元島邦夫のブログ

旅行記や生活感想や社会経済批判

日本危機-19-株価動向と金融不安(続)

2015-05-09 16:32:08 | 社会・経済
円安と株価の関係は局面によって異なる.2000年前後からリーマンショックまではやや円安の構造を基礎として株価も動いたようだ.この時期はNYダウがバブル的に上がると日経平均も引きずられて上昇した.リーマンショック後は円高攻勢がかけられたようだ.TKY市場への資金流入が抑制され,円買い入れが進む.こうした流れが2012年に変わった.円安,日経平均高,NYダウ高である.そして2015年からはNYダウ停滞となる.円安株高現象は一時的と見たほうがよい.中国からの春風はたしかに吹いていよう.中国からだけではなく東南アジアから吹く風は強い.だが経済成長が頂点を超えれば,アキバは様相が変わり,日経平均へのインパクトは弱くなろう.ただ株式市場への投資層は厚くなっている.東南アジアからも,USAからも,国内からも.政府も日銀も株式市場への導入を図っているとも思える.外国人投資家とくにUSA投資家が増加しているのも国内投資家が増加しているのもたしかだろう.中国からの参入さえある(0421).上述した11の論点からすると以下のような3つの課題が見えてくる.企業-投資家における新関係が問われ始めている.両者相互間のコミュニケションを深めようとする動きが現れているし,企業が投資家を選別する兆しも見られる.また株保有そのものを重視し,保有期間長期化という兆候も注目され始めている.ただし,こうした動きはあくまでも「兆し」であって過大に評価すべきではない.放置すれば法人相互における株持合復活ともなるし,「売り」防止を介しての株価吊り上げともなるからである.事実として保有期間長期化はいまだささやかなものである.企業価値を考慮する動きも注目すべきだ.企業価値の社会性は重要な意味を含むからだ.だが今日の実態は「ROE]重視たる「自社株買い」に終わっている.自社株は20兆円ほどだともいう(0420).株価アップのためいろいろなルートを通じて資金調達が図られる.MRFやNISAなどは個人資金の調達だし,PKOは公的資金の調達であろう.新型投信や新型デリバティブはルートの開発だろう.デリバティブがまたまた俎上に上るとは驚きだ.そして日本株式は金融緩和をさらに望み,USAにおける金利上昇に神経をとがらせている.世界的金融緩和はどのようなものか?あるジャーナリストの想定だと世界の金融市場を駆け巡っている資金の総額は150兆$だという.階級別に見ると興味深い指摘がある.「世界の富裕層マネーは50兆ドル(約5950兆円)を超えているが、これは運用したくてうなっている資金だ。富裕層マネーは年4%の運用利回りを確保できれば良しとする傾向があるが、グローバルな国債の利回りは4%を下回ってしまったので、そうなると株式に向かわざるを得なくなる」というのだ(0411).もちろん運用主体は金融機関あり,ファンドあり,公的機関あり,企業内部の資本運用部門ありだろう.リージョン別に見ればUSAが60兆$,EUが35兆$,ユーラシア東部が35兆$と想定しえよう.USAに寄り添う形の日本が20兆$.今でも個人預金がゆう貯を含めて1700兆円,企業資金が300兆円以上,年金基金が300兆円とされているから,20兆$という数字は夢想ではないだろう.ついでに触れておけば財政規模は特別会計を含めると300兆円である.ともあれ150兆$ほどがグローバル金融市場を動き回っている.USA財政には15兆$の壁がある.USA国債から中国は手を引き始めた.USAは出口に向かい,金利アップを予定している.EUでは緩和を渋るところもあればできないところもある.緩和を喜び資金流入を喜びUSA国債保有1位を喜ぶのは,わが国庶民だけだろう.株の上下に一喜一憂するのは数%だけであっても,何故か大半が大騒ぎする.そこをふまえて資金がわが株式市場へ流れ込む.このような妄想にふけっていたら,興味深い報道が現れてきた.「大手生命保険会社が米国債を中心とする外国債券での運用を拡大」し,「主要9社の2015年度の計画によると、投資額は計4兆円に迫る規模でリーマン・ショック後で最大」であり,「日銀の異次元緩和で日本国債の利回りが低下しているため、国債での運用は手控える会社が多い」という(0425).そこで運用比率を確かめたら,国債が40%強で下がり気味,外債が上昇傾向にあって20%へ接近中,株式は5%前後で低迷中である(0425).たしかに国内ではラップ口座を軸に投信への資金集中は膨大だ.しかしREITは低迷しているし,国債金利は低空飛行だし,ジャンク債は拡大中だ.だからだろう.国内では集金ルート作りに忙しい.種々の投信が喧伝されているし,NISAのノウハウが宣伝されているし,その子供版まで用意されているし,外債へ流れる生保の電話宣伝は騒々しい.いくらか頼れるのは今のところ日本株だけかもしれない.だがついに興味ある資料が登場した.4月末での世界株価総額は9000兆円だという.世界を流れまわり,うなりを上げて溜まっているところには溜まっているかもしれないジャンク的紙幣のうち,2/3が株式市場へ注ぎ込まれているわけだ.この額は丁度世界GDP総額と等しい(100%ライン)らしい(0504).このラインを超えたのは最近ではITバブル時とリーマンショック時の2度である.2015年というのはまことに重要で危険な年といえよう.日経平均が21000円となったらバブル突入としてよいだろう.考えてみればこうした事態は当然なことだった.お互いに必要とし合い,お互いに存在意味を深め合うモノやコトを,使用価値として人は交換してきた.近代世界はその交換を広げ容易なものとしつつ貨幣を創発させてきた.ここでは貨幣を媒介にして美しい価値ごごろを認め合っている.だが,交易と共有を拡大し容易にした手段たる貨幣は,近代が深まるとともに,目的自体へと転化し始めた.近代国民国家の権力を背景にした信用力は紙幣発行を現実化した.「長い20世紀」初期では単独機軸国家イングランドがその頂点に立った.この100年ほどの間は代わってUSAが頂点を占めてきた.とくにUSAは膨大な紙幣発行を緩和と規定しながら絶えざる危機を乗り越えてきた.さまざまな金融手法も編み出してきた.世界中に,つまりグローバルに資金をばら撒いた.自国金融が危機となると他国にもそれを求めた.中国でさえ緩和へ動き始めている.今年は資金過剰どん詰まり期への入り口だろう.金融から見た「長い20世紀」における「終わりの始まり」である.われわれ世界の民にとって溢れるばかりの紙幣はなにものだろう?数%の上位階層にとっては魅惑的で神秘的なものだろう.そこでは紙幣は「神性」だろう.多くのものにとってはそれは唾棄すべきもの,あるいはせいぜい単なる手段だろう.わが国の多くの庶民にとってはどうだろう.老後不安予防のためのささやかな蓄財と投資,若年世代にみられる月数万円ほどの積み立てと投信.生活困難層を除けば,これらはかなり目にする現実である.ここでは紙幣=「神性」という思い込みが常態であろう.日々の営みがみじめであるほどこうした常態は一般的となる.2~3年もすれば(いや今年にも)過剰資金構造はパンクするかもしれない.「長い20世紀」は出口へ向かうかもしれない.その先もバラ色ではないだろうが.だが,いまここの金融不安を正視するかどうかは,日本庶民という存在に鋭く問われている.極貧庶民として生まれ育ち,どうにかそこから数歩脱出したかと思ったら,年老いてふたたび貧しい庶民へ舞い戻った私にも,問われている.

