りなりあ

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約束を抱いて:番外編-恋の芽生え-3

2007-06-11 00:30:41 | 約束を抱いて 番外編

◇むつみ◇

学校以外で優輝君と会う方法は、幾つかある。
毎朝、家から公園まで走る優輝君に合わせて、私が公園に行けば、そこで少し会話を交わす事が出来る。
学校が終わってから私は優輝君の家に行き、そこで彼を待つこともある。
練習を見に行って一緒に帰る事も出来るし、週末は新堂の家に行けば優輝君がいる。
冬休みの間とは違う方法で、私は優輝君の傍にいる事が出来る。
でも、どんな時でも、私と優輝君以外の第三者の視線が、すぐ傍にある。
自然に存在する第三者もいれば、“それ以外”で存在する人もいる。
事前に話は聞いていたし、面識のある相手でも、突然家に来る事になった時は、驚いて動揺して、疑問が沸き起こった。
はる兄から依頼されて家政婦のアルバイトに来ている瑠璃さんは、私と優輝君が2人になる事を阻止する存在に感じる。
それは仕方がないことだと理解はしている。
瑠璃さんにその意思がないことは分かるし、彼女も戸惑っているのが分かるし、はる兄と杏依さんの頼みを断れなかった事も分かる。
瑠璃さんが来てくれるから、私は優輝君と会える時間を持てるのだという事も、理解している。
だけど、どうしても彼女の視線は気になってしまう。
だから、今みたいに、仕事に行く母を瑠璃さんが見送りに行く間の数分が、優輝君と二人で過ごせる唯一の時間。
優輝君に聞きたい事はたくさんあって、知りたい事もたくさんある。
だけど、それを口にすることが戸惑われて、聞けば嫌がられるかもしれないと思ってしまう。
優輝君の隣の席に座る女子生徒の、楽しげな笑い声が耳に残っている。
どうして、今の二人だけの空間に笑い声が残らないのだろう?

◇優輝◇

むつみに話したい事や聞きたいことは、たくさんある。
だけど、いつも周囲の視線が気になって、言葉にするのが難しい。
言いたい事の殆どを、何も言えていない。
心に滞ったままで、それは俺の思考の殆どを占めている。
むつみの笑顔を、あまり見ていないような気がする。
杏依さんに向ける笑顔は、本当に穏やかで幸せそうで。
だけど、それが俺に向けられる事はない。
新しく隣に座る男子生徒と、何の話をしていたのかを聞きたい気がするけれど、そんなことを口にすると変な奴だとか、心の狭い人間だと思われそうで、気がかりな事実を忘れようと努める。
瑠璃さんがリビングを出て行ったけれど、すぐに戻ってくるのは確実で、今のこの短い時間に少しでもむつみと会話を交わしたいと思うのに。
俺らしくないと思う。
今までの俺なら考えられない。
こんな風に、頭で色々と考えて行動に移せないなんて。
俺の知らない自分が出てくる。
それに戸惑い、その存在が怖い。
「晴己さんと一緒にいるほうが」
どうして、そんな言葉を出してしまったのだろう?
「楽しい?」
むつみの瞳が潤む。
溜まった涙は、彼女が瞬きをした瞬間に、零れ落ちた。
どうして、俺は彼女の泣き顔ばかりを見ているのだろう?
その原因が俺自身にあるという事は分かっているけれど。
怪我をして病院に運ばれた時も。
晴己さんの従姉の家に連れて行かれた時も。
訪ねてきた彼女に鬱陶しいと言い、晴己さんを否定する言葉を言った時も。
いつもむつみは泣いていて、それは俺が原因で。
あの頃の俺の行動は無茶苦茶で、むつみを傷つけていたのは嫌なくらい分かっている。
でも“付き合う”という状況になっても彼女は変わらない。
楽しくなさそうで、寂しそうで。
むつみは俺を好きだと言ったのに、晴己さんと杏依さんと一緒にいる時の方が笑うし、楽しそうだ。
こんな風に目の前で泣いていても、俺は晴己さんのように、慰めたり髪を撫でたり、抱きしめることなど、できない。



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