映画、萌ゆる日々(書庫)

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映画の中の食 イギリス編2

2010-01-19 22:45:12 | 映画雑記
何気に続いてます(笑)

イギリスに美味いもの無しとか、いや朝食とアフタヌーンティは別だとか色々言われていますが。
数多いパイにせよ、フィッシュ&チップスにせよ、英国内で延々と食べ続けられてきたメニューは、場所によっては美味しく、店によっては不味いのは当然のことでしょう。

ラーメンだってたこ焼きだって、旨い店もあれば不味い店もある。

それより、その料理が定着し食べ継がれている事実の方が興味深い。グルメよりも食文化探訪的な。

今回引き合いがてらご紹介するのは、バーネット作「秘密の花園」
1993年に映画化されている児童文学の名作です。バーネットと言えば「小公子」「小公女」が有名。
アニメや最近では設定を借りた和ドラマにもなったみたいですが(^_^;)
コッポラが総指揮で女性監督が撮った映画は、すごく良い出来です。

2作品は子供の頃に読んで好きだったんですが、「秘密」の方は成人してから読みました。
で、これも非常に良かった。
何が良いって、前回の女王、ヴィクトリア時代の匂いと、首都ロンドンではなくヨークシャー地方が舞台でその風景が見れること。いわゆるマナーハウスの様子や、上流階級と召使の生活の差が、その子供たちを介して垣間見られる。そして上下の区別なく、英国人が大事にしている観念が見えてくる。
ガーデニングが人を癒すというのも正しくイギリス的(笑)
映画ではあまり食べ物が出てくるシーンがないんですが、原作では色々あります。

大英帝国植民地支配全盛期、インドで育ったメアリー、イギリスヨークシャー地方のマナーハウスからほとんど出ることなく成長した病弱なコリン。そして召使の弟で自然と動物と一体化しているヨークシャーの子ディコン。三人が出会い、メアリーとコリンがどんどん心身共に変化して元気に子供らしくなっていく様子が綴られていく。

両親に構われず、ナニ―に一切の身の回りを世話されて育ったメアリーは、両親の死後、ヨークシャーの親類の屋敷に引き取られる。
怠惰に過ごし、いつも不機嫌なしかめっ面をし、可愛げのないメアリー。自分で服を着たこともないし、インドでの習慣で召使を下々の者としか思っていない横柄な子。
ここでは自分のことは自分でなさいと家政婦に言われて切れたり、ヒステリーを起こしたり。
子供らしい食欲もない。
朝食でポリッジを出されても、食べたくないと口もつけない。
小間使いのマーサが、信じられないと大仰に騒ぐ。

12人も兄弟姉妹がいて、お腹一杯に食べられることなどほとんどない家に育ったマーサですが、おっかさんのスーザンを頂点としたサワビ―家は皆元気一杯の幸せ家族。貧しくても心身ともに健康で強靭。ヨークシャー訛り丸出しで、お嬢様に無遠慮に思うところを口に出してしまうけど、屈託がなくて親切。


ポリッジはオートミールのお粥。日本でも近頃の健康志向や輸入食品店の増加で結構出回るようになりましたね。
アメリカのコーンフレークやシリアルから、牛乳をかけて砂糖などで甘くするイメージがあるけれど、本来は水で煮て塩で味付ける。ほんとにお粥です。甘味は子供や甘党向け。牛乳も貧しい家では無しでした。
「あんたは、これがどんなにうまいもんか知らないんだ。ちょっぴり糖蜜か砂糖でもかけてごらんなさいよ」
マーサの家では砂糖や蜂蜜も贅沢品だったんでしょう。
小麦も取れにくい痩せた土地のヨークシャー。アイルランドと同様、オーツ麦は小麦に代わる穀物です。サワビ―家など下流の家ではメインの食事で、肉などもめったに食べれませんでした。

