治安維持時のシーンを表現します。
【 フィギュア 】
マスターボックス社のキットは、最新鋭のACU迷彩服を着用したアメリカ陸軍兵士の歩哨任務のシーンを再現しています。
このACU迷彩服は、ドット式の迷彩パターンで、湾岸戦争やイラク戦争などに使用されていた迷彩服とは異なるデザインとなっています。この服は、グレー調のものと、デザート調のものの2種類が存在し、アフガニスタンに派遣されている兵士はデザート調のタイプですが、その他の地域ではグレー調が使用されています。
同社のフィギュアは、デッサン、造形、服の皺の表現などインジェクションキットとしてはトップレベルの内容となっていますが、成型の関係でモールドが潰れている靴の部分や、モールドが浅くなっている部分は、ディテールを追加したり、彫り直したりしています。
さて、情景シーンを構成する歩兵のフィギュアは揃いましたが、問題は戦車兵です。地面に兵士がいるのに、戦車上に戦車兵がいない(戦場でしたら別ですが)のは、さすがに説得力に欠けますから、是非ともフィギュアが欲しいところです。
歩兵と同じABU迷彩服姿のフィギュアは極めて少なく、探した結果、アルパインミニチュアのレジンフィギュアを使用することにしました。
アルパインのキットは高品質性に定評があり、インジェクションフィギュアに比べると価格的には値が張りますが、それを補って余る程の良質な出来となっています。
フィギュアのポーズは、車外で立っている姿勢となっていますので、足の部分を切り飛ばし、腕の部分はエポキシパテで自作し、ハッチに収まる格好としています。
さて、フィギュアモデルで一番重要なのが塗装です。
フィギュア塗装で大事なポイントは「忍耐力」「細かさ」「時間」という3つの要素が必要となります。
1/35でのフィギュアは身長5cm程度と小さいので、塗装にはヘッドルーペを使用することをお勧めします。道具としては決して安くはないのですが、作業効率を格段に高めてくれますし、塗装のミスも少なくなります。
顔の塗装は、油絵具を使用。
これは、塗り重ねの容易さと、塗装の境界のボカし易さ、そして個人的な慣れという理由からです。
その他の部分はタミヤのエナメル塗料を使用しています。
迷彩服の塗装は、最初に基本となるグレーを塗り、このグレーを基調として明暗3色程の色を塗り重ねて陰影を付けます。 次にグリーン、ダークグレーで迷彩色を塗り、陰影が崩れた箇所には、暗部はフラットブラック、明部はバフを薄く溶いたもので補正をしています。
ただ、この迷彩はひじょうに細かなパターンとなっており、1/35のスケールでの正確な再現はほぼ不可能ですから、スケールに沿って「細かく見える」という感じで塗装します。また、迷彩色は均一とするのではなく、不規則性を持って配色するのがポイントとなります。
ちなみに、塗装は迷彩服ということで時間が掛かっており、1体あたり約10時間を必要としました。
これはあくまでも個人的な基準ですので、もっと時間を掛ける人や、逆に手早い人も居ることでしょう。
【 M1A2SEP エイブラムス 】
エイブラムスは、上記のとおりドラゴンの「M1A2SEP」のキットを使用しています。このキットは、ドラゴン社初期の「M1A1」のキットをベースにしたもので、不要なパーツ分割が多く、正直なところ組み難い内容となっています。ジオラマ作品として楽しむ場合は、タミヤのM1A2を使用した方が良いでしょう。
「M1A2エイブラムス」本体は、「マスターモデラーズ Vol.53」に単品作例が掲載されており、これを今回製作のジオラマに合わせて小改造しています。
【 ジオラマの作製 】
フィギュアと車両が揃ったら、ジオラマの構成に入ります。
全体の作製の手順としては、
1. 「ジオラマの大まかなイメージを考える」
2. 「フィギュアと車両の組立て」
3. 「アクセサリー類(電柱やバリケードなど)の組立て」
4. 「フィギュアと車両、アクセサリーを配置してジオラマの構成を練る」
5. 「ジオラマベースの作製と塗装」
6. 「フィギュアと車両の塗装」
7. 「配置及び追加工作」
という工程を踏んでいます。
アクセサリー類は、接着強度と密着度の関係から大きなものはジオラマベースの塗装の前に取り付けて、塗装はベースと一緒に行います。小物は別に塗装し、ベースの完成後に取り付けています。
アクセサリー類は多めに用意しておき、最後の配置の際に減らす方法を取った方が無難にまとまることでしょう。
アクセサリーは、MIGプロダクションの「MODERN CITY SET」と「ROAD TRAFFIC CONES」を使用。
電柱は、イタレリの電柱セットを利用し、現地写真を参考にして街灯などをスクラッチして追加しています。
朽ちた爆発物処理ロボットは、AFVクラブの「タロン ロボット」から。
外れた履帯は、鉛板にディテールを追加して作製しています。
ベースの作製は、スチレンボードを芯にして、壁補修材でコートして質感を出すという方法を採りました。
現在の道路面を作製するのは少々厄介です。1/35のスケールでは、表面の凹凸が多くても平滑過ぎても「らしさ」を失ってしまいます。壁補修材をヘラで丹念に均し、起伏を抑えています。
ただ、現地写真ではイラクの道路は日本よりも表面が若干粗いようなので、表面上の細かな凹凸は強めにしています。
【 あとがき 】
現在の市街地のベースの作製は難しいですね。
アクセサリー類も原色で塗られている場合が多く、各個に手間も掛かります。また、戦場ではないですから、やたら物が転がっていたり、建築物の残骸が散らばっていたりすることはなく、空間の凝縮感の演出も困難です。
しかし、昔の風景と異なり、今存在するものを再現しますから、通常の生活の中で製作のヒントとなるものを見つけられるという強みがありますし、白、赤、黄色などの原色を使用する関係で、見た目に映えるのも特徴です。
反省点としては、イラクという場所を認識させるために、電柱を道路標識へと変更した方が良かったでしょう(時間切れで間に合いませんでした)。
オマケ : この外灯は他のキットからパーツを転用して作成しています。さて、構成しているパーツはなんでしょう?
スケール : 1/35スケール
製作時間(期間) : 約1ヶ月強
使用キット
・ M1A2 SEP (System Enhanced Program) (ドラゴン 1/35 Modern AFV Series No.3536).
・ 現用アメリカ M1A2 エイブラムス用 (ボイジャーモデル PE35021)
・ アメリカ 現用陸軍 中東拠点警備 フル装備 (US Check Point in Iraq) (1/35 ミリタリーミニチュア MB3591)
など
モデル製作 : 安田征策
掲載誌 : AFVプラモカタログ (イカロスMOOK)
サイト管理 : HOBBY SHOP M's PLUS
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