渡辺浩之のブログ:魂のストラテジー

この世界に漂い、けれども、決して流されないために

複写機業界の凋落:キャノン、リコー、ゼロックスの複写機というビジネスモデルはなぜだめになったのか

2012年05月11日 06時47分58秒 | ビジネス

キャノン、リコー、ゼロックスといった複写機業界が、
苦境に立たされています。
リコーが社員6%を削減するリストラ、
キャノンでは御手洗会長が社長に戻るなど、
大きく経営の抜本的改革が始まっています。 

省エネ、CO2削減、節電と、
電力も紙も大量に消費する、
社内文書の削減により、
複写機のビジネスモデルが大きく揺らいでいるからです。

タブレット等のドキュメント表示デバイスの出現も大きいと思います。
ソフトバンクは、iPadの宣伝も兼ねて、
社内の紙文書を完全に撤廃する、
と宣言しました。

この流れがすべての企業や官公庁に及ぶわけではありませんが、
複写機やプリンターによる紙の使用量が増えることはありません。

つまり、国内市場は成長せず、
縮小均衡を続けるわけです。 

でも、この問題は、
1985年代頃から言われ続けてきた問題で、
「いつかオフィスから紙はなくなる」 
「いや、紙は、永遠になくならない」
という議論が繰り返され、
キャノンもリコーもゼロックスも
脱複写機を掲げ、新規事業に投資をし続けました。

アナログ複写機開発の成功で、
巨大企業になったゼロックスは、
ワークステーション、情報サービス、金融、電子デバイスなどにチャレンジしましたが、
すべて失敗しました。

キャノンは、複写機でゼロックスを追撃し、
レーザープリンターやカラー複写機で世界を席巻、
インクジェットプリンター事業に成功しました。

しかし、そうしたプリンティング事業以外の、
ワークステーション事業、フラットパネル事業、バイオ事業などは
すべて失敗に終わりました。

結局、デジタルカメラ、プリンター、複写機だけの会社に戻っています。

リコーも、
湿式複写機から今の乾式複写機事業に成功し、
デジタル複合機事業で成功を収めました。
また、任天堂ファミコンにLSIを供給したように、
電子デバイス事業にも多く投資してきました。

一時は、光ディスクや機能材料も手掛け、
事業の多角化を図りました。 

その後、オンデマンド印刷用の大型プリンター事業等の買収で、
商業用途のプリンティング事業を始めています。 

しかし、複写機以外の事業はすべて失敗だった、
と言えます。 

つまり、3社ともに、複写機事業以外の新規事業にすべて失敗し、
組織が大きくなったにもかかわらず、
事業ポートフォリオは歪なまま、
選択と集中という名のモノカルチャー的縮小均衡に陥っているわけです。

複写機事業は、2つのビジネスモデルによって支えられてきました。
それは、
(1)レンタルという長期定期収入
(2)用紙やトナー等の消耗品やメンテナンスによるアフタービジネス
です。 

しかし、強いリース会社を作らなかったために(というか、作れなかったために)、
レンタルという構図はなくなり、
各企業のキャッシュフローが良くなった現在では、レンタルはうまく機能しなくなりました。

消耗品もサードパーティーの出現で、
大きな利鞘を得ることができなくなりました。

しかも不幸なことに、
複写機事業の利益率があまりにも高く、
人件費を含め、高コスト体質を維持してしまったために、
新規事業へのチャレンジよりも、
現業を守る戦略に偏ってしまいました。

2001年には、ゼロックスには、クラウドサービスの事業提案はありましたし、
それは、キャノン、リコーともに同様だったでしょう。

本格的なインターネット時代を迎え、
オフィスには多量の情報があふれ、
その処理に四苦八苦していたからです。 

SAPやORACLEが経営と営業の連携をシステム的に提案し、
経営のシステム化も始まっていました。 

メインフレーム事業からサービス事業への転換に成功した
IBMと同様なポジションに立てたにもかかわらず、
FAXと複写機の連携とか、
紙文書の機能化とかを提案していて、
それはまったく時代のニーズとは異なるものだったと思います。

時代は、情報の機動化を模索していたのです。

米国でコダックがつぶれたのは象徴的だったでしょう。
技術がなかったわけではなく、
経営が時代を見誤ったと言えます。

時代は、いつも変化し続けています。
同じように、企業も変化していく存在であるべきです。

しかし、変化を嫌う企業や経営者と
変化を楽しむ企業や経営者が存在するようです。
前者は、いつかに死に絶え、
後者は、節操がないと言われながらも、生き続けていくでしょう。 

複写機というドル箱は、
すでに何も入っていません。

小手先のサービスでは、
今の巨体を支えることもできません。
アジア向けの事業をしたくても、
BOPは過剰品質の日本製品に見向きもしてくれませんし、
すでにそこにはライバルが膨大にいます。

凋落をたどる複写機ビジネスは、
次の一手を、どうとるのでしょうか? 



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