日本危機-18-株価動向と金融不安

2015-04-16 14:27:43 | 社会・経済
株価の動きを見てみよう.FRBの出口戦略が作動し,日銀が緩和を引き受けてから,日経平均は上昇した.2014年10月末のことだ.それまで15000円台なかばをウロウロしていたが,16400円を超えた.そのときNYダウは17200$近くだった.以後日経平均はときどき立ち止まりながらも上昇し,12月末には17700円近くとなり,ダウの$数字と並ぶ.2015年を迎えると,日経平均はさらに上昇軌道を進み,ダウ$数字を置き去りにしていく.4月初旬現在日経平均は19500前後で20000円台をうかがい,NYダウは18000$近くで戸惑っている.日経WEB(以降WEBと略記)は20000円突破となれば15年ぶりだとさわいでいる.ただし,ここで頭を冷やすための数字に触れておこう.$換算した日経平均である.2014年10月初めにおいて144,12月初めでは149,今年3月から4月初旬での動きで165,162,166となる.それではバブル以後の株価の動きを追ってみよう.バブル期の最高値は39000円近く(ほぼ300$)だった.次のピークで約22000円(200$前後),そして15年くらい前の時点で20000円強(約180$)である.底をうったのはリーマンショック後である.17000円あたりから7000円あたりまで落ちている.NYダウは13000$あたりから50%近く落下している.ときどきのバブル的頂点を経過しながら,大きな流れを追ってみると,NYダウは1995年以降急速に上昇している.4000$以下だったレベルが2014年では16000$を超えている.逆に日経平均は1996年における21000円前後から2012年の9000以下水準まで下降している.だがこの時期は円高傾向の時期でもあった.プラザ合意で1$が250円から150円となったあとも円は上がり続け,2012年には1$75円台を記録している.要するにこの20年はNYダウ高,日経平均低,円高だったのだ.うわさされていた1000兆円近くの$建債権はこの20年で何処へ行ったのだろう?そして注目すべき最近の事態をむかえる.NYダウは2009年からの5年間で18000$近くまで駆け上った.QE1~QE3も1つの要因だろう.FRBといえど怖くなったようで,出口戦略へ移行した.同時に為替戦略も$安から$高へシフトしたようだ.日経平均はどう動いたか.2009年から2012年まで9000円の手前をうろついている.ただ円高が進行したから$で見れば120$あたりまで緩やかに上昇している.2012年後半が境目だった.NYダウの後を追うように上り始める.2015年3月以降の動きは不気味である.3月にはいって19000円台へ突入した日経平均は1ヶ月近くジグザグしながら20000円を窺うようになった.NYダウは17500$前後をウロウロしながら18000$に手をかけた.前者は期待含みの上昇軌道であり,後者は歴史的な高止まりである.NY市場はバブル危機を警戒している.TKY市場はまだ夢を見ている.わが国の株依存者は気が気ではないだろう.パワーエリートもそうだろう.USAはTKY株市場を頼るほかないし,わが国政権担当者も株が下降すれば己も墜落するほかないから.中国株価は昨秋来上昇基調であり,「上海総合指数は8日、一時約7年ぶりに心理的な節目の40000台に乗せ、売買代金も過去最高を更新した」「住宅市況の悪化で投資マネーが株式市場にシフトしており、相場の割高感も強まっている」(WEB20150409)と報じられている.アジア諸国もほぼ上げている.欧州でさえ緩和とユーロ安をうけて上向きである.ストックス600が15年ぶりの高値だという(WEB0410).大企業の数字であるし,ドイツでは高値が見られるがイタリアでは見られないが,
これははじける寸前のバブルではないか?こうした危惧をいだきながら,そしてWEB記事をチェックしながら,大騒ぎ20000円台到達の要因を探ってみよう.1つ.円安だが株高.「円安の進行はほとんど止まっているのに株高が続く」「ドルベースで見ると日本株が世界主要国のなかでベストパフォーマーになり、彼らは急いで日本株の比率を高めざるを得なくなっている」(0328)そうだ.「外国人は、現在の安倍晋三内閣が12年12月に発足してから今年3月までに累計で17兆円を買い越した」(0407).2つ.中国から吹いた春風.「Jフロント、三越伊勢、高島屋といった百貨店大手も軒並み買われた」(WEB0320)という.住宅関連需要を軸にした「中国関連銘柄は一筋の光明」(0331)ともいわれる.「外国から花見目当ての訪問客が急増」し,上野公園や千鳥ケ淵周辺は中国やタイなどからの旅行者でごった返し、都内の商業施設では「爆買い」(0331)の光景も見られるという。3つ.外国人の日本株買い.「外国人投資家による日本株運用残高積み増しの買いが主要銘柄に入り、相場を押し上げた」という(WEB0320).あるいは「北米の投資家は日本の現物株を1989億円買い越した」「買い越しは2014年11月以来3カ月ぶり」だそうだ(WEB0321).4つ.トレーディング投資家における行動様式の変化.「いまや局面は変わった」(0328)のであり,「買い値がいくらかは大した問題ではない。借金のコストはほぼゼロ、株保有のリターンは配当だけで1.6%と」「持ち続ければ大きく報われる可能性は大きい」(0328)のである。5つ.自社株買い.「背景には自己資本利益率(ROE)の向上を求める市場の圧力がある」(0324)し,「ROEの分母を削る自社株買いは数値改善の即効策」(0324)だという.6つ.MRF.「2月末時点で個人が証券口座に預けた資金を運用する『マネー・リザーブ・ファンド(MRF)』の残高は過去最高水準となった」(0326)ようだ.7つ.「株価維持策(PKO)」とその中核もいうべき公的資金の投入.「11日の日経平均株価は反発した」「公的マネーを指す『クジラ』が影響力の大きさを見せつけた一日となった」「クジラは全部で5頭」「余力は合計で20兆円を超えるとの試算も」(0312).「2014年度、公的年金や日銀による日本株の買越額は5兆円を超え」「海外投資家を上回って東京市場の最大の買い手に浮上した」し,「公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は昨年10月、運用資産に占める国内株式の比率を12%から25%に高めることを決め」(0403)た.「14年4~12月の購入額は約2.6兆円だった」が,「今年1~3月にさらに買い増し合計額は3兆円を超えたもようだ」(0403).「かんぽ生命保険も株式投資の拡大に動いている」し,「GPIFや日銀の買いにこうした動きを加えると、14年度の公的マネーの買いは5兆円を大きく上回った計算」だ.「日銀がETFを年3兆円規模で買うなど公的マネーの支えは続いており」,「ゆうちょ銀行も株式投資を増やす方針を掲げている」(0403).「『クジラさんですか?今日もそうですが、4月に入ってからは正直目立った動きは見えないですね』」と,「公的マネーをこう呼び始めた証券関係者は『クジラ買い』をあっさりと否定」した(0407).それでも「2万円の大台を前に伸び悩む日経平均株価だが、興味深いのはそれでも下げにくい展開が続いて」(0407)おり,「3月30日や4月3日は下落から上昇に転じた」(0407)のだから,「『官製相場』を抜きに、この展開は語れない」(0407)だろう.8つ.さらにまた投信とラップ口座.「約1年4カ月ぶりに新規の日本株投信を投入した野村も」「ここまで売れるとは思わなかった」と驚く。「変化の大きな理由は個人の相場観の変化」で.「買い付けの大半は長期投資の行き場を探して待っていた顧客の待機資金」らしい(0407).9つ.「値動きを主導したのは株価指数先物などデリバティブ(金融派生商品)」で,「グローバルマクロ系のヘッジファンドが買っている」とのことだ(0407).10.緩和期待の再点火.「3月の米雇用統計悪化を機に米国の早期利上げへの警戒が後退」し,「根強い日銀の追加緩和観測も手伝い、流動性相場が再点火された格好」という(0410).11.FOMC報告が示した早期利上げの先送り.利上げは9月以降に先送りされたが,「米国の利上げの行方が波乱の芽となる」し,「最短6月とされる米利上げが現実になれば、世界の投資マネーの流れが変わり、世界的に株式などリスク資産の価格が大きく揺さぶられる可能性がある」(0411).要因をこのように11にしぼってみて,あれこれ考えていると,今日の金融不安が浮上する.次回それを考えよう.