生まれて初めて“なわ飛び”をしたり、ヨークシャーの荒涼とした寒風の中を歩き回ったり、なにより彼女の亡き叔母の閉められた花園に入り込んだことから、メアリーはどんどん元気になり、食欲も出てきてポリッジも完食。マーサの弟ディコン、従弟のコリンとも仲良くなり子供らしい笑顔も見せるように。
コリンもまた、生まれた時に母親を亡くし、そのショックで息子を見るのが辛くなり旅から旅へと家を開けている父親はめったに彼と会わず、周囲からいつ死ぬか分らぬ若様扱いされて外に出ずに育ったせいで、我がまま放題、ヒステリックで偏屈な少年。それが、従妹のメアリーもまた負けず劣らずの我儘者で、しかも少年より元気者(笑) 生まれて初めてズケズケものを言われ、大騒ぎ大喧嘩して、実は思いこみがほとんどのヒステリーだったとわかり始める。

花園でメアリーとディコンと一緒に遊ぶうちに、コリンも短期間で大変化を遂げます。
これを見てると、ほんと子供に必要なのは、親の愛情を抜かせば子供と自然だなあと思う。
部屋が100以上もある古いマナーハウスは魅力的ではあるけれど、薄暗くて陰鬱で子供向きじゃない。
他に必要なものは、素朴で栄養ある食物だけ。

どんどん逞しくなっていくメアリーとコリン。食事も沢山食べられるようになる。
でも、父親が帰ってくるまで秘密にしておきたいと、今までのように食欲のない偏屈な子供の芝居をします。でもそれだとお腹が空いてたまらない。
ディコンとマーサのお母さん、頼もしきスーザンが三人のために搾りたての濃いミルクと、レーズンバンを焼いてくれて、またディコンの手作り石かまどで卵やジャガイモを焼いてバターと塩をつけて食べたりする。
これ美味しそう…! 
ハイジのチーズ載せパンに匹敵する素朴な美味。お腹が空いた子供に、凝ったものは要らないのです。ミルクは上にクリームが浮いてるほど濃くて、成分未調整!
映画では残念ながらそのシーンはないんですが…(^_^;)

マナーハウスでの典型的イングリッシュブレックファストも美味しそうではあります。二人のために作られたローストチキン、ブレッドソース添えは手をつけられずに下げられてしまいますが。
小説にも記述はないですが、イギリス伝統のローストビーフ&ヨークシャープティングも当然出されたに違いありません。なんせヨークシャー地方だから。
けれどメアリーやコリンのような階級の家庭はともかく、ディコンのような召使の階級は、とても毎日肉など食べてはいませんでした。ディコンの持ってきたお弁当は、ベーコンの薄い切れ端が挟んだパン。
「たいていはパンだけなんだが、今日はうまそうなあぶらみのベーコンの切れが入れてあるだ」
メアリーはこれをヘンな昼ごはんだと思った、と。この差(^_^;)
一般庶民まで肉を毎日のように食べられるようになったのは、西洋社会といえども近年のこと。
ディコンの家では、じゃがいも、玉ねぎ、人参、キャベツなど採れ易い野菜と、オーツ麦のパンやオ―トミール。それと風味付け程度のベーコンやバターを少量使った料理が日々の糧でした。
現在でもローストビーフ&ヨークシャープティングやローストチキンは、サンデーブランチとして、週末に作る家が多いのは、肉をその日に食べつくすのではなく、その後の日にも再利用する習慣が今も続いてるから。実は質実剛健な献立なのです。
残った肉で月曜日はサンドイッチ、火曜はシチューというように、使いまわしていく。
そしてヨークシャープティングも。

シュークリームの皮だけみたいなのが、ヨークシャーブティング。

あちらではオーブン調理が基本。ロースト中の肉汁が下のトレイに溜まり、それはドリッピングと言い、肉の旨みが溶け出している脂。その中に小麦、卵、牛乳などで溶いたタネを流し込んで焼いたのもので、ドリッピングプティングとも呼ばれます。
またはプティングだけ作りドリッピングを味付けしたグレービーソースをビーフやプティングにかけて食べるともあります。
ヨークシャー地方では、前菜としてソースをかけたプティングをたっぷり食べてから、肉を出すという風習がまだ残っているそうです。肉が貴重であった時代、少ない量でも満足できるよう、家族みんなに行きわたるようにとの知恵なんですね。
このプティングは、さっさと食べないとすぐぺしゃんこになるそうです(^_^;)
そしてこのタネも多めに用意して残しておき、後日その中に余り肉やソーセージを入れて焼いたのが、「TOAD IN THE HOLE」



穴の中のヒキガエルの意味。形状からの名前でしょう。下はジャケットポテト。今もイギリスで一般的なファーストフード。オーブンで焼いたじゃがいも(日本よりでかい…)にトッピングは何でも。チーズとかビーンズとかが多い。
節約とか始末とかよりも、料理や献立を考える手間を省くことでも合理的。1週間のメニューはほとんど変化がないそうです。それを味気ない、食べ物にこだわりがないととるかどうか。毎食違うおかずを考えなくちゃいけない日本の主婦は大変だと思うんですけどね。日本だって昔は大して毎日の献立にそんなにバリエーションはなかったはず。和洋折衷、時には一度の食事で和と洋と中華のおかずが出たりする日本の食卓こそ、世界には例がないですよ。だから息切れした主婦はデパ地下やお惣菜、お弁当に走りもするし。料理嫌いはもっと適当に買い食いになったりする。

日本だって、どこだって、余り物をリサイクルする料理はあるよね。鍋の最後はごはん投入して雑炊、すき焼きの残りのタレでチャーハンとか。
私は子供の頃からヘンな子で、色々入った鍋やすき焼きの肉より、その後の味つけ御飯の方が好きで、そっちばっかり食べて怒られてました(笑) 米飯好きというのもあるんだけど。成長期ですら、肉を山のようには食べない子でした。
それでこういう料理逸話に心惹かれるのかもしれない(笑)

「グレービーソース」も色んな小説に出てくる。
クリスティの「パディントン発 4時50分」でも、ハウスキーパーのルーシーがローストビーフとヨークシャープティングを作っている時に、様子を見に来たアレクサンダー少年が、
「グレービーはうんとつくってね。ソース皿二つ分にたっぷりくらい」とねだっている。
外で遊びまわってる少年には、濃いソースをたっぷりかけた肉が必要のようです。それと面白いのが、「学校のヨークシャープティングはすごいんだーみんなぐちゃぐちゃで」と言ってること。
写真のようにシュークリームの皮状に個別に作る場合と、ドリッピングが落ちた天板にタネをそのまま入れて焼いた元から、トレイで焼いて切り分けるやり方があるようです。
アレクサンダーは寄宿学校生なので、学校のやり方はトレイで一度に焼くほうでしょう。前述の「TOAD~」も生焼けのものが出されるところもあったというから、名門スクールだろうが学食が不味いところがあるのはいづこも同じか(笑)

それから、昔チャップリンの自伝を読んだ時に、極貧だった幼少期、母親が「焼き肉のたれでパンを揚げて食べさせてくれた」みたいな記述があって、焼き肉のタレ…? エ○ラ?とか非常に腑に落ちなかったんですが(^_^;) これは訳が古くて、ドリッピングのことがまだ日本ではそのまま記述しにくかったんですね(新訳が出てるから、変わっているかも)
ドリッピングは、前述の通りグレービーソースにして食卓に上がる他にも、お屋敷に雇われたコックがそれを下層の家庭に売って副収入にしていたとも言います。おおっぴらではないけど、別に犯罪でもない。
ディコンとマーサの家でも、たぶんスーザン母さんが買ったりしてたでしょう。いわばお流れですね。
チャップリンのお母さんも、どこかのお屋敷のキッチンの裏口でドリッピングをわけてもらい、安いパンに浸して味付けし、揚げ焼きにしたのでしょう。
これは「ドリッピングトースト」と言って、パンを焼いてソースに浸すやり方でもちゃんとした料理のひとつとして「シャーロック・ホームズ家の料理読本」にも載ってます。おやつ部にですが。それが貧乏な家庭では、滅多に食べれぬ肉の味を味わえる貴重な一品だったわけです。