日本危機-17-円安への変容とアベノミクスの迷走

2015-01-29 14:52:55 | 社会・経済
昨年の夏まで私は慎重な円安を当然と思っていた.2005年ころの110JYあたりなら妥当ではないかと.だが10月後半には115JYとなり,12月なかばには120JYを超えた.2015年初頭では117~119JYあたりをウロウロしている.物価のほうは少しは上昇しているから,デフレ脱出への歩みとして歓迎していいようだ.しかし,実質賃金は上がらないし年金からいろいろ差し引かれるし,生活の場ではストレスがきついし,とアベノミクス批判も聞こえる.最近の問題を数点アレコレ思案してみよう.
1つ.バブルがはじけて以降日本は本当にデフレだったかという問題である.伊東光春『アベノミクス批判』が示す資料によれば,好況と不況の波は繰りかえされており,2002年あたりから2006年あたりまではいちおう好況だったという.現在はリーマンショック以後の回復上昇が続いているだけだ.今日の「デフレ脱却」は煽られていることになる.
2つ.金融緩和は本当に円安と株高を実現したかという問題.たしかに$が80円あたりから117円前後へと動き,$高円安傾向ははっきりした.だが小口幸伸『通貨戦国時代』などを参照すると,為替市場におけるUSA圧力に注目したくなる.USAの出口戦略が実施され,$高局面が為替市場における当然の動きだとすれば,「異次元の金融緩和」のプッシュ力はたいしたことのないものとなる.株高にしても,2009年以来の異常とも思えるナスダック上昇が影響しているとすれば,演出されたものとなる.1$=115JY,日経平均=17000という数字自体は悪くないとしても.
3つ.デフレ脱却の第1歩ともいうべき2%前後の安定的な物価高ははっきり現象したかという問題.消費税8%への上昇をきっかけにして低価格の日用品が高くなったようだ.しかし,一部で危惧されていたインフレの行き過ぎとは逆に,物価上昇があまりに低いようだ.この点を含めて,片岡剛志『アベノミクスのゆくえ』で触れている問題点がいくつか浮上している.以下,それらを挙げてみよう.
4つ.金融緩和によって財政の構造的赤字から脱却し始めたかという問題.インフレの進行、名目金利の上昇,財政赤字の昂進へという連関を否定して,片岡氏は財政赤字の恐れはないとしている.しかし赤字は別の回路を通じてこそ昂進する.国際金利の乱高下が財政上の問題をどうかきまわすか不明だ.経済成長と利益拡大と所得向上などで税収がどう増加するかも不明だ.円安と株高しか確認できないとすれば経済の好循環構造は見えてこない.
5つ.金融緩和は経済成長に結びついたかという問題.円安が貿易収支と経常収支の好転を生み出したか,今のところはっきりしない.企業利潤を拡大したかもはっきりしない.トップ諸企業の経営状況はたしかにリーマンショック前まで回復したようだが,全産業・全企業を見渡すとはっきりしない.盛山和夫『経済成長は不可能なのか』を読了したとき円安と経済成長への希望をいくらかもてたが,今ではいささか不安になった.経済成長を促すには実体経済が改善されなければならず,実体経済が改善されるには企業の再投資が活発でなければならない.こうした事態はこの2年間見られないようだ,
6つ.物価上昇に見合うかそれ以上の給与・所得上昇は実現したかという問題.行政側からの要請で経営者団体でも賃金アップに応じる動きは進んでいる.しかし実現しているのは代表的産業の一部大企業においてだけだ.平均してみれば名目賃金のささやかなアップと実質賃金の停滞ないしは微低減だ.普通の家計からの需要拡大は現われていない.
7つ.雇用状況はよくなったかという問題.求人倍率の上昇と失業率の低下が報道されている.たしかに雇用者は増加し,人手は不足している.しかし増加しているのは非正規従業員であり,不足しているのは過酷労働の担い手である.そしていまだに「年功」型システム廃止という古い歌がはやっている.確実に賃金アップする階層への批判と恨みが街にあふれている.この環境では雇用状況劣化が進む.
8つ.企業福祉と社会福祉はどう改善されたかという問題.一部の企業では内部福祉が維持されている.だが良好な内部福祉は批判の的にされている.年金(基金も給付も),医療,介護などの社会保険の水準は低下しているし,それらの施設における労働・勤務条件は劣悪なままだ.保育施設は常識となりつつある.これは注目すべきだが,施設の量と質は不十分だ.増加している母親労働者からの要請を,企業も行政も都合のいいところだけつまみ食いしているからだろう.
アベノミクスに関わる諸問題をこのように整理してきたら,あることに気がついた.「異次元の金融緩和」で実現されたのは円安と株高だけであって,ほかの課題は放置される結果となっている.つまり社会経済の好循環は見られない.この点をタイムラグなどといって避けてしまうのは卑怯ではないか.諸課題は時をおかず解決されるべきではないか.邪推してみれば金融緩和・円安・株高だけ達成されれば,日本のパワーエリートとしてはそれでよいのかもしれない.世界を見てみよう.「長い20世紀」は終わり,21世紀後半には大国多極型システムに移行する.2010年以降,諸大国はきたるべきシステムを想定して少しでも有利なポジションを確保しようと動き始めた.とくにUSAはその意欲が強い.その意欲に応じて動けるだけの勢力をまだ維持している.金融緩和からの出口戦略を実行し,$の世界的位置を高める.金融緩和の財源が乏しくなったので日本に代行させる.EU内部の利害錯綜を利用してECBにも金融緩和を迫る.EUから離脱したい国,EUに参加したい国が入り乱れ,EU大変となる.ウクライナ問題と原油市場問題を介してロシアルーブルを狙い打つ.ロシアは中国に頼らざるをえない.原油採掘問題や核利用問題を利用してイランからトルコまでにわたるアラブ世界を引き裂く.中南米とアフリカには貧困やら国債デフォルトやらで混乱の種を提供する.残るのは中国だけだ.このような構想は妄想かもしれない.だが,こうした妄想をかきたてることが可能な歴史的時代に,アベノミクスは提起されたようだ.日本を見てみよう.円安と株高は数%の企業と国民を豊かにしたかもしれない.だがかなりの中間層を不安定にし,多数の低所得層をより貧しくしたかもしれない.そうすると日本の国民は相互に批判しあい,足をひっぱりあう.パワーエリートは当初からこうした動きを想定していたかもしれない.こうした妄想を頭の片隅において具体的な検討を次回から試みよう.材料はアベノミクスにいささか好意的な『日経WEB』である.

エビと生活哲学-「老残日誌」

2014-03-15 18:04:22 | 旅行
2013深秋,何年ぶりか,何回ぶりかの京都旅行にかみさんとでかけた.三条河原町のホテルに滞在した.かみさんは紅葉を求めて市北郊外の丘陵地に足を運んだが,紅葉は3週間遅れだった.ちゃんと温暖化を前提にしろ!と文句を言っているのは私だけのようだ.京都におけるホテル滞在中トップクラスホテルの偽装問題が執拗に報道されていた.帰宅してみたら次の記事に出くわした.

高島屋:テナントで食材誤表示 6店62品目(http://mainichi.jp/select/news/20131105k0000e020203000c.html)
高島屋は5日、グループ企業が運営する百貨店やショッピングセンターで、メニューの表示とは異なる食材を使用していたケースがあったと発表した。不適切な表示があったのは、新宿や日本橋など百貨店5店舗とショッピングセンター1施設内のレストランや食品売り場計10カ所で販売されていた計62のメニューや商品。ブラックタイガーを車エビと偽ったり、ステーキとしている肉が牛脂を注入した加工肉だったりした。高島屋は同日、消費者庁に調査内容を報告し、問題のメニューや商品については販売停止や適正表示への切り替えを行った。対象のレストラン・売り場は、日本橋高島屋の「フォション」「麦星」「ロブション」▽横浜高島屋の「つくみ」▽タカシマヤフードメゾン新横浜店の「銀泉亭」▽岡山高島屋の「ファミリーローズ」▽新宿高島屋レストランズパークの「麗花仙」「天厨菜館」▽柏高島屋ステーションモールの「つくみ」「naniwaen」−−。また、これとは別に「フォション」のおせち料理の一部メニューは全店舗で不適切な表示があった。(以下略)

揺らぐ「おもてなし」 食材虚偽表示 全国に拡大 違法性高いケースも(http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20131106&ng=DGKDASDG05049_V01C13A1EA2000)
食材の虚偽表示が全国の著名なホテルや百貨店に拡大し、日本が世界に誇る「おもてなし」への信頼が揺らいでいる。牛肉やエビなどの食材が目立ち、高価な品種を安価なもので代替していた。一部は景品表示法が禁じる「優良誤認」に当たる可能性もあり、消費者庁などが調べている。(中略)虚偽表示の発表は5日も相次いだ。ホテルでは東急ホテルズとホテル京阪、百貨店は高島屋と大丸松坂屋百貨店が表示と異なる食材を使用していたことを明らかにした。食材の虚偽表示は消費者の信頼を裏切るばかりでなく、違法行為となる可能性もある。景品表示法は故意か過失かにかかわらず、実際より著しく優良と消費者を誤認させる「優良誤認」を禁じており、消費者庁が適用の可否を検討している。同法に抵触する可能性が高いのは牛脂を注入した加工肉を「ステーキ」と称して提供するケース。同庁はホームページ上で、加工肉をステーキと表示してはならないと説明。料理に加工肉を使った際はメニューなどに明示するよう求め、従わない場合は「景表法上問題になる」としている。エビは違法事例が明示されておらず、線引きが難しいが、実際の食材の価格が表示された食材と比べて著しく低い場合、優良誤認となることもあり、同庁は「個別に調べる」とする。ネギの産地を偽った事例も同様に個別の判断になる。違法性が低いとみられるのは、冷凍保存の魚を「鮮魚」と表示したケース。鮮魚という言い方は法律上、定義があいまいなことが理由だ。(以下略)

おせち需要の伊勢エビ急騰 虚偽表示の余波 ロブスターから転換?(http://www.nikkei.com/article/DGXNASDJ09002_Z01C13A1MM0000/?dg=1)
エビを巡る虚偽表示の余波が正月のおせち料理に使う伊勢エビにも及んできた。これまでロブスターを「伊勢エビ」と称して使っていた業者が、あわてて本物の調達に動いているようだ。卸売市場での取引価格は、騒動が起きる前に比べて2割程度上昇している。東京・築地市場の卸会社の担当者は「ここ1週間ほど伊勢エビが欲しいとの声が爆発的に増えた。例年11月は静かだったのに……」と困惑気味だ。(以下略)

迫真偽装ドミノ(2)伊勢エビとイセエビ
(http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20131203&ng=DGKDZO63506340T01C13A2EA1000 )
静岡県伊東市で水産物卸問屋を経営する三浦大輔(38)は伊勢エビを納める得意先への謝罪行脚が続く。「数はそろわないし相場は高い。納得してもらえるよう繰り返し説明するしかない」。10月中旬まで伊東の魚市場では1キロ4千円程度で買えた。今は8千円もする。バナメイが芝エビ、ブラックタイガーが車エビ――。不正が次々と発覚し、表示の妥当性が注目された。関係者が神経をとがらせ、おせち料理向けの伊勢エビ争奪戦が始まった。日本で出回る「伊勢エビ」の多くが注釈付きの“イセエビ”だということは業界では常識だった。日本固有の伊勢エビと同じイセエビ科ではあるが、南半球から輸入した「ミナミイセエビ」と呼ばれる別種。「伊勢エビ」との混同を避けるため、市場の卸会社などは「ロブスター」として出荷している。販売店は「南アフリカ産ミナミイセエビ」などと記せば問題ない。ただ、虚偽表示が発覚した10月下旬には、多くの業者が既に「伊勢エビ」としておせち料理のチラシやパンフレットを刷り終えていたとみられる。仮に間に合ったとしても世間の目が敏感な時節柄、重箱の隅をつつかれても大丈夫なようにしておきたい。三浦のもとに百貨店と取引のある商社から大口の注文が入った。喜んだのは最初だけ。「結局、常連さんに迷惑をかけている。地元だけでは品がそろわず、東京の築地にも電話したが、取り合ってもらえなかった」(以下略)

上の諸記事を読んでいるうちに私の脳細胞はグシャグシャとなった.そして,私はバカバカしくなってきた.私の知能指数はそうとう低いらしい.しかしどう考えても諸記事は重要なポイントを指摘していない.これらの背後には私たち現代ヤマト人における生活快適さの問題がある.エビを取りあげてここですこし考えてみよう.
私は敗戦直前の集団疎開で栄養失調となり,戦後の復興時には父親の通勤拒否にみまわれ,十代にはろくな食事を摂れなかった.周りの人の好意などで大学入学にこぎつげた.比較的よい条件の家庭教師を週に6~8回引き受け,それに奨学金を加えて卒業することができた.家庭教師のなかの1つは老舗蕎麦屋の息子さんだった.そこでは勉強が終わると夕食として丼物をだしてくれた.天丼・かつ丼・親子丼が順番に食べられたわけだ.大きな有頭クルマエビが2匹,さくっと揚げられてのっていた.私の属する階層としては贅沢なもので,父親が働いていたときでも年に2~3回口に入れられる程度だった.
大学院に入り博士課程に進学したら奨学金も増額した.先輩の配慮もあって条件のよいアルバイトにもありつけた.キャンパス近くの天麩羅屋からいい匂いが漂ってくるので,値段を考えず入ってみて試しに食べたのがシバエビだった.からっと揚っていたかき揚をすべてかぶりついた.これぞ江戸前の天然小型エビといってよかった.さらに自分の懐を使わぬ初めての食経験にも恵まれた.まずは冬の北陸企業調査の際に食べさせてもらったアマエビ.その刺身はトロッとして柔らかいのに海とエビの香りがきちんと含まれていた.次は冬の伊豆土産として相伴させてもらった大型のイセエビ.茹でたもののあらゆるところからほじくりだして食べつくした.驚きの初経験だった.
大学教員として給料をもらうようになってからはそのうちのボーナスでぶらぶらと読書旅行をした.記憶に残るエビ経験は次のようなものである.盛夏の札幌.天婦羅屋で揚げてもらったボタンエビ.数センチのものを頭から尾までがぶりといく.頭からジワーとエビ味の汁が広がる.春の長崎.商店街から路地へ曲がった古風な寿司屋で握ってもらったクマエビ.茹でたやつが頭つきで並んでいた.頼んだらご主人が目の前でさばいた.濃厚で強烈だった.クマエビというとぎょっとされるから,クルマエビと偽称することもあるようだから驚きだ.真夏の函館には何回か滞在した.ガイドに掲載されていない小料理屋では大型のボタンエビをしっかりとかつ巧みに焼いてもらった.全体が味はまさにエビ!だったが,尾の近くの部分をかじりとるともっとしっかりとエビ味を満喫できる.歯の丈夫なつれは尾そのものをかじり頭のなかまでほじくりだして満足していた.年末に宮古島まででかけたとき路地裏の小さな店で昼食をとった.ヤシガニがねらいだった.「いまは季節じゃないね.だけどセミエビはどうね.」といってだしてきたやつは30CM近くの長さで幅たっぷりのしろものだった.ただし7000JY!茹でてもらって2人でがっつり食べた.仰天ものだった.
外国でも何度かエビを愉しんだ.最初の家族外国旅行はまずは8月後半のパリからだ.魚介類中心の老舗カフェレストランで頼んだのが初めてのオマールとの出会いだった.ウェイターは生きているやつをもってきてどれにしますという.大型と中型のやつをグリルしてもらった.小型のペンチもついてきた.叩き潰しながら食べられるところは全部食べた.3人ともパンパンになった.味はイセエビより重く濃い.この旅の最後はナポリでの宿泊だった.カプリ島ではごく普通のレストランでランチにした.ペーシフリッティ定食が安かったのでそれにした.そのなかのガムベロの小さなやつを丸ごと食べてみたら驚いた.札幌のボタンエビ天麩羅よりはっきりしていて強烈だった.晩夏のボストンでもいい経験をした.エイヤッと市でも一流のレストランにいってみたら,予約客がかなり並んでいるのに片隅の小卓に座らせてくれた.オマールの身サフランソースを頼み,カリフォルニアのシャルドネーで流し込んだ.イセエビとは違う風味でかつ上品なものだった.前菜の代わりにビスクを味わい食後にエスプレッソを飲んで60$弱.90年代初期としてはいい値段だった.
次はあまり旨くはなかったエビ経験を例示しよう.多くの日本旅館は温泉旅館を含めてお決まりの夕食が供される.刺身のなかにはアマエビがひんぱんに含まれる.天麩羅には養殖冷凍と思われるエビがはいる.汁物のなかにも小型のエビがときにはある.エビしんじょがだされることもある.ときにはサラダにもエビが顔をだす.ほとんどの場合頭と尾がない.そしてエビの味と香りは消えている.天婦羅屋でコースを注文すると同じことを経験する.かき揚にさえ小さく切ったエビが含まれる.体に伝わってくるのは衣と油の匂いだけだ.普通の蕎麦屋では天ぷらそばの注文が多い.この天麩羅も同様だ.回転鮨屋に寄ってみると茹でたエビとアマエビはたいてい1年中ある.多くの場合ここでもあまみやトロットした感じはないし,エビ風味もない.身だけさばき分けて冷凍したものを輸入しているのだ.本州中央部のある都市で安く呑めそうな居酒屋をのぞいたことがある.シロエビの天麩羅とあるので注文してみた.店員は冷凍して立方体に固められているやつに水をかけて解凍し,それを揚げ始めた.北陸シロエビの風味はなかった.あとでチェックしたらこのシロエビを赤く着色し静岡のほうに流すという.シロエビではなくサクラエビでなければだめらしい.同じようにみもふたもなく味もないエビは外国でもある.ローマのテルミネからやや離れたところにそれなりのトラットリヤあった.適当な値段でサラダつきのアラゴスタが表示されていたので頼んだ.1匹丸ごとであったがカスカスというものだった.地中海産とはとても思えなかった.
養殖冷凍海産物の品質市場問題についてはすでにさまざまなことが指摘されている.ここではエビを1年中喜んで受け入れたがるわれわれヤマト人=消費者の生活哲学について考えたい.どうもわれわれ消費者はエビというものの形を喜ぶようだ.そして茹でて赤くなった色を好むようだ.表面に現われたこの形式を重視するようだ.しかも時期を問わずこれを目の前にすると満足する.ミソや尾などの内実にはあまり関心をもたないようだ.だから名称にもこだわる.イセエビ・クルマエビ・シバエビ・アマエビ・サクラエビなどはプラスであり,実際はそうでないものもこうした名称にすると喜ぶ.クマエビ・ブラックタイガー・ザリガニなどは毛嫌いされる.ロブスター・オマール・セミエビ・シロエビなどさえ怪しまれる.世間一般の生活の場に数多く登場しないものはだめなのだろう.これがエビだけのことならことさら問題とする必要はない.衣服形式・行事形式・関係形式・趣味形式・思考形式にまで入り込んできたらどうなるか.アマエビではないものを,しかも冷凍輸入品で味も素っ気もない品を鮨として時期にかかわらず喜んで食している例について想定してみよう.いつでも上等なものの形を容易に食べられるから満足しているのであり,食べられる自分をいくらか誇っているのであり,自分を慰めて日頃の不満と批判を薄めているのだろう.間違いのない味と質,物事の中心的内容についての関心は,ここでは消え去っている.誇りの喪失ともいえよう.誇りなき民としてのヤマト人がわれわれではないのか?消費においても経済においても政治においても福祉においても趣味においても,それらの根底にある生活哲学においても.この動きはここ数年とくに顕著ではないか?こうして重大な事態が現われてくる.形式をいっせいに整えて喜び合う人の群れ.異なった形で現われる少数の人たちのへ排除.ここまでくるとエビ問題の枠は超えてしまうようだ.







日本危機-16-世界動乱と円高構造(その6)

2014-03-02 15:44:42 | 社会・経済
日本危機-16-世界動乱と円高構造(その6)
前回の記事でUSA国債発行を300兆以上,そのうち200兆以上を中国と日本が保持と述べたが,正しくなかったようだ.USA国債残高については種々指摘されているらしい.USA財務省の公的発表によると2010年前後で円換算で約500兆となっている.日本の大銀行やマスメディアではこの数字が公表されている.しかしこれらは表向きの数字らしい.イラクやアフガンなどへの侵略,リーマンショック後の対応などを考慮すると,2010年前後には1000兆を超えているとの説もある.QE1・2・3のことも考えると1500兆の線に達するとの説もある.どうもこのあたりが事実のようだ.1500兆+αがUSAにおける構造的債務と考えておくのが現実的だろう.
さて,アベノミクスのスタートだった脱デフレを掲げての金融緩和と円安志向である.世界金融戦争に突入して20余年,日本は円高攻撃にさらされてきた.攻撃基地は通貨安によって自国の経済成長を図った大国だ.金融緩和と国家的資本投資はその際の武器だった.マネタリーベースを底上げして円安を実現し局面を打開すべきだ.マクロ経済分析者からこのような声がひんぱんにあがっていたのは当然だった.慎重にして的確な金融緩和と円安構造.これを否定する根拠はないはずである.だがこの1年の軌跡をチェックしてみると慎重でもなく的確でもなかった.そもそも事態への対応が遅すぎた.いやわざと遅らせたのかもしれない.円高の軌跡と円安対策の遅れを振り返ってみよう.
円高ジャブはすでに1978年にくりだされている.そして1985年のあのプラザ合意というストレートが放たれる.1$は240JYあたりからバブル期の120JYまで下降する.バブルがはじけるとともに140JYほどへ戻すが,1995年には80JY以下となる.70年代から1990年前後までの期間に日本からUSAに$建てで流れた債権は,40%以下となったわけだ.債務国通貨建ての新型資本循環をわれわれの多くは喜んで受け入れたのだ.その後日本側も金融緩和と円高脱出をときには試みるが,軽くはね返されている.110JYから120JYの線を行き来しながら2008年をむかえる.そしてUSA長期国債償還が押し寄せてきた2010年には90JYほどの円高となっていた.そのころはEUもユーロ安を狙って画策していたし,それへの反撃としてUSAはギリシャやキプロスやスペインやイタリアを揺さぶっていた.あまりにも高くなっていることに不満を持ったEUと日本は2013年になると通貨安へ1歩ふみだした.
それでも2014年2月の現在,1$は102JY前後である.2008年以前の120~130JYの水準からすると20%ほど円高である.USA金融アクションの許容範囲とみてよい.許容の背景は何か?1つ.USAにはもはや金融緩和の余力はあまりない.日本に肩代わりさせるほかない.日本の緩和と引き換えに少々の円安は不可避なのだ.2つ.中国には元高をのませねばならない.せめて1$=8元を6元近くまで.そのためには均衡からいって円高もそのあたりにしておくほかない.こうしてこの1年日本も中国もUSAとの間で話はついたのだろう。そう考える力のない日本の小金持ちだけがささやかな上下に一喜一憂しているのだろう.その結果通貨戦争に参加しているのだ.すべて承知のことならその人の趣味の問題だ.脇からとやかくいうのはヤボだろう.ミセスワタナベとは趣味を異にする私は,為替範囲を95~105JYと断じている.おおかたのアナリストとは異なったこの予想が誤ってしまうことを期待しながら.そしてアベノミクスが挫折することを危惧しながら.
株価の問題に移ろう.1985年のプラザ合意から1987年のブラックマンデイまでの期間,$は250JYあたりの水準から50%近くも下降した.円がとんでもない勢いで高くなり日本の国民は土地を軸としたバブルの饗宴にわれを忘れていた.このころNYでのナスダックは2000$の線を少しずつ登っていたが,TKYでの日経平均は39000JYをめざしてせっせと登りつめていた.バブル崩壊の無残な荒野たる1995年のTKYでは日経平均は15000JYの線まで落ち込んでいた.バブル期の日経平均はほぼ300$.円高の最初のピークとなった1995年時点ではほぼ200$.$換算すると日本での株価上下幅は想定するほど大きくないようにみえる.しかしここで重要なのは次の点だ.NYにおけるナスダックは着実に上昇している.だが日経平均は波をうちながら下降している.この交差は構造的である.この交差構造は為替関係が緩やかな円高傾向となった1995年以降はっきりとしてくる.
そして21世紀へと突入する.そうするとNY株価が上昇すると日経平均も上昇する相関関係が出現する.円高が緩やかに進行するなかでNY株価は激しく上昇する.それにつれて日経平均も上向くが,円高の動きを抑えるほどではない.USAにおける金融緩和・NY株高・TKY株高・円高・$安・USAへの資本還流.このような連鎖が進行したといえよう.
この強引な$金融維持が袋小路に入って爆発した.それがリーマンショックだった.ショック直前のナスダックは13000$近くで日経平均は150$強,ショック後の落ち込み時点では前者がほぼ6000$で後者がほぼ70$.ショック後の回復のためにUSAは新たな金融対処を開始したようだ.金融緩和を可能な限り進め産業と消費をてこ入れするのだ.しかしそれもQE3で頭打ちとなった.中国からもロシアからもEUからさえも不信が投げかけられる.頼りは何も知らされず何も知ろうとしない日本国民だけとなる.円高に苦しめられてきたわれわれはその動きにとびついたのだ.2012年末以降の日銀金融緩和である.上に確認したように異次元の緩和で$が76JYから102JYへと動き,円安に振れた.株価はどうなったか?NYダウは2013年2月末における14000$から現在における16300$近くあたりまで駆け上ってきた.日経平均は11000JY強から16000JY近くまでへと追ってきている.$に換算すれば150あたりをうろついている.
アベノミクスの金融面における意味はなんだったのかこれでわかる.プラザ合意を経てブラックマンデイまでUSAは強引に$安円高($は250JY以上からその50%程度まで)を押付けてきた.円高に狂喜したわれわれはバブルに突き進んだ.それがはじけたあとはUSA金融緩和・NY株価上昇・TKY日経平均アップ(円建て)・円の高下といった循環がリーマンショックまで続いた。このショックからの回復を目指してUSA緩和はゆきつくところまでゆきついた.2011年末の$は75JYにまで接近した.やっと腰を上げた新政権の異次元緩和でゆりもどした$は100~105JYである.2014年2月末での$は102JY弱であり,日経平均は160$弱である.ついでにふれておくと最近の中国元では$が6。05から6.15に上がっている.アベノミクスの円安効果はあまり期待できない.日経平均もショック以前に戻りきっていない.残る金融的意味は何か?出口戦略期に移行するUSAの肩代わりだろう.しかしいつまで緩和戦略が可能か疑わしい.株価時価総額については次のような記事がメディアにさえ登場している.

「直近の時価総額の対GDP比は116%。過去40年の実績からみると、5段階評価で最も割高なゾーンに入っているという。実体経済と株式市場の規模を比べるバフェットの指標を世界全体に当てはめると、見えてくるのは“天井”の接近だ。世界取引所連盟の集計では、2013年時点の世界の株式時価総額は64兆ドル。07年を上回り、過去最高を更新した。国際通貨基金(IMF)の推計では世界のGDPは73兆ドル強。時価総額のGDPに対する比率は87%となる。13年と同じ年率18%で株高が続けば、時価総額はGDPにほぼ並ぶ。これまで100%を超えたのは2000年前後のITバブルと05~06年の信用バブルのときだけだ。」(『日経WEB』20140226)



日本危機-15-世界動乱と円高構造(その5)

2013-10-19 02:26:57 | 社会・経済
メディアが流した問題の第1は長期金利の上昇だ.次にはさらに恐ろしい事態が待ちうけている.国債金利が上昇しすぎると国債の信用度が低下し,国債増発が不可能となり,日本経済そのものが崩壊するというのだ.アイルランド,ギリシャ,キプロス,スペイン,イタリアと地球上を回ってきた事態が日本に上陸するのだ.メディアを注意深くチェックしていれば,USAでさえ国債金利上昇は日本の先を行っているとわかる.USAの金融緩和が過剰になると,$はすこし上昇するが長期金利も上昇する.そして新興国の為替が下降しインフレが爆発する.USAでは金融緩和をめぐる激突が激しくなる.USAが日本を背後から支えているから大丈夫だ.この国ではそのように報道されているし,この国の多くはそう信じているし,信じたがっている.だがUSA内部の激突は止まないし,その激突はシステム崩壊の動力になるかもしれない.USAにおける金融緩和と財政赤字緩和とをひきうけるのはどこか?日本だろう.しかし日本だって大規模に金融緩和ができるわけでもない.これは悪循環といっていい.
ここで問題の第2が登場する.日本財政における赤字解消だ.わが国は世界最大の財政赤字をかかえている.こう喧伝され,われわれはこう信じている。そうだとすれば日本の諸市場は崩壊するのではないか?USAも財政赤字なら世界市場そのものが崩壊するのではないか?それなのに毎日の生活がどうにか継続しているのはどうしてか?こう問いかけてもいいはずなのに,毎年の十数兆円の赤字のことしかわれわれは考えていないようだ.裏に何があるのか推察してみよう.「金持大国」日本の核心を推算してみよう.個人による金融機関貯蓄額は今でも1400兆はある.このなかには郵貯の300兆余がはいるかもしれない.企業の内部蓄積については300兆を下らないと報じられている.年金資金も蓄えられており運用されている.運用の失敗もあるが運用益も伝えられている.資金としては200兆をこえるかもしれない.以上だけで2000兆を凌ぐかもしれない.これはどこに流れるのか?1つはUSAを中心とする世界へ1000兆以上.さらに日本の国債へ500兆以上.日本の特別会計に300兆以上.この推算構造を背景におけば,財政赤字とは公表されている通常財政における赤字積算であって,めじゃないのだろう.
上記2問題の背景をつかんでおくと,金融と財政をめぐる最近の動きがよくわかる.消費税アップはこの2000兆構造に手をつけない方策と邪推できる.法人税ダウンはこの構造に余裕をもたせる方策と邪推できる.TPPは2000兆の一部に手を突っ込もうとする枠組みつくりと邪推できる.最近宣伝されているNISAは,個人における「少額」証券投資利息への減税だから,この構造の拡大と債権市場へ誘導と邪推できる.こうした諸邪推の視線をたどると,いま騒がれているUSA国債デフォルトにいきつく.USA財政赤字はなんと円にして1600兆に達する.金融緩和はリーマン衝撃以降だけでもQE1・2・3と300兆以上になる.国債発行もほぼそのくらいの額になる.そのうち200兆以上は中国と日本が引き受けている.USA大変であり世界大変である.たしかにデフォルトはそうかんたんに生じないだろう.しかし中国(元)とは強かにかつ巧みに交渉しなければならなるまい.たとえ中国が民衆抑圧と劣悪市場を巧みに操作してもである.それでは日本(円)とはどうつきあうのか?1つの州のように従属させておけばよいのか?日本における時の内閣は唯々諾々として従属しているのか?そうは思えない.何かが交渉材料だろう.われわれヤマト民衆は2000兆構造のなかでおとなしく追認したままだろうか?この点を思案しながらアベノミクスの具体的問題を次に素描しよう.

日本危機-14-世界動乱と円高構造(その4)

2013-10-15 18:24:20 | 社会・経済
先の参院選比例区結果を,あまり報道されていない視点から,かんたんにまとめてみると,次のようになる.得票については,自民=1846万(35%),公明=757万(14%),民主=713万(13%),維新=636万(12%),共産=515万(10%),みんな476万(9%),社民=126万(2%),生活=94万(2%),大地=52万(1%)など.選出された121議席のなかで,各党の獲得議席については,自民=65,公明=11,民主=17,みんな=8,維新=8,共産=8,社民=1などとなる.そして投票率は53%に満たない.
このことの意味は何か?今日の先進社会では投票率の低下が常識となっている.政党支持が弱くなっているし,投票行動を無意味としている若い世代が拡大している.それにしても日本では投票率がとくに低い.農山村の高齢者にとっては投票しにくい環境となっている.転居者にとっては数ヶ月の間は投票しにくい.投票を!などという言葉をそのまま信じているものは事実を知らない愚者である.
低率投票で35%得票の自民党が50%以上の議席を獲得したのはなぜか?1人1票の原理をわれわれが投げ捨てているからである.公明党が1人区で自民党に協力したからである.そのために,有権者からの支持でいうと20数%で,議席の60%以上を与党が確保することとなる.ヤマト民衆はこのような事態を追認している.
このような追認のあり方はさまざまな問題に及んでいる.ここではアベノミクスについて考えてみよう.アベノミクスが現在のわれわれの生活をなにか変えてくれそうだ,というのが今のヤマト民衆の追認である.金融緩和,円安,株価上昇,弱いインフレ,景気上昇,新産業分野のレベルアップ,経済成長,財政改善,福祉条件の向上,雇用と賃金の改善,生活上昇といった一連の動きが進行する.これがアベノミスについての想定であろう.はたしてそうか?金融緩和から弱いインフレまでは事実として進行した.ここまではこのブログとしてもあまり批判できない.先進諸国は21世紀に入るとすぐに金融緩和を進めドル安円高を演出したからだ.日本はこの動きを追認した.円安政策は遅きに失したのだから.アベノミクスの問題はこの先で露呈する.

日本危機-13-世界動乱と円高構造(その3)

2013-06-02 18:12:08 | 社会・経済
円高構造の本道に戻ろう.なんと「その3」である.2013年になって「アベノミクス」が喧伝された.私はその具体性と行方に疑いを懐いていたが,ここにきて諸問題が浮上してきた.この諸問題についてはさまざまな評論が刊行されている.経済学でいえば「貨幣数量説」と「ガラパゴス経済学」との対立となる.こうした論評合戦の主役は東大経済学部・教養学部出身の秀才たちだ.黒田某氏を含めて.他学部出身の凡才たる私は日本の雇用システムと日本の賃金構造.諸階級・諸階層とに焦点を当てながら生活してきた.こうした凡庸な一市民として問題の所在を整理してみたい.
まずは世界システムとその歴史展開という大きな問題から.
世界システム論と現代帝国論などについては山本氏や橋本氏や古城氏などの政治学・社会学研究者たちが貴重な努力を重ねている.それらに学びながらここでは「長い20世紀」の構想に着目する.19世紀末から世界は帝国主義激突の時代に突入した.明治以降の日本帝国主義は遅れてやってきた参加者だ.朝鮮半島とサハリンを含めてユーラシア東部に軍隊を進め,そこの住民たちをけちらした.なんのことはない.性的抑圧を含めた蹂躙だ.20世紀なかばはこのような帝国主義的抑圧・蹂躙に終止符をうった.あとになって当時はそれなりの理由があったなどというのは妄言だ.この20世紀なかば以降の世界ではUSAが基軸国となってシステムをリードした.体制間対抗構造が存在していても.しかしそのシステム安定は1990年代前後にはがたがきはじめた.一部の社会学者が言及しているほどに明確な危機到来とは考えられないが,亀裂が生じ始めたのはたしかだ.USA単独基軸体制が怪しくなったのだ.そのほころびは日本バブルとして現象する.バブル崩壊とともに日本の企業システムにも「長い20世紀」的世界システムにも,京谷氏のいう「地殻変動」が生ずる.中国が台頭してくるにおよんで,21世紀初頭以来現代帝国システムは多極化の長い時期に突入する.大帝国間抗争という政治的次元のことだけではない.内乱・陰謀・資源開発・投資といった地政学的次元のことだけでもない.むしろ根底的な次元として「世界金融戦争」がある.この戦争次元においてこそ多極化へむけての陰湿にして巧妙なやりとりがなされている.わがヤマトは大帝国間のはざまで身を処さねばならない.リュウキュウはヤマトの周縁にあってたちまわらねばならない.尖閣問題も,辺野古問題も,与那国自衛隊基地問題も,北方4島問題も,円為替問題や脱デフレ問題も,このような大きな流れのなかで熟慮すべきだ.大帝国は日本列島など蒸発してもかまわないとしているかもしれない.日本におけるUSA基地は日本が頼みこんでくるから設置してやるとしているかもしれない.こうした文脈では親米も離米も些事である.優れたジャーナリストは些事から大事を遠望する.あるいは大事を心底にしまいこみ些事をたどる.自己の身分保障のために些事に終始するなら愚者だ.この時代は21世紀前半の数十年をかけて多極化へと流れている.この時代についての覚悟があるかないか?いま問われているのはこのことである.次回の「その4」を考えながら,当時優れたジャーナリストだった数年前の発信を下に引用しておこう.

日本で使おう
日本も大波をかぶるだろうが、悪いことばかりではない。これまで日本は貯金通帳の数字だけ大きくなり、そのカネを使っているのは米国人という構造だった。これでは日本の内需は湿るばかり。米国の集金装置が壊れ、日本人のカネを日本で使う時代になった。カネを国内で使って豊かになる仕組みを考えること、それが課題だ。常識を逆転させる発想が必要だ。給料を抑え、自国通貨を安くして輸出に頼る「貧乏輸出」をやめる。上場企業は6年続け増収増益だが、国内経済はパッとせず、消費は冷え込んだままだ。ゼロ金利で企業は助かったが、預金者は大打撃を受けた。 カネを回すべき先はたくさんある。医療・介護など手厚い社会保障は雇用吸収力がある。高齢社会での安心確保という切実な需要がある。石油に変わる新エネルギーや環境に負荷のかからない循環システムなど21世紀の課題に国を挙げて取り組めば、新しい需要が創造される。29年の世界恐慌が行き着いた先は第2次大戦だった。戦争という巨大な需要で米国は不況を克服し、世界の中心に躍り出た。歴史の繰り返しがないとは限らない。戦争による乱費か、石油文明に代わる環境・新エネルギーで新たな需要を創造するか。「世界不況」は人類を試すことになるかもしれない。(『朝日新聞』20081018)

日本危機-12-財政赤字も憲法改悪も妄想?

2012-12-16 01:12:08 | 社会・経済
20121022以降の『日経WEB』は興味ある諸問題を示唆していた.この時期は衆院解散,「日本未来の党」成立,都知事選・衆院選の時期でもある.脇道から本通りに戻るきっかけとしてこれらの点を確認しておこう.

まずは石原都知事辞任の問題.
石原氏は尖閣諸島所有権の問題を提起した.都知事を辞任して次期政権を狙ったのだろう.政治家の決意・行動としては陳腐だ.前者の行動はUSA超ナショナリストの先兵としては当然の結果だ.国境境界についての基礎知識を欠いた愚行である.諸島の所有権など世界社会では確定していない.後者の行動は生活困難に直面している日本人心情のつまみ食いだ.ねらいは反中国思想をあおって,開戦の糸口をつくることだろう.寄らば切るぞとは時代錯誤だ.寄っていったのは石原氏本人であり,「大帝国」中国に覇権の道を用意してあげたわけだ.ことによると彼は「大帝国」USAの手駒なのか?

つぎに放射性物質拡散についての予想地図.
拡散予想地図は途方もない方向に途方もない距離で広がっている.その後の情報によると,茶葉と茸からすれば長野県も静岡県も危ない.精確で具体的な汚染資料はついにどこからも公表されなかった.精確な汚染資料がはっきりしなければいろいろなことが茶番となる.どこからどこまでの食料産地が安全なのか,ついに不明なのだから,産地食糧の流通はまったく闇のなかにとどまる.芸能人やアスリートがいくらガンバローがその行動はお笑いとなる.安全性がきちんと証明されなければ,原発事故で被災した人たちの帰郷行動もオフザケになる.除染作業の根拠も結果もわからないままとなる.日本行政と原子力ムラはこの大切なポイントをわざとごまかして国民心情をセンチメタルな方向へ誘導しているようだ.この点に触れない社会科学者の作業はいかがわしいだろうし,この点をはっきりさせない政党の選挙政策もいかがわしいだろう.数日前から活断層問題も浮上した.

さらに穀物国際価格の高止まり.
レアメタルの国際価格はいくらか下降気味だがトウモロコシを中心とする穀物価格はいっこうに下落しない.エタノール問題などを要因として上昇の動きさえみせている.ポイントはシカゴを中心とする投機市場問題だが,メディアなどではブラジルなどの新興国エネルギー問題を標的にしている.そこで登場させたのがUSAを戦略地点として設定して(日本の東北地方さえ引っ張り出してきて)シェールガス・オイルの可能性だ.これを産業化すれば地盤沈下と土地崩壊が生ずるのはみえみえなのだが.

そしたまた中国市場における日本車の沈没.
中国に進出した日本企業はつぎつぎに中国の圧力にさらされた.中国のパワーエリートも行政も民衆も横暴であることはたしかだ.しかし火をつけたのは石原発言であり,日本政権の地権買取である.自動車市場から追い出された日本自動車企業の取引マイナスもひどかった.30%は縮小したろう.とうぜん日本輸出力は衰えたし,経常収支は下落した.デフレに追い討ちをかけるこうした事態は日本経済の力量を衰退させた.こうしてクローズアップされたのが中国批判の動きである.さらにその動きは国境ラインをめぐる韓国批判の動きに連動し,ミサイルと強制連行をめぐる北鮮敵視の動きに連動する.今日的排外主義はこの時期を経て一線を超えたといえよう.

やはりまた「ボージョレ・ヌーボー」そして景気.
20121027の『日経WEB』はこう報じていえる.

羽田空港に到着した「ボージョレ・ヌーボー」の初荷(27日午前)=共同
11月15日に解禁されるフランス産の新酒ワイン「ボージョレ・ヌーボー」の初荷が27日午前、日本航空の旅客機でパリから羽田空港に到着した。初荷は約4トン(3168本)で、機体から降ろされて貨物ターミナルに運ばれた後、税関職員がボトルを手に取って念入りに通関検査をしていた。輸入販売元のサントリーホールディングスは解禁日までに、750ミリリットルのボトル換算で計約115万本を新千歳、成田、羽田、中部、関西、福岡の6空港に空輸し、全国の小売店や飲食店に出荷する。サントリーによると、今年は天候不順でブドウが不作だったため生産量が少なく、業界全体の輸入量は昨年の約800万本より5~10%減る見通し。小売価格は1本2300円前後という。広報担当者は「不作とはいえ、収穫できたブドウの品質は良好。バランスのよい、軽やかでフルーティーな味わいに仕上がった」と話している.

この問題については以前のブログでも記している.ここでは次の3点だけ指摘しておこう.1.今年の価格は高いもので5000JY台/Bであり低いもではパックで900
JY前後となっている.価格差が大きくなったのだ.高級品ものと勘ちがいしてる層がまだ存在している.だが生活品だから安いものをグイグイと呑もうという常識が広がり始めた.2.結果として需要は低下した.消費縮小の一例だろう.3.ブルゴーニュだから上等でよいものだとする形式主義が後退しているようだが,まだ根強く残っているようでもある.生活文化における階層分化と形式主義の交錯.この点を注視することが大切だ.

だからついに円高問題への動き.
経済停滞も消費後退もその基盤における最大のポイントは円高ではないか?このような問題意識がやっと表面に現れてきた.20121205の『日経WEB』が伝えているような感覚(今年最大のヒット商品はスカイツリーとタブレットというような感覚)ではこの問題意識を理解できない.業界と官界と政界のトップたちはさすがに敏感だ.円高問題解決の先兵として安部氏をおくり込んだ.メディアを通じてて国民認識をスカイツリーのレヴェルに留めておうとした.しかし円高問題は歴史的にして世界社会的な問題だ.この問題処理の黒幕は老いたりといえど世界市場に君臨しようとしているUSAのパワーエリートだ.彼らは20年にわたる停滞を引き受けた日本を捨て駒として,円高つまりは$安を構造的に支えようとしているのだろう.その流れに乗って日本の支配層とメディアとが次は安部内閣だとのメッセージを広めているのだろう.失われた20年以前においては1$は120JY前後だった.阿部内閣!の声が発せられるとともに78JYあたりから83JYあたりに円安となった.世界的金融市場のトップランナーたちは1$=80JY前後を想定していよう.それではおさまりきれない動きの防波堤として次期の日本内閣を位置づけているようだ.今のところこうした問題に立ち入ろうとする政治家もメディアも民衆も日本にはいない.12月16日以降この日本にどういう動きが出てくるのだろう.

となるとUSA財政(つまりは日本財政)の崖っぷちはどうなる?
USA経済はいま火の車だ.債務額は3000兆(JY換算)あたりだろう.その多くが外国債権だ.債権の1位は中国で2位は日本だ.中国がこれを手放せばUSA経済も世界経済も崩壊する.だからUSAは中国と戦火を交えない.USAは安保条約に尖閣を含むと認めるが,有事のときに出撃するとはけっしていわない.日本の債権文書がどこにあるのかは不明だ.USAのどこかの金庫に保管されているかもしれない.日本国民はこの点について関心をもたないし情報を求めもしない.だから日本国家は恐ろしい存在ではない.QEも1,2,3と続けられ,USA財政は崖っぷちにあるといわれている.早ければ明年,遅くとも10年代なかばには破綻するのではと予測されている.日本財政も同様だろう.だが日本財政に関してははっきりしないことが1つある.公表されている一般会計が100兆だと騒がれているが,特別予算は今でもその2倍以上ある.明治以来これは公表しなくてもいいこととなっている.国債も年金も公共事業もこの特別予算を通過していく.赤字国債800兆など日本のトップは織り込み済みなのだろう.USAトップもそうだ.だから騒がない.この問題に手をつければとんでもないこととなる.USAも日本もともに崖から落ちる.安部氏と石原氏と橋元氏が内閣を立ち上げればいろいろと取り戻すらしい.財政も行政も憲法も明治初期に戻って再スタートするのだろう.となればそれは歴史における茶番劇だ.石原氏と橋元氏はそんなことは明言していなかったかな?今日16日には国民は喜んで茶番劇に参加するのか?

日本危機ー11-今年年初は東電福島事故問題の節目

2012-03-01 01:49:24 | 社会・経済
まだ脇道をうろつくことになって申し訳ない.
東電福島第1の原発構造における6つの基本問題と事故のその後もみすえた8つの疑問について,このブログではかなり前に指摘しておいた.これらの諸項目を整理してみると次の9点にまとめることができる.福島第1原発における原発装置の構造.原子力発電装置の型とVENT.非常時電源装置の位置.配管の実態.メルティングと炉心溶融.全電源喪失対応マニュアル.放射能汚染のレベルと範囲.東電の賠償金と財政負担.原発能力と電力需要.
メディアの論調も出版物の流れも原子力発電批判の色を濃くしてきた.原発事故という事実があまりに重かったからだ.東電は言葉を言い換えながらも炉心溶融を認めた.やっと廃炉を前提にした収束へむけての日程表も提示した.廃炉まで30年以上ということだが.文部科学省などの行政サイドも汚染観測結果を公表し始めた.観測地点はバラバラでいい加減だが.ここでとくに注目したいのは『朝日新聞』が昨年末から今日までも継続しているシリーズ「プロメテウスの罠」だ.菅前首相を含む多数の関係者から取材してVENT問題や汚染測定実態などをめぐるばかばかしい動きをあぶりだした.みもふたもない上記9点はまずは正解だった.だが事故から10ヶ月近くたった年末年初前後における動きをみると,この9点にはらまれている問題は何も解決されていないとわかる.
年末12月16日に野田首相が冷温停止状態を確認した.あの『朝日新聞』でさえこの宣言をそのままうけとることはしていない.困難はこれからだと指摘しながら多くの問題点に言及し,廃炉へむけての現状と課題を提示した.それに学びながらここでは問題点の内容を次のようにしぼっておこう.
冷温停止はいつになるかわからない.
冷温停止状態とは圧力容器の底がだいたい100℃にまで下がり放射能漏れが大幅に抑えられることだそうだ.つまり何のことを示しているのかあいまいなのだ.状態の2字をつけ加えて冷温停止概念をごまかしたのだ.首相の背後に原子ムラ官僚トップたちの姿を想定すべきだろう.今年になってから東電自身が2号機計測器の1部は70℃越えだったと認めた.計測器の故障だとしているが40機のなかの8機がこの温度を示しているのだから,事態は深刻と判断すべきだろ.もう200℃以上だとの報道もある.常識的に考えればメルティングは抑えられていない.
放射性物質の排出はまだ停止されていない.
排出は事故直後の時点できわめて高かったとされている.その後はさして問題がないかのように報道されているが,いまでも第1正門における空間線量は毎時30MSVだし,1~3号機から放出されるセシウムは毎時6000万ベクレルだ.第1内部には汚染水が増加しており20万T近くになると指摘されている.冷却のために放水してもそれが汚染水となって配管のあちこちから漏れているのだからどうしようもない.この汚染水は地下にしみこむし海に流出する.この点についての測定結果は公表されていない.メディアは建屋の爆発にしばしば言及しわれわれも爆発問題に関心をよせる.しかし肝心の格納容器が損傷しそこから燃料が漏れているかどうかいまだにはっきりしていない.
汚染範囲は広がり続けている.
このブログにおける以前の記事で水戸や宇都宮や前橋や会津若松まで怪しいと述べたが,地上1M測定値では事態は変わっていない.NHKニュースではこの測定値に言及せず根拠のない安全を伝えている.かのスピーディさえ群馬県北部山地や秩父山地にまでセシウムがわずかながらも飛んでいると認めた.つまり利根川水系や荒川水系は阿武隈川水系のように怪しいのだ.最上川水系でさえ安全だという測定結果はだされていない.はたせるかな最近になって東京湾北部の海底からセシウムが検出された.柏市などのホットスポットには根拠があるようだ.世田谷などとは違うのだ.特定の地点をホットスポットとしてそこだけ除染するのは問題をごまかすことだ.除染すれば間違いなく安全か.取り除いた土などはどこで処分するのか.何もはっきりしていない.ごまかすための用語は使用すべきではない.同様に風評被害なる用語もごまかしのためのものだ.きちんと測定されていれば安全なものは市場にだされるべきだし危険なものは廃棄されるべきだ.測定体系の整備と測定結果による対応こそが大切だ.その費用は東電と行政が負担すべきだ.
福島第1付近住民の帰還は実現不明だ.
行政の上部では4月になったら付近の住民を帰還させようとしている.帰還の基本線としては,年間放射線量50MSV以上の帰還困難区域で5年以上帰還不能,20~50MSVの居住制限区域で数年かけての帰還,20MSV以下の避難指示解除区域で今年春からの帰宅,といったものらしい.しかし福島市や郡山市を含めた体系的な測定結果による安全性の確証がはっきりしていなければ帰還そのものがおかしくなる.この基本線は官僚臭プンプンの造語かもしれない.最近になって興味ある調査結果が報道された.事故後4ヶ月の時点で福島県が実施した住民調査の結果である.原発作業員の経験があるものなどを除いた結果が公表された.9747人のなかで5%が5MSV以上となっている.これから数年あるいはそれ以上の期間汚染が進行すると,この5%の人たちの健康問題が浮上する.これは外部被爆調査だった.内部被爆はまだ何も明らかにされていない.早く福島第1全体の廃炉と遮断を完成させないと,汚染規模はチェルノブイリの数倍になってしまう.5%以上の人たちの将来は不明である.年間20MSVという数字は小さくないがこれから何年も続くわけではないと専門家は語っている.しかしそれで安心と安全が確証されるわけでもない.今のままでの帰還は問題ありといわざるをえない.
原発再開の条件は整っていない.
原発の稼動再開に関しては細かな問題が種々論じられている.ストレステストに耐えうるかどうか.電力供給が追いつかないのではないか.防波堤防の高さをもう数Mかさ上げすべきではないか.このブログですでに述べてきた基本問題に照らせば,これらの問題指摘は目くらましである.一種のごまかしだ.建屋の強靭さだけを問うたり津波への備えだけを問うのは瑣末主義である.格納容器をMⅠ型から最新型へ変えること.つまりVENTを不要にすること.事業所のスペースを拡大すること.冷却塔を発電塔とは別に建設すること.つまり冷却を海水に依存しないこと.非常時用の発電装置を地下から高台に移すこと.配管とその回路を統一的でシンプルなものにすること.全電源喪失時における対応マニュアルとしての15時間作業の内容を公開し,その対応組織を整備すること.こうした基本点を再開容認サイドは指摘しないしそれに伴うコスト増にも言及しない.しかしこれらの基本点をみたさないかぎり原発再稼動はありえない.
「福島原発事故独立検証委員会」いわゆる民間版事故調査委員会は2月27日に民間事故調査報告なるものをまとめ公表した.この調査にたいして東電は応じていない.当時の官邸メンバーからの応答を中心にしてこの報告はまとめられている.指摘された問題点はたしかに正しいと思われるものが多い.だがこの記事で述べてきた基本点にはほとんど言及していない.瑣末な問題ばかりをとりあげる結果となっている.原発再稼動へむけての布石をうつ意図なのだろう.だからこそ今まで述べてきた基本点にたちもどる必要があった.
だが東電の賠償能力と今後の経営形態について発言するには背景にあるさまざまな問題について一定の筋道をつけて考えなければならない.エルピーダ問題とその背景としての金融による経営破綻作戦や,AIJ問題とその背景にある年金基金運用構造や,円の動きは欧米次第などといった記事とその背景にある国際金融市場多極化問題や,最大赤字日本国債とその要因たるUSA債券垂れ流し問題など.これらはみな日本財政危機につながる.財政危機が事実であれば東電経営も原発産業も被災地も解決を展望しえない.また原発所在市町村が要望している点も無視できない問題をはらんでいる.この要望を提出する被災地住民のなかに原発産業と官邸行政は多くの断層をぶちこんだ.断層は格差の拡大とともに国民全体に拡大している.原発再稼動を要望するものと原発廃止を求めるものとの断層や,沖縄における米軍基地大幅縮小を求めるものと米軍基地残存と取得物上昇を引き換えにするものとの断層など.いまや人間としての欲求そのものあいだに数え切れない断層が走りあい交りあっている.こうした断層にクリアな解答を用意しなければ市町村要望に対応できない.これらについては次回以降の記事で考えてみたい.
次回の記事からは脇道からおもて通りにもどろう.