「秘密の花園」からずれましたが(^^ゞ、インド植民地に兵を派遣していたこの時代だから、メアリーは両親とインド暮らしをしていたし、「小公女」セーラもインド生まれでした。
スパイス類が多く入ってきたのもその流れで、カレー料理が一般的に普及し始めました。
上流の朝食に出るケジャリーも、タラと茹で卵の入った西洋おじやみたいなものでカレー味。
それからジンジャーブレッドやクリスマスプティングに使う生姜他のスパイスも、遠いインドから遥々運ばれるため、パウダー状に乾燥させたわけです。日本には元から生の生姜が採れるけど、イギリスではとれないんですね。ヴィクトリア時代の過密化してきたロンドンでは、衛生状態が非常に悪く、地方のマナーハウスのよりもずっと危険でした。これはパリも大都市はみんな同じ。世界でも有数の清潔で下水の通った首都が江戸だったんですよね。
また横道に(~_~;)
なのでスパイスは、食物を腐らせない為にも有効でした。イギリスではなんでもくたくたに茹でてしまうと言われるのは、ペストなどにかからない為のこの時代からの名残らしいですが。スパイスは腐敗だけでなく、消化や解毒にも効くものね。


映画は一応は子供向きですが、大人が見ても充分楽しめる良作です。子供っぽさは全然ない。
ブロンテの「嵐が丘」の舞台でもある、ヨークシャー地方のムーア(荒野)の風景のすごさ。
初めて見たメアリーが海と間違えるのも無理もない、広大な荒れ地。その荒涼とした地が、8月になると一斉にヒースの花で埋め尽くされる。イギリスの春と夏は短くあっという間過ぎるけれど、その期間に咲き乱れる庭園の花たち。
凝った造園でない、自然のままの感じのイングリッシュガーデンも映し出されてます。
そして三人の子役が素晴らしい。
不器量と言われ、ぶすっとしたメアリーが後半どんどん可愛らしくなってゆき、小さい顔に目だけほんとにデッカいもやしっ子のコリンが、英国美少年になり(笑)、ディコン役の子は元々素朴でラフでとてもいい。
家政婦メドロック役で、ハリポタのマクゴナガル先生こと、名女優デイム・マギー・スミスが好い味出してます(デイムは女性におけるサ―と同じ女王から頂く称号)

ワーナー提供ですが、ハリウッドのごてごて感のまるでない、非常にシンプルで清浄な仕上がり。
音楽も合っていて素晴らしいです。


お勧めですv





2 コメント

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ふきげんな女子 (かなん@羽のばし中)
2010-01-20 10:04:23
「秘密の花園」大スキでしたね-。子どもの頃,何度も読み返しました。そういえば出てくる料理が謎でしたが,子どもの頃は勝手にとばして読んでました。「小公子」・「小公女」いろいろありましたが,これがお気に入りでした。主人公がよい子ではないところがいい。だんだんよい子になっていくので,ちょっと残念だった。(^_^)私は,ずっと不機嫌な愛想なしの子のままだったので。( ̄∇ ̄)
 映画化されていたとは知りませんでした。あの花園がどのように映像化されているのか,興味があります。かつて,花園を再生させていく過程にどきどきしました。これは楽しみ。
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オブサーバーな子でした (山吹@また肩凝り)
2010-01-21 00:15:16
今もそうだ(^_^;)

満たされればどんな子だって不機嫌じゃいられなくなりますからね(^_^)
でもこの話の良い所は、それが大人のおかげじゃないってところ。
「あなたの寂しさをわかってあげられなくてごめんね…!」とか言って、子供と涙ながらに癒し、などというおためごかしはない。
自然と、同類の子供と交わったおかげだもん(笑)

映画ですんで、いろいろ端折ってはあります。
甘くしてある部分もある。でも良い出来だと私は思うよv